オンライン・メモリーズ ~VRMMOの世界に閉じ込められた。内気な小学生の女の子が頑張るダークファンタジー~

北条氏成

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理想と現実7

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 それから数日後。愛は施設の皆に祝福されて旅立って行った。だがカレンだけはその最後の見送りの時には顔を見せなかった。

 それは最後に会ったら、無理矢理でも止めたくなる――そう思ったからだった。 

 1年が過ぎたある日。孤児院に黒塗りの高級車が何台も連なってきた。

 カレンはなんとも言えない胸騒ぎを覚え大人達の話を物陰に隠れながらこっそりと聞いた。

「この度はご報告に参りました。昨年こちらの施設に居た伊藤愛さんですが、昨夜未明に発生した海難事故により死亡致しました。しかし、幸いな事にご両親は無事に救助されたとの事で、この施設への援助は続けさせて頂きますという事でしたのでご報告に参りました」
「そうですか。遠いところわざわざありがとうございました。この事は子供達には伏せておきます」

(……えっ? あいが死んだ……!?)

 カレンはそれを聞いた直後、何とも言えない喪失感と失意のどん底に叩き落された。その時、カレンの頭の中に浮かんだのは別れの数日前の愛の満面の笑顔だった。

 その後、カレンが調べたところによると、愛は里親の仕事の関係で客船に乗船中何者かのテロによって乗っていた船は爆発。炎上した。
 しかし、愛の里親2人は先に救助されたところをみると彼女が見捨てられたのは言うまでもなかった。

『愛は大人達の身勝手によって死んだ』カレンはそれ以来。他人を信じない性格になり、人と距離を置くことで施設でも浮いた存在になっていった。

 そしてなによりも、大人に媚を売る子供を毛嫌いするようになったのだ。


             * * *

 
 星は急に様子が変わったカレンを見ていて、ふと思った。

『この人も私と同じなのかもしれない』と……。

 虚勢を張って誰も近づかせない様にする。それは自らを守ることでもあり相手を守ることにも繋がる。

 星は他人に当たり障りなく接することで、相手と一定の距離を置いていた。
 それが結果として相手も自分も傷付かない方法である事を星は今までの生活の中で学んでいたのだ。

(なら、この人を助けてあげたい。私がエミルさん達に助けてもらったように――今度は私がこの人の心を救ってあげたい。その為に何としてもこの戦いに勝つんだ!)

 星はそう考えると持っていた剣を強く握り締めると、うずくまっている彼女の方を向いて叫んだ。

「カレンさん! まだです。まだ戦いは終わってません。立ってください!!」

 カレンはその言葉を聞いて我に返ると、不思議そうな顔で星を見た。

 星には何故かこの戦いをやり遂げれば、カレンと分かり合うことができるという確信にも似た何かを感じ取っていた。だからこそ、この戦いを途中で止めるわけにはいかない。

「何故だ? もう勝負はついているし。それにもう……俺はお前とはもう戦いたくない。お前の勝ちでいい……」
「ダメです! まだ2人の悪口を言った事を謝ってもらってません!」
「どうしてそこまで他人の為に頑張る。お前をそこまで突き動かしているものは、一体何なんだよ……」

 カレンは足元がおぼつかない星を見て尋ねる。

 星は真面目な顔のまま、その質問に答えるように話し始めた。

「カレンさんは私の大切な人達の悪口を言いました。私はそれを絶対に許せないんです!」
「それじゃ答えになってない。だから、それはどうしてだと聞いたんだ!」

 カレンはその答えが不満だったのか、声を荒げて星を睨んだ。

 その声を聞いて、星はカレンを睨み返しゆっくりと口を開く。

「――たとえどんな事があっても……人の悪口は言っちゃダメなんです! それが本人に聞かれてなくても。自分がやられて嫌な事を人にしたら絶対にいけないんです!!」
「……ッ!?」

 その言葉を聞いてカレンははっとして星の顔を見つめた。

 カレンにとって、それは衝撃だったのだろう……何故なら、その時、カレンは愛と初めて話をした時のことを思い出していた。

                 
             * * *


 それはカレンが孤児院に来て間もない時のことだった。その頃のカレンは親に捨てられ、心が荒んでいた。そのこともあって、なかなか他の子供達と仲良くなれずにいた。
 そんなある日。施設の庭を歩いていたカレンの足元に、近くで遊んでいた子供のボールが転がってきた。

 カレンはそのボールをじーっと見つめていると、男の子が慌てて駆け寄ってきた。

「あ、ごめん。ボール取ってもらえる?」
「…………」

 それを聞いて、カレンはボールを拾い上げると、躊躇せずに遠くに蹴飛ばした。
 その後、カレンは男の子を睨むように鋭い視線を浴びせる。

 男の子はそのボールの行方を目で追うと、カレンの顔を見て唖然としている。
 そしてカレンが一言。

「……ふん。ばかみたい」

 カレンはそう言い残し、再び歩き出した。

 そのやり取りの一部始終を見ていた愛はそのボールを追いかけて拾い上げると、カレンの前に歩いてきた。

「なによ? 何か文句でもあるの?」

 カレンは無言のまま立っている愛に、そう言って睨みを利かせる。

 愛は無言のまま、ボールをカレンの足元に落とすと、口を開いた。

「……拾って……」
「なんで私がそんな事を……」
「いいから拾って!」

 その彼女のなんとも言えない威圧感に押されたカレンは、愛の言う通りボールを拾った。
 すると、愛はそのボールをしっかりと掴むと「ありがとう」とお礼を言って微笑んだ。

 カレンはその行動の意味が理解できず、きょとんとしながら彼女の顔を見つめていると、愛は言葉を続けた。

「ほら、お礼を言われた方が気持ちがいいでしょ? 自分がやられて嫌な事を人にしたらダメだよ? これからは皆仲良く。ね?」
「う、うん。分かった……」
「なら、あっちで一緒に遊ぼ!」

 この出来事から愛とカレンの心の距離は、急速に近付いていったのだった。


               * * *
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