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ゲーム本編編 ヒロインの座を奪い取れ
内通者は誰だ
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レンコの制服が破られた一件で、アナスタシアの悪い噂は爆発的に広がっていった。
「やっぱり、アナスタシア様はレンコに嫌がらせをしているらしい……」
嫌がらせをしたと見られる時間は決まって、アナスタシオスはトイレに行っていた。
つまり、アリバイがなかった。
それ故、噂の信憑性が増している。
否定をしようにも、アナスタシオスがトイレに行く姿を見た者はいない。
クロードと使用人のメイが目撃されないように徹底しているからだ。
悪循環、と言わざるを得ない。
しかし、トイレに行かない訳もいかず、噂はドンドン積み重なる。
「兄さんがトイレに行く時間にタイミングを合わせるなんて……偶然じゃ、ないよな」
「かもなァ」
「それに、レンコは秘密のお茶会のことも知っていた」
アナスタシアは弟と夜な夜な密会している──。
その言葉が出てくるのは、アナスタシオスとクロードの秘密のお茶会を誰かから聞いたのだろう。
秘密のお茶会を知り得るのは、フィラウティア家に仕えているほんの一握りだけだ。
──ということは、ウチに内通者が紛れ込んでいる可能性がある……。
古くからフィラウティア家に仕えているメイドのメイ。
そして、協力者のミステール。
若しくは、アナスタシオスの寝室にクロードが入っていくのを目撃した人物がいる……?
それも何度も?
そんなこと、あり得るのだろうか?
ならば、秘密のお茶会参加者の中に内通者がいると考えた方がしっくりくる。
「まさか、ミステール……」
嫌な考えがクロードの頭を過ぎる。
最近、ミステールの様子が変だ。
アナスタシオスのトイレのときも、秘密のお茶会にも現れない。
しかし、アナスタシオスの専属執事としての仕事はちゃんと熟しているようだ。
アナスタシオスがミステールの仕事に愚痴一つ言わないのだから。
──この六年、ずっと一緒に戦ってきたのに、レンコに寝返ることがあるのか?
レンコには主人公補正がある。
全ての行動、言動から、相手に好感を抱かせる、主人公の特権。
慢心か油断か、思わぬ形でレンコと接触してしまい、ミステールは懐柔されてしまったのだろうか。
──ミステールはおれに言った。
「面白い。この箱庭で何が出来るのか。じっくり観察させて貰うよ、クロードくん」
──おれを見ていても面白くなかった? それとも、レンコを好きになってしまった? それは、おれ達の六年間がなかったことになるくらい?
ぐるぐるとクロードの頭の中を良くない思考が回る。
「クロード」
アナスタシオスに名前を呼ばれ、クロードは現実に戻る。
「あんま思い詰めんな。ミステールは大丈夫だ」
「……そう、だよな」
ミステールは〝アナスタシア〟が男だと知っている。
ミステールがレンコに協力しているなら、その事実をレンコに伝えているはず。
〝アナスタシア〟とアデヤとの間を引き裂きたいのなら、その事実をアデヤに伝えれば良いだけだ。
〝アナスタシア〟はシナリオ通りに婚約破棄、国外追放、死亡する……。
それがないということは、ミステールはまだクロードの味方ということだろう。
ミステールが何を考えているか、クロードにはわからないが……。
──今は信じるしかない、よな。
「アデヤの方は大丈夫なんだろうか。今回の噂、アデヤも巻き込まれてるけど」
アナスタシアの悪評が広がる中、アナスタシアを庇ったアデヤも悪く言われるようになった。
美男美女の悪役カップル……そう呼ぶ者も少なくない。
だが、圧倒的に多いのは、『アデヤが悪女アナスタシアに騙されている』と感じている者達だ。
アデヤは攻略対象の一人。
キャラヘイト──嫌われ者にはならないように世界がなっているのだろう。
「自業自得だろ。疑われてる俺を『顔が美しいから』ってだけで信じたんだからよ。そら、『顔しか見えてない馬鹿王子』って呼ばれるわ」
「そこまで言うのは兄さんだけだ……」
クロードは呆れてため息をついた。
「アデヤは悪評が広がっても常に静観してるよな。権力でも何でも使って揉み消してくれたら良いのに」
「全部嫉妬だと思ってんだよ」
アナスタシオスは馬鹿にしたように笑った。
「『醜い者が美しい僕とアナスタシアに嫉妬するのはいつものこと。気にするだけ無駄だ!』……ってなァ」
「アデヤらしい考え……」
アデヤのこの思考を変えることは不可能だろう。
キャラクターの根幹に関わるのものだ。
「さて。レンコが本格的に俺達を潰そうと動き始めた。っつうことで、こちらからもアクションを起こさなきゃなあ?」
「アクション? 何をするんだ?」
アナスタシオスはニヤリと笑い、スッと手紙を取り出す。
「レンコをお茶会に誘った」
「ちょっと待って。過去形!?」
「良い返事が来たぜ? アデヤとゼニファーとシュラルドからも」
そう言って、もう三枚、手紙を出してきた。
クロードは手紙を奪い取り、内容を確認する。
確かに『お茶会へのお誘いありがとう。是非参加させて貰う』という旨の手紙だった。
クロードは頭を抱えた。
「なんでっ! 事後報告なんだよっ!」
「シルフィトもいた方が良いかあ? 俺の味方は多いに越したことはねえし」
「兄さんさあ! おれの話聞いてる!?」
クロードは荒ぶる心を抑えるため、長いため息をついた。
「……兄さんのことだ。何か策はあるんだろう」
「わかってんじゃん」
「だけど、向こうも無策で来るとは思えない。どうするんだ?」
「そりゃあ勿論……」
アナスタシオスは悪戯っぽく笑った。
「迎え打つ」
「やっぱり、アナスタシア様はレンコに嫌がらせをしているらしい……」
嫌がらせをしたと見られる時間は決まって、アナスタシオスはトイレに行っていた。
つまり、アリバイがなかった。
それ故、噂の信憑性が増している。
否定をしようにも、アナスタシオスがトイレに行く姿を見た者はいない。
クロードと使用人のメイが目撃されないように徹底しているからだ。
悪循環、と言わざるを得ない。
しかし、トイレに行かない訳もいかず、噂はドンドン積み重なる。
「兄さんがトイレに行く時間にタイミングを合わせるなんて……偶然じゃ、ないよな」
「かもなァ」
「それに、レンコは秘密のお茶会のことも知っていた」
アナスタシアは弟と夜な夜な密会している──。
その言葉が出てくるのは、アナスタシオスとクロードの秘密のお茶会を誰かから聞いたのだろう。
秘密のお茶会を知り得るのは、フィラウティア家に仕えているほんの一握りだけだ。
──ということは、ウチに内通者が紛れ込んでいる可能性がある……。
古くからフィラウティア家に仕えているメイドのメイ。
そして、協力者のミステール。
若しくは、アナスタシオスの寝室にクロードが入っていくのを目撃した人物がいる……?
それも何度も?
そんなこと、あり得るのだろうか?
ならば、秘密のお茶会参加者の中に内通者がいると考えた方がしっくりくる。
「まさか、ミステール……」
嫌な考えがクロードの頭を過ぎる。
最近、ミステールの様子が変だ。
アナスタシオスのトイレのときも、秘密のお茶会にも現れない。
しかし、アナスタシオスの専属執事としての仕事はちゃんと熟しているようだ。
アナスタシオスがミステールの仕事に愚痴一つ言わないのだから。
──この六年、ずっと一緒に戦ってきたのに、レンコに寝返ることがあるのか?
レンコには主人公補正がある。
全ての行動、言動から、相手に好感を抱かせる、主人公の特権。
慢心か油断か、思わぬ形でレンコと接触してしまい、ミステールは懐柔されてしまったのだろうか。
──ミステールはおれに言った。
「面白い。この箱庭で何が出来るのか。じっくり観察させて貰うよ、クロードくん」
──おれを見ていても面白くなかった? それとも、レンコを好きになってしまった? それは、おれ達の六年間がなかったことになるくらい?
ぐるぐるとクロードの頭の中を良くない思考が回る。
「クロード」
アナスタシオスに名前を呼ばれ、クロードは現実に戻る。
「あんま思い詰めんな。ミステールは大丈夫だ」
「……そう、だよな」
ミステールは〝アナスタシア〟が男だと知っている。
ミステールがレンコに協力しているなら、その事実をレンコに伝えているはず。
〝アナスタシア〟とアデヤとの間を引き裂きたいのなら、その事実をアデヤに伝えれば良いだけだ。
〝アナスタシア〟はシナリオ通りに婚約破棄、国外追放、死亡する……。
それがないということは、ミステールはまだクロードの味方ということだろう。
ミステールが何を考えているか、クロードにはわからないが……。
──今は信じるしかない、よな。
「アデヤの方は大丈夫なんだろうか。今回の噂、アデヤも巻き込まれてるけど」
アナスタシアの悪評が広がる中、アナスタシアを庇ったアデヤも悪く言われるようになった。
美男美女の悪役カップル……そう呼ぶ者も少なくない。
だが、圧倒的に多いのは、『アデヤが悪女アナスタシアに騙されている』と感じている者達だ。
アデヤは攻略対象の一人。
キャラヘイト──嫌われ者にはならないように世界がなっているのだろう。
「自業自得だろ。疑われてる俺を『顔が美しいから』ってだけで信じたんだからよ。そら、『顔しか見えてない馬鹿王子』って呼ばれるわ」
「そこまで言うのは兄さんだけだ……」
クロードは呆れてため息をついた。
「アデヤは悪評が広がっても常に静観してるよな。権力でも何でも使って揉み消してくれたら良いのに」
「全部嫉妬だと思ってんだよ」
アナスタシオスは馬鹿にしたように笑った。
「『醜い者が美しい僕とアナスタシアに嫉妬するのはいつものこと。気にするだけ無駄だ!』……ってなァ」
「アデヤらしい考え……」
アデヤのこの思考を変えることは不可能だろう。
キャラクターの根幹に関わるのものだ。
「さて。レンコが本格的に俺達を潰そうと動き始めた。っつうことで、こちらからもアクションを起こさなきゃなあ?」
「アクション? 何をするんだ?」
アナスタシオスはニヤリと笑い、スッと手紙を取り出す。
「レンコをお茶会に誘った」
「ちょっと待って。過去形!?」
「良い返事が来たぜ? アデヤとゼニファーとシュラルドからも」
そう言って、もう三枚、手紙を出してきた。
クロードは手紙を奪い取り、内容を確認する。
確かに『お茶会へのお誘いありがとう。是非参加させて貰う』という旨の手紙だった。
クロードは頭を抱えた。
「なんでっ! 事後報告なんだよっ!」
「シルフィトもいた方が良いかあ? 俺の味方は多いに越したことはねえし」
「兄さんさあ! おれの話聞いてる!?」
クロードは荒ぶる心を抑えるため、長いため息をついた。
「……兄さんのことだ。何か策はあるんだろう」
「わかってんじゃん」
「だけど、向こうも無策で来るとは思えない。どうするんだ?」
「そりゃあ勿論……」
アナスタシオスは悪戯っぽく笑った。
「迎え打つ」
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