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エピローグ 悪役令嬢♂の話をしよう
ヤンデレエンドへようこそ
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「う、ううん……」
レンコは固く冷たい床の感覚で目を覚ます。
体の節々が痛む。
レンコは起き上がり、周囲を見た。
灰色の床と壁と天井。
そして、目の前には鉄格子があった。
「ここは何処……? 私は一体……」
レンコは起き抜けの頭を精一杯回して考える。
学園の最後のダンスパーティー。
アナスタシオスとダンスを踊って、彼と永遠に結ばれる予定だった。
アナスタシアを追い出して、攻略対象も自分にベタ惚れで……。
幸せにしかならないと思っていたのに。
アナスタシオスに裏切られた。
「アナスタシオス様、どうして……」
その答えはわかっている。
彼はアナスタシオスではなく、アナスタシアだった。
おそらく、ずっと、以前から。
アナスタシオスのふりをして、レンコを弄んでいたのだ。
「許せない、あのクソ女……」
あの場にいた誰一人として、アナスタシアがアナスタシオスであると、信じてくれなかった。
──あのずる賢い女に、みんな騙されているんだわ。
アナスタシアを排除しようと、階段から突き落とした。
すると、シュラルドルフは騎士の如くアナスタシアを抱き止めたではないか。
レンコはアナスタシオスの殺人未遂の罪で拘束された。
「何もかも上手くいかない……! 全部、あの悪女のせい……! いつか必ず復讐してやるんだから……!」
それからキュリオシティの牢獄に勾留されていたが、暫くして、馬車で移送されることになった。
馬車の揺れで気分を悪くしたのに、外の空気さえ吸わせて貰えず、疲れて眠りに落ちたのを覚えている。
「ここが……移送先?」
牢屋の中にあるのは布の意味を成していないペラペラの布団と枕。
そして、丸見えの汚い汲み取り式トイレだけだ。
レンコはみるみる内に顔が赤くなる。
「ちょっと! 何よこれ! ここで生活しろっての!? 人権を尊重しなさいよ! これが【博愛の聖女】にもてなす部屋なの!?」
コツコツ、と階段を下る靴音が響き渡る。
ゆらゆらと揺れるランタンの光が徐々に近づいてくる。
「あ、起きた?」
現れたのは賢国の王子、シルフィトだった。
「あんたは……シルフィト! 私を助けに来てくれたのね!?」
レンコは期待に満ちた目でシルフィトを見た。
「助け? くふふ……アハハハハハハ!」
シルフィトは狂ったように笑う。
「そんな訳ないじゃん! 馬っ鹿じゃないの! 誰があんたなんか助けに来るかっての!」
シルフィトは一頻り笑った後、大きく深呼吸した。
「やっぱり、馬鹿は話が通じなくて嫌になるなあ……」
「じゃ、じゃあ、なんで……」
「他国から頼まれたんだよ。あんたの管理を……ね?」
「管理……? 管理って何よ! 私は【博愛の聖女】なのよ! こんな人権もクソもないところに閉じ込めて良いと思ってるの!?」
「【博愛の聖女】……【博愛の聖女】ねえ……。あんたさあ、自分が今、世間でなんて呼ばれているか、教えてあげようか」
シルフィトは鉄格子をガッと鷲掴む。
「【魅了の魔女】だよ」
「【魅了の魔女】……?」
「あ、馬鹿だからわかんない?」
シルフィトは馬鹿にしたように笑う。
「男を手玉に取る性悪女ってことだよ」
「そ、それなら、あの女──アナスタシアの方が余程「【魅了の魔女】じゃない!」
「お姉ちゃまを愚弄するな!」
シルフィトは甲高い声で叫ぶ。
レンコは「ひっ」と短い悲鳴を上げ、鉄格子から遠ざかる。
シルフィトは気を落ち着けるように、長く、長く息をつく。
「あんたには無差別に人を魅了する力があるらしいから、放逐するのは危険ってことで、賢国で管理、研究することになったんだ──いや、シルがそうなるように誘導した、っていう方が正しいかな?」
「は、はあ? なんで……」
「……『なんで?』」
シルフィトは折れるくらい首を傾ける。
「それはこっちのセリフだよ。なんでお姉ちゃまを悪者にしたの? なんでお姉ちゃまを追い詰めたの? なんでお姉ちゃまは死んじゃったの? なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで?」
「ひぃ……!」
「お姉ちゃまと同じ目に遭わせたりなんかしない。シルは優しくないからね。お姉ちゃまが味わった苦痛よりももっと辛い苦痛を味合わせてあげる。ふふふ……あははははは……」
「嫌っ……! 殺さないで……! 死にたくないっ!」
レンコは必死で命乞いをする。
「ごめんなさい、ごめんなさい! アナスタシアにしたこと、全部謝るから! 反省するから! 許して! お願い!」
「殺しはしないよ。あんたは大事な大事な実験動物なんだから。徹底的に解剖して、悪魔の力の正体を暴くだけ……」
シルフィトは恍惚の笑みを浮かべる。
「色々実験したいんだあ。楽しみだなあ、楽しみだなあ、楽しみだなあ! あははははは! ……いーっぱい楽しもうね、レンコお姉ちゃま?」
「い、いやああああああああ!」
レンコの絶叫が響き渡る。
しかし、その悲鳴が外部に漏れることはこの先なかった。
防音設備が整った監獄の中、人間扱いなどされず、終わりのない実験動物生活が始まったのだ。
レンコは固く冷たい床の感覚で目を覚ます。
体の節々が痛む。
レンコは起き上がり、周囲を見た。
灰色の床と壁と天井。
そして、目の前には鉄格子があった。
「ここは何処……? 私は一体……」
レンコは起き抜けの頭を精一杯回して考える。
学園の最後のダンスパーティー。
アナスタシオスとダンスを踊って、彼と永遠に結ばれる予定だった。
アナスタシアを追い出して、攻略対象も自分にベタ惚れで……。
幸せにしかならないと思っていたのに。
アナスタシオスに裏切られた。
「アナスタシオス様、どうして……」
その答えはわかっている。
彼はアナスタシオスではなく、アナスタシアだった。
おそらく、ずっと、以前から。
アナスタシオスのふりをして、レンコを弄んでいたのだ。
「許せない、あのクソ女……」
あの場にいた誰一人として、アナスタシアがアナスタシオスであると、信じてくれなかった。
──あのずる賢い女に、みんな騙されているんだわ。
アナスタシアを排除しようと、階段から突き落とした。
すると、シュラルドルフは騎士の如くアナスタシアを抱き止めたではないか。
レンコはアナスタシオスの殺人未遂の罪で拘束された。
「何もかも上手くいかない……! 全部、あの悪女のせい……! いつか必ず復讐してやるんだから……!」
それからキュリオシティの牢獄に勾留されていたが、暫くして、馬車で移送されることになった。
馬車の揺れで気分を悪くしたのに、外の空気さえ吸わせて貰えず、疲れて眠りに落ちたのを覚えている。
「ここが……移送先?」
牢屋の中にあるのは布の意味を成していないペラペラの布団と枕。
そして、丸見えの汚い汲み取り式トイレだけだ。
レンコはみるみる内に顔が赤くなる。
「ちょっと! 何よこれ! ここで生活しろっての!? 人権を尊重しなさいよ! これが【博愛の聖女】にもてなす部屋なの!?」
コツコツ、と階段を下る靴音が響き渡る。
ゆらゆらと揺れるランタンの光が徐々に近づいてくる。
「あ、起きた?」
現れたのは賢国の王子、シルフィトだった。
「あんたは……シルフィト! 私を助けに来てくれたのね!?」
レンコは期待に満ちた目でシルフィトを見た。
「助け? くふふ……アハハハハハハ!」
シルフィトは狂ったように笑う。
「そんな訳ないじゃん! 馬っ鹿じゃないの! 誰があんたなんか助けに来るかっての!」
シルフィトは一頻り笑った後、大きく深呼吸した。
「やっぱり、馬鹿は話が通じなくて嫌になるなあ……」
「じゃ、じゃあ、なんで……」
「他国から頼まれたんだよ。あんたの管理を……ね?」
「管理……? 管理って何よ! 私は【博愛の聖女】なのよ! こんな人権もクソもないところに閉じ込めて良いと思ってるの!?」
「【博愛の聖女】……【博愛の聖女】ねえ……。あんたさあ、自分が今、世間でなんて呼ばれているか、教えてあげようか」
シルフィトは鉄格子をガッと鷲掴む。
「【魅了の魔女】だよ」
「【魅了の魔女】……?」
「あ、馬鹿だからわかんない?」
シルフィトは馬鹿にしたように笑う。
「男を手玉に取る性悪女ってことだよ」
「そ、それなら、あの女──アナスタシアの方が余程「【魅了の魔女】じゃない!」
「お姉ちゃまを愚弄するな!」
シルフィトは甲高い声で叫ぶ。
レンコは「ひっ」と短い悲鳴を上げ、鉄格子から遠ざかる。
シルフィトは気を落ち着けるように、長く、長く息をつく。
「あんたには無差別に人を魅了する力があるらしいから、放逐するのは危険ってことで、賢国で管理、研究することになったんだ──いや、シルがそうなるように誘導した、っていう方が正しいかな?」
「は、はあ? なんで……」
「……『なんで?』」
シルフィトは折れるくらい首を傾ける。
「それはこっちのセリフだよ。なんでお姉ちゃまを悪者にしたの? なんでお姉ちゃまを追い詰めたの? なんでお姉ちゃまは死んじゃったの? なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで?」
「ひぃ……!」
「お姉ちゃまと同じ目に遭わせたりなんかしない。シルは優しくないからね。お姉ちゃまが味わった苦痛よりももっと辛い苦痛を味合わせてあげる。ふふふ……あははははは……」
「嫌っ……! 殺さないで……! 死にたくないっ!」
レンコは必死で命乞いをする。
「ごめんなさい、ごめんなさい! アナスタシアにしたこと、全部謝るから! 反省するから! 許して! お願い!」
「殺しはしないよ。あんたは大事な大事な実験動物なんだから。徹底的に解剖して、悪魔の力の正体を暴くだけ……」
シルフィトは恍惚の笑みを浮かべる。
「色々実験したいんだあ。楽しみだなあ、楽しみだなあ、楽しみだなあ! あははははは! ……いーっぱい楽しもうね、レンコお姉ちゃま?」
「い、いやああああああああ!」
レンコの絶叫が響き渡る。
しかし、その悲鳴が外部に漏れることはこの先なかった。
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