悪役令嬢♂〜彼は婚約破棄国外追放死亡の運命を回避しつつ、ヒロイン達へ復讐を目論む〜

フオツグ

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復讐編 あなたは絶世のファム・ファタール!

博愛の国

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 博愛教の国、聖国。
 博愛によって発展してきた。
 博愛とは、全てを愛すること。
 先代の王族はたくさんの側妃を抱えて、たくさんの子を産ませた。
 異種交配──聞こえは悪いが、王族は代々それを行っていた。
 ラヴィスマン・ホーリー・アガペーは謂わば、異種交配の末の最高傑作であった。
 父に聖国と軍国の血、母に商国と美国の血。
 全ての国民性を強く発現させたラヴィスマンは、若々しいまま、高い治癒能力と運動能力、鋭い直感を持っていた。

 次に欲したのは、【博愛の聖女】の血であった。
 【博愛の聖女】を娶るべく、身分を隠して、キュリオ学園に入学した。
 最初は打算だったのだ。
 【博愛の聖女】の血だけが目的であとはどうでも良かった。
 他にも妻を抱えるつもりであったし、【博愛の聖女】もその一人にするだけだった。

 しかし、キュリオシティで【博愛の聖女】と出会い、全てが崩れた。

 □

 キュリオ学園の馬小屋。
 【博愛の聖女】が毎日通っていると聞きつけ、ラヴィスマンはそこに訪れた。

「ご機嫌よう」

 ラヴィスマンは馬を撫でる少女にそう声をかける。
 【博愛の聖女】は笑顔で挨拶を返した。

「ご機嫌よう! あれ? 初めて見る顔ですね。乗馬を体験しに来たんですか?」
「そうじゃ」

 ラヴィスマンは話を合わせた。
 それだけなのに、【博愛の聖女】は大いに喜んだ。

「本当!?」
「馬は好き?」
「好きじゃ」
「私も大好き! 貴方に好かれて、この子も嬉しそう!」
「動物の言葉がわかるのか?」
「わからないけど、きっとそうですよ!」

「きゃっ!」はしゃぎ過ぎた【博愛の聖女】は足を滑らせて転んだ。

「あいたたた……」
「大丈夫か?」
「あはは。平気です、平気! 少し転んじゃっただけですから!」
「怪我をしておるではないか。少し診せてみよ」

 ラヴィスマンはレンコの膝の傷に手を当てる。
 手を離すと、傷は治っていた。

「わあ、凄い。もしかして、貴方、聖国の出身?」
「バレてしもうたか」
「この治癒能力は間違いないもの! 私、本物を見たのは初めて!」

 【博愛の聖女】は目を輝かせた。
 ラヴィスマンの胸が一瞬高鳴った。
 ラヴィスマンは心に蓋をして、【博愛の聖女】に手を差し伸べる。

「さ。お手をどうぞ、姫」
「あはは。王子様みたい」

 【博愛の聖女】は「あれ?」と首を傾げる。

「そういえば、聖国の王子様のこと、何も知らないかも……。もしかして、貴方!?」
「……察しが良いのう」
「やっぱり! そうじゃないかと思ったんです!」

 【博愛の聖女】はからからと笑った。

「お名前は……」

 何かを言いかけて、【博愛の聖女】は急に虚空を見つめ出した。
 ラヴィスマンは首を傾げる。

「どうした?」
「貴方の名前は……ラヴィスマン・ホーリー・アガペー……?」
「何故知っておる?」
「今、急に思い出して……」
「思い出す?」

 そんなこと、ある訳がなかった。
 二人は初対面だ。

「たまにこうやって浮かんでくるんです。【博愛の聖女】の力でしょうか。神のお導きかもしれませんね」
「……そうかものう」
「あの。ラヴィ様ってお呼びしても?」
「勿論じゃ」

 【博愛の聖女】は微笑む。

「私、アイコって言います。よろしく、ラヴィ様!」

 それが前【博愛の聖女】アイコとの出会いだった。
 初恋である。
 真実の愛を知った、とでも言うべきか。
 ラヴィスマンは博愛教の教えを忘れ、【博愛の聖女】だけを愛すと心に決めた。
 キュリオ学園、卒業前のダンスパーティー。
 ラヴィスマンはアイコをダンスへ誘い、アイコはそれを了承。
 卒業後、二人は結ばれた。

 順風満帆だった二人の恋は、数年経って翳りを見せ始める。
 二人の子供を成せなかったのだ。
 現聖国王の血を持つ者にしか、王位を継承出来ない……。
 気付けば、【博愛の聖女】は老衰していた。
 歩くことも話すこともなくなり、死んだように寝ているだけとなった。
 老いにくい美国の血を引くラヴィスマンには、老いがこんなに早く来ることを知らなかった。

「そなたともっと、長く同じ時間を過ごせば良かった……」

 子を成せなかったことが問題ではない。
 愛する人を失うことが何よりも苦しかった。
 だから、もう一度。
 若返って、キュリオシティに降り立つのだ。
 次の【博愛の聖女】と共にあるために。
 ラヴィスマンは自国民に、賢国からクローン研究のレポートを盗むように命令したのである。

 □

「成功じゃ……」

 クローン技術によって、一人の赤ん坊が出来上がった。
 赤ん坊は泣くことはしなかった。
 ただじっと、ラヴィスマンの顔を見ていた。

「まるで、我とアイコの子供が産まれたようじゃの」

 ラヴィスマンはペタペタと、クローンの体を触った。
──気色悪い。
 クローンラヴィスマンは生まれながらに思う。
──誰だ、この老人は。
 見ず知らずの老人に触られて、クローンは不愉快だった。

「我がクローンよ。分身よ。【博愛の聖女】を連れて来るのじゃ。そして、我の新しい妃にするのじゃ……」

 【博愛の聖女】アイコとオリジナルラヴィスマンとのことは聞かされた。
 初恋をもう一度叶えるために、もう一人の自分を作るなんて、本当気色悪い男だと、クローンは思った。
 しかし、命令に逆らったら、クローンの自分は不要になり、殺されるだろう。
 クローンに人権などあるはずない。
 クローンはオリジナルの機嫌を伺い続けた。
 そして、言われるがまま、キュリオ学園へと入学した。

 オリジナルの初恋を馬鹿にしていた自分は、アナスタシアに初恋をした。
──ああ。気色の悪い。
 自分は所詮、あの男のクローンなのだと、再認識させられた。
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