61 / 79
復讐編 あなたは絶世のファム・ファタール!
口下手王子と口上手王子の作戦会議
しおりを挟む
放課後、キュリオ学園の教室にて。
ゼニファーとシュラルドルフは向かい合って座っていた。
お互い、暗い表情を突き合わせている。
理由は双方理解していた。
【博愛の聖女】レンコについてだ。
ゼニファーは無言でシュラルドルフの前に紙の束を差し出した。
「ゼニファー、これは?」
シュラルドルフが尋ねる。
「『アナスタシア嬢がレンコ嬢に嫌がらせをしているところを見た』という目撃者をリストアップしたものです」
シュラルドルフはリストを手に取り、目を通す。
紙を何度捲っても、終わりが見えない。
シュラルドルフは眉を顰めた。
「これほど多くの人が目撃していたのか」
「ええ。そして、最近になって、ほぼ全員が、証言が虚偽のものであったと言い出したのです」
シュラルドルフは目を見開き、顔を上げる。
「何故今更……」
「アナスタシア嬢が亡くなったのは自分が嘘の証言をしたせいではないかと、怖くなったそうです」
「……嘘をついた理由は?」
「【博愛の聖女】に頼まれたからだと」
シュラルドルフはリストを机の上に置き、と息をつく。
「妙、だな」
「ええ。妙です」
ゼニファーは頷いた。
「いくら、【博愛の聖女】という特別な肩書きの人間から頼まれたからと言って、美国の王子の婚約者を貶めるような虚偽の証言をするでしょうか」
アナスタシアもアデヤも制裁を下さなかったから良いものの。
自分達の立場が危うくなる可能性は大いにあった。
ゼニファーは頭を抱えて言う。
「そして、何より……その証言を一方的に信じた我々も、今思えばおかしかった」
「そうだな。何故、付き合いの長いアナスタシア嬢ではなく、レンコ嬢を信じたのだろうか……」
「私の直感が効かない、あのミステールもレンコ嬢に懐柔されていました。レンコ嬢には、何か特殊な力があると見て良いのかもしれません」
この世界には、常識から外れた能力を持つ者達が確かに存在する。
軍国の身体能力、商国の直感といった、国民性と呼ばれるものだ。
【博愛の聖女】に選ばれた者に、特殊な力が備わっていたとしてもおかしくはない。
「魅了……人の心を操る力……そういった力でしょう。現に私達はレンコ嬢に操られるように、アナスタシア嬢を悪く思い込んでしまっていた」
「その憶測が正しければ、【博愛の聖女】の意味合いが大きく変わってしまう」
「ええ。我々は、【博愛の聖女】について、詳しく知る必要があります」
「そのためには、聖国出身の人間に話を聞かなくてはなるまい」
「そうなのですが……。聖国は秘密主義です。話を聞けるかどうか……」
「アナスタシア嬢の知り合いに聖国の者がいたはずだ。確か……ラヴィスマンという名前の」
アナスタシアのアリバイを証明した人物だ。
シュラルドルフは話を聞きに行ったことがある。
「……ああ。六年前、剣術大会で怪我をした時、傷の手当てをしてくれた御仁ですね。彼女の六年来の友人ならば、協力してくれるかもしれません。話を聞いてみます」
ゼニファーは顔の前で指を組む。
「レンコ嬢の目的はおそらく……アナスタシオス・フィラウティア」
「ああ」
シュラルドルフは頷く。
「アナスタシア嬢を陥れたのも、その目的のためなんだろう」
「どうシオ殿に繋がるかは甚だ疑問ですがね。アデヤ様はその目的のため、利用されただけなのでしょう」
アデヤはレンコに言われ、アナスタシアと婚約破棄をした。
その準備する過程で、アデヤはレンコに好意を抱くようになっていた。
ゼニファーはそれを間近で見ていたから知っている。
「レンコ嬢がシオ殿に靡き、軽くあしらわれたことで、アデヤ様は大変傷ついています」
ゼニファーは歯噛みする。
「アナスタシア嬢の無念を晴らすためにも、彼女の魔の手からシオ殿を遠ざけなければと、私は考えています」
「俺も同意見だ」
シュラルドルフは頷いた。
「レンコ嬢の異常性に気づいた者同士、手を組みましょう」
「元より、そのつもりで呼び出したんだろう」
ゼニファーはフッと笑う。
「レンコの悪意に対抗しましょう、シュラルドルフ」
ゼニファーは手を差し出した。
「異論はない」
迷うことなく、シュラルドルフはゼニファーの手を掴んだ。
「シオはアナスタシア嬢から何も聞かされていない。アナスタシア嬢がシオに心配をかけさせまいと、墓場まで持っていったのだ」
「彼女は何処までも優しい人だったんですね……」
自分があらぬ疑いをかけられ、学園内で孤立していたのにも関わらず。
病床に伏せている双子の弟に、心配をかけさせまいと振る舞っていたのだ。
その苦労を無駄にはさせたくはない。
「アナスタシア嬢の遺志を尊重し、シオにはまだ伝えないでおこう」
「しかし、いつかは真実を伝えなければなりませんよ」
「いつか、はな。それは今ではない。今は、学園での生活を平和に過ごして貰おう」
「……そうですね。我々が全力でシオ殿をお守りしましょう」
──アナスタシアを守りなかった分まで。
ゼニファーとシュラルドルフは決意を固める。
「必ず、アナスタシア嬢の汚名を晴らし、レンコ嬢の野望を打ち砕きましょう」
ゼニファーとシュラルドルフは向かい合って座っていた。
お互い、暗い表情を突き合わせている。
理由は双方理解していた。
【博愛の聖女】レンコについてだ。
ゼニファーは無言でシュラルドルフの前に紙の束を差し出した。
「ゼニファー、これは?」
シュラルドルフが尋ねる。
「『アナスタシア嬢がレンコ嬢に嫌がらせをしているところを見た』という目撃者をリストアップしたものです」
シュラルドルフはリストを手に取り、目を通す。
紙を何度捲っても、終わりが見えない。
シュラルドルフは眉を顰めた。
「これほど多くの人が目撃していたのか」
「ええ。そして、最近になって、ほぼ全員が、証言が虚偽のものであったと言い出したのです」
シュラルドルフは目を見開き、顔を上げる。
「何故今更……」
「アナスタシア嬢が亡くなったのは自分が嘘の証言をしたせいではないかと、怖くなったそうです」
「……嘘をついた理由は?」
「【博愛の聖女】に頼まれたからだと」
シュラルドルフはリストを机の上に置き、と息をつく。
「妙、だな」
「ええ。妙です」
ゼニファーは頷いた。
「いくら、【博愛の聖女】という特別な肩書きの人間から頼まれたからと言って、美国の王子の婚約者を貶めるような虚偽の証言をするでしょうか」
アナスタシアもアデヤも制裁を下さなかったから良いものの。
自分達の立場が危うくなる可能性は大いにあった。
ゼニファーは頭を抱えて言う。
「そして、何より……その証言を一方的に信じた我々も、今思えばおかしかった」
「そうだな。何故、付き合いの長いアナスタシア嬢ではなく、レンコ嬢を信じたのだろうか……」
「私の直感が効かない、あのミステールもレンコ嬢に懐柔されていました。レンコ嬢には、何か特殊な力があると見て良いのかもしれません」
この世界には、常識から外れた能力を持つ者達が確かに存在する。
軍国の身体能力、商国の直感といった、国民性と呼ばれるものだ。
【博愛の聖女】に選ばれた者に、特殊な力が備わっていたとしてもおかしくはない。
「魅了……人の心を操る力……そういった力でしょう。現に私達はレンコ嬢に操られるように、アナスタシア嬢を悪く思い込んでしまっていた」
「その憶測が正しければ、【博愛の聖女】の意味合いが大きく変わってしまう」
「ええ。我々は、【博愛の聖女】について、詳しく知る必要があります」
「そのためには、聖国出身の人間に話を聞かなくてはなるまい」
「そうなのですが……。聖国は秘密主義です。話を聞けるかどうか……」
「アナスタシア嬢の知り合いに聖国の者がいたはずだ。確か……ラヴィスマンという名前の」
アナスタシアのアリバイを証明した人物だ。
シュラルドルフは話を聞きに行ったことがある。
「……ああ。六年前、剣術大会で怪我をした時、傷の手当てをしてくれた御仁ですね。彼女の六年来の友人ならば、協力してくれるかもしれません。話を聞いてみます」
ゼニファーは顔の前で指を組む。
「レンコ嬢の目的はおそらく……アナスタシオス・フィラウティア」
「ああ」
シュラルドルフは頷く。
「アナスタシア嬢を陥れたのも、その目的のためなんだろう」
「どうシオ殿に繋がるかは甚だ疑問ですがね。アデヤ様はその目的のため、利用されただけなのでしょう」
アデヤはレンコに言われ、アナスタシアと婚約破棄をした。
その準備する過程で、アデヤはレンコに好意を抱くようになっていた。
ゼニファーはそれを間近で見ていたから知っている。
「レンコ嬢がシオ殿に靡き、軽くあしらわれたことで、アデヤ様は大変傷ついています」
ゼニファーは歯噛みする。
「アナスタシア嬢の無念を晴らすためにも、彼女の魔の手からシオ殿を遠ざけなければと、私は考えています」
「俺も同意見だ」
シュラルドルフは頷いた。
「レンコ嬢の異常性に気づいた者同士、手を組みましょう」
「元より、そのつもりで呼び出したんだろう」
ゼニファーはフッと笑う。
「レンコの悪意に対抗しましょう、シュラルドルフ」
ゼニファーは手を差し出した。
「異論はない」
迷うことなく、シュラルドルフはゼニファーの手を掴んだ。
「シオはアナスタシア嬢から何も聞かされていない。アナスタシア嬢がシオに心配をかけさせまいと、墓場まで持っていったのだ」
「彼女は何処までも優しい人だったんですね……」
自分があらぬ疑いをかけられ、学園内で孤立していたのにも関わらず。
病床に伏せている双子の弟に、心配をかけさせまいと振る舞っていたのだ。
その苦労を無駄にはさせたくはない。
「アナスタシア嬢の遺志を尊重し、シオにはまだ伝えないでおこう」
「しかし、いつかは真実を伝えなければなりませんよ」
「いつか、はな。それは今ではない。今は、学園での生活を平和に過ごして貰おう」
「……そうですね。我々が全力でシオ殿をお守りしましょう」
──アナスタシアを守りなかった分まで。
ゼニファーとシュラルドルフは決意を固める。
「必ず、アナスタシア嬢の汚名を晴らし、レンコ嬢の野望を打ち砕きましょう」
15
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます
久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。
その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。
1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。
しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか?
自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと!
自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ?
ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ!
他サイトにて別名義で掲載していた作品です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
あなたを忘れる魔法があれば
美緒
恋愛
乙女ゲームの攻略対象の婚約者として転生した私、ディアナ・クリストハルト。
ただ、ゲームの舞台は他国の為、ゲームには婚約者がいるという事でしか登場しない名前のないモブ。
私は、ゲームの強制力により、好きになった方を奪われるしかないのでしょうか――?
これは、「あなたを忘れる魔法があれば」をテーマに書いてみたものです――が、何か違うような??
R15、残酷描写ありは保険。乙女ゲーム要素も空気に近いです。
※小説家になろう、カクヨムにも掲載してます
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。
楽しんで頂けると幸いです。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約解消は君の方から
みなせ
恋愛
私、リオンは“真実の愛”を見つけてしまった。
しかし、私には産まれた時からの婚約者・ミアがいる。
私が愛するカレンに嫌がらせをするミアに、
嫌がらせをやめるよう呼び出したのに……
どうしてこうなったんだろう?
2020.2.17より、カレンの話を始めました。
小説家になろうさんにも掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
一番悪いのは誰
jun
恋愛
結婚式翌日から屋敷に帰れなかったファビオ。
ようやく帰れたのは三か月後。
愛する妻のローラにやっと会えると早る気持ちを抑えて家路を急いだ。
出迎えないローラを探そうとすると、執事が言った、
「ローラ様は先日亡くなられました」と。
何故ローラは死んだのは、帰れなかったファビオのせいなのか、それとも・・・
悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!
ペトラ
恋愛
ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。
戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。
前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。
悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。
他サイトに連載中の話の改訂版になります。
悪役令嬢アンジェリカの最後の悪あがき
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【追放決定の悪役令嬢に転生したので、最後に悪あがきをしてみよう】
乙女ゲームのシナリオライターとして活躍していた私。ハードワークで意識を失い、次に目覚めた場所は自分のシナリオの乙女ゲームの世界の中。しかも悪役令嬢アンジェリカ・デーゼナーとして断罪されている真っ最中だった。そして下された罰は爵位を取られ、へき地への追放。けれど、ここは私の書き上げたシナリオのゲーム世界。なので作者として、最後の悪あがきをしてみることにした――。
※他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる