9 / 561
初めてのVRMMO5
しおりを挟む
エミルが剣を抜いたのを見て、このゲームに初めて来た時のことを思い出した星は少し身構えた。
「大丈夫。別にこの剣で星ちゃんを攻撃しようなんて思っていないわ。ただ、ちょっと見ててもらいたいの」
「……は、はい」
星が返事をして頷いたのを確認すると、優しかった彼女の目付きが鋭いものに変わり、近くを歩いていたラットの前に出て剣を構える。
近くにきた星にラットが気付いて姿勢を低くすると、警戒態勢に入った。
「スイフト!」
エミルが叫ぶと一瞬だけ体が青く光る。
すると、彼女が風のように星の前を横切ったかと思うと、次の瞬間には彼女はもうラットの前にいた。
「はああああああっ!!」
即座に目の前のラットに向かって剣を振り下ろす。その直後、攻撃を受けたラットのHPは一瞬で『0』になった。
しかし、彼女の攻撃の手が止むことはなく。一瞬の刹那に、素早く数太刀をラットの体に叩き込む。次から次へと攻撃を繰り出すその姿は、まるで舞でも踊っているかのようだ――。
エミルの激しい攻撃が終わり、ラットの体には無数の切り傷を受けた状態で横たわった上に【OVER KILL】と表示され。直後、ラットの体はキラキラとした光りを残してその姿を消した。
残された光りは吸い込まれるように上空へ舞い上がっていく。
「ふぅー。8連撃か……私も鈍ったなぁー」
エミルはそう小さく呟くと、持っていた剣を鞘に収めた。
無言の星はラットのいた場所にゆっくりと近付いていくと、俯いたまま小さな声で「あんなに攻撃する事ないのに……」と呟き、眉間にしわを寄せながら怒った表情でエミルの方を向いた。
「エミルさんひどいです! あんなに攻撃しなくてもいいじゃないですか!!」
星はそう叫ぶと、瞳を潤ませながらエミルの顔をじっと見つめた。だが、その言葉を聞いたエミルは驚いて目を丸くしている。
それもそのはずだ。長年ゲームをしてきたが、今まで一度もモンスターがかわいそうなどと言われたことなどない。
敵を攻撃するということは、ゲームをやる上に当たり前のことであり、それがRPGの醍醐味でもあるのだから無理もないだろう。
しかし、目の前の少女はラットがかわいそうだとと瞳に涙を溜めて怒っている。星が至って真剣にそう感じているのはエミルにも感じ取れる。だが、エミルはどうして自分が、怒られるのかがいまいち理解できないでいた。
「――いや、ほら星ちゃん。倒したラットは、また復活するから大丈夫なのよ?」
エミルは星のその反応に動揺しながらも、慌てた様子で辺りを見渡し何かを見つけたのか、エミルはほっとして遠くの方を指差す。
そこにはさっき倒したはずのラットが光りとともに再び現れ、何事もなかったかのように歩いている。だが、それを見てもまだ、星の表情は暗いままだ――その理由は……。
「でも……あの子も痛かったんじゃないんですか?」
「ううん。大丈夫、その心配は要らないわ。モンスターは痛みなんて感じないから! それに、モンスターはデータの集合体。だから痛みもなければ、何度でも蘇るの。そういう仕様なのよ」
もちろん。エミルの言ったことはなんの根拠もなく、取って付けたようなでまかせでしかない。
痛みを感じているかという点は謎だが、モンスターでもダメージを受ければ怯んだり。攻撃パターンが変わったりする仕様になっているのは事実。それは裏を返せば痛みを受けているようにも見えるということである。
しかし、初心者の星はそれを知る由もない。エミルの言葉を鵜呑みにした星は、ほっと胸を撫で下ろして「なるほどー」と相槌を打つ。
まあ、エミルの説明が難しかったということも、それ以上追及できない原因の一つではあるだろう。
だとしても。先程目の前に倒されたはずのラットが蘇ったところを見ると、この世界では敵は再び蘇るということは、子供の星にも理解できた。
「とりあえず。私は剣士が長いから、今更、他の武器はしっくりこないのだけど……剣の他にも弓、ガントレット、後ボディービルダー専用装備でダンベルやバーベルなんていう変わり種もあるわね~」
「なるほどー」
彼女の発言に合わせて、再び星が相槌を打つ。
「どれを選ぶかは星ちゃん次第だけど……星ちゃんは背も小さいし、まだ初心者でステータスも低くて筋力がそれほど高くないから、比較的軽い弓か剣がいいかな~」
「そうなんですか? でも、物を持ってもそんなに重くないというか、重さを感じないというか……」
星はそう小さな声で呟くと、不思議そうに首を傾げた。
その問いに、エミルは迷うことなく即座に返答をした。
「ああ、それはゲームの筋力補正機能が働いてるからよ。でも、それを超える重さの物を持つと、一気に重量がくるから気を付けるのよ?」
「なるほどー」
またも星がそう相槌を打つと、エミルが突然くすくすと笑い出した。
急に笑い出すエミルに、星は不思議そうに小首を傾げる。
「ふふっ、ごめんなさい。さっきから、なるほどー。ばっかりだと思って」
「あっ……ごめんなさい」
それを聞いた途端にしゅんとする星の姿に、エミルが慌てて手を振った。
「大丈夫。別にこの剣で星ちゃんを攻撃しようなんて思っていないわ。ただ、ちょっと見ててもらいたいの」
「……は、はい」
星が返事をして頷いたのを確認すると、優しかった彼女の目付きが鋭いものに変わり、近くを歩いていたラットの前に出て剣を構える。
近くにきた星にラットが気付いて姿勢を低くすると、警戒態勢に入った。
「スイフト!」
エミルが叫ぶと一瞬だけ体が青く光る。
すると、彼女が風のように星の前を横切ったかと思うと、次の瞬間には彼女はもうラットの前にいた。
「はああああああっ!!」
即座に目の前のラットに向かって剣を振り下ろす。その直後、攻撃を受けたラットのHPは一瞬で『0』になった。
しかし、彼女の攻撃の手が止むことはなく。一瞬の刹那に、素早く数太刀をラットの体に叩き込む。次から次へと攻撃を繰り出すその姿は、まるで舞でも踊っているかのようだ――。
エミルの激しい攻撃が終わり、ラットの体には無数の切り傷を受けた状態で横たわった上に【OVER KILL】と表示され。直後、ラットの体はキラキラとした光りを残してその姿を消した。
残された光りは吸い込まれるように上空へ舞い上がっていく。
「ふぅー。8連撃か……私も鈍ったなぁー」
エミルはそう小さく呟くと、持っていた剣を鞘に収めた。
無言の星はラットのいた場所にゆっくりと近付いていくと、俯いたまま小さな声で「あんなに攻撃する事ないのに……」と呟き、眉間にしわを寄せながら怒った表情でエミルの方を向いた。
「エミルさんひどいです! あんなに攻撃しなくてもいいじゃないですか!!」
星はそう叫ぶと、瞳を潤ませながらエミルの顔をじっと見つめた。だが、その言葉を聞いたエミルは驚いて目を丸くしている。
それもそのはずだ。長年ゲームをしてきたが、今まで一度もモンスターがかわいそうなどと言われたことなどない。
敵を攻撃するということは、ゲームをやる上に当たり前のことであり、それがRPGの醍醐味でもあるのだから無理もないだろう。
しかし、目の前の少女はラットがかわいそうだとと瞳に涙を溜めて怒っている。星が至って真剣にそう感じているのはエミルにも感じ取れる。だが、エミルはどうして自分が、怒られるのかがいまいち理解できないでいた。
「――いや、ほら星ちゃん。倒したラットは、また復活するから大丈夫なのよ?」
エミルは星のその反応に動揺しながらも、慌てた様子で辺りを見渡し何かを見つけたのか、エミルはほっとして遠くの方を指差す。
そこにはさっき倒したはずのラットが光りとともに再び現れ、何事もなかったかのように歩いている。だが、それを見てもまだ、星の表情は暗いままだ――その理由は……。
「でも……あの子も痛かったんじゃないんですか?」
「ううん。大丈夫、その心配は要らないわ。モンスターは痛みなんて感じないから! それに、モンスターはデータの集合体。だから痛みもなければ、何度でも蘇るの。そういう仕様なのよ」
もちろん。エミルの言ったことはなんの根拠もなく、取って付けたようなでまかせでしかない。
痛みを感じているかという点は謎だが、モンスターでもダメージを受ければ怯んだり。攻撃パターンが変わったりする仕様になっているのは事実。それは裏を返せば痛みを受けているようにも見えるということである。
しかし、初心者の星はそれを知る由もない。エミルの言葉を鵜呑みにした星は、ほっと胸を撫で下ろして「なるほどー」と相槌を打つ。
まあ、エミルの説明が難しかったということも、それ以上追及できない原因の一つではあるだろう。
だとしても。先程目の前に倒されたはずのラットが蘇ったところを見ると、この世界では敵は再び蘇るということは、子供の星にも理解できた。
「とりあえず。私は剣士が長いから、今更、他の武器はしっくりこないのだけど……剣の他にも弓、ガントレット、後ボディービルダー専用装備でダンベルやバーベルなんていう変わり種もあるわね~」
「なるほどー」
彼女の発言に合わせて、再び星が相槌を打つ。
「どれを選ぶかは星ちゃん次第だけど……星ちゃんは背も小さいし、まだ初心者でステータスも低くて筋力がそれほど高くないから、比較的軽い弓か剣がいいかな~」
「そうなんですか? でも、物を持ってもそんなに重くないというか、重さを感じないというか……」
星はそう小さな声で呟くと、不思議そうに首を傾げた。
その問いに、エミルは迷うことなく即座に返答をした。
「ああ、それはゲームの筋力補正機能が働いてるからよ。でも、それを超える重さの物を持つと、一気に重量がくるから気を付けるのよ?」
「なるほどー」
またも星がそう相槌を打つと、エミルが突然くすくすと笑い出した。
急に笑い出すエミルに、星は不思議そうに小首を傾げる。
「ふふっ、ごめんなさい。さっきから、なるほどー。ばっかりだと思って」
「あっ……ごめんなさい」
それを聞いた途端にしゅんとする星の姿に、エミルが慌てて手を振った。
10
お気に入りに追加
77
あなたにおすすめの小説
【VRMMO】イースターエッグ・オンライン【RPG】
一樹
SF
ちょっと色々あって、オンラインゲームを始めることとなった主人公。
しかし、オンラインゲームのことなんてほとんど知らない主人公は、スレ立てをしてオススメのオンラインゲームを、スレ民に聞くのだった。
ゲーム初心者の活字中毒高校生が、オンラインゲームをする話です。
以前投稿した短編
【緩募】ゲーム初心者にもオススメのオンラインゲーム教えて
の連載版です。
連載するにあたり、短編は削除しました。
タイムワープ艦隊2024
山本 双六
SF
太平洋を横断する日本機動部隊。この日本があるのは、大東亜(太平洋)戦争に勝利したことである。そんな日本が勝った理由は、ある機動部隊が来たことであるらしい。人呼んで「神の機動部隊」である。
この世界では、太平洋戦争で日本が勝った世界戦で書いています。(毎回、太平洋戦争系が日本ばかり勝っ世界線ですいません)逆ファイナルカウントダウンと考えてもらえればいいかと思います。只今、続編も同時並行で書いています!お楽しみに!
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる