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ダンジョン最深部へ6
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エリエがデイビッドの側でレイピアを構えながら、小さな声で言った。
「デビッド先輩。怖かったら、私の背中にいてもいいんだよ?」
「ふん。何を冗談言ってるんだ。俺はサムライだぞ? 女に守ってもらうだなんて、武士のプライドが許さん!」
そう口にしたデイビッドに「日本人じゃないくせに」と、彼に聞こえないくらいの声でバカにしてくすっと笑った。
それから少し離れた場所では、緊張した面持ちで剣を構える星の横で、普段通り落ち着いた様子でエミルが小声で言った。
「――大丈夫よ。あなたは私が必ず守るから。だから、星ちゃんは私から離れないように気を付けてね」
「は、はい」
頷いてエミルを見上げると、エミルはにっこりと微笑んで星の頭を優しく撫でる。
エミルの手の平の温もりが、伝わってきて不思議と高鳴っていた鼓動が少し落ち着いた気がした。
(やっぱりエミルさんは凄い。この状況でも私を勇気付けてくれて……私も怖いなんて言っていられない。エミルさんに負けないように頑張らないと!)
星は自分の拳をぎゅっと握ると、目の前のスケルトン達を見据えた。
その時、今までその場に立ち尽くしていたスケルトン達が、一斉に音を立てて動き出し、いきなり剣を振りかざし襲いかかってきた。
襲い掛かってくるスケルトン達を各々が迎撃する。
星も慣れないながらも、周りに負けじと必死で剣を振った。
「えいっ! えいっ! やあっ!」
掛け声はいいのだが、星の攻撃は誰が見ても、ただでたらめに剣を振り回しているとしか思えない。
それはそうだろう、星は殆ど敵と戦った経験がない。戦ったことがあると言っても、それは武器を持たない低レベルのラビットやラットだ。
実戦経験がほぼ皆無と言っていい上に、武器を持っている敵とは戦ったことがなく。剣という刃物を持って襲ってくる敵に恐怖を感じていた。
初期のモンスターの体当たりとは迫力も威力も違う、底知れぬ恐怖が心を支配するのを感じていた。それは、星の震える体を見ていれば明らかだった。
その時、一体のスケルトンが星に襲い掛かってきた。
星は突然のことに驚き思わず目を瞑り、手に握りしめた剣を振り回す。すると、それに気付いたエミルが星の元に駆けつけ、スケルトンに向かって剣を振り抜く。
目にも留まらぬ速さの一撃により、星の前のスケルトンがバラバラに吹き飛ぶ。
自分の目の前の敵がいなくなり、ほっと胸を撫で下ろした星の耳にエミルの声が響く。
「星ちゃん。剣を振る時に目を瞑っちゃだめよ!」
「は、はい!」
エミルは最初に言った言葉通り、星を守るように側にぴったりと寄り添うかたちで戦っている。
彼女のその戦い方は、さすがは高レベルプレイヤーと言ったところだろう。身のこなしも上手くスケルトンの剣をまるで踊っているかの様にかわすと透かさず、相手を斬り伏せていく。
星はそんなエミルの姿を瞳をきらきらと輝かせながら、羨望の眼差しで見つめていた。
その横では……。
「ちょっと、あんまりくっつかないでくださいよ!」
「仕方ないだろ! 敵の数が多いんだから!」
エリエとデイビッドはスケルトンの剣を武器で受けながら、不機嫌さを滲ませながらいがみ合っている。
「ちょ! バカ危ない!」
交戦中のデイビッドがエリエの声で敵に気が付いた時には、他のスケルトンが剣を振り上げ向かってきているところだった。
「……なに!?」
(くそっ……かわせないか……)
デイビッドは咄嗟に今戦っているスケルトンを足で蹴飛ばし、向かってくる敵に対応しようとしたが、その時にはもうどうしようもなかった。彼が『やられる!』そう思って身構えた直後、エリエのレイピアが目の前を通り過ぎていった。
エリエのレイピアはスケルトンの頭に直撃し、頭部はばらばらに砕け散った。
エリエの固有スキル【神速】は、一時的にスピードと攻撃速度を引き上げることができるのだ。
「――ありがとう、すまん。エリエ」
デイビッドが素直に助けてもらったお礼を言うと、エリエは大きなため息をつく。
「はぁ~。まったく。これだからデビッド先輩はだめなんですよ。だから、女の子にもモテないのね……」
「な、なに!? 人が素直に礼を言えばこの――って、女にモテないのはお前に関係ないだろ!」
「ふふっ。図星なんだ……」
顔を真っ赤にしながら怒っているデイビッドに、エリエは口元を押さえて「ぷぷぷっ」と小馬鹿にしたように笑う。
それが引き金となり。いつもの様に2人が言い合っていると、そこにスケルトン3体が襲い掛かる。
「もう。まだ言いたい事あるのにっ!」
「くそっ!」
2人は口論を中断し同時に2体の敵を倒すと、向かって来る最後の一体に武器を構え直すと。
「私の――」
「俺の――」
「「――邪魔をするなああああああああッ!!」」
全く同時にそう叫ぶと、攻撃を叩き込んだ。
その息の合った攻撃を受け、スケルトンはばらばらに吹き飛ぶ。
スケルトンを倒した2人は、お互いの顔を見合わせる。
「このままじゃ落ち着いてケンカも出来ないよね? 先輩」
「珍しく意見が合ったな。俺もそう思っていたところだ」
2人は不敵な笑みを浮かべ頷くと、再び武器を構え直して目の前に立ち並ぶスケルトンを睨んだ。
「デビッド先輩。怖かったら、私の背中にいてもいいんだよ?」
「ふん。何を冗談言ってるんだ。俺はサムライだぞ? 女に守ってもらうだなんて、武士のプライドが許さん!」
そう口にしたデイビッドに「日本人じゃないくせに」と、彼に聞こえないくらいの声でバカにしてくすっと笑った。
それから少し離れた場所では、緊張した面持ちで剣を構える星の横で、普段通り落ち着いた様子でエミルが小声で言った。
「――大丈夫よ。あなたは私が必ず守るから。だから、星ちゃんは私から離れないように気を付けてね」
「は、はい」
頷いてエミルを見上げると、エミルはにっこりと微笑んで星の頭を優しく撫でる。
エミルの手の平の温もりが、伝わってきて不思議と高鳴っていた鼓動が少し落ち着いた気がした。
(やっぱりエミルさんは凄い。この状況でも私を勇気付けてくれて……私も怖いなんて言っていられない。エミルさんに負けないように頑張らないと!)
星は自分の拳をぎゅっと握ると、目の前のスケルトン達を見据えた。
その時、今までその場に立ち尽くしていたスケルトン達が、一斉に音を立てて動き出し、いきなり剣を振りかざし襲いかかってきた。
襲い掛かってくるスケルトン達を各々が迎撃する。
星も慣れないながらも、周りに負けじと必死で剣を振った。
「えいっ! えいっ! やあっ!」
掛け声はいいのだが、星の攻撃は誰が見ても、ただでたらめに剣を振り回しているとしか思えない。
それはそうだろう、星は殆ど敵と戦った経験がない。戦ったことがあると言っても、それは武器を持たない低レベルのラビットやラットだ。
実戦経験がほぼ皆無と言っていい上に、武器を持っている敵とは戦ったことがなく。剣という刃物を持って襲ってくる敵に恐怖を感じていた。
初期のモンスターの体当たりとは迫力も威力も違う、底知れぬ恐怖が心を支配するのを感じていた。それは、星の震える体を見ていれば明らかだった。
その時、一体のスケルトンが星に襲い掛かってきた。
星は突然のことに驚き思わず目を瞑り、手に握りしめた剣を振り回す。すると、それに気付いたエミルが星の元に駆けつけ、スケルトンに向かって剣を振り抜く。
目にも留まらぬ速さの一撃により、星の前のスケルトンがバラバラに吹き飛ぶ。
自分の目の前の敵がいなくなり、ほっと胸を撫で下ろした星の耳にエミルの声が響く。
「星ちゃん。剣を振る時に目を瞑っちゃだめよ!」
「は、はい!」
エミルは最初に言った言葉通り、星を守るように側にぴったりと寄り添うかたちで戦っている。
彼女のその戦い方は、さすがは高レベルプレイヤーと言ったところだろう。身のこなしも上手くスケルトンの剣をまるで踊っているかの様にかわすと透かさず、相手を斬り伏せていく。
星はそんなエミルの姿を瞳をきらきらと輝かせながら、羨望の眼差しで見つめていた。
その横では……。
「ちょっと、あんまりくっつかないでくださいよ!」
「仕方ないだろ! 敵の数が多いんだから!」
エリエとデイビッドはスケルトンの剣を武器で受けながら、不機嫌さを滲ませながらいがみ合っている。
「ちょ! バカ危ない!」
交戦中のデイビッドがエリエの声で敵に気が付いた時には、他のスケルトンが剣を振り上げ向かってきているところだった。
「……なに!?」
(くそっ……かわせないか……)
デイビッドは咄嗟に今戦っているスケルトンを足で蹴飛ばし、向かってくる敵に対応しようとしたが、その時にはもうどうしようもなかった。彼が『やられる!』そう思って身構えた直後、エリエのレイピアが目の前を通り過ぎていった。
エリエのレイピアはスケルトンの頭に直撃し、頭部はばらばらに砕け散った。
エリエの固有スキル【神速】は、一時的にスピードと攻撃速度を引き上げることができるのだ。
「――ありがとう、すまん。エリエ」
デイビッドが素直に助けてもらったお礼を言うと、エリエは大きなため息をつく。
「はぁ~。まったく。これだからデビッド先輩はだめなんですよ。だから、女の子にもモテないのね……」
「な、なに!? 人が素直に礼を言えばこの――って、女にモテないのはお前に関係ないだろ!」
「ふふっ。図星なんだ……」
顔を真っ赤にしながら怒っているデイビッドに、エリエは口元を押さえて「ぷぷぷっ」と小馬鹿にしたように笑う。
それが引き金となり。いつもの様に2人が言い合っていると、そこにスケルトン3体が襲い掛かる。
「もう。まだ言いたい事あるのにっ!」
「くそっ!」
2人は口論を中断し同時に2体の敵を倒すと、向かって来る最後の一体に武器を構え直すと。
「私の――」
「俺の――」
「「――邪魔をするなああああああああッ!!」」
全く同時にそう叫ぶと、攻撃を叩き込んだ。
その息の合った攻撃を受け、スケルトンはばらばらに吹き飛ぶ。
スケルトンを倒した2人は、お互いの顔を見合わせる。
「このままじゃ落ち着いてケンカも出来ないよね? 先輩」
「珍しく意見が合ったな。俺もそう思っていたところだ」
2人は不敵な笑みを浮かべ頷くと、再び武器を構え直して目の前に立ち並ぶスケルトンを睨んだ。
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