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ダークブレット3

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 次に目の前からたまたま歩いてきたエルフの女性に話し掛けた。

「あの、この世界から抜ける方法を知りませんか?」

 そう尋ねると、その女性は烈火の如く怒り出し声を荒げた。

「――そんなの私が聞きたいわよ!!」
「ひっ! は、はい。そうですよね……ご、ごめんなさい」

 星が頭を下げると、女性はそっぽを向いてそのまま走り去ってしまった。
 先程の女性プレイヤーの激昂ぶりに、完全に勢いを失ってしまった星はとぼとぼと広場に向かって歩き出す。

 時計台のモニターの前で大きなため息をついた星は、どうしたらいいのか分からず、一人途方に暮れていた。

「はぁ~。どうしよう。帰り方を聞きたくても人がいないし……怒られるし……」

 そんな時、目の前に1人のエルフの男が現れ、俯く星の顔を覗き込んでにっこりと微笑んできた。

「どうしたの? お嬢ちゃん。こんな場所に1人で」
「……えっ? あなたは誰ですか?」

 背後から男性のプレイヤーが、星に向かって突然話し掛けてくる。立ち上がって男性の方を振り向いて星は小首を傾げる。

「いや、お嬢ちゃんもこのゲームの止め方が分からなくて困ってるんでしょ? 僕も困っててね。だから、君に声をかけたんだ……ほら。今、ここらへん誰もいないでしょ?」
「あぁ……」

 星は男のその言葉で辺りを見渡してから小さく頷いた。

 昨日の事件以降、多くのプレイヤーが失意の底にあった。
 街も昨日までの賑わいをなくし、人通りはまばらになっていたのは事実だが、たしかに星のいる広場には星を除いて周りには3人しかいない。

 男はにこっと微笑むと、星の腰に差している剣を見る。

「随分といい剣だけど、それに比べて防具の方は随分とお粗末だね……そんな装備で大丈夫?」
「――何がですか?」

 星は腰に差している剣を隠すように両手で覆うと、目を細めて男を見た。

「そうだ! ここで出会えたのも何かの縁だ。君に僕から防具をプレゼントしよう。さあ行こう!」
「えっ!? ちょっと……」

 男は強引に星の手を引くと、防具屋がある方向へ足早で歩き出した。

 大きな盾と鎧が店の看板に掲げられている防具屋に入るなり、男は店内に並べられている色々な物を星に勧めてきた。しかし、星はそれの全てに首を横に振って必死に拒んだ。

 初めて会った人から何かを貰ったりするのは学校で禁止されているし、自分でも良くないことだと思っていたのもあるが、それ以上に彼の笑顔がどうも胡散臭く感じたのが要因として大きかったかもしれない。

「やっぱり私。そういう物は受け取れません。すみません。し、失礼します!」
「あっ! ちょっと待ってよ!」

 星が男に丁寧にお辞儀して、勢い良く防具屋の扉に向かって走り出す。だが、男の方も簡単には引き下がるつもりもないらしい。

 急に走り出した星の耳に男の声が飛び込んできた。

「このゲームから出るための唯一の方法を知りたくないかい?」

 彼のその言葉に反応して、星の足がピタッと止まる。

 星にとって、いや……今は誰にとってもその情報は有益なものだろう。誰も、ゲームの世界で一生暮らしたいと感じる者はいない。

 男はにこっこりと微笑みながら歩み寄り、星の耳元でささやくように言った。

「……君はこのゲームから出る方法を探しているんだろう? 実は、僕は唯一ここからログアウトできるんだ……」

 その場に棒立ちになった星は驚き目を丸くすると、男の顔を見つめた。

 まさか探していた答えが、こんなに早く見つかるなんて誰が予想していただろう――。

 嬉しさのあまり、星は男の大きな手を両手で挟み込むようにして握る。

 星は男に言われるがままに、街の端に位置する寂れた建物が立ち並ぶ場所へと連れて来られた。彼に連れて来られた場所は人通りも全くなくNPCの姿もなかった。

 街の繁華街から離れたこんな辺境な場所に見知らぬ男に連れて来られ、少し不安になったのか星は前を歩く男に声を掛ける。

「あの……本当にこんな所に元に戻れる装置があるんですか?」

 だが、不安そうに眉をひそめる星に、男はにっこりと微笑み返すだけで一向に口を開こうとしない。

 明らかに様子のおかしい男に不信感を抱いた星が、ゆっくりと後退りをして逃げようと全力で後ろに向かって走ろうとしたその時、星の踏み出した右足の太ももに鋭い痛みが走った。

「――きゃあああああああああッ!!」

 叫び声を上げた星は何が起きたのかも分からず。急に襲ってきた激痛に耐えかねて、その場に倒れ込んだ。

 まるで足を切り落とされたかのような、その激しい痛みに意識が遠退いていく。

『いったい何が起きたのだろう……』そう思って、自分の右足を見た星はあまりのことに言葉を失った。

「な……に……これ……」

 それもそのはずだ。その視線の先には、一本の矢が自分の右足の太股部分を貫いた状態で刺さっていたのだ。
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