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エピローグ 悪役令嬢♂の話をしよう

悪役令嬢♂の話をしよう

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 【キュリオシティラブ】の悪役令嬢アナスタシア・フィラウティア──もとい、アナスタシオス・フィラウティアの話をしよう。
 アナスタシオスはフィラウティア家の長男として生を受けた。
 彼を女性と勘違いしたアデヤに求婚され、アナスタシオスは女性を演じるようになる。
 家庭教師にいじめられて、鬱屈とした幼少期を送る。
 その後、キュリオ学園に入学。
 家庭教師のいじめから逃れたと思いきや、そこでもいじめが起きる。
 言葉のいじめだ。

「髪が短い世間知らずの男女」

 だの。

「田舎の男爵令嬢」

 だの。
 ひそひそと噂をされ、アナスタシオスは密かに怒りを溜め込んだ。
 どのタイミングかはわからないが、アナスタシオスは自分に対するアデヤの盲目的な恋心を確信。
 アナスタシオスが何をしても、アデヤは婚約破棄をしないだろうと。
 その後、アナスタシオスは今までの鬱憤を晴らすかのように、荒れに荒れた。
 アデヤはそれを放置し、怒った姿も美しいと愛で続ける。
 アデヤの友人、シュラルドルフとゼニファーの二人はアナスタシオスを良く思っていなかった。

 時は流れ、【博愛の聖女】レンコの入学。
 校門でぶつかったレンコにアナスタシオスは目をつけ、嫌がらせを始める。
 シュラルドルフとゼニファー、ラヴィスマンにシルフィトも、アナスタシオスを断罪するべく証拠集めに奔走。
 二年目の学園パーティーでアナスタシオスは断罪される。
 アデヤと婚約破棄されたアナスタシオス──〝アナスタシア〟は死亡する。

「おーおー。【博愛の聖女】サマじゃねえか」

 そう言って、アナスタシオスはアナスタシオスとして、レンコの前に現れるのだ。
 アナスタシオスは口が悪く、素行も良いものとは言えないキャラクターだった。

 アナスタシオスはレンコに感謝していた。
 女性を演じなくて済むようにしてくれた張本人だからだ。
 それと、ストレス発散のためにいじめてしまったことを後ろめたく思っていた。
 レンコと話すにつれ、アナスタシオスはレンコに惹かれていく。

 □

「これが、悪役令嬢アナスタシア──もとい、隠しキャラ攻略対象アナスタシオスの運命だったんじゃないかな」

 クロードは実家の庭で、ミステールとお茶会をしていた。

「にしても、攻略対象ヤバい奴ばっかだな」

 ルッキズム、アデヤ。
 戦闘狂、シュラルドルフ。
 守銭奴、ゼニファー。
 ヤンデレ、シルフィト。
 メタフィクション、ミステール。
 クローン体、ラヴィスマン。

「そして、女装男子のアナスタシオス……。何だろう。メタい奴とクローンの奴のせいで他が霞んで見える……」
「おのれ、ラヴィスマン。僕のキャラが霞んじゃっているじゃないか」
「ミステールが一番クセ強キャラだからな!?」

 ミステールはけらけらと笑う。
 その顔を見て、クロードは思わずツッコミをしてしまったのを後悔する。
 ミステールの発言は明らかにクロードのツッコミ待ちだった。
 ミステールの思惑通りになってしまったのは悔しい。
 クロードは気を取り直して、話を続ける。

「兄さんのことはそんな感じだとして、おれはなんで兄さんの弟に生まれ変わったんだろうな……」
「……うーん。これは僕の推察になるんだけど……。ゲーム上でアナスタシアの弟はアナスタシオスってことになってたんだよ」
「へえ。ゲーム上でもそうだったのか」

──兄さんの咄嗟の嘘って訳じゃなかったのか。
 クロードはそう思いながら紅茶を啜る。

「弟アナスタシオスの病気を治すため、アナスタシアはアデヤとの婚約を受け入れた」
「……ん? それはおかしくないか。アナスタシアはアナスタシオスじゃないか」
「そう。アナスタシアイコールアナスタシオスの裏設定は、そこで矛盾が生じてしまうんだよ」

 クロードはハッとする。

「まさか、物語の辻褄を合わせるために弟であるおれが生まれた……?」
「そう。弟クロードは、物語の破綻で生じたバグだったんじゃないかなあ。存在しない人物だったから、上位世界から呼んだとか」
「じゃあ、レンコは? 主人公ヒロインは元から存在しているじゃないか」
「ラヴィスマンのシナリオを思い返してご覧。主人公ヒロインはラヴィスマンの名前を言い当てるところから始まるよね」
「ああ、確かに……?」
「何処で知ったかはシナリオにないんだけど、プレイヤーは予めキャラクターの顔と名前を知れるよね」
「確かに、公式サイトとかではっきり明記してある……」
「上位世界から情報を仕入れなくても、オープニングムービーとかでデカデカと表示されてるしね。僕もそれで知ったし」

──ミステールはオープニングムービーも観られるのか……。
 クロードは初めて知った。

「【キュリオシティラブ】の主人公ヒロイン中の人プレイヤーは上位世界の人間だ。元々、上位世界から転生して来る予定だったんだろうね」
「上位存在を認知してる奴もいる世界だから、まああり得る……?」

──ん? 待てよ。
 そこでクロードは気づいた。

「ミステールが上位存在を認知出来るってことは、おれが今生きているこの世界も、ゲームの世界ってことだよな? つまり、今のおれも、上位存在の誰かに見られているのか……?」

 そう考えて、ぞくりと悪寒が走る。

「ヤバい。SAN値チェックが必要になりそう……」
「〝さんちちぇっく〟って何? 外の世界の話? 詳しく聞かせてよ!」

 ミステールは外の世界──クロードの前世について知りたがるようになった。
──こいつ、いつかこの世界を飛び出して、上位世界に行きそうだよな……。

「それは後で教えるよ。それで、結局、おれが転生して来たのはバグってことか?」
「さあ?」
「おい」
「僕が知る訳ないじゃない。僕は結局、ゲーム世界の住人なんだ。ま、真実は神のみぞ知るってことで」
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