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エピローグ 悪役令嬢♂の話をしよう
愛が全てを解決するだろう
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「クロ!」
庭に明るい声が響く。
声の主はシルフィトだ。
「シル! 久しぶりだな!」
クロードは立ち上がり、シルフィトに笑顔を向ける。
「暫く学園で見なかったから、心配してたんだぞ」
「えへへ、ごめん。ちょっと自分の国でやらなきゃいけないことがあってね……」
「やらなきゃいけないこと?」
シルフィトは「ふふ」と含みのある笑い方をする。
「ゴミ掃除だよ……」
クロードは首を傾げる。
「ゴミ掃除? 掃除なんて、そんなの使用人に頼めば……」
そう言いかけて、クロードははた、と気づく。
ヤンデレの言う『ゴミ掃除』は大体、『人間の処理』であることを。
いやいやいや、とクロードは首を横に振る。
──兄さんもおれも無事だし……。あるとするなら……。
「あのさ、レンコって今……」
「え?」
シルフィトのドスの効いた声に、クロードは後退りした。
「な、何でもない……」
──『触らぬヤンデレに祟りなし』……くわばらくわばら。
ヤンデレの犠牲になったレンコに、クロードは心の中で手を合わせた。
「シルフィト王子のお茶をご用意しますね」
ミステールは椅子から立ち上がり、自分のカップを持ち上げる。
「片付けなくて良いよ。いきなり尋ねたのはシルだし」
「承知しました」
ミステールは自身のカップをそのままにして、シルフィト用の椅子とお茶を用意する。
「クロ、学園生活はどう?」
「学園パーティーであんなことがあったってのに、みんな至って普通で拍子抜けしてるよ」
「キュリオシティにいる人達はそうかもね。聖国国内はは大変そうだよ」
「そうだろうな……」
「王権を振るっていたのがクローンだったってのも衝撃的だし、オリジナルもクローンも老化が進んでいて会話すら出来ない。聖国は、王が不在の状況が続いている」
「王が不在だとどうなるんだ?」
「聖国王は博愛教の教祖なんだ。国民は早く教祖が欲しいけど、絶対的なカリスマ性がなければ国民は認めない」
──なんか、アイドルみたいなんだな……。
クロードはそんな感想を抱く。
「ラヴィスマンは国民から絶大な支持を集めていた。謂わば、歴代一の教祖だった。それを超える存在となると……」
「難しい、か」
「先代の王の血を引いている親族達が集まって、話し合っている最中みたいだけど……」
シルフィトは首を横に振った。
「まあ、どうにもならないだろうね。国民からは不満の声が上がっている。どうやら、革命の兆しが見え始めているらしい……」
「か、革命……!? じゃあ、血で血を洗う戦いに……?」
「そうはならなさそう。王族達も誰でも良いから新しい王になって欲しそうだし」
ラヴィスマンを超える教祖は立てられないのだろう。
混乱最中の国の王など誰が好き好んでなるものか。
人間は醜い。
「あ、そういえば、聖国ではナーシャ坊ちゃんが救世主扱いされているらしいよ」
「え?」
「聖国王の大罪を暴いた、見目麗しい英雄。【白銀の救世主】だとね」
「め、【救世主】……」
クロードは口元がひくつく。
「クロのお兄ちゃまにぴったりの二つ名だね!」
シルフィトは嬉しそうに笑う。
「革命軍のシンボルはナーシャ坊ちゃんをイメージして作られたとか……」
「嘘だろ……。まるで革命のリーダーが兄さんみたいじゃないか……」
「革命軍はナーシャ坊ちゃんに新しい聖国王になって貰いたいっぽいね」
「ひええ……」
クロードは恐怖に打ち震える。
勝手に兄が国王にされたら、たまったもんじゃない。
「ああ、でも、こっちに革命の火種は来ないから、安心して良いよ」
「え?」
「ナーシャ坊ちゃん絶対守るマンが全力でお守りしているからね」
「何それ」
「ゼニファー、アデヤ様、シュラルドルフ王子……」
「シルも入ってるよ!」
「僕もね。だから、君達は安心して、美国の田舎町でのんびり暮らしたまえ」
「のんびり……のんびりって言ってもなあ……」
知らない場所で争いが起きている。
しかも、原因となったはクロードとアナスタシオスが起こした復讐劇だ。
寝覚が悪いったらありゃしない。
「聖国はこれからどうなるんだろう……」
「なるようになるさ」
ミステールの言葉に、シルフィトはうんうんと頷く。
「そうだ。クロのお兄ちゃまは元気? 美国の有名な劇団に入ったんだよね」
「そ、そうなんだよ! 兄さん、勝手に劇団入り決めてさ! そのせいで、おれは卒業後、実家を継ぐことになりそう! 家業をおれ一人で出来るか心配なんだよ!」
「しょうがないなぁ。シルがサポートしてあげる」
「あ、ありがとう、シル様ぁ!」
クロードは手のひらを擦り合わせる。
「僕もサポートするんだけど? 感謝の一つもなかったんだけど?」
「だって、ミステールはたまに嘘つくし」
「嘘を嘘と見抜けないと領主にはなれないからねえ」
「面白がってるだけだろ!」
「バレたか」
ミステールは悪戯っ子のようにべ、と舌を出した。
「今度、クロのお兄ちゃまが主演の演劇があるんだよね? シル、チケット取っちゃった! クロも観るよね? 一緒に行こう!」
「えっ」
クロードは体を硬直させる。
シルフィトは目を潤ませた。
「だ、駄目だった?」
「そうじゃなくて、実はおれも取ってある……。シルの分も」
「えっ」
今度はシルフィトが固まる番だった。
「この流れで言いにくいんですが、ナーシャ坊ちゃんからクロードくんとシルフィト様へ、演劇の招待券をお渡しするようにと」
「えっ!?」
クロードとシルフィトは顔を見合わせた。
ミステールはニヤリと笑う。
「クロードくん、シルフィト様、このミステール、良いこと思いつきました。お二人のチケット、〝あの方達〟にお譲りしては?」
庭に明るい声が響く。
声の主はシルフィトだ。
「シル! 久しぶりだな!」
クロードは立ち上がり、シルフィトに笑顔を向ける。
「暫く学園で見なかったから、心配してたんだぞ」
「えへへ、ごめん。ちょっと自分の国でやらなきゃいけないことがあってね……」
「やらなきゃいけないこと?」
シルフィトは「ふふ」と含みのある笑い方をする。
「ゴミ掃除だよ……」
クロードは首を傾げる。
「ゴミ掃除? 掃除なんて、そんなの使用人に頼めば……」
そう言いかけて、クロードははた、と気づく。
ヤンデレの言う『ゴミ掃除』は大体、『人間の処理』であることを。
いやいやいや、とクロードは首を横に振る。
──兄さんもおれも無事だし……。あるとするなら……。
「あのさ、レンコって今……」
「え?」
シルフィトのドスの効いた声に、クロードは後退りした。
「な、何でもない……」
──『触らぬヤンデレに祟りなし』……くわばらくわばら。
ヤンデレの犠牲になったレンコに、クロードは心の中で手を合わせた。
「シルフィト王子のお茶をご用意しますね」
ミステールは椅子から立ち上がり、自分のカップを持ち上げる。
「片付けなくて良いよ。いきなり尋ねたのはシルだし」
「承知しました」
ミステールは自身のカップをそのままにして、シルフィト用の椅子とお茶を用意する。
「クロ、学園生活はどう?」
「学園パーティーであんなことがあったってのに、みんな至って普通で拍子抜けしてるよ」
「キュリオシティにいる人達はそうかもね。聖国国内はは大変そうだよ」
「そうだろうな……」
「王権を振るっていたのがクローンだったってのも衝撃的だし、オリジナルもクローンも老化が進んでいて会話すら出来ない。聖国は、王が不在の状況が続いている」
「王が不在だとどうなるんだ?」
「聖国王は博愛教の教祖なんだ。国民は早く教祖が欲しいけど、絶対的なカリスマ性がなければ国民は認めない」
──なんか、アイドルみたいなんだな……。
クロードはそんな感想を抱く。
「ラヴィスマンは国民から絶大な支持を集めていた。謂わば、歴代一の教祖だった。それを超える存在となると……」
「難しい、か」
「先代の王の血を引いている親族達が集まって、話し合っている最中みたいだけど……」
シルフィトは首を横に振った。
「まあ、どうにもならないだろうね。国民からは不満の声が上がっている。どうやら、革命の兆しが見え始めているらしい……」
「か、革命……!? じゃあ、血で血を洗う戦いに……?」
「そうはならなさそう。王族達も誰でも良いから新しい王になって欲しそうだし」
ラヴィスマンを超える教祖は立てられないのだろう。
混乱最中の国の王など誰が好き好んでなるものか。
人間は醜い。
「あ、そういえば、聖国ではナーシャ坊ちゃんが救世主扱いされているらしいよ」
「え?」
「聖国王の大罪を暴いた、見目麗しい英雄。【白銀の救世主】だとね」
「め、【救世主】……」
クロードは口元がひくつく。
「クロのお兄ちゃまにぴったりの二つ名だね!」
シルフィトは嬉しそうに笑う。
「革命軍のシンボルはナーシャ坊ちゃんをイメージして作られたとか……」
「嘘だろ……。まるで革命のリーダーが兄さんみたいじゃないか……」
「革命軍はナーシャ坊ちゃんに新しい聖国王になって貰いたいっぽいね」
「ひええ……」
クロードは恐怖に打ち震える。
勝手に兄が国王にされたら、たまったもんじゃない。
「ああ、でも、こっちに革命の火種は来ないから、安心して良いよ」
「え?」
「ナーシャ坊ちゃん絶対守るマンが全力でお守りしているからね」
「何それ」
「ゼニファー、アデヤ様、シュラルドルフ王子……」
「シルも入ってるよ!」
「僕もね。だから、君達は安心して、美国の田舎町でのんびり暮らしたまえ」
「のんびり……のんびりって言ってもなあ……」
知らない場所で争いが起きている。
しかも、原因となったはクロードとアナスタシオスが起こした復讐劇だ。
寝覚が悪いったらありゃしない。
「聖国はこれからどうなるんだろう……」
「なるようになるさ」
ミステールの言葉に、シルフィトはうんうんと頷く。
「そうだ。クロのお兄ちゃまは元気? 美国の有名な劇団に入ったんだよね」
「そ、そうなんだよ! 兄さん、勝手に劇団入り決めてさ! そのせいで、おれは卒業後、実家を継ぐことになりそう! 家業をおれ一人で出来るか心配なんだよ!」
「しょうがないなぁ。シルがサポートしてあげる」
「あ、ありがとう、シル様ぁ!」
クロードは手のひらを擦り合わせる。
「僕もサポートするんだけど? 感謝の一つもなかったんだけど?」
「だって、ミステールはたまに嘘つくし」
「嘘を嘘と見抜けないと領主にはなれないからねえ」
「面白がってるだけだろ!」
「バレたか」
ミステールは悪戯っ子のようにべ、と舌を出した。
「今度、クロのお兄ちゃまが主演の演劇があるんだよね? シル、チケット取っちゃった! クロも観るよね? 一緒に行こう!」
「えっ」
クロードは体を硬直させる。
シルフィトは目を潤ませた。
「だ、駄目だった?」
「そうじゃなくて、実はおれも取ってある……。シルの分も」
「えっ」
今度はシルフィトが固まる番だった。
「この流れで言いにくいんですが、ナーシャ坊ちゃんからクロードくんとシルフィト様へ、演劇の招待券をお渡しするようにと」
「えっ!?」
クロードとシルフィトは顔を見合わせた。
ミステールはニヤリと笑う。
「クロードくん、シルフィト様、このミステール、良いこと思いつきました。お二人のチケット、〝あの方達〟にお譲りしては?」
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