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ダンジョン最深部へ8

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 そんな中で更に多くのスケルトンを抱える余裕はないが、一概にサラザを責めることもできなかった。

 自分達も目の前の敵を倒すのに必死で、周りを見ている余裕などなかったからだ。
 それもそのはずだろう。地面に散らばっていた骨が急にモンスターになったのだ、動揺しなかったと言ったら嘘になる。
 
 骨がモンスターの形になって動くまでに、少ない時間はあったもののそれでも状況を理解することで精一杯だった。

 その後は突然現れ、数で勝る敵に苦戦を強いられていて、周りのメンバーを気にする余裕などなかった。

 ただ、パーティーメンバーの名前とHPの残量が表示されている場所を見て、全員の無事を確認していて少しほっとしていたエミルだったが、目の前からスケルトンに追われながら全力でこちらに向かってきているサラザの姿を見ている分には、事はエミルが思っていたほど状況が良くないと理解した。

 エミルはちらっと星を見ると、交戦していたスケルトンを素早く撃破し、瞬時にコマンドを操作し盾と巻物を取り出す。

「星ちゃん! ちょっとサラザさんを迎えに行ってくるからちょっとの間持ち堪えられる?」
「はぁ、はぁ……は、はい。私の事は気にしないでいってください……」

 星は呼吸を荒げながらも、にっこりと微笑んだ。だが、その星の表情からは疲労の色が見て取れる。しかし、エミルがいなくなれば戦闘経験の薄い星が長い間耐えられないことは、火を見るよりも明らかだった。 

 ここでサラザと合流すれば、追いかけてきているスケルトンもまとめて合流することになり、状況は更に悪化する。それは結果的に、星に負担を掛けることを意味していた。

「星ちゃん。これを装備してできるだけ攻撃はしないで守りに徹して、良いわね?」
「は、はい。分かりました」

 エミルは星に盾を渡すと、にこっと微笑んで「いい子ね」と頭を撫でた。

 徐ろに巻物を取り出したエミルが、それを地面に広げ笛を鳴らす。
 すると、煙とともに全身を剣で武装されたドラゴンが現れた。

「うわ~。刺さったら痛そう……」

 星はそのドラゴンの容姿を見てぼそっと呟く、その数多い武装に目がいきがちだが、何よりも凄いのは尻尾だ――。

 このドラゴンの尻尾が2本あり、まるで2つの薙刀をそのまま付けたような形をしている。ドラゴン自身もその自慢の尻尾をぶんぶんと振っていて、やる気は充分そうだ。

 エミルはドラゴンの説明をすることもなく、ドラゴンの背中を軽く叩く。すると、針のように背中にびっしりと並んでいる剣が一本抜け宙を舞った。

 その剣を取ったエミルは「星ちゃん。絶対にこの子から離れないでね」と言い残し、サラザの方に向かって走っていった。

 星は「よろしくね」とドラゴンに優しく語りかけると、ドラゴンもその言葉に応える様に。

 ――グオオオオオオッ!

 っとひと鳴きした。

 前から2本の剣を手にしたエミルが走ってくるのを見て、サラザは嬉しそうに微笑んだ。

「サラザさん。大丈夫ですか!?」
「ごめんなさいね~。ちょっとドジっちゃったわ~」
「いえ、こちらもいっぱいいっぱいで、とりあえず少しでも数を減らしておかないと、星ちゃんが大変なので……」

 エミルは言い難そうにそう呟くと、星の姿を心配そうに見つめている。

 そんな彼女の心配を他所に、星は向かってくるスケルトンの攻撃を盾で防ぎ、それをエミルのドラゴンが尻尾の刃で薙ぎ払うという見事な連携プレイでなんとかその場を持ち堪えている。

 だが、敵の数的に今はよくてもそれほど長くは持ち堪えられないだろう。
 その様子を見たサラザも180度回って、追ってきている敵の方へと向きを変えた。

「――あんな小さな子の方に、こんな化け物を持っていったらダメよね……私も冷静さを失っていたようね。エミル、あなたの言う通りだわ!」
「サラザさん……」
「早くかたづけて街に戻りましょ~」

 サラザは、エミルに向かってにこっと微笑みウインクした。エミルもそれに応えるようににっこりと笑って頷く。

 2人はスケルトンに武器を構えると、そのまま突っ込んでいった。
 敵は2人の猛攻に見る見る数を減らしてゆく、その中でも多くの敵を撃破していたのはエミルだった。

 2本の剣をたくみに操り、敵を次々と薙ぎ倒している。普通は剣が一本増えたことで、単純に2倍強くなるというわけではない。
 両手が剣で塞がっている為、攻撃をガードする際の能力は著しく低下するし、攻撃の際も一撃の破壊力も極端に落ちる。

 2本持てば敏捷性が下がるのではないか? っという懸念もあるが、そんなことはない。プレイヤーのレベルや種族によって総重量が設けられていて、それを超えない限りはシステム上、必要以上の重量を感じることはない。

 二刀流の利点は、攻撃速度とガードに移る時に僅かに早くなる程度のものだ。

 だが、エミルは明らかに強くなっている。それは、エミルが本来は2本の剣を使うことに長けているということの証でもあった。

 最初は劣勢だと思われたスケルトンとの戦闘だったが、2人の猛攻で見る見るうちにその数を減らしていくスケルトンの群れ。

「もう、このぐらいで大丈夫でしょう」
「そうね。あらかた――片付いたみたいね~」

 エミルが声を掛けると、サラザは辺りを見渡して安堵の表情を見せる。

 2人は急いで星の方へと走り出した。

 星の元に着いた時には、星も最後の1体を丁度倒したところだった。

 懸念していた星だったが、結果的には敵を全て撃破するという驚くべきものだった……。

「――星ちゃん。大丈夫だった!?」
「はぁ、はぁ、はぁ……大丈夫です。これも、エミルさんがたくさん倒してくれたおかげですね」

 荒く肩で息をしながらも、星はエミルの顔を見上げてにっこりと微笑んだ。

 星のHPバーが少し減っていることから、数回のダメージを受けたのは言うまでもない。

 痛覚があるこのゲームでダメージを受けるという行為は、それだけで肉体的にも精神的にも著しく疲労するということだ。しかし、星のそんなことを感じさせないように振る舞う健気な姿に、エミルの瞳からは自然と涙が流れた。

 エミルはそのまま何も言わずにそんな星を抱きしめると、優しく頭を撫でた。

「……よく頑張ったわね、星ちゃんは強いわ……」
 
 星はどうしてエミルが泣いているのか分からなかったが、その理由を聞いてはいけないような感じがした。
 もしこのことを聞いてしまったら、エミルとの関係が終わってしまう――そんな気がしていたのだ。しばらくして、戦闘を終わらせたエリエ達も続々と合流した。
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