上 下
6 / 561

初めてのVRMMO2

しおりを挟む
 2人は街の噴水近くのベンチに腰を下ろしながら、しばらくの間少女に慰められ、やっと星は落ち着きを取り戻した。
 そして、星がどうして泣いていたのか、その理由を聞いた途端。今まで優しい笑顔を浮かべていた少女が、急に顔を真っ赤にして怒り出す。

「――なにそれ! それは間違いなく向こうが悪いわ!」
「いえ、でも……私からぶつかっちゃったので……」

 腕で涙を拭う星を覗き込む様に、少女が顔を近付ける。

 その美しい青い瞳を細め、小首を傾げた彼女は視線を逸らす星に尋ねた。

「あなた。ほんとにそう思ってる?」
「えっ? は、はい……」
「はぁ……そうね。初めてじゃ、そう思うのも無理もないか……」

 少女はため息をついてそう呟くと、自分の膝の上に手を置いてゆっくりと話し始める。

「――いい? このゲームでエルフは、3種族内で最もスピードが速い種族なの。多分向こうからは、レベル差もあるからあなたの動きなんて、きっと止まって見えていたはずよ?」
「……えっ? でもぶつかって……」

 彼女は呆れ顔でため息を漏らすと、こめかみの辺りを押さえた。

「はぁ……だから、向こうはわざとあなたにぶつからせたの! よく居るのよね。初心者プレイヤーを虐めて喜んでるやからが……」
 
 その話を聞いた星は、しょんぼりと肩を落としただただ地面を見つめる。

 落ち込んだ様子の星を見て、少女が声を上げた。

「――そうだ! 今から私が戦い方を教えてあげる!」
「……えっ?」
「もちろん。あなたが良ければの話だけど、どうかしら?」
「は、はい! よろしくお願いします!」

 星は嬉しそうに頷くと、彼女のその申し出を快く受け入れた。

 正直。ゲーム自体初心者で右も左も分からない星にとって、彼女の申し出は願ってもないものだった。しかし、VRMMOという現実世界と類似して肉体を動かすこのゲームでは、ゲーム自体が初心者の星には優しいとはとても言えない。だが、戦闘を覚えておくのは、今後の為にも有意義なものになるだろう。


 街を出た2人は【始まりの草原】という見渡す限り、木なども全くない大草原へとやってきた。
 草原には多数のLv1と表示されたこの世界最弱モンスターのラットが、草原を我が物顔で歩き回っている。

 その中には初心者のプレイヤーも複数居るようだが、間隔も十分に空いているので邪魔にはならなそうだ――。

 隣に立っていた少女が、ゆっくりと星の方を向く。

「そういえば、あなたVRMMO系の戦闘は初めて?」
「は、はい……」

 悠々と歩くラットを見て肩を強張らせながら、緊張した様子で返事をする星の姿を見るなり少女は「ぷっ」と息を漏らした。

「あんなラットくらいで緊張してたら、先が思いやられるわよ? ほら、肩の力を抜いて……同じレベルなんだし。油断しなければやられないから、安心していいわよ?」
「……は、はい」

 何度か深呼吸をしたものの。それでも緊張した様子で頷く星に、少女は軽く咳払いをしてゲームの説明を始める。

「このゲームの特徴は武器や攻撃なんかのスキルがないところなの。あっ、ないと言うか……まあ、あるにはあるんだけど、今は使わないから。まずはHPバーの説明だけど……多分、目に見えるところに青い円の中に数字が書いてあるでしょ?」
「はい。15って出てます」
「うん。それがヒットポイントね! でも、無くなっても近くの街の教会に送られるだけで、本当に死ぬわけじゃないから安心して」
「そうなんですね。良かったぁ……」

 それを聞いた星はほっと胸を撫で下ろすと、息を大きく吐いた。
 安心しきって完全に緊張を解いた顔になっている星の目の前に、少女の人差し指が突き出され。

「でも、死ぬと実際に死ぬほどではないにしても、凄く痛いから覚悟して戦うように!」

 少女は真面目な顔で注意する。

 一度は全身から抜けた力が緊張と恐怖から全身に再び力が入り、星は強張った全身を小刻みに震わせている。
 その時、この世界にきて初めて起きた出来事が星の頭の中を駆け巡る。

(やっぱり痛いんだ……)

 ゲーム世界にきてからバラの花を持った時、転んだ時、どちらも痛みがあった。
 そうなのだろうとは予想をしていたものの。あらためて痛みがあると聞くと、やはり物怖じしてしまう……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【VRMMO】イースターエッグ・オンライン【RPG】

一樹
SF
ちょっと色々あって、オンラインゲームを始めることとなった主人公。 しかし、オンラインゲームのことなんてほとんど知らない主人公は、スレ立てをしてオススメのオンラインゲームを、スレ民に聞くのだった。 ゲーム初心者の活字中毒高校生が、オンラインゲームをする話です。 以前投稿した短編 【緩募】ゲーム初心者にもオススメのオンラインゲーム教えて の連載版です。 連載するにあたり、短編は削除しました。

Gender Transform Cream

廣瀬純一
SF
性転換するクリームを塗って性転換する話

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

新しい自分(女体化しても生きていく)

雪城朝香
ファンタジー
明日から大学生となる節目に突如女性になってしまった少年の話です♪♪ 男では絶対にありえない痛みから始まり、最後には・・・。

ドレスを着たら…

奈落
SF
TSFの短い話です

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

処理中です...