悪役令嬢♂〜彼は婚約破棄国外追放死亡の運命を回避しつつ、ヒロイン達へ復讐を目論む〜

フオツグ

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復讐編 あなたは絶世のファム・ファタール!

人に任せた男の末路

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「アナスタシア嬢が亡くなった……?」

 ゼニファーは信じられず、何度も呟いてしまう。
 アナスタシアはレンコに嫌がらせをしていた。
 その証拠を集めたのはゼニファーだった。
 しかし、よく考えてみれば、どれも証言ばかり。
 決定打となる物証は何一つなかった。
 レンコが嫌がらせに遭ったという時間、必ずと言って、アナスタシアのアリバイがなかった。
 アナスタシアのアリバイがない時間とレンコが嫌がらせに遭った時間、その二つがぴったり重なる。
 それも、一度や二度ではなく、何度も。
 レンコの狂言ならば、そんな偶然あり得ない。
 だから、アナスタシアがレンコをいじめていたという目撃証言を信じた。
 証言者も毎回別の人であったから、尚更。

 □

──今日もアナスタシア嬢とクロード殿は一緒か。……仲が良い。姉弟とは思えないくらい。
 自分とミステールの兄弟関係が複雑なのもあいまって、余計に強く思った。
 ほんの一瞬、嫌な想像が頭を掠めたのだ。

 もし、それが当たっていたら、アデヤにとって、大変よろしくない。
 友人として、アデヤに情報提供をしなくてはならない。

「アナスタシアお嬢様とクロード坊ちゃまとの関係?」

 だから、ミステールに話を聞いた。
 フィラウティア家に仕え、アナスタシアの専属執事である彼ならば、何か知っていると思ったからだ。
 ミステールはゼニファーと血を分けた兄弟であるし、信用に値する。

「ああ、何か気になることはないか」
「何かって何? ただの姉弟じゃないか」
「それ以外の関係ではないと?」
「お二方の仲は非常に良好だよ。夜な夜な、クロード坊ちゃんがアナスタシアお嬢様の部屋に訪ねるくらいには」
「そ、それは本当か!?」

──弟とはいえ、女性の部屋に行くなんて……。そういうことなのか?
 ゼニファーの嫌な想像が現実味を増してくる。

「ああ。僕以外の使用人にも話を聞くと良い。面白いことが聞けるだろう」

 ミステールはへらへらと笑っている。
 主人の罪に対して、何とも思ってないのだろうか。
──しかし、アナスタシア嬢が弟とそういう関係なのならば、アデヤ様にお伝えしなければならない。
 アデヤを裏切っていることになるのだから。
──しかし、こんなこと、伝えて良いものなのだろうか?
 近親相姦など、ショッキングな内容だ。
 アデヤの心身に影響を与えるかもしれない。

「ミステール、私はどうしたら良いと思う?」
「アナスタシアお嬢様は美国の国母となる人。憂いはない方が良いんじゃない?」
「君の雇い主を貶めることになる」
「間違いを正すことが、お嬢様のためにもなる」

 ゼニファーはミステールのその言葉を信じ、アデヤにそのことを伝えた。
 アデヤは最初は信じようとしなかった。
 しかし、アナスタシアの開催したお茶会で、嫌がらせ行為を目の当たりにしたことで、耳を傾けてくれた。
 アデヤとアナスタシアは婚約破棄に至った。

 □

 ゼニファーはふらふらと、学園の廊下を歩いていた。
 授業なんて、受けられる精神状態ではなかった。
 授業中、人気のない廊下で話し声が聞こえて、吸い込まれるように近寄った。
 ミステールがいる。
──あれはミステール? 話しているのは……レンコ嬢? どうして、二人が一緒に……。

「よくやったわ、ミステール」

 レンコが笑っている。

「アナスタシアを退場させることが出来て、清々したわ」
「ゼニファーが上手く動いてくれたからですよ……。彼が数々の証言を、アデヤ王子に伝えてくれたから……」
「本当にそうね! どっちもなかなか動いてくれなかったから、やきもきしたわ! 貴方がゼニファー王子に助言したおかげね!」

 レンコが立ち去る。
 ゼニファーはその場に立ち尽くしていた。
──どういうことだ!? 二人は繋がっていた!? 誘導って……。

「やあ、ゼニファー王子。盗み聞きとは感心しませんね」

 気づけば、ミステールが目の前にまで来ていた。

「ミステール、どういうことだ……? 君はアナスタシア嬢に仕えているんじゃ……」

 ミステールは不敵に笑うだけだった。
──ああ……。……ああ!
 その真意に気付いて、思わず背を向けて走り去る。
──騙されていた。騙されていたんだ! アデヤ様のため、アナスタシアのためと、耳障りの良いことばかり並べて! レンコに操られていた!

「あっ……」

 ゼニファーは足をもつれさせて転んでしまう。
──アナスタシアを昔から知っていたのに、どうして彼女を信じてやれなかったのか。
 ミステールを信じ過ぎたのだ。

「……ゼニファー王子?」

 パッと顔を上げると、そこにはアナスタシアと同じ顔があった。

「アナスタシ……オス殿」

 アナスタシオスは困ったように眉を下げ、微笑む。

「転んでしまったみたいですね。立てますか? 保健室までお送りしましょうか?」

 アナスタシオスの感情の色も、赤い。
 アナスタシアと同じ色だ。

「……申し訳……ありません……」
「いいえ。困ったときはお互い様ですから!」

 ゼニファーは首を横に振る。

「違うんです。私は、私は……。貴方のご姉弟に取り返しのつかないことをした……!」
「……ゼニファー王子が姉と弟に何をしたのかはわかりませんが……。アナスタシアはもう許していると思いますよ」
「え……?」
「だって、ゼニファー王子、こんなに苦しそうな顔してます。アナスタシアは貴方が苦しむ顔、見たくないはずです。だから、許しているはず」
「アナスタシオス殿……」
「取り返しのつかない。人生はそういうものです。だから、間違いに気づいたときにどうするかではないですか?」

 アナスタシオスは微笑む。
 喜びの色を滲ませて。
──これで、二人目。
 それが〝愉悦〟の色であるとも知らずに。

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