オンライン・メモリーズ ~VRMMOの世界に閉じ込められた。内気な小学生の女の子が頑張るダークファンタジー~

北条氏成

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富士の遺産2

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「おぉ~。これが今や伝説と化した大和撫子! まさかこんなところでお目にかかれるとは!!」

 それを見たデイビッドが歓喜の声を上げた。その言葉を聞いた女性陣がギロリと鋭い視線をデイビッドに向ける。

「はぁ~。男ってどうしてこうなのかしら……」
「デイビッドさん……」
「デビッド先輩はラビットで十分でしょ?」
「あら~。大和撫子が好みなんて、私困っちゃうわ~」

 女性4人?はそれぞれに呟く。1人だけ明らかにおかしい反応を見せているのは、この際あえて触れないでおこう……。

「でも大和撫子は2人もいらないわ……悪いけど、ボロ雑巾の様に捻り潰して上げるわ」

 低い声でそう呟いたサラザが部屋に一歩足を踏み入れると、女性のすすり泣く声が聞こえてきた。

「あの人。どうしたんでしょう……」

 星がぽつりと部屋の中央でしくしくと泣き続けている女性を見て、不安そうな表情でエミルを見上げる。

 エミルはそんな星の頭を優しく撫でるとにっこりと微笑む。

「大丈夫よ、星ちゃん。ボス部屋に居るという事は、彼女もモンスターのはず。死んだりはしないわ」
「なら、いいんですけど……でも、凄く悲しそうです……」

 星は悲しそうに泣いている女性の方を見つめている。

「まあ、言うより見てもらった方が早いかしらね!」

 エミルはすすり泣いている女性の姿に戸惑っている星の迷いを取り除こうと、その女性目掛け駆けて走って行くと躊躇なく持っていた剣を振り抜いた。

「はあああああッ!!」

 彼女の攻撃が当たる直前に、今さっきまで確かにそこに居たはずの女性の姿は跡形もなく消えた。

「えっ? どうして……?」

 エミルが不思議そうにキョロキョロと辺りを見渡した。すると、彼女の足元の地面から突然大蛇の頭が現れエミルを襲う。

「きゃあああああああああッ!!」

 エミルは足元から突如現れた大蛇に、反応することもできずに吹き飛ばされてしまう。

 宙を舞った彼女の体はそのまま強く地面に叩きつけられ、エミルのHPゲージは見る見るうちに減少し、半分を少しきったところで止まった。

「エミルさん!」

 星は大きな声で彼女の名前を呼んだが、返事が返ってこない。

 どうやらエミルはさっきの衝撃で気を失ってしまっているらしく、その場に横たわったまま微動だにしない。

「エミル姉!!」

 エリエがエミルの元に駆け寄ろうと走り出した直後。轟音とともに地を裂いて、地面から8つの頭を持つ蛇が姿を現した。

 空中で複数の首を動かしながら、その全ての頭が口を大きく広げる。

 ――ギアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!

 巨大な8本の頭を持った大蛇が、地面を揺るがすほどのけたたましい鳴き声を上げた。

 蛇に睨まれた蛙とはまさにこのことだ。その場にいた誰もがその鳴き声に恐れをなし、その場を動く事ができなかった。

「――そんな……ここのボスは雪女のはずじゃ……」
「雪女だって!? でも、あれはどう見たって蛇の化け物じゃないか!!」
「いえ……私もエリーと一緒にここに来たから分かる。ここのボスは泣いてる女の姿が変わり、吹雪が吹き荒れて雪女になるという設定のはずよ?」

 エリエとサラザは驚きを隠せない。それよりも、困惑しているのはデイビッドだった。

 それもそのはずだ。その巨体の大きさはエミルの持っているリントヴルムをも凌駕している。
 天井の見えないボス部屋の中で悠々と立ち上がった八本の首が、地面にいるデイビッド達を見下ろしている。

 驚きと恐怖から手をこまねいていると、八つの首のうちの一本が倒れているエミルに向かって襲い掛かった。
 その時、その場に金縛りの様に釘付けになっているメンバー達を余所に、星がエミルの方に向かって走り出す。

(このままじゃ……エミルさんがッ!)

 そう思った時には、すでに星の体が動いていた。

 星は迷うことなく、倒れ込んでいるエミルの前に立ちはだかった。

(私が盾になれば。エミルさんへのダメージが少しは減るはず……たとえ私が死ぬことになっても! この人だけは……)

 星はそう思うと牙をむき出しにして向かってくる大蛇の頭にも、不思議と恐怖は感じなかった。ただあるのは、エミルにお礼を言えなかったという後悔だけだ――。

(……エミルさん。短い間でしたが色々とありがとうございました……さようなら)

 覚悟を決めた星は心の中でエミルにお礼を言って、ゆっくりと瞼を閉じた。

 突如、ヤマトノオロチの背後から何かが飛び出した。

「覚悟がないのなら敵の前に出るんじゃない! このバカ者があああああッ!!」

 その声が星の耳元に飛び込んできた次の瞬間、星の居た場所は跡形もなく吹き飛んでいた。

「そ、そんな……星、エミル姉……」

 エリエはその変わり果てた場所を見て、顔面蒼白のまま、その場に立ち尽くしている。

 っと、そこにどこからともなく部屋の中に声が響く。

「白い閃光と呼ばれたエミルはこのザマで……スピードに定評のあるお前が、その程度とは……本当に嘆かわしいかぎりだ……」
「どこ!? 誰なの!?」

 エリエがその声の主を探すように、辺りをキョロキョロと辺りを見ている。

 すると、エリエの背後から声が聞こえてきた。

「――どこを見ておる! 儂はここだぞッ!!」
「……えっ!?」

 エリエが慌てて後ろを振り返ると、そこにはエミルと星を担いている黒い道着を着た年配で白い髪を後ろで束ねている男性が立っていた。
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