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復讐編 あなたは絶世のファム・ファタール!
二人のボディーガード
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朝の登校時間。
学生達は学友達と挨拶を交わしながら各々の教室へと向かっていた。
アナスタシオスもその一人である。
「アナスタシオス様ぁ~!」
レンコが猫撫で声を上げながら、アナスタシオスに駆け寄る。
気づいたアナスタシオスは笑顔で振り返った。
「あ、レンコさ──」
レンコがアナスタシオスに抱き着こうと両手を広げたとき、二人の人物が立ちはだかった。
シュラルドルフとゼニファーだ。
「ちょっと、何?」
レンコは不愉快そうに唇を尖らせる。
「そうだよ、二人共。急にどうしたんだい?」
アナスタシオスは驚いた顔をする。
「……何でもない」
「ええ。何でもありません。行きましょう、シオ殿」
シュラルドルフとゼニファーがレンコを無視して、教室に向かおうと踵を返す。
〝アナスタシア〟の双子の弟〝シオ〟。
彼はレンコがアナスタシアに何をしたのか、まだ知らされていない。
アナスタシアが墓場まで持って行った秘密。
シュラルドルフとゼニファーは、アナスタシアが学園で悲しい目に遭っていたことを、隠し通すことにした。
〝シオ〟を守り通すことが、〝アナスタシア〟への贖罪になるだろう、と。
──まあ、全部知ってんだけどな。
アナスタシオスはほくそ笑む。
何であれ、自分とレンコを引き離してくれるのは好都合だ。
レンコの目的はアナスタシオスの攻略。
アナスタシオスを落とせないことが、レンコへの最大の復讐となる。
「同じ教室に行くんだから、私も一緒に──」
レンコは食い下がる。
シュラルドルフはアナスタシオスとレンコの間に身体を滑り込ませた。
「すまない。急いでいる」
レンコは引き攣った笑みを浮かべる。
「ど、どうしたのよ。ゼニファー王子、シュラルド王子。様子が変よ? いつも私と一緒に行ってくれてたじゃない」
シュラルドルフは黙ったまま、レンコを睨みつけた。
「レンコ嬢、アデヤ様はどうしたんですか」
ゼニファーが尋ねる。
「だ、だから、アデヤ王子とは何もないんだって!」
「あんなことをしておいて、アデヤ様とは何もないと?」
「〝あんなこと〟?」
アナスタシオスが首を傾げる。
「あれは、違うの!」
レンコは慌てて口を挟む。
「アデヤ様と一緒になりたかった訳じゃないの!
好きなのはアナスタシオス様だけ! 誤解しない下さいね、アナスタシオス様ぁ!」
「……ええと」
アナスタシオスは困惑する。
──アナスタシアとアデヤの仲を引き裂いておいて、どの口が言ってんだ。
ゼニファーもそう思ったらしく、呆れたようにため息をつく。
「シオ殿、耳を貸す必要はありません。行きましょう」
ゼニファーがアナスタシオスの背中を押した。
「ちょっと待っ──!」
「レンコさん」
アナスタシオスは顔だけ振り返り、笑って言った。
「また今度ゆっくりお話ししましょう」
「は、はぁい……!」
レンコはうっとりとした顔で返事をした。
□
「シュラルドルフとゼニファーの二人が兄さんに懐柔されてる……。一体、どんな手を使ったんだ……?」
「きひひ。秘密に決まってんだろぉ?」
アナスタシオスは悪い顔で笑った。
夜、アナスタシオスの寝室で開かれる秘密のお茶会。
といっても、姉と弟ではなく、兄と弟という立場になったから、そこまで秘密にはしていない。
人払いはしてあるが、アナスタシオスの寝室にクロードが夜な夜な訪れているのは、何人もの人が目撃していることだろう。
「レンコは上手く〝アナスタシア〟を追放した」
主人公補正をフルに活用し、取り巻きを扇動した。
「レンコの一番の誤算は……〝アナスタシオス〟を落とせないことだろうなァ」
「……あの様子だと、どうやらレンコは、アナスタシアとアナスタシオスが同一人物であることを知らないようだな」
「知ってたんなら、アナスタシアを陥れたりしねえだろ」
アナスタシアを陥れれば陥れるほど、アナスタシオスの攻略は難しいものになるのだから。
「陥れるにしても、もっと上手く立ち回るだろう。アナスタシアに対して、嫌悪感を露わになんてしねえ」
「そうだよな」
「なんで俺がアナスタシアだと知らねえのかはわかんねえけどな。クロードと同じで、物語の途中で投げたとかぁ?」
「あり得る……のか? 隠しキャラを出すくらいやり込んでいるのに……」
──〝裏設定〟。
その言葉がクロードの脳裏に過ぎる。
作品上では語られない、作者の頭にある設定。
ただの一プレイヤーが知る由もない。
レンコも、クロードも、だ。
「レンコが兄さん狙いなのはわかったけど……。レンコはアナスタシアが嫌いだったんじゃないのか?」
クロードは首を傾げる。
「アナスタシアは嫌いだったんだろ。でも、アナスタシオスは好き」
「同じ顔なのに?」
「美しい異性には恋をし、美しい同性には嫉妬する。人間ってのはそんなもんだ」
アナスタシオスとクロードの両親もそうだった。
父は、アナスタシオスの美しさに顔を顰め、「自分の子供ではない」と言い放った。
母は、アナスタシオスの美しさを愛し、母親以上の愛を注いだ。
「おれは兄さんに嫉妬したことないけど……?」
クロードはきょとんとした顔で言う。
「本当に面食いだなァ、クロードは」
アナスタシオスは呆れ半分、嬉しさ半分でそう言った。
「シュラルドとゼニファーは二人で話し合って、レンコを調べ直すことにしたらしい」
「じゃあ、兄さんの無実は直ぐに証明されるな!」
「それはどうだろうなァ。調べて直ぐにわかるなら、アナスタシアの生前にそうなってるはず」
「あ……確かに」
「レンコに味方しているのは、主人公補正だけじゃねえってこった」
アナスタシオスはもう悪役令嬢アナスタシアではない。
悪役令嬢補正がなくなった今、攻略対象補正に守られることになる。
動きやすいことこの上ないだろう。
「それにしても、陥れた相手の家族を恋人にしようとするなんて……何というか。罪悪感とかないのか?」
「レンコの野郎は俺達を創作のキャラクターだと思ってやがる。腹立たしいよなあ? 俺達はちゃんと血の通った人間だってのに」
アナスタシオスはニヤリと笑う。
「痛い目見てもらわねえとな」
学生達は学友達と挨拶を交わしながら各々の教室へと向かっていた。
アナスタシオスもその一人である。
「アナスタシオス様ぁ~!」
レンコが猫撫で声を上げながら、アナスタシオスに駆け寄る。
気づいたアナスタシオスは笑顔で振り返った。
「あ、レンコさ──」
レンコがアナスタシオスに抱き着こうと両手を広げたとき、二人の人物が立ちはだかった。
シュラルドルフとゼニファーだ。
「ちょっと、何?」
レンコは不愉快そうに唇を尖らせる。
「そうだよ、二人共。急にどうしたんだい?」
アナスタシオスは驚いた顔をする。
「……何でもない」
「ええ。何でもありません。行きましょう、シオ殿」
シュラルドルフとゼニファーがレンコを無視して、教室に向かおうと踵を返す。
〝アナスタシア〟の双子の弟〝シオ〟。
彼はレンコがアナスタシアに何をしたのか、まだ知らされていない。
アナスタシアが墓場まで持って行った秘密。
シュラルドルフとゼニファーは、アナスタシアが学園で悲しい目に遭っていたことを、隠し通すことにした。
〝シオ〟を守り通すことが、〝アナスタシア〟への贖罪になるだろう、と。
──まあ、全部知ってんだけどな。
アナスタシオスはほくそ笑む。
何であれ、自分とレンコを引き離してくれるのは好都合だ。
レンコの目的はアナスタシオスの攻略。
アナスタシオスを落とせないことが、レンコへの最大の復讐となる。
「同じ教室に行くんだから、私も一緒に──」
レンコは食い下がる。
シュラルドルフはアナスタシオスとレンコの間に身体を滑り込ませた。
「すまない。急いでいる」
レンコは引き攣った笑みを浮かべる。
「ど、どうしたのよ。ゼニファー王子、シュラルド王子。様子が変よ? いつも私と一緒に行ってくれてたじゃない」
シュラルドルフは黙ったまま、レンコを睨みつけた。
「レンコ嬢、アデヤ様はどうしたんですか」
ゼニファーが尋ねる。
「だ、だから、アデヤ王子とは何もないんだって!」
「あんなことをしておいて、アデヤ様とは何もないと?」
「〝あんなこと〟?」
アナスタシオスが首を傾げる。
「あれは、違うの!」
レンコは慌てて口を挟む。
「アデヤ様と一緒になりたかった訳じゃないの!
好きなのはアナスタシオス様だけ! 誤解しない下さいね、アナスタシオス様ぁ!」
「……ええと」
アナスタシオスは困惑する。
──アナスタシアとアデヤの仲を引き裂いておいて、どの口が言ってんだ。
ゼニファーもそう思ったらしく、呆れたようにため息をつく。
「シオ殿、耳を貸す必要はありません。行きましょう」
ゼニファーがアナスタシオスの背中を押した。
「ちょっと待っ──!」
「レンコさん」
アナスタシオスは顔だけ振り返り、笑って言った。
「また今度ゆっくりお話ししましょう」
「は、はぁい……!」
レンコはうっとりとした顔で返事をした。
□
「シュラルドルフとゼニファーの二人が兄さんに懐柔されてる……。一体、どんな手を使ったんだ……?」
「きひひ。秘密に決まってんだろぉ?」
アナスタシオスは悪い顔で笑った。
夜、アナスタシオスの寝室で開かれる秘密のお茶会。
といっても、姉と弟ではなく、兄と弟という立場になったから、そこまで秘密にはしていない。
人払いはしてあるが、アナスタシオスの寝室にクロードが夜な夜な訪れているのは、何人もの人が目撃していることだろう。
「レンコは上手く〝アナスタシア〟を追放した」
主人公補正をフルに活用し、取り巻きを扇動した。
「レンコの一番の誤算は……〝アナスタシオス〟を落とせないことだろうなァ」
「……あの様子だと、どうやらレンコは、アナスタシアとアナスタシオスが同一人物であることを知らないようだな」
「知ってたんなら、アナスタシアを陥れたりしねえだろ」
アナスタシアを陥れれば陥れるほど、アナスタシオスの攻略は難しいものになるのだから。
「陥れるにしても、もっと上手く立ち回るだろう。アナスタシアに対して、嫌悪感を露わになんてしねえ」
「そうだよな」
「なんで俺がアナスタシアだと知らねえのかはわかんねえけどな。クロードと同じで、物語の途中で投げたとかぁ?」
「あり得る……のか? 隠しキャラを出すくらいやり込んでいるのに……」
──〝裏設定〟。
その言葉がクロードの脳裏に過ぎる。
作品上では語られない、作者の頭にある設定。
ただの一プレイヤーが知る由もない。
レンコも、クロードも、だ。
「レンコが兄さん狙いなのはわかったけど……。レンコはアナスタシアが嫌いだったんじゃないのか?」
クロードは首を傾げる。
「アナスタシアは嫌いだったんだろ。でも、アナスタシオスは好き」
「同じ顔なのに?」
「美しい異性には恋をし、美しい同性には嫉妬する。人間ってのはそんなもんだ」
アナスタシオスとクロードの両親もそうだった。
父は、アナスタシオスの美しさに顔を顰め、「自分の子供ではない」と言い放った。
母は、アナスタシオスの美しさを愛し、母親以上の愛を注いだ。
「おれは兄さんに嫉妬したことないけど……?」
クロードはきょとんとした顔で言う。
「本当に面食いだなァ、クロードは」
アナスタシオスは呆れ半分、嬉しさ半分でそう言った。
「シュラルドとゼニファーは二人で話し合って、レンコを調べ直すことにしたらしい」
「じゃあ、兄さんの無実は直ぐに証明されるな!」
「それはどうだろうなァ。調べて直ぐにわかるなら、アナスタシアの生前にそうなってるはず」
「あ……確かに」
「レンコに味方しているのは、主人公補正だけじゃねえってこった」
アナスタシオスはもう悪役令嬢アナスタシアではない。
悪役令嬢補正がなくなった今、攻略対象補正に守られることになる。
動きやすいことこの上ないだろう。
「それにしても、陥れた相手の家族を恋人にしようとするなんて……何というか。罪悪感とかないのか?」
「レンコの野郎は俺達を創作のキャラクターだと思ってやがる。腹立たしいよなあ? 俺達はちゃんと血の通った人間だってのに」
アナスタシオスはニヤリと笑う。
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