錬金術はインチキじゃない!

フオツグ

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ワンダー博士、真実を知る。

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「あ、あれです! あれが私達の住む村!」

 少女が前方を指差した。

「村……」

 木造の平家が立ち並んでいる。
 一面には畑。
 手動で組み上げる井戸も見える。
──まるで、一昔前の生活だ……。

「凄いわ! あそこからここまで、一瞬で着いた! 行くときは三日もかかったのに!」

 少女が目を輝かせながら騒ぐ。
 その様子に、ワンダーは気分を良くした。

「そうだろう、そうだろう! ボクの錬金術マジックをお楽しみ頂けたようで、何よりだよ、レディ!」」

 ワンダーは少女に笑いかけ、直ぐに前に向き直る。

「さて。二人のおうちは何処だい?」
「あっちです!」

 少女は森の方を指差した。

 □

 村の外れ、森の奥にポツンと平家が建っている。
 そこが二人の家らしい。
 ワンダーはハンドルで上手に車を操り、家の横に車を着陸させる。

「到着だ! レディエンスジェントルマン!」

 車のドアが開き、ワンダーは降りるように促す。
 二人は恐る恐る、地面に足をつけた。

「凄かったわ……。まだ夢を見ているみたいで、ふわふわする……」

 少女の頬は赤い。
 気分が高揚しているようだ。

「ここが二人のおうちかい? 随分と不便なところに住んでいるんだね。村から離れた場所にある」

 少女と老人は表情を暗くさせた。

「少し事情がありましてな……。ささ、錬金術師様、どうぞ中へ。何かお礼をさせて下さい。何もありませんがのう……」

 □

 ワンダーは家に招かれ、椅子に座るように促された。
 椅子に座ると、ワンダーとバニバニの前に紅茶が出される。

「自己紹介がまだでしたな。ワシの名前はオーディンですじゃ。こちらは孫娘の……」
「シーアです。助けて頂いてありがとうざいました、錬金術師様!」

 シーアは勢いよく頭を下げる。
 ワンダーは人差し指で頬をぽりぽりとかいた。

「そのお……『錬金術師様』という呼び方はやめてくれないか。少しくすぐったくてね」
「では、何とお呼びすれば?」
「それは勿論! 『稀代の錬金術師マジシャンワンダー博士』と!」
「はい。『稀代の錬金術師マジシャンワンダー博士』様」

 オーディンは大真面目な顔で言った。

「ほ、ほんの冗談だ。短く、『ワンダー博士』と呼んでくれ」
「はあ……。貴方様がそうおっしゃるなら」

 オーディンは不思議そうに首を傾げ、頷いた。

「ワンダー博士様、あのままあの場所で立ち往生していたら、ワシらは毒に侵され、死んでいたと思いますじゃ……。出会えた幸運に感謝じゃのう」
「ボク達としても幸運だったよ。目覚めたばかりで、右も左もわからない状況だったから。なあ、バニバニ」

 ワンダーは笑顔でバニバニに言う。
 バニバニは頷いた。

「それで……アルケミアが千年前に滅びたというのは一体?」
「大昔の話じゃ……。アルケミアという錬金術で栄えた国がありましてのう。その国は戦争により、滅亡したのですじゃ」

 千年程前、アルケミアは突如爆撃に遭った。
 独占していた錬金術の技術を奪うべく、結託した国々によって。
 錬金術で生み出された、未知なる毒。
 それを載せたミサイルが数十回、都に落とされた。
 アルケミアは一瞬にして、毒が蔓延する地獄と化した。

「アルケミアが……滅亡……」

 ワンダーは信じられなかった。
 あの大きな国が、戦争で滅亡してしまうなんて。
──しかし、あの光景を見てしまったら……
 シェルターから出た瞬間のことを思い出す。
 人も、ものも、建物も……全てが崩壊していた。

「他国もアルケミアほどではないが、錬金術が発展していたはず。錬金術がインチキと呼ばれるほどまでにはならんのではないか?」
「ええ。ワシも、アルケミアがただで滅亡した訳ではないと考えとります。他国へ反撃した……勿論、錬金術で」

 アルケミアは錬金術で生み出したミサイルを敵国に落とした。
 落とされた敵国は一瞬にして消失したのではないか、とオーディンは考えているようだ。
 実際、国があったと見られる地域は、抉られたようなクレーターが出来ているという。
 アルケミアのように、千年も毒に曝されることはなかったが、全てがゼロになった。

「……恐ろしい」

 ワンダーは身震いする。
 全てを無に帰すミサイルも、それを生み出した挙句敵国に投下したアルケミアも。

「他国の錬金術の痕跡は全て消失。錬金術の足がかりは、アルケミアにだけ……。しかし、そのアルケミアは毒に汚染され、人間が立ち入ることは不可能」

 オーディンはため息をついた。

「今やアルケミアも錬金術も夢物語……。錬金術師を騙る詐欺師が跋扈する時代になってしもうた」
「それで、インチキだと……」
「はい……。ですが、今日、確信しましたぞ。錬金術は存在したのだと!」

 オーディンは興奮して立ち上がる。

「アルケミアは確かにそこにあったのだと!」

 鼻息を荒くして、拳を天に突き上げた。
 ワンダーは興奮するオーディンを見て困惑を隠せない。

「み、ミスター・オーディン? 一体どうしたのだ?」
「ふふ」

 シーアは笑う。

「お爺ちゃんは考古学者でね。古代アルケミア文明について調べていたの。今も、アルケミアを知るために、アルケミアの土地に足を運んでいるんですよ」
「ははあ、なるほど。だから、毒が蔓延しているのにも関わらず、アルケミアの周辺にいたのか」
「アルケミアはロマン! ロマンじゃー!」

 オーディンは喜び叫ぶ。

「もう! 落ち着いて、お爺ちゃん!」

 シーアは呆れたように笑った。

「それにしても、千年も経っていたのか……。確かに、二年の間でここまで衰退するとは思ってなかったが……」

 ワンダーはチラリとバニバニを見た。
 バニバニは首を横に振る。

「空は常に灰色の雲に覆われていましたから、バニバニは太陽が昇った回数を数えられませんでした」

 バニバニはガイノロイド──機械だ。
 時間感覚がないのは当然である。

「しかし、ワンダー博士が目覚めるのは二年後のはずでは」
「他国では魔法妨害波の研究も進められていた。ミサイルに搭載されていた魔法妨害波が、ボクの転生に影響を及ぼし、転生の魔法行使が大幅に遅れたのやも……」

 ワンダーは頭を抱える。

「しかし、千年……千年も経っていたなんて!」

 シーアはワンダーの気持ちを察して、悲しそうな顔をする。

「ワンダー博士、可哀想……。家族もいただろうに……」
「ボクは天涯孤独の身だから家族の心配はない」
「う、ごめんなさい。無神経なこと言って」
「良いんだ。ボクも言ってなかったし」
「会って間もない人に言うことじゃないですよ」

 シーアはドン、と胸を叩いた。

「ワンダー博士! 私達に出来ることがあれば、何でも言って下さい! 命を救って頂いたお礼がしたいんです!」
「お礼なんて、そんなの良いよ。キミたちの驚く顔が見られたからそれで十分さ!」

 きゅるるるる。
 ワンダーのお腹から空っぽの音がする。
 静寂が辺りを包む。

「……と、言いたいところだが、この通りお腹が減っていて……。何か食べ物をくれないか?」

 ワンダーは目覚めてから、何も口にしていない。
 そのことを思い出すと、ワンダーの体から、どんどん力が抜けていった。

「お腹が減って……もう……動けそうもない……」
「直ぐにご用意します!」

 シーアは大急ぎでキッチンへち向かう。

「ワンダー博士、嫌いな食べ物はありますか?」
「ボクは何でも食べるぞう」
「バニバニ様は?」
「バニバニに食事は必要ないぞ。ガイノロイドだからな」
「がいのろいど?」
「機械の人間です」

 バニバニが答える。
 シーアは目を輝かせた。

「つまり、人造人間ってこと!?」
「正確には違います。人造人間は元人間ですが、バニバニは一から百まで全て機械です」
「全て機械なの!? 何処からどう見ても人間なのに!? 凄いわ! これも錬金術なの!?」
「勿論! ボクが錬金したんだ!」

 ワンダーはえへん、と胸を張った。

「バニバニは七十年来の相棒でね。人間らしさを学習し、大分冗談を言えるようになって……」
「七十っ……ちょっと待って。ワンダー博士っておいくつ……?」
「わはははは! 年なんて数えるもんじゃないぞう!」
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