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再会
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城に着いた星が城の中に入ると、さっきまでの決意がだいぶ昔のことのように感じてくる。
体が震え出し、まるで別の人の体かと思うくらいに、まったく言うことを聞いてくれない。星が廊下を一歩踏み出す度に、体が鉛のように重くなり、呼吸も荒くなっていく。
その時、部屋を飛び出し、城の長い廊下を全速力でエミルが走ってくるのが見えた。
徐々に迫ってくるエミルに、星は思わず視線を逸らしてしまう。最初は、これ以上エミルに迷惑をかけたくない一心で部屋を飛び出したはずだった。
迷惑をかけたくないという強い思いが、自分が居なければという結果に行き着いたのだった。しかし、それはエミルに二度と会わなければの話だ――。
だが、星の思惑は外れ。またこうして、ここに戻ってきてしまった。それが今の星の中で、エミルに会うことへの恐怖心へと変わっていたのだ。
(どうしよう……きっとすごく怒られる……)
怯えながら、俯き加減にその場に立ち尽くしている星の前でエミルが立ち止まった。
そのエミルの足が怯えて俯いている星の瞳にはしっかりと映っていた。
「……星ちゃん。急に居なくなって心配したのよ?」
「す、すみません……」
気まずい雰囲気のまま、2人の間には沈黙が流れた。
「どうやって部屋から出たの?」
「そ、それは……」
星は表情を曇らせ、口を閉ざしてしまう。
それもそうだ。とても小窓から出て、近くの塔まで渡ったなんて言えるはずもない。もし、そのことがエミルに知れれば、もっと怒られると思ったからだ。
(嫌われる……怒られる……叩かれる……)
そんな考えが、ぐるぐると星の頭の中を駆け巡る。
その極度の緊張から全身が震え出し、心臓は壊れるほどに脈動していて、全身から血の気が引いていくのが分かった。
無言のまま立ち尽くしているエミルを前にして、星は強く瞼を閉じて、次にくるであろう衝撃に備えている。
「あっ……あの……ごめんなさ――」
星が謝ろうとした次の瞬間。星の考えとは逆に、星の体を包み込む温かく柔らかい感触にゆっくりと瞼を開く。すると、星の体はエミルの腕によってしっかりと抱き締められていた。
星はびくっと体を震わせ、何が起きたのか状況が読み込めずに目を大きく見開いて呆然とその場に立ち尽くす。
そんな星の耳元でエミルが優しい声でささやく。
「――無事に帰ってきてくれて良かった……また襲われてなくて、本当に良かったわ……」
「……えっ?」
星はエミルの口から出た言葉に驚き、目を丸くさせている。
てっきり有無を言わさず殴られると思っていた星にとって、エミルの取った行動は意外なものだったからだ。
「……どうして? どうして、怒らないんですか?」
「えっ? どうして怒るの必要があるの?」
不思議そうにエミルの言葉に、星は瞳を潤ませながら彼女の顔を見上げた。
その後、震える声で首を傾げているエミルに尋ねた。
「だって……わ、わたしは……いけない事を……したんですよ?」
「……そうね。そうかもしれないわね……」
エミルは星の体を抱きしめたまま頷き、星の頭を優しく撫でた。
だが、そのエミルの優しさが星の心を罪悪感でいっぱいにする。
「……おこって……ください……」
「ううん。私にはあなたを怒る資格はないもの……」
「……やさしく……されると……わたし……どうしたらいいのか……わからない……です」
エミルは体を震わせながら泣き続ける星を「大丈夫よ」と耳元でささやき、怒ることなどなくただ優しく抱きしめる。
そんなエミルに星はどうしたらいいのか分からずに、嗚咽を漏らして泣き続けている。
「――全部分かってる……分かってるわ。星ちゃんが迷惑をかけたくなくて、私から離れたことは分かってるから……もう泣かなくていいのよ?」
「でも……でも……わたしは――」
「――ううん。星ちゃんは人を思いやれる優しい子だもの……そんな子を叱る事なんてできないわよ……」
その言葉を聞いた星の瞳からは、再び大粒の涙が止めどなく溢れ出す。
「あっ! そうだ……」
ぽろぽろと涙を流し続けている星を見て、何かを思い出したようにエミルはコマンドを操作した。
エミルは徐に剣とカバンを取り出すと、それを星の目の前に差し出した。
「――これって……」
「そう。あなたが部屋に置いていった物よ……これはあなたの物でしょ?」
「……えっ?」
星はそれを見た途端。不思議そうな顔で首を傾げ、エミルを見上げる。
エミルが今自分に差し出している剣は、元々エミルの物で、襲ってきた男達も高い物だと言っていたから返したのだ。その荷物に関しても、お世話になったお礼にと、わざと置いていったものだった。
体が震え出し、まるで別の人の体かと思うくらいに、まったく言うことを聞いてくれない。星が廊下を一歩踏み出す度に、体が鉛のように重くなり、呼吸も荒くなっていく。
その時、部屋を飛び出し、城の長い廊下を全速力でエミルが走ってくるのが見えた。
徐々に迫ってくるエミルに、星は思わず視線を逸らしてしまう。最初は、これ以上エミルに迷惑をかけたくない一心で部屋を飛び出したはずだった。
迷惑をかけたくないという強い思いが、自分が居なければという結果に行き着いたのだった。しかし、それはエミルに二度と会わなければの話だ――。
だが、星の思惑は外れ。またこうして、ここに戻ってきてしまった。それが今の星の中で、エミルに会うことへの恐怖心へと変わっていたのだ。
(どうしよう……きっとすごく怒られる……)
怯えながら、俯き加減にその場に立ち尽くしている星の前でエミルが立ち止まった。
そのエミルの足が怯えて俯いている星の瞳にはしっかりと映っていた。
「……星ちゃん。急に居なくなって心配したのよ?」
「す、すみません……」
気まずい雰囲気のまま、2人の間には沈黙が流れた。
「どうやって部屋から出たの?」
「そ、それは……」
星は表情を曇らせ、口を閉ざしてしまう。
それもそうだ。とても小窓から出て、近くの塔まで渡ったなんて言えるはずもない。もし、そのことがエミルに知れれば、もっと怒られると思ったからだ。
(嫌われる……怒られる……叩かれる……)
そんな考えが、ぐるぐると星の頭の中を駆け巡る。
その極度の緊張から全身が震え出し、心臓は壊れるほどに脈動していて、全身から血の気が引いていくのが分かった。
無言のまま立ち尽くしているエミルを前にして、星は強く瞼を閉じて、次にくるであろう衝撃に備えている。
「あっ……あの……ごめんなさ――」
星が謝ろうとした次の瞬間。星の考えとは逆に、星の体を包み込む温かく柔らかい感触にゆっくりと瞼を開く。すると、星の体はエミルの腕によってしっかりと抱き締められていた。
星はびくっと体を震わせ、何が起きたのか状況が読み込めずに目を大きく見開いて呆然とその場に立ち尽くす。
そんな星の耳元でエミルが優しい声でささやく。
「――無事に帰ってきてくれて良かった……また襲われてなくて、本当に良かったわ……」
「……えっ?」
星はエミルの口から出た言葉に驚き、目を丸くさせている。
てっきり有無を言わさず殴られると思っていた星にとって、エミルの取った行動は意外なものだったからだ。
「……どうして? どうして、怒らないんですか?」
「えっ? どうして怒るの必要があるの?」
不思議そうにエミルの言葉に、星は瞳を潤ませながら彼女の顔を見上げた。
その後、震える声で首を傾げているエミルに尋ねた。
「だって……わ、わたしは……いけない事を……したんですよ?」
「……そうね。そうかもしれないわね……」
エミルは星の体を抱きしめたまま頷き、星の頭を優しく撫でた。
だが、そのエミルの優しさが星の心を罪悪感でいっぱいにする。
「……おこって……ください……」
「ううん。私にはあなたを怒る資格はないもの……」
「……やさしく……されると……わたし……どうしたらいいのか……わからない……です」
エミルは体を震わせながら泣き続ける星を「大丈夫よ」と耳元でささやき、怒ることなどなくただ優しく抱きしめる。
そんなエミルに星はどうしたらいいのか分からずに、嗚咽を漏らして泣き続けている。
「――全部分かってる……分かってるわ。星ちゃんが迷惑をかけたくなくて、私から離れたことは分かってるから……もう泣かなくていいのよ?」
「でも……でも……わたしは――」
「――ううん。星ちゃんは人を思いやれる優しい子だもの……そんな子を叱る事なんてできないわよ……」
その言葉を聞いた星の瞳からは、再び大粒の涙が止めどなく溢れ出す。
「あっ! そうだ……」
ぽろぽろと涙を流し続けている星を見て、何かを思い出したようにエミルはコマンドを操作した。
エミルは徐に剣とカバンを取り出すと、それを星の目の前に差し出した。
「――これって……」
「そう。あなたが部屋に置いていった物よ……これはあなたの物でしょ?」
「……えっ?」
星はそれを見た途端。不思議そうな顔で首を傾げ、エミルを見上げる。
エミルが今自分に差し出している剣は、元々エミルの物で、襲ってきた男達も高い物だと言っていたから返したのだ。その荷物に関しても、お世話になったお礼にと、わざと置いていったものだった。
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