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初めてのVRMMO8
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先程までのエミルとは明らかに違う雰囲気を漂わせている彼女に、身の危険を感じた星が後退りする。
「……エ、エミルさん? 何かの冗談ですよね?」
「フフフッ……でも、冗談でこんな所に連れてこないわよね?」
「……でも、さっきまでは優しくしてくれたのは……?」
恐怖に立ちすくみながら、掻き消えそうなほどのか細い声で星はエミルに尋ねると。
「それも全て演技よ? 星ちゃんは素直で助かったわ。もう少し警戒されると思ってたから……」
「……そ、そんな」
今までのことが全て演技だったと聞かされた星は、ショックのあまり瞳に涙を浮かべ、力無くその場にぺたんと座り込み諦めたように項垂れる。
そんな星を見下ろすようにして、手に剣を持ったエミルが低い声で告げた。
「さて、分かったなら有り金全部、置いていってもらおうかしら?」
「――は、はい……」
星は言われた通りに震える手でコマンドから財布を出すと、それをエミルの方にそっと差し出したその時――。
「ぷっ……あははははっ!」
「……えっ?」
急にお腹を抱えて笑い出すエミル。
何が起きたのか分からずに、地面に両手を付いてきょとんとしながら星はエミルを見上げる。
すると、エミルは笑って出た目尻の涙を拭ってすぐに言葉を返す。
「いや、ごめんなさいね。星ちゃんをちょっと試してみたんだけど、でもまさか――こんなにあっさりお金を出すなんてね……ぷっ、星まちゃん。あなたちょろすぎよ。あはははっ!」
まだ笑い足りないのか、なおもお腹を抱えて笑う彼女に、顔が真っ赤に染まった星が頬を膨らませながら、エミルの顔を鋭く睨んだ。
さすがに星が激怒しているのを察したのか、エミルの顔も自然と引き攣る。
「うっ……すっごい睨まれてる。ちょっといじめ過ぎたかな……?」
エミルはそんな星に向かって、慌てて弁解した。
「いや、ほら! このゲームって【RMT】を公式で認めててね。こういうふうに相手を油断させて騙すやからが多いのよ!」
「むぅ………」
説明を始めたエミルの顔を、不信感いっぱいの瞳で見つめる星が「騙すなんてひどいです」とぷいっと顔を背けた。
彼女の言った【RMT】とは『リアルマネートレード』の頭文字を取ったもので、その名の通り現実の通過を取引することを意味している。
「いや、ほら悪い人に付いて行っちゃだめですよ~って学校でも言われてるでしょ?」
「そうですけど……ここはゲームの中ですし。それに、だからって嘘をつくなんて…………ひどいです」
完全にふてくされる星に、苦笑いを浮かべていたエミルが今度は真面目な表情で説明を始めた。
「VRMMOはゲームだけど、ただのゲームじゃないの。この世界はもう一つの現実だと考えた方がいいかな?」
それを聞いた星は彼女の言葉の意味が分からないのか、首を傾げながら聞き返す。
「――もう一つの現実?」
「そう。でも、リアルの世界よりももっと危険な……ねっ!」
エミルは星の顔を覗き込んで人差し指を立てる。だが、星にはその言葉の意味が理解できずにただただ首を傾げている。
すると、そこで何かを思い付いたように星は言葉を発した。
「――あっ、分かりました! モンスターがいるからですか?」
さっきまでふてくされていたのが嘘のように、星は褒めてもらいたくてまるで子犬の様に瞳をキラキラさせながら、エミルの顔を見上げている。
それを見たエミルは、小さく息を吐き「そうね。色々なモンスターがいるからねぇ~」と星の頭を撫でてやる。
頭を撫でられた星は嬉しそうに微笑んだ。
「でも、【PVP】とかには気をつけてね。あれは、PKのできないこの世界で唯一相手に危害を加えられる手段になるから」
「PVP?」
聞き慣れないその言葉に、星は思わず眉間にしわを寄せて首を傾げている。
そんな彼女に、エミルは顎の下に指を当て少し考える素振りを見せ話し出す。
「簡単に言うと、プレイヤー同士で戦う事かな? これはHPが必ず『1』は残るんだけど、それが問題なのよねぇ……」
彼女の顔が急に険しい表情に変わり、大きなため息を漏らす。
多人数が一度にログインするMMORPGであるがゆえに存在するのが、この【PVP】という『プレイヤーVSプレイヤー』のシステムと言えるだろう。いや、VRというシステムだからこそと言った方がいいかもしれない。
ゲーム内にリアルと変わらないアバターがあり、痛覚があるゲームだからこそモンスターだけで戦っているだけでは、技術の向上する場所がモンスターの出現する狩場しかなくなる。そうなると、実践でしか戦闘技術を学ぶチャンスはなくなってしまう。
痛覚のあるゲームでこれは相当なリスクになる。それを対人戦を行える様にすれば、実践の前に装備を試したり痛覚に慣れるということができるわけだ。だからこそのHPの最低値である『1』を残すという手段を取ったのだ――。
普通に考えれば、HPが確実に残る戦闘が危険とは考え難い。HP残量が尽きて撃破されるPKと異なり、PVPはそれと比べてもとても安全に感じるはずだ。
その様子を見ていた星は急に不安になる。
「あの……どうかしたんですか?」
「ううん。なんでもないわ……とにかく知らない人からPVPの申し出がきたら、間違いなく断ること! いいわね?」
「えっ? あっ、は、はい」
彼女の威圧感に圧倒され、その場は首を縦に振ったものの、星の頭の中では大きな『?』が浮かんでいた。
だが、何故か分からないが、それ以上に『この事を深くエミルに聞いてもいけない』という確信もどこかにあった。
「……エ、エミルさん? 何かの冗談ですよね?」
「フフフッ……でも、冗談でこんな所に連れてこないわよね?」
「……でも、さっきまでは優しくしてくれたのは……?」
恐怖に立ちすくみながら、掻き消えそうなほどのか細い声で星はエミルに尋ねると。
「それも全て演技よ? 星ちゃんは素直で助かったわ。もう少し警戒されると思ってたから……」
「……そ、そんな」
今までのことが全て演技だったと聞かされた星は、ショックのあまり瞳に涙を浮かべ、力無くその場にぺたんと座り込み諦めたように項垂れる。
そんな星を見下ろすようにして、手に剣を持ったエミルが低い声で告げた。
「さて、分かったなら有り金全部、置いていってもらおうかしら?」
「――は、はい……」
星は言われた通りに震える手でコマンドから財布を出すと、それをエミルの方にそっと差し出したその時――。
「ぷっ……あははははっ!」
「……えっ?」
急にお腹を抱えて笑い出すエミル。
何が起きたのか分からずに、地面に両手を付いてきょとんとしながら星はエミルを見上げる。
すると、エミルは笑って出た目尻の涙を拭ってすぐに言葉を返す。
「いや、ごめんなさいね。星ちゃんをちょっと試してみたんだけど、でもまさか――こんなにあっさりお金を出すなんてね……ぷっ、星まちゃん。あなたちょろすぎよ。あはははっ!」
まだ笑い足りないのか、なおもお腹を抱えて笑う彼女に、顔が真っ赤に染まった星が頬を膨らませながら、エミルの顔を鋭く睨んだ。
さすがに星が激怒しているのを察したのか、エミルの顔も自然と引き攣る。
「うっ……すっごい睨まれてる。ちょっといじめ過ぎたかな……?」
エミルはそんな星に向かって、慌てて弁解した。
「いや、ほら! このゲームって【RMT】を公式で認めててね。こういうふうに相手を油断させて騙すやからが多いのよ!」
「むぅ………」
説明を始めたエミルの顔を、不信感いっぱいの瞳で見つめる星が「騙すなんてひどいです」とぷいっと顔を背けた。
彼女の言った【RMT】とは『リアルマネートレード』の頭文字を取ったもので、その名の通り現実の通過を取引することを意味している。
「いや、ほら悪い人に付いて行っちゃだめですよ~って学校でも言われてるでしょ?」
「そうですけど……ここはゲームの中ですし。それに、だからって嘘をつくなんて…………ひどいです」
完全にふてくされる星に、苦笑いを浮かべていたエミルが今度は真面目な表情で説明を始めた。
「VRMMOはゲームだけど、ただのゲームじゃないの。この世界はもう一つの現実だと考えた方がいいかな?」
それを聞いた星は彼女の言葉の意味が分からないのか、首を傾げながら聞き返す。
「――もう一つの現実?」
「そう。でも、リアルの世界よりももっと危険な……ねっ!」
エミルは星の顔を覗き込んで人差し指を立てる。だが、星にはその言葉の意味が理解できずにただただ首を傾げている。
すると、そこで何かを思い付いたように星は言葉を発した。
「――あっ、分かりました! モンスターがいるからですか?」
さっきまでふてくされていたのが嘘のように、星は褒めてもらいたくてまるで子犬の様に瞳をキラキラさせながら、エミルの顔を見上げている。
それを見たエミルは、小さく息を吐き「そうね。色々なモンスターがいるからねぇ~」と星の頭を撫でてやる。
頭を撫でられた星は嬉しそうに微笑んだ。
「でも、【PVP】とかには気をつけてね。あれは、PKのできないこの世界で唯一相手に危害を加えられる手段になるから」
「PVP?」
聞き慣れないその言葉に、星は思わず眉間にしわを寄せて首を傾げている。
そんな彼女に、エミルは顎の下に指を当て少し考える素振りを見せ話し出す。
「簡単に言うと、プレイヤー同士で戦う事かな? これはHPが必ず『1』は残るんだけど、それが問題なのよねぇ……」
彼女の顔が急に険しい表情に変わり、大きなため息を漏らす。
多人数が一度にログインするMMORPGであるがゆえに存在するのが、この【PVP】という『プレイヤーVSプレイヤー』のシステムと言えるだろう。いや、VRというシステムだからこそと言った方がいいかもしれない。
ゲーム内にリアルと変わらないアバターがあり、痛覚があるゲームだからこそモンスターだけで戦っているだけでは、技術の向上する場所がモンスターの出現する狩場しかなくなる。そうなると、実践でしか戦闘技術を学ぶチャンスはなくなってしまう。
痛覚のあるゲームでこれは相当なリスクになる。それを対人戦を行える様にすれば、実践の前に装備を試したり痛覚に慣れるということができるわけだ。だからこそのHPの最低値である『1』を残すという手段を取ったのだ――。
普通に考えれば、HPが確実に残る戦闘が危険とは考え難い。HP残量が尽きて撃破されるPKと異なり、PVPはそれと比べてもとても安全に感じるはずだ。
その様子を見ていた星は急に不安になる。
「あの……どうかしたんですか?」
「ううん。なんでもないわ……とにかく知らない人からPVPの申し出がきたら、間違いなく断ること! いいわね?」
「えっ? あっ、は、はい」
彼女の威圧感に圧倒され、その場は首を縦に振ったものの、星の頭の中では大きな『?』が浮かんでいた。
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