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休日の遊び方
「逸話が聞けるなんて」
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「──シャルルルカ様は二度も救って下さった。それから、我が輩は大魔法使いシャルルルカ様を崇拝しているのだ! わかったかね」
ピエーロはそう話を綴った。
「きゃー! 生のシャルルルカ様の逸話が聞けるなんて!」
ブリリアントは大興奮の様子だ。
「大魔法使い様は、シャルル先生とまるで別人なんですね」
レイは感心したように言った。
「別人に決まってるだろう! 彼奴とシャルルルカ様を同列にするな!」
「でも、最近シャルル先生にへこへこしてますけど?」
「あれはお仕置きが怖いから……ごにょごにょ」
ごほん、とピエーロはわざとらしく咳払いをして、話を戻した。
「これから大仕事なのでな。シャルルルカ様がモデルの創作物を浴びて、気分を上げていたのだ」
「大仕事?」
「ええ。この後に少し……。言っておくが、ドロップ魔法学園は副業を許可しているからな! ほれ、野蛮人──げふんげふん。ホムラ先生も精霊医をしているだろう!」
「何も疑ってねえですけど」
「ええい! そんな目をしていたんだ!」
ピエーロは襟を正す。
「では、これから我が輩は仕事なので、失礼! レディ達だけで遊ぶのは構わないですが、あまり帰りが遅くならないようにするのですぞ! 夜になると、けしからん輩が湧いてきますからな!」
「はい。わかりました! ピエーロ先生、お仕事頑張って下さいね!」
「勿論、手は抜きませんとも!」
レイ達とピエーロはわかれて歩き出した。
□
日が落ちる頃、シャルルルカとホムラフラムはコンサートホールの前で出会った。
「遅かったな」
シャルルルカはあっけらかんと言う。
ホムラフラムは呆れたように息をつく。
「てめえ、ここにいたのかよ。英雄像前をずっと探してたわ」
「待ち合わせ場所、言ってなかったっけ?」
「王都の中で待ち合わせっつったら、英雄像の前だろうが」
「私、あの像嫌いなんだ。自分の像があると気まずいだろう」
「てめえ、偽物じゃねえか」
「本物なんだけどな」
シャルルルカは唇を尖らせる。
「嘘つくならもっとバレにくい嘘つけよ、シャーリィ」
シャルルルカは「行こうか」と歩き出した。
二人はコンサートホールの中に入る。
中に張り出されたコンサートのポスターの前で、ホムラフラムは立ち止まった。
「なあ、シャーリィ。このコンサートってよォ……」
シャルルルカは足を止めることなく、先へ行く。
しかし、その方向は客席とは別方向だ。
「おい待てよ。客席はそっちじゃねえ」
「目的地はそこじゃないからな」
「ハア? じゃあ、何処だよ」
「控え室」
「てめえのコンサートだったとはな。驚きだ」
「こう見えて、冒険者時代はリュートをブイブイ言わせてたんだぞ?」
シャルルルカはその場でリョートを弾くふりをした。
「しかし、残念ながら、今回は私のコンサートではない」
「そんで? 控え室、入れんのかよ」
「知り合いがいる」
□
「関係者以外は立ち入り禁止です」
シャルルルカ達は会場のスタッフに門前払いを食らった。
「ほら、言ったじゃねえか」
ホムラフラムは鼻で笑う。
シャルルルカはふう、と一つため息をついた。
「では、控え室にいる方にこう伝えて下さい。『帽子の中はお気に召しましたか』と」
「……は?」
スタッフは意味もわからず、ポカンと口を開ける。
シャルルルカはヘラヘラと笑って見せた。
「伝えてくれたら、大人しく帰りますよ」
「はあ……わかりました……」
スタッフは訝しげな顔をしたあと、廊下の奥に消えていった。
暫くして、慌ただしく一人の男が走ってくる。
「シャルルルカ様! 何故ここに!?」
その男はピエーロ・ボンボンであった。
彼は燕尾服を着こなしている。
「ボンボンじゃねえか」
「げっ。野蛮人まで……?」
「あ?」
「いえ。ホムラフラム先生まで連れて」
ははは、とピエーロは笑顔を作った。
「何用ですかな? まさか、我が輩のコンサートを台無しにしに……?」
「そんな訳あるまい。激励に来たんだ」
シャルルルカはニヤニヤと笑って、そう言った。
「激励……?」
ピエーロは訝しげにシャルルルカを見た。
「土の指の調子はどうだ?」
ピエーロは目を見開く。
「……何故、それを……」
ピエーロは昔、ゴーゴンの襲撃で指を失った。
しかし、大魔法使いシャルルルカの魔法によって、魔力で動く指を手に入れた。
長いリハビリの末、ピアノを弾けるようになった。
思うように指を動かせなくて何度諦めようと思ったことか。
それでも、シャルルルカのくれた希望を捨られず、血の滲むような努力をした。
そして、コンサートを開くまでになった。
──こいつはシャルルルカ様の偽物なのだ。我が輩の指が土の指だと知っている訳がない!
何も知らないホムラフラムが首を傾げる。
「土の指? 何の話だ」
「君には関係のない話」
「あ?」
「ピエーロくん。君の演奏、楽しみにしてる」
シャルルルカはポンポンとピエーロの肩を叩くと、踵を返した。
──嘘、だよな。嘘に決まっている。彼奴が、本物のシャルルルカ様だなんて。
ピエーロの初のコンサートは大成功に終わった。
演奏者がよく見える席でシャルルルカは大きな拍手を送ったのだった。
ピエーロはそう話を綴った。
「きゃー! 生のシャルルルカ様の逸話が聞けるなんて!」
ブリリアントは大興奮の様子だ。
「大魔法使い様は、シャルル先生とまるで別人なんですね」
レイは感心したように言った。
「別人に決まってるだろう! 彼奴とシャルルルカ様を同列にするな!」
「でも、最近シャルル先生にへこへこしてますけど?」
「あれはお仕置きが怖いから……ごにょごにょ」
ごほん、とピエーロはわざとらしく咳払いをして、話を戻した。
「これから大仕事なのでな。シャルルルカ様がモデルの創作物を浴びて、気分を上げていたのだ」
「大仕事?」
「ええ。この後に少し……。言っておくが、ドロップ魔法学園は副業を許可しているからな! ほれ、野蛮人──げふんげふん。ホムラ先生も精霊医をしているだろう!」
「何も疑ってねえですけど」
「ええい! そんな目をしていたんだ!」
ピエーロは襟を正す。
「では、これから我が輩は仕事なので、失礼! レディ達だけで遊ぶのは構わないですが、あまり帰りが遅くならないようにするのですぞ! 夜になると、けしからん輩が湧いてきますからな!」
「はい。わかりました! ピエーロ先生、お仕事頑張って下さいね!」
「勿論、手は抜きませんとも!」
レイ達とピエーロはわかれて歩き出した。
□
日が落ちる頃、シャルルルカとホムラフラムはコンサートホールの前で出会った。
「遅かったな」
シャルルルカはあっけらかんと言う。
ホムラフラムは呆れたように息をつく。
「てめえ、ここにいたのかよ。英雄像前をずっと探してたわ」
「待ち合わせ場所、言ってなかったっけ?」
「王都の中で待ち合わせっつったら、英雄像の前だろうが」
「私、あの像嫌いなんだ。自分の像があると気まずいだろう」
「てめえ、偽物じゃねえか」
「本物なんだけどな」
シャルルルカは唇を尖らせる。
「嘘つくならもっとバレにくい嘘つけよ、シャーリィ」
シャルルルカは「行こうか」と歩き出した。
二人はコンサートホールの中に入る。
中に張り出されたコンサートのポスターの前で、ホムラフラムは立ち止まった。
「なあ、シャーリィ。このコンサートってよォ……」
シャルルルカは足を止めることなく、先へ行く。
しかし、その方向は客席とは別方向だ。
「おい待てよ。客席はそっちじゃねえ」
「目的地はそこじゃないからな」
「ハア? じゃあ、何処だよ」
「控え室」
「てめえのコンサートだったとはな。驚きだ」
「こう見えて、冒険者時代はリュートをブイブイ言わせてたんだぞ?」
シャルルルカはその場でリョートを弾くふりをした。
「しかし、残念ながら、今回は私のコンサートではない」
「そんで? 控え室、入れんのかよ」
「知り合いがいる」
□
「関係者以外は立ち入り禁止です」
シャルルルカ達は会場のスタッフに門前払いを食らった。
「ほら、言ったじゃねえか」
ホムラフラムは鼻で笑う。
シャルルルカはふう、と一つため息をついた。
「では、控え室にいる方にこう伝えて下さい。『帽子の中はお気に召しましたか』と」
「……は?」
スタッフは意味もわからず、ポカンと口を開ける。
シャルルルカはヘラヘラと笑って見せた。
「伝えてくれたら、大人しく帰りますよ」
「はあ……わかりました……」
スタッフは訝しげな顔をしたあと、廊下の奥に消えていった。
暫くして、慌ただしく一人の男が走ってくる。
「シャルルルカ様! 何故ここに!?」
その男はピエーロ・ボンボンであった。
彼は燕尾服を着こなしている。
「ボンボンじゃねえか」
「げっ。野蛮人まで……?」
「あ?」
「いえ。ホムラフラム先生まで連れて」
ははは、とピエーロは笑顔を作った。
「何用ですかな? まさか、我が輩のコンサートを台無しにしに……?」
「そんな訳あるまい。激励に来たんだ」
シャルルルカはニヤニヤと笑って、そう言った。
「激励……?」
ピエーロは訝しげにシャルルルカを見た。
「土の指の調子はどうだ?」
ピエーロは目を見開く。
「……何故、それを……」
ピエーロは昔、ゴーゴンの襲撃で指を失った。
しかし、大魔法使いシャルルルカの魔法によって、魔力で動く指を手に入れた。
長いリハビリの末、ピアノを弾けるようになった。
思うように指を動かせなくて何度諦めようと思ったことか。
それでも、シャルルルカのくれた希望を捨られず、血の滲むような努力をした。
そして、コンサートを開くまでになった。
──こいつはシャルルルカ様の偽物なのだ。我が輩の指が土の指だと知っている訳がない!
何も知らないホムラフラムが首を傾げる。
「土の指? 何の話だ」
「君には関係のない話」
「あ?」
「ピエーロくん。君の演奏、楽しみにしてる」
シャルルルカはポンポンとピエーロの肩を叩くと、踵を返した。
──嘘、だよな。嘘に決まっている。彼奴が、本物のシャルルルカ様だなんて。
ピエーロの初のコンサートは大成功に終わった。
演奏者がよく見える席でシャルルルカは大きな拍手を送ったのだった。
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