嘘つきクソ野郎だと追放され続けた幻影魔法使い、落ちこぼれクラスの教師となって全員〝騙〟らせる

フオツグ

文字の大きさ
53 / 63
炎の大精霊の守り人

「他の誰も見ちゃいねえ」

しおりを挟む
「──大吹雪グロドゥネージュ!」

 芯のある声が中庭に響く。
 直後、二人の周りだけ吹雪が吹き荒れた。
 炎が弱まった隙に、銀剣の教師・アーヒナヒナが二人の間に割って入り、剣を振った。
 シャルルルカは危険を察知して、ホムラフラムから手を離し、後ろに飛んだ。
 バランスを崩したホムラフラムは尻餅をつく。
 ホムラフラムは取り込めるようになった酸素に咳き込んだ。

「何をしている!」

 アーヒナヒナが二人を冷たい目で睨みつけた。

「騒がしいと思ったら……。教師二人が学園内で戦闘とはどういうことだ!? 説明しろ!」

 シャルルルカはフン、と鼻を鳴らし、顔を逸らして言った。

「向こうから襲ってきた。私は悪くない」
「どうせ、貴様が煽ったんだろう!」

 アーヒナヒナはシャルルルカを理不尽にも怒鳴りつける。

「ヒナ、そいつの言った通り、俺から仕掛けた」

 ホムラフラムは呼吸を整えながら言った。

「は? どうして、そんなことを!?」
「俺のサラマンダーダチが言っている。そいつからと」
「魔王、だって……!?」

 その場にいた全員がシャルルルカに目を向けた。

「馬鹿め。魔王は死んだ」

 シャルルルカはせせら笑った。

「そりゃ、英雄様達が言ってるだけだろ? 他の誰も、魔王が討たれた瞬間を見ちゃいねえ」
「アレクシス学園長達が嘘をついていると?」
「学園長は本当のことを言ってるだろうよ。自分が見たことだけ、な。こいつの幻影魔法で、そう見せられたとかな」
「……許しません。それはシャルルルカ先生への侮辱です!」

 レイは激昂した。
 ホムラフラムが急にシャルルルカを襲いかかったことも、その理由も、何一つ納得がいかなかった。
 アーヒナヒナはレイを手で静止し、冷静に言った。

「アレクシス学園長並びに他の英雄達への侮辱にもなる。貴様はそれをわかって言ってるのか?」
サラマンダーダチがそいつから魔王の気配がするっつってんだ。事実、生きてたっつうこったろ」
『そうだそうだー』

 サラマンダーが同意の声を上げた。
 シャルルルカは鼻で笑った。

「精霊の言うことを真に受ける間抜けがいるとはな。精霊は悪戯好きだ。嘘を教えて、反応を楽しんでいるんじゃあないか?」
『ウソついてないー。まおうのケハイするー』

 サラマンダーは纏っている炎を強くして怒りを表した。
 ホムラフラムはサラマンダーの炎を撫でて、落ち着かせる。

「こいつとは付き合いが長え。てめえなんかより、ずっと信用出来らあ」
「そんな言い分が通用するとでも? 精霊の火山に籠っていたときはそれで良かったんだろうが、ここは人間の社会だ。人間の道理に従うんだな」
「てめえは魔王側だろうが!」

 ホムラフラムは銃口をシャルルルカに向ける。

「止めないか」

 アーヒナヒナは止めた。
 シャルルルカはため息をついて、言った。

「お前の言う『魔王の気配』とは〝これ〟のことか?」

 そう言った直後、黒い煙のようなものがシャルルルカを胸から溢れて広がっていく。
 その黒い煙を見た途端、レイは胸に重しが入ったような気持ち悪さを催した。
 周囲の人達もレイと同じものを感じているらしい。
 あまりの気持ち悪さに胸や口を押さえる者、その場に蹲ってしまう者、泣き叫ぶ者までいた。

「何これ……」

 異様な光景に、レイは膝をついてしまった。

「渡せ」

 ホムラフラムがシャルルルカを睨みつける。

「駄目だね。これは私のものだ。誰にも渡さない」

 シャルルルカは歯を食い縛りながら、無理やり笑みを作った。
 やはり、禍々しい煙の中心である彼にも、悪い影響があるらしい。

「少し見せてやるよ。魔王の恐ろしさを」

 シャルルルカは手を振り上げる。
 邪悪な気配は上に向かっていく。
 これからもっと恐ろしいことが起こる、とその場にいる全員が息を呑んだ。

「……なんてな」

 シャルルルカはへらりと笑うと、禍々しい空気がシャルルルカの体に吸い込まれた。
 完全に消えてなくなる同時に、胸を締めつけるような苦しみがなくなった。

「今のは、魔王をイメージした幻影だ」

 シャルルルカはホムラフラムに歩み寄る。

「望んだものは見られたか? ホムラフラム先生?」

 シャルルルカはホムラフラムの顔を見て、シニカルに笑った。
 ホムラフラムは何も言わず、シャルルルカをただ見つめる。
 そこで、学園のチャイムが鳴った。

「さあ、授業が始まる時間だ。野次馬諸君も教室に行きたまえ」

 シャルルルカはすたすたとその場を離れた。
 レイは慌てて、シャルルルカの後ろを追いかける。

 □

 シャルルルカは人気のない廊下をフラフラと歩く。
 倒れそうになって、壁に手をついた。

「……なんで初対面の人間に殺されそうにならなきゃいけないんだ? クソ……」

 そうブツブツと呟きながら、壁を支えに再び歩き出す。

「──大丈夫ですか、シャルルルカ先生!」

 レイがシャルルルカを呼び止めた。

「レイ……」

 シャルルルカは振り返る。
 レイはシャルルルカの顔の火傷を見て、顔を顰めた。

「酷い火傷だ……。今治しますね」
「自分で出来る」
「ならあたしに見つかる前にやることですね。《回復(ソワン)》!」

 レイが杖を振る。
 顔の火傷がみるみる内に消えていく。

「……回復魔法、上手くなったな」
「え?」

 滅多なことでは褒めないシャルルルカに、急に褒められてレイは驚いた。

「私の教えはもういらないんじゃないか」

 彼は顔を背けてそう言った。

「ええ!? いりますよ! もっともっと、先生の元で学びたいことがあるんですから!」

 レイがそう言うと、シャルルルカは「そうか」とだけ言った。
 レイはシャルルルカには尋ねた。

「あの、先生。さっきの禍々しいのって……本物ですか?」

──これを聞いても、どうせ、はぐらされるんだろうけど……。
 魔王の気配とは何なのか。
 あの黒い煙は何なのか。
 レイは聞かずにはいられなかった。
 予想通り、シャルルルカはニヤニヤと笑って答えた。

「本物だったらどうする?」
「危ないので捨てて下さい」

 レイは真剣な顔で言った。
 シャルルルカは鼻で笑った。

「捨てられるものなら、とっくの昔に捨ててるさ」
「だから、誰にも渡さないんですか?」
「怪我や病気が肩代わり出来ると思うか?」
「怪我や病気……」

──そういえば、シャルル先生は魔王との戦いで心臓以外を失ったって……。
 まさか、それが魔王の気配の正体なのだろうか。
 それならば、ホムラフラムはアレクシス学園長にも襲いかかるはずだ。
 一体何故、シャルルルカだけ、魔王の気配が残っているのだろう。

「シャルルルカ先生」

 レイは倒れそうになっているシャルルルカの腕を掴んだ。

「例え、シャルルルカ先生が魔王でも、あたしは先生の味方ですからね」

 レイは真面目な顔でそう言った。
 シャルルルカは徐にレイへと手を伸ばし──デコピンをした。

「いてっ」

 レイは反射的に目を瞑った。

「嘘つくな」
「嘘じゃないですよ。嘘つきな先生じゃあるまいし!」

 レイは額を抑えて、シャルルルカに文句を垂れる。

「全く笑えない冗談だ」

 シャルルルカは確かに、ニヤリとも笑っていなかった。
 信じて貰えないことが、レイは寂しかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

Sランクパーティを追放されたヒーラーの俺、禁忌スキル【完全蘇生】に覚醒する。俺を捨てたパーティがボスに全滅させられ泣きついてきたが、もう遅い

夏見ナイ
ファンタジー
Sランクパーティ【熾天の剣】で《ヒール》しか使えないアレンは、「無能」と蔑まれ追放された。絶望の淵で彼が覚醒したのは、死者さえ完全に蘇らせる禁忌のユニークスキル【完全蘇生】だった。 故郷の辺境で、心に傷を負ったエルフの少女や元女騎士といった“真の仲間”と出会ったアレンは、新パーティ【黎明の翼】を結成。回復魔法の常識を覆す戦術で「死なないパーティ」として名を馳せていく。 一方、アレンを失った元パーティは急速に凋落し、高難易度ダンジョンで全滅。泣きながら戻ってきてくれと懇願する彼らに、アレンは冷たく言い放つ。 「もう遅い」と。 これは、無能と蔑まれたヒーラーが最強の英雄となる、痛快な逆転ファンタジー!

魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。 名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。 絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。 運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。 熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。 そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。 これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。 「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」 知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。

「お前の戦い方は地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん、その正体は大陸を震撼させた伝説の暗殺者。

夏見ナイ
ファンタジー
「地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん冒険者アラン(40)。彼はこれを機に、血塗られた過去を捨てて辺境の村で静かに暮らすことを決意する。その正体は、10年前に姿を消した伝説の暗殺者“神の影”。 もう戦いはこりごりなのだが、体に染みついた暗殺術が無意識に発動。気配だけでチンピラを黙らせ、小石で魔物を一撃で仕留める姿が「神業」だと勘違いされ、噂が噂を呼ぶ。 純粋な少女には師匠と慕われ、元騎士には神と崇められ、挙句の果てには王女や諸国の密偵まで押しかけてくる始末。本人は畑仕事に精を出したいだけなのに、彼の周りでは勝手に伝説が更新されていく! 最強の元暗殺者による、勘違いスローライフファンタジー、開幕!

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

この聖水、泥の味がする ~まずいと追放された俺の作るポーションが、実は神々も欲しがる奇跡の霊薬だった件~

夏見ナイ
ファンタジー
「泥水神官」と蔑まれる下級神官ルーク。彼が作る聖水はなぜか茶色く濁り、ひどい泥の味がした。そのせいで無能扱いされ、ある日、無実の罪で神殿から追放されてしまう。 全てを失い流れ着いた辺境の村で、彼は自らの聖水が持つ真の力に気づく。それは浄化ではなく、あらゆる傷や病、呪いすら癒す奇跡の【創生】の力だった! ルークは小さなポーション屋を開き、まずいけどすごい聖水で村人たちを救っていく。その噂は広まり、呪われた女騎士やエルフの薬師など、訳ありな仲間たちが次々と集結。辺境の村はいつしか「癒しの郷」へと発展していく。 一方、ルークを追放した王都では聖女が謎の病に倒れ……。 落ちこぼれ神官の、痛快な逆転スローライフ、ここに開幕!

処理中です...