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復讐編 あなたは絶世のファム・ファタール!

ヒロイン、断罪。

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 一年前、アナスタシア・フィラウティアは、この学園パーティーの最中、断罪された。
 【博愛の聖女】レンコに対する数々の嫌がらせが白日のものとなり、アナスタシアはアデヤに婚約破棄を言い渡された。
 その後、アナスタシアは帰らぬ人となった。
 そして、今回、この場で断罪されるのは──。

「──君だ。【博愛の聖女】レンコ」

 レンコに見せたことのない冷たい表情を顔に貼り付け、アナスタシオスは言う。

「あ、アナスタシオス様……?」

 レンコは動揺を誤魔化すようにへらりと笑った。

「ど、どうしちゃったんですか。私を疑うなんて」
「君を疑っている訳ではないよ」
「じゃあ……!」

 レンコは希望を見出し、表情を明るくさせた。

「確信しているんだ。君が嘘をつき、みんなを騙して、アナスタシアを貶めたこと」
「なっ……!」

 アナスタシオスは軽蔑した目でレンコを見つめる。

「君は……アナスタシアから嫌がらせを受けていたらしいね」
「……そ、そうよ。アナスタシオス様が傷つくと思って言わなかったけど、私、貴方の姉から嫌がらせを受けていたの」
「それ、嘘なんだよね?」
「嘘じゃないわ! ちゃんと証拠もあって……!」
「おかしいな。決定的な証拠はないと聞いたけど。証言と照らし合わせた、状況証拠だけなんだろう?」
「状況証拠も立派な証拠でしょう!?」
「証言が事実であればね」

 アナスタシオスは腕を組み、レンコを睨みつける。

「調べがついているんだ。ゼニファー、お願い」

 アナスタシオスはゼニファーに目を向ける。 
 ゼニファーは頷き、アナスタシオスの横に立つ。

「はい。証言をした者を問い詰めたところ、『【博愛の聖女】にお願いをされて嘘の証言した』と白状した者が多数います」
「誰よ! そんな証言したのは!」

 レンコは周囲の人を睨みつけた。
 人々はレンコからサッと目を逸らす。

「おかしいとは思ったんです」

 ゼニファーは頭に手を当てた。

「毎回毎回、嫌がらせの現場を目撃されているなんて。しかも、証言者同士で示し合わせたかのように、食い違いの全くない、完璧な証言……」
「食い違いがないなら正確な証言ってことじゃない! 同じ場面を見たなら、同じ証言になるでしょう!」
「それはどうでしょう」

 ゼニファーは自分の三つ編みを指で弄る。

「一つ実験をしましょう。レンコ嬢はシオ殿の髪の色をどのように言い表しますか」
「そんなの『美しい真っ白な髪』じゃない!」
「えっ……。白……?」

 人混みの中に紛れて見ていたクロードが思わず声を上げた。

「何よ!? 何か文句でもあるの!?」

 レンコがクロードを睨みつける。

「いや、彼の髪の色は『白色』じゃなくて、『銀色』じゃないかって……」
「ハア!? 何処をどう見たって白でしょ!」

 レンコはクロードに向かって威圧する。
 クロードは縮み上がり、すっと人混みの中に気配を消した。
 ゼニファーは呆れたようにため息をつく。

「このように、同じものを見ていたとしても、人によって表現が微妙に異なります。髪の色一つ取っても……ね」

 ゼニファーは手に持った資料を捲る。

「例えば……この証言。遠目から、アナスタシア嬢がレンコに水をかけているところを見た、と証言した五名の人がいます。皆、一様に口にしています」

『〝白色の長髪の令嬢〟が【博愛の聖女】に水をかけていた』

「白色……」

 アナスタシオスはじろりとレンコを見た。

「レンコさんが僕の髪色の表現したのと同じだね」

 アナスタシオスにそう言われて、レンコは押し黙る。
 アナスタシアとアナスタシオスは同じ髪の色だ。
 暗に、証言を指示したのはお前ではないか、と言っている。

「……ぐ、偶然よ」

 レンコが顔を逸らす。

「君が証言をしろと指示したんじゃないのか」
「だから、偶然だって言ってるでしょ! 全部言いがかりよ!」

 アナスタシオスは深いため息をついた。

「……わかった。君じゃないんだね」
「やっと信じてくれるのね……」

 レンコは怒りで上がった息を整える。

「では、他の人にも見て頂いて、判断して貰おう。ただの言いがかりなのか、それとも言い訳なのか」
「はあ……!?」

 レンコは周囲に目を向ける。

「私を信じるわよね!? 前は、私のことを信じてくれたじゃない!」

 レンコに話しかけられた人々は気まずそうに目を逸らす。
 【博愛の聖女】の味方をするか、商国の王子ゼニファーが味方についているアナスタシオスに味方をするか。
 どちらの方が利があるか、皆、決めあぐねているようだった。
──レンコを手放しで信用出来なくなってきたみたいだな。
 アナスタシオスはここで新しい情報を開示することにした。

「……証言を指示した疑いについては、一先ず置いておこう」

 アナスタシオスは淡々と続ける。

「君は自身への数々の嫌がらせ行為を捏造したね」
「そんなことしてないわ!」
「全て、ミステールが教えてくれたよ」

 レンコはキッとミステールを睨みつけた。

「ミステール! 貴方、私の味方じゃなかったの!?」

 ミステールは微笑み、丁寧にお辞儀をした。

「元より、僕はフィラウティア家に仕えている身。一瞬たりとも、貴女の味方だったことなどありません」
「何ですって……!」

 レンコはわなわなと肩を振るわせた。
 アナスタシオスは続ける。

「アナスタシアは生前、ミステールにお願いをしていたみたいなんだ。レンコさんのことを調べてくれって──」
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