オンライン・メモリーズ ~VRMMOの世界に閉じ込められた。内気な小学生の女の子が頑張るダークファンタジー~

北条氏成

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ダンジョン最深部へ2

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「でも、本当に上手いな、この肉じゃが」
「うむ。こんなに上手い物は久しぶりに食ったぞ!」
「あら、嬉しいわ~。ありがとね~」

 サラザは2人に褒められ上機嫌で投げキッスを返す。

 それを受け、一瞬嫌そうな顔をした2人だったが、すぐに何事もなかったかのように食事を再開する。 
 デイビッドとマスターが本当に美味しそうに食べているのを見て、エリエとカレンが物凄く不機嫌そうに2人を睨んだ。

「――悪かったわね、私のスープは甘くって……」
「――師匠は丸焼きしか作らないくせに、俺の料理をそんなふうに……」

 2人はぼそっと呟き、頬を膨らませながらそっぽを向く。

 そんな彼等を余所に、エミルと星は隣り合わせに座り微笑み合っている。

「美味しいわね。星ちゃん」
「はい。凄く美味しいです」
「満足してもらえたなら嬉しいわ~。おかわりもいっぱいあるわよ~」

 エミルと星の会話を聞いていたサラザがそう言って微笑んでいる。

 星は皿に盛られた肉じゃがとサラザを交互に見て『人は見かけによらない』ということわざを思い出していた。

 確かに見た目はどう見ても筋肉ムキムキの大男のサラザなのだが、肉じゃがの味の方は繊細で、かと言って薄すぎずしっかりとしたコクのある味に仕上がっていた。

 この体からこれほどの料理ができるなんて……。

 っと星が感心していると、逸早く皿を空にしたマスターが口を開いた。

「さて、ならば今のうちに、役割分担を決めておかなければならんだろうな」
『役割分担?』

 その場にいた全員が声を合わせて言うと、マスターの言葉に首を傾げている。

「さよう……おそらく。これから先は昨日のボス以上の強敵がいるだろう。それに辿り着く前に力尽きては、意味がないからな」
「なるほど……なら、マスターはこれより先にもっと強い敵がいるとお考えなのですね?」
「うむ。そういうことだ」

 エミルの言葉にマスターは静かに頷く。

 横で2人の話を聞いて、不思議そうに首を傾げているエリエが口を挟む。

「ちょっと待ってよ。どうして敵がいると思うの? もしかしたら、ただの抜け道かもしれないじゃない」

 エリエのその疑問は最もだ。いくらボス部屋の奥に道が続いているとはいえ、そこに必ず敵がいるとは限らない。ダンジョンを脱出する移動時間を短縮する為の抜け道という考えも捨て切れない。

 だが、それを聞いたマスターはにやりと笑みを浮かべ「行けば分かる」と自信満々に言い放つ。

 その意味有り気な言葉に、エリエは怪訝そうに眉をひそめた。

「さて、役割分担だが、儂とカレン。それにエミルの3人がボス戦での前衛を務める。他はサポートなどに回ってもらう。無論、その道中の雑魚の殲滅も担当してもらうことになるだろうが良いか?」
「――あの。サポートって……何をすればいいんですか?」

 星が手を上げてそう尋ねた。

「うむ。主にヒールストーンなどによる回復支援。後はこちらがヘイト――つまり、敵の注意を引き付けている間に、敵死角から可能であれば弱点部位への攻撃などを担当してもらう!」
「なるほど……」

 星はマスターの言葉の意味は良く分からなかったが、とりあえず相槌を打つ。
 その後、各々身支度を整え先のダンジョンに向かおうとしたその時。エミルが「待って!」と声を上げる。

 その場にいた全員が一斉にエミルを見ると、彼女はにっこりと微笑みを浮かべながら、優しい声音で星に話し掛けた。

「星ちゃん。天女の羽衣を出してもらえるかしら」
「……えっ? どうしてですか?」
「どうしても! 大事なことだから!」

 星はエミルの『大事な事』という言葉に大きく頷くと、言われた通りに天女の羽衣を出してエミルに差し出す。
 すると、エミルはその羽衣を手に取って、自分のアイテムバーの中に入れ、なにやら忙しなく操作を始めた。

 星は不安そうにその様子を見守ると、少しして彼女がにっこりと微笑み、星に綺麗に折りたたまれた服を手渡した。

「これを着て、ダンジョンに入る前にデイビットと2人で街に行って買ってきた服よ。きっと星ちゃんに似合うと思うわ。それにアーサー王の鎧を合成してるから、これで私達とHP量はあまり変わらないはずよ」
「――えっ!? アーサー王の鎧ってエミル姉。それ大会優勝者しか貰えないアイテムでしょ!?」

 エリエが驚きを隠せない表情で叫ぶとエミルは微笑んだ。

 それを聞いて、困惑した星がおどおどし始めた。それもそうだろう。大会の優勝者にしか渡されないアイテムを自分が貰っていいわけがない。だが、そんな星を尻目にエリエとエミルは話を続けた。

「いいのよ、エリー。私の防具は間に合ってるし。それに星ちゃん危なっかしいんだもの。これくらいの装備じゃないと、いつ死んじゃってもおかしくないでしょ? どんなレアアイテムよりも私にはこの子の方が大事だから……」
「エミル姉……」 
(やっぱり、星と妹さんの事を重ねてるんだ……)

 優しい微笑みを浮かべたエミルの顔を見て、エリエはそう心の中で呟く。

 しかし、星もそんな大事な物だと分かって受け取るわけにはいかない。
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