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決戦4
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一行は全く何も起こる気配のないこの状況に、ただただ困惑していた。
「なにこれ、なにも居ないじゃん。バグ……?」
「いいえ。まだバグと決め付けるのは早いわ。気を付けてね。エリー」
「ふむ。だが、ここまで来ても何も出ないという事は――エリエの言うと通り。単なるバグなのかもしれんぞ?」
半信半疑のまま、一行は警戒しながらもゆっくりと歩みを進めるが、結局部屋の一番奥までたどり着いてしまう。
だが、これは明らかにありえない現象だ。ボス部屋にはボスと、ボスを守るようにいる取り巻きのモンスターがいるはず。しかし、見渡す限り部屋の松明の光りがぼんやりと見えるだけだ。
何が起こっているのか分からず、皆頻りに首を傾げている。
「ふぅ~。何も出なかったですね」
星はほっとしたように息を吐くと、隣に居たエミルに微笑む。
エミルは「そ、そうね……」と歯切れが悪く言うと、ぎこちない笑みを浮かべている。
(本当に、これで終わりなの? 何か大事なことを見落としているような……)
顎の下に手を当て考えながら、もう一度辺りに目を凝らすエミル。
暗い部屋の中は天井まで結構な高さがあり、奥行きも十分にある。と言って、別段変わった様子は見受けられない。まあ、普通のボス部屋に比べて縦の奥行きが大きいことくらいだろう……。
エミルがいくら考えても、この状況でボスが出現しないのはバグ以外には考えられなかった。
「あらあら、取り越し苦労ってやつね~。緊張して損しちゃったわ~」
サラザはがっかりした様子で肩の力を抜くと、バーベルを地面に突き立てた。
デイビッドも握っていた刀を鞘に収めて腕を組むと、サラザの言葉に頷く。
「全くだ。俺の刀の腕を見せるまでもなかったって事だな! 本当に残念だ……」
「へぇ~。デビッド先輩の刀って飾りじゃなかったっけ~?」
「なっ……エリエ! お前は目上の人間に対する口の聞き方がだな――」
ひょっこりと顔を出したエリエが悪戯な笑みを浮かべてそう告げると、デイビッドがそんなエリエに説教を始めた。
エリエは手で耳を塞ぐと「あーあー」と聞こえないように、大きな声を出している。
(あの扉……なんだか……)
部屋の出口にある巨大な骸骨の頭部が大きく口を開けている様な造りの扉。しかも、その巨大な骸骨の口の中に鉄製の重厚感のある扉が収まっている。
その扉を見つめていた星の体が、恐怖からか無意識のうちに小刻みに震え出す。
それは危険を察知してなのか骸骨が怖いからかなのかは分からないが、ボス部屋に入る前から星は骸骨を見る度に嫌な胸騒ぎが止まらない。
不安そうな表情で辺りを見渡している星の耳に、サラザの声が入ってきた。
「敵も出ないし、とっととクリアーしちゃいましょうよ~。私、早く帰ってお風呂に入りたいし~」
サラザは出口に向かって歩き出した。
そして、出口の骸骨の口を潜ろうとした瞬間。出口にバリアのようなものが張ってあって行く手を阻む。
まるでパントマイムの様に、何もない場所を手で叩きながらサラザが困惑したように告げる。
「――なによこれ!? どうして入れないのよ~」
「サラザ。何遊んでるのよ?」
エリエは何もないところを必死に叩いて、叫び声を上げているサラザの横を歩いて通ろうとした直後にゴンッ!という凄い音を出し「ひゃっ!」と悲鳴を上げると、顔を押さえてその場にしゃがみ込んだまま、言葉にならない声を上げている。
「あら、エリー。あなたチャレンジャーねぇ~」
「あうぅぅ……チャレンジする前に止めてよ。もぉ~」
瞳に涙を溜めてエリエは、冷やかす様に言ったサラザの顔を見上げて言った。
サラザはくすっと笑みを浮かべながら、そんなエリエの顔を見つめている。
その時、ドンッ!と大きな音を立てて突然、入り口の扉が勝手に閉まり部屋の壁一面に掛かっていた松明の赤から青い炎へと変わると、薄暗かった空間を更に不気味に照らし始める。
星は咄嗟にエミルの側に駆け寄ると、無意識に彼女の手を掴んだ。
「大丈夫。こんなの珍しい事じゃないから、安心して?」
「……は、はい」
不安そうな瞳を向ける星に、エミルは自分の思考が読まれない様にする為に微笑んだ。
しかし、星にはそう言ったものの、内心ではこの様な事態に陥るのは稀だ。ここまでイレギュラーな事態に、さすがのエミルも動揺を隠し切れない。
(どういう事? ここまで来てこの演出……それに、今までに一度だって入り口の扉が閉まった事なんて無かったはず。それがどうして……)
エミルは怯えている星に悟られない様に振る舞いながらも、頭をフルに回させてなんとか状況の分析に努めていた。
「なにこれ、なにも居ないじゃん。バグ……?」
「いいえ。まだバグと決め付けるのは早いわ。気を付けてね。エリー」
「ふむ。だが、ここまで来ても何も出ないという事は――エリエの言うと通り。単なるバグなのかもしれんぞ?」
半信半疑のまま、一行は警戒しながらもゆっくりと歩みを進めるが、結局部屋の一番奥までたどり着いてしまう。
だが、これは明らかにありえない現象だ。ボス部屋にはボスと、ボスを守るようにいる取り巻きのモンスターがいるはず。しかし、見渡す限り部屋の松明の光りがぼんやりと見えるだけだ。
何が起こっているのか分からず、皆頻りに首を傾げている。
「ふぅ~。何も出なかったですね」
星はほっとしたように息を吐くと、隣に居たエミルに微笑む。
エミルは「そ、そうね……」と歯切れが悪く言うと、ぎこちない笑みを浮かべている。
(本当に、これで終わりなの? 何か大事なことを見落としているような……)
顎の下に手を当て考えながら、もう一度辺りに目を凝らすエミル。
暗い部屋の中は天井まで結構な高さがあり、奥行きも十分にある。と言って、別段変わった様子は見受けられない。まあ、普通のボス部屋に比べて縦の奥行きが大きいことくらいだろう……。
エミルがいくら考えても、この状況でボスが出現しないのはバグ以外には考えられなかった。
「あらあら、取り越し苦労ってやつね~。緊張して損しちゃったわ~」
サラザはがっかりした様子で肩の力を抜くと、バーベルを地面に突き立てた。
デイビッドも握っていた刀を鞘に収めて腕を組むと、サラザの言葉に頷く。
「全くだ。俺の刀の腕を見せるまでもなかったって事だな! 本当に残念だ……」
「へぇ~。デビッド先輩の刀って飾りじゃなかったっけ~?」
「なっ……エリエ! お前は目上の人間に対する口の聞き方がだな――」
ひょっこりと顔を出したエリエが悪戯な笑みを浮かべてそう告げると、デイビッドがそんなエリエに説教を始めた。
エリエは手で耳を塞ぐと「あーあー」と聞こえないように、大きな声を出している。
(あの扉……なんだか……)
部屋の出口にある巨大な骸骨の頭部が大きく口を開けている様な造りの扉。しかも、その巨大な骸骨の口の中に鉄製の重厚感のある扉が収まっている。
その扉を見つめていた星の体が、恐怖からか無意識のうちに小刻みに震え出す。
それは危険を察知してなのか骸骨が怖いからかなのかは分からないが、ボス部屋に入る前から星は骸骨を見る度に嫌な胸騒ぎが止まらない。
不安そうな表情で辺りを見渡している星の耳に、サラザの声が入ってきた。
「敵も出ないし、とっととクリアーしちゃいましょうよ~。私、早く帰ってお風呂に入りたいし~」
サラザは出口に向かって歩き出した。
そして、出口の骸骨の口を潜ろうとした瞬間。出口にバリアのようなものが張ってあって行く手を阻む。
まるでパントマイムの様に、何もない場所を手で叩きながらサラザが困惑したように告げる。
「――なによこれ!? どうして入れないのよ~」
「サラザ。何遊んでるのよ?」
エリエは何もないところを必死に叩いて、叫び声を上げているサラザの横を歩いて通ろうとした直後にゴンッ!という凄い音を出し「ひゃっ!」と悲鳴を上げると、顔を押さえてその場にしゃがみ込んだまま、言葉にならない声を上げている。
「あら、エリー。あなたチャレンジャーねぇ~」
「あうぅぅ……チャレンジする前に止めてよ。もぉ~」
瞳に涙を溜めてエリエは、冷やかす様に言ったサラザの顔を見上げて言った。
サラザはくすっと笑みを浮かべながら、そんなエリエの顔を見つめている。
その時、ドンッ!と大きな音を立てて突然、入り口の扉が勝手に閉まり部屋の壁一面に掛かっていた松明の赤から青い炎へと変わると、薄暗かった空間を更に不気味に照らし始める。
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「……は、はい」
不安そうな瞳を向ける星に、エミルは自分の思考が読まれない様にする為に微笑んだ。
しかし、星にはそう言ったものの、内心ではこの様な事態に陥るのは稀だ。ここまでイレギュラーな事態に、さすがのエミルも動揺を隠し切れない。
(どういう事? ここまで来てこの演出……それに、今までに一度だって入り口の扉が閉まった事なんて無かったはず。それがどうして……)
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