限界オタク聖女が敵の拗らせゾンビ男子を溺愛してみたら

フオツグ

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限界オタクと推しとお兄ちゃんと。

兄の懺悔・罰を乞う者

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 ソレイユ大聖堂。
 星の瞬く夜、リブラは一人、神に懺悔する。

「空の上におわす星の神よ。愚かな我が親が正しく罰せられましたこと、感謝致します。しかし、私には何もありません」

 人々はリブラを許した。
 むしろ、勇気ある告発だったと、リブラを誉めている。
 両親の罪を告発するに至るまで、悩み苦しんだだろう、と。
──悩む訳ない。あの二人は人の皮を被った魔物だったのだから。
 見抜けなかった自分が一番罪深い。

「私にも罰をお与え下さい……」

 もはや、懺悔ではなく、懇願だった。

「天秤座の少年よ」

 男の声が後ろから聞こえ、リブラは振り返った。

「シュタインボック様……」

 そこにいたのは、【山羊座の守護者】シュタインボック。
 彼は最古の【星の守護者】と呼ばれる人物だ。
 黒い礼服に身を包み、帽子のツバで目元は隠れ、口元しか見えないが、かなり若い。
 彼は、【星の守護者】の証が魂に刻まれている。
 死亡し、生まれ変わったとしても、【星の守護者】に選ばれる運命にある。
【星の守護者】に選ばれることが至上の喜びとされる星の神教の中では『伝説の人間』と呼ばれ、尊敬されている。
 シュタインボックは口を開いた。

「そなたは星の神に【星の守護者】として選ばれた。その役目を果たすことが、星の神への贖罪となるじゃろう」
「私は許されたくはありません」
「何より、自分自身が許せぬか」

 シュタインボックは笑う。

「弟を救えなかった私が、人類を救うことなど出来るはずがありません。私は【天秤座の守護者】に相応しくありません」
「それを決めるのはそなたではあるまい」
「……星の神ですか」

 シュタインボックは笑って肯定した。
 リブラはノヴァが一番大変なときに、【星の守護者】に選ばれた。
 自分が【星の守護者】に選ばれるのがこのタイミングでなければ、もっとノヴァを気にかけられただろう。
 ノヴァがゾンビにならずに済んだだろう……。
──そもそも、自分が【星の守護者】に選ばれなければ。
 そんな風に思ってしまう。

「全ては星の神の導きじゃ。そなたの弟の犠牲も、いずれ何かの意味を持つ」
「何か、とは、何ですか」

 リブラは言葉に怒りを滲ませる。

「弟の死はそなたの両親の数々の罪を暴いたじゃろう」
「暴いたのは私です。私の意思です。星の神は関係ない」
「神官とあろう者が神の意思を否定するか」

 シュタインボックはフッと笑う。

「私は星の神の存在を信じたことは一瞬たりともありません。見たこともないのですから」
「……星の神教団の連中が知ったら、大目玉じゃろうな」
「知ったことではありません。……弟の方が余程、星の神を信じていた」

 リブラはノヴァの顔を思い浮かべる。
 黒いインクがノヴァの顔に張り付いていて、どんな顔をしていたのか全く思い出せない。
 それほど、リブラはノヴァを見て来なかったのだろう。

「何故、星の神は弟を見捨てたのか。わかりません。見捨てられるべきなのは、私の方であるべきだ」

 リブラは星空に願う。

「私を罰してくれ……」

 星の神に問いかけるが、返答はない。
 神はいない。
 少なくとも、リブラの願いを聞き届けるような神は。

 □

 それから、ノヴァの行方は一切わからないまま、時間だけが過ぎた。
 リブラは徐々に衰弱していった。
 大神官の仕事、【星の守護者】としての魔物の討伐、そして、ノヴァの捜索……。
 リブラは寝る時間を削って、【墓場の森】付近の捜索を続けていた。
 それが自分の罰だとでも言うように。

 そんなある日のこと。
 ヴァルゴが執務室の扉を叩いた。

「お疲れのようね、リブラちゃん」
「……ヴァルゴ」

【乙女座の守護者】ヴァルゴ。
 彼はリブラと同時期に【星の守護者】に選ばれた。
 お互いの第一印象は良くなかったが、模擬戦闘をして以来、よく言葉を交わすようになっていた。

「……そろそろ、区切りをつけるべきなのかもね」
「区切り、とは」
「弟ちゃんのお葬式をしてやりなさい」

 リブラは目を開いて、ヴァルゴを見た。

「アナタが『弟ちゃんは生きている』と諦めないから、弟ちゃんはずっとこの土の上で彷徨い続けるしかないの」
「私の手で、弟を星にしろと?」

 ヴァルゴは首を横に振る。

「楽になるべきなのよ。アナタも、勿論、弟ちゃんもね」

 リブラは黙って俯く。

「目の下、酷い隈よ。顔色も真っ白。魔物対峙中に倒れちゃったらどうするの」
「他の者が倒してくれるでしょう」
「魔物討伐の心配じゃなくて、アナタの心配をしてるの。アナタがいなくなったら、誰が【星の守護者】達をまとめるの?」
「どうにかなるでしょう」
「そうかもしれないわね。でも、きっと凄く大変だわ」
「……結局、自分達のためか?」
「アナタは自分がどれだけ大切にされているのか、わかってないのよ」

 ヴァルゴはリブラに歩み寄り、リブラを見下ろして言った。

「弟ちゃんを夜空に送ってあげなさい」

 リブラは目を見開き、硬直する。
 そして、震える唇で言った。

「私には出来ない……」

 リブラは項垂れる。

「弟を星にするなんて、何故そんな酷いことを言う……?」
「希望を持たせ続けることほど、残酷なものはないわ」

 ヴァルゴの言うことはもっともだ。
 見つかるかわからない弟を捜し続けることは、体力的にも精神的にも疲弊することだと。
 本当はわかっている。
 弟は、知性のないゾンビになって彷徨っているか、討伐されて星になってしまったか、そのどちらかしかない。
 知性がなくなり、人間を襲う弟を、自分は弟だと思えるのか?
 それに、星屑になった弟を見分ける術は何処にもない。
──悔しい。
 大神官がなんだ。
【星の守護者】がなんだ。
 人類最強がなんだ。
 弟たった一人守れない。

「私は……駄目な兄だ……」

 リブラは涙を流す。
 ヴァルゴは何も言わずに彼の背中を撫でて、涙が止まるまでそばにいた。
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