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ダークブレット2
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「ええ、久しぶりね……ガイア――いや、デイビッド」
「おう……って! おい、どうして言い直した……俺はラストサムライ。ガイアだ! それに実名で呼ぶのはやめてくれ、気分が壊れるじゃないか!」
デイビッドは顔を真っ赤にしながら怒鳴っている。
だが、それと比べてエミルの反応は冷ややかなものだった。目を細め、軽蔑するような目で彼を見つめている。
このフリーダムには言語統一機能があり。これによって自動的に普段会話している言語に変換される為、全世界のプレイヤーとの会話が可能なのだ。
目の前にいる男の容姿とデイビッドという名前から分かるように、日本人ではないことが推測できる。
エミルはそんな彼の話を聞き流すと、何事もなかったかのように本題に入った。
「……それより、重要な話ってなに?」
その瞬間、エミルの瞳が急に鋭いものへと変わる。
場の空気が変わったのを察したのか、デイビッドも神妙な面持ちで徐ろに口を開く。
「実は、いつからか分からないが、PVPの承認機能がスキップされているようなのだ。その事は知ってたか?」
「それはどういうこと!? それじゃ……」
話を聞いた瞬間、エミルの顔から血の気が引いていく。その表情から明らかに彼女が動揺していることが窺い知れた。
それもそのはずだ。今までPVPは申し込まれても、それを拒むことができたのだ。だからこそ、これまでRMT狙いのブラックギルドは、それほどの脅威にはならなかったのだが……。
ブラックギルドとはRMT――リアルマネートレードの為に相手の武器を奪い。それを現実世界で転売する集団のことをいう。
それは現実世界のマフィア、ヤクザ、テロリストなどの収入源としても使われていると言われるほど、その存在が如何わしいものとされていた。
噂が真実かは分からないものの。デイビッドの情報が正しいとすると、運営の介入がない今の状況では、多大な被害が出ることは間違いないだろう。言うならば、ブラックギルド以外にも火事場泥棒をするプレイヤーが増えるということだ――。
「それで、そのPVPの不具合は確認できたの?」
「ああ、それは確認済みさ、もし信用できないなら、俺とお前で試しにやってみるか?」
彼は微笑むと、左手を刀の柄に乗せ親指を立てている。その申し出に、エミルは少し躊躇した表情をみせた。
デイビッドはそれを察して柄から手を放すと、遠い目をして湖の方を向く。
「だが、これは俺達もギルドの再結成を考えた方がいいかもしれないな。このまま、外の人間の助けを待っていても始まらない。そうは思わないか?」
「そ、そうね……」
「ん? どうした? あまり気が進まないようだが」
急に表情を曇らせたエミルに、心配そうに声を掛けるデイビッド。
「ガイ……デイビッド。ギルドを再結成するのはいいけど、それはやっぱり……」
不安そうに言ったエミルに対して、デイビッドはニヤリと不敵な笑みを浮かべ「もちろん。現実世界に戻る為に決まってるじゃないか!」と胸を張って答えた。
それを聞いたエミルは「そうよね……」と呟いて、複雑そうな表情を浮かべている。
その時のエミルの頭の中には、城に1人で残してきた星の姿が浮かんでいた
(――あの子の事もあるのに、今ギルドなんて……そういえば、星ちゃんは大丈夫かしら……剣も結構いいものだから、家で大人しくしててればいいんだけど……)
エミルはそんなことを考え、城がある方向の空を見上げた。
そんなエミルを見て、デイビッドが急に腰に差している刀を引き抜いた。
「どうだ? エミル。久しぶりに手合わせ願えないか? 俺も体が鈍ってて、できれば頼みたい。それにお前も少したるんでいるようだしな……」
「――たるんでる? ふふっ。ええ、いいわよ。相手になってあげる! でも、私の剣に勝てるかしら?」
エミルはデイビッドの『たるんでる』という言葉に反応したらしく。さっきまでの否定的な様子とは異なり、ギロリと彼を鋭い瞳で睨みつけと剣の柄に手をかけた。
* * *
始まりの街の入り口の門を潜った星は、膝に手を突いてその場に立ち尽くしている。
「はぁ……はぁ……や、やっと着いた~」
星は息を切らせながらも、無事街に辿り着くことができた。
道中何度も休憩し、敵が現れたわけではないのだが。やはり星の歩幅だと、大人の約2倍は掛かってしまうのは仕方がないと言えるだろう。
街は昨日の夜ほど混乱はしていないものの、人気が少ない為か街に活気がない。とりあえず、星は近くにいたNPCの武器屋の店主に話し掛けることにした。
NPC――NPCとはゲーム内に、元から存在しているノンプレイヤーキャラクターの略だ。基本的には設定された単語以外は喋らない。
「あの……この世界の事を、教えてくれませんか!」
人見知りの星が、決意に満ちた眼差しで叫んだのだが。
「やあ、いらっしゃい。どんな武器をお探しかな?」
返ってきた言葉は、とてもRPGのNPCにありがちな返答だった。
だが、ゲーム経験の薄い星はそうとは気付かずもう一度、武器屋のオジサンに会話を試みる。
「えっ? あの、武器じゃなくてこの世界のことを……」
「やあ、いらっしゃい。どんな武器をお探しかな?」
武器屋の店主からは先程と全く同じ返答が返ってきて、星は不思議そうに首を傾げた。
そんなことを数回重ね。星はNPCとの接触を諦め、武器屋の店主から視線を外しその場を離れる。
とりあえず、この行動の結果。NPCと接触して情報を仕入れようとしても無駄。ということは分かった……。
「おう……って! おい、どうして言い直した……俺はラストサムライ。ガイアだ! それに実名で呼ぶのはやめてくれ、気分が壊れるじゃないか!」
デイビッドは顔を真っ赤にしながら怒鳴っている。
だが、それと比べてエミルの反応は冷ややかなものだった。目を細め、軽蔑するような目で彼を見つめている。
このフリーダムには言語統一機能があり。これによって自動的に普段会話している言語に変換される為、全世界のプレイヤーとの会話が可能なのだ。
目の前にいる男の容姿とデイビッドという名前から分かるように、日本人ではないことが推測できる。
エミルはそんな彼の話を聞き流すと、何事もなかったかのように本題に入った。
「……それより、重要な話ってなに?」
その瞬間、エミルの瞳が急に鋭いものへと変わる。
場の空気が変わったのを察したのか、デイビッドも神妙な面持ちで徐ろに口を開く。
「実は、いつからか分からないが、PVPの承認機能がスキップされているようなのだ。その事は知ってたか?」
「それはどういうこと!? それじゃ……」
話を聞いた瞬間、エミルの顔から血の気が引いていく。その表情から明らかに彼女が動揺していることが窺い知れた。
それもそのはずだ。今までPVPは申し込まれても、それを拒むことができたのだ。だからこそ、これまでRMT狙いのブラックギルドは、それほどの脅威にはならなかったのだが……。
ブラックギルドとはRMT――リアルマネートレードの為に相手の武器を奪い。それを現実世界で転売する集団のことをいう。
それは現実世界のマフィア、ヤクザ、テロリストなどの収入源としても使われていると言われるほど、その存在が如何わしいものとされていた。
噂が真実かは分からないものの。デイビッドの情報が正しいとすると、運営の介入がない今の状況では、多大な被害が出ることは間違いないだろう。言うならば、ブラックギルド以外にも火事場泥棒をするプレイヤーが増えるということだ――。
「それで、そのPVPの不具合は確認できたの?」
「ああ、それは確認済みさ、もし信用できないなら、俺とお前で試しにやってみるか?」
彼は微笑むと、左手を刀の柄に乗せ親指を立てている。その申し出に、エミルは少し躊躇した表情をみせた。
デイビッドはそれを察して柄から手を放すと、遠い目をして湖の方を向く。
「だが、これは俺達もギルドの再結成を考えた方がいいかもしれないな。このまま、外の人間の助けを待っていても始まらない。そうは思わないか?」
「そ、そうね……」
「ん? どうした? あまり気が進まないようだが」
急に表情を曇らせたエミルに、心配そうに声を掛けるデイビッド。
「ガイ……デイビッド。ギルドを再結成するのはいいけど、それはやっぱり……」
不安そうに言ったエミルに対して、デイビッドはニヤリと不敵な笑みを浮かべ「もちろん。現実世界に戻る為に決まってるじゃないか!」と胸を張って答えた。
それを聞いたエミルは「そうよね……」と呟いて、複雑そうな表情を浮かべている。
その時のエミルの頭の中には、城に1人で残してきた星の姿が浮かんでいた
(――あの子の事もあるのに、今ギルドなんて……そういえば、星ちゃんは大丈夫かしら……剣も結構いいものだから、家で大人しくしててればいいんだけど……)
エミルはそんなことを考え、城がある方向の空を見上げた。
そんなエミルを見て、デイビッドが急に腰に差している刀を引き抜いた。
「どうだ? エミル。久しぶりに手合わせ願えないか? 俺も体が鈍ってて、できれば頼みたい。それにお前も少したるんでいるようだしな……」
「――たるんでる? ふふっ。ええ、いいわよ。相手になってあげる! でも、私の剣に勝てるかしら?」
エミルはデイビッドの『たるんでる』という言葉に反応したらしく。さっきまでの否定的な様子とは異なり、ギロリと彼を鋭い瞳で睨みつけと剣の柄に手をかけた。
* * *
始まりの街の入り口の門を潜った星は、膝に手を突いてその場に立ち尽くしている。
「はぁ……はぁ……や、やっと着いた~」
星は息を切らせながらも、無事街に辿り着くことができた。
道中何度も休憩し、敵が現れたわけではないのだが。やはり星の歩幅だと、大人の約2倍は掛かってしまうのは仕方がないと言えるだろう。
街は昨日の夜ほど混乱はしていないものの、人気が少ない為か街に活気がない。とりあえず、星は近くにいたNPCの武器屋の店主に話し掛けることにした。
NPC――NPCとはゲーム内に、元から存在しているノンプレイヤーキャラクターの略だ。基本的には設定された単語以外は喋らない。
「あの……この世界の事を、教えてくれませんか!」
人見知りの星が、決意に満ちた眼差しで叫んだのだが。
「やあ、いらっしゃい。どんな武器をお探しかな?」
返ってきた言葉は、とてもRPGのNPCにありがちな返答だった。
だが、ゲーム経験の薄い星はそうとは気付かずもう一度、武器屋のオジサンに会話を試みる。
「えっ? あの、武器じゃなくてこの世界のことを……」
「やあ、いらっしゃい。どんな武器をお探しかな?」
武器屋の店主からは先程と全く同じ返答が返ってきて、星は不思議そうに首を傾げた。
そんなことを数回重ね。星はNPCとの接触を諦め、武器屋の店主から視線を外しその場を離れる。
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