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ゲーム本編編 ヒロインの座を奪い取れ
完全勝利を目指して
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お茶会は重苦しい雰囲気の中、終了した。
招待客が帰り、ミステールには別の仕事を振った。
その場に残ったのはクロードとアナスタシオス。
そして、お茶会の片付けをするメイドのメイだけとなった。
「どういうことだ、兄さん」
クロードは怒気を含んだ声で言った。
「あんな言い方、嫌がらせをしたと肯定しているようなものじゃないか! 兄さんなら、もっと上手い言い方をが出来ただろう!」
クロードはアナスタシオスを問い詰めた。
しかし、アナスタシオスはへらへらと笑い、余ったお菓子を摘むだけ。
その呑気なアナスタシオスを見て、クロードはハッとした。
「まさか、わざと……?」
アナスタシオスは摘み上げたマカロンを口に運ぶ。
数回咀嚼し、飲み込むと、指をぺろりと舐めた。
「流石のアデヤも、目の前で嫌がらせが行われたら疑念を抱くだろうな。これで、ゼニファーやシュラルドの話にも耳を傾けるだろうよ」
「兄さんなんで……」
アナスタシオスは改まって言った。
「クロード、俺はアデヤと婚約破棄をする」
クロードの顔がカッと熱くなる。
「諦めて死ぬつもりか!?」
クロードはテーブルを叩いて、立ち上がる。
アナスタシオスは冷めた表情でそれを見ていた。
「クロード、俺らが目指すのはなんだ?」
「アデヤとの婚約破棄、国外追放、死の運命を回避すること……」
「違うだろ。俺が死ななきゃ良いだけ」
「そ、それはそうだけど……!」
「……元々、この婚約は望まれねえもんだ。〝アナスタシア〟が男だとバレちゃいけねえ。でも、王族が男と結婚は出来ねえ。いつかは終わらせなきゃなんねえんだよ」
クロードはそっと腰を下ろす。
アナスタシオスは考えなしだった訳ではない。
そう感じて、溜飲を下げることにした。
「国王との契約で、こっちから婚約破棄は出来ねえ。だったら、向こうから婚約破棄して貰わねえとな」
アナスタシオスは空を見上げる。
空には雲一つない青い空が広がっている。
「場は良い感じに整ってる。ゼニファー辺りを少し突つけば、アナスタシアを断罪する証拠を、アデヤに渡してくるだろう。そして、アデヤに婚約破棄を切り出して貰う」
だから、今回をお茶会で〝アナスタシア〟に疑念を抱かせた。
〝アナスタシア〟は噂通り、レンコに嫌がらせをしているのではないかと。
「婚約破棄……。そしたら、国外追放もついてくるんじゃ……」
「そりゃ、【博愛の聖女】を殺そうとしたからだろ? レンコに襲いかからなきゃ大丈夫だって。あとは、馬車の事故に気をつけねえとなァ」
クロードは黙りこくる。
それを見て、アナスタシオスは申し訳なさそうに眉を少し下げた。
「……何も言わなかったのは悪かったよ。クロードに言ったら止められると思ったからよ」
「当たり前だ!」
「それに、予めお前に伝えておくと、ボロが出るかもしれなかったからさぁ。お前は嘘つけねえから。ま、そこがお前の美点なんだけど」
「兄さんが責められてるとき、本当に辛かったんだからな」
「だから、悪かったって」
クロードは手で顔を覆う。
「今まで頑張ってきたのに……」
「頑張ってきたからだろ。俺は死なねえ」
アナスタシオスはクロードの胸をドンと力強く叩いた。
「死んだとしても、ただで死ぬつもりは毛頭ねえ」
「……絶対に死ぬなよ」
「当然。俺が無事生き残ったらさ、やりてえことがあんだよ」
「何?」
「まだ秘密。でも、クロードなら俺に付き合ってくれるだろ?」
アナスタシオスはニヤリと笑う。
クロードはそう言われて、『しない』とは言わないと確信している顔だ。
その信頼が嬉しくもあり、NOと言えない自分が仕方ない。
クロードはため息をつきながら、笑みを溢した。
「地獄の底でも付き合うよ」
「勝手に地獄に送んな」
「比喩だって。本気にしないでくれ」
ムスッとするアナスタシオスに、クロードは笑った。
「あと『無事生き残ったら~』って奴、死亡フラグだから言わないでくれ……」
「こんなときに異世界の常識持ち込むんじゃねえよ」
アナスタシオスは呆れた。
□
そして、物語冒頭に戻る。
学園主導のパーティーで、アナスタシオスはアデヤに婚約破棄を言い渡された。
アナスタシオスは素直にそれを受け入れ、レンコに襲いかかることなく、国外追放を回避した。
パーティー会場を飛び出したアナスタシオスとクロードは馬車に飛び乗った。
「〝アナスタシア〟は王子に婚約破棄されて、馬車の中で傷心中……ってとこまでは目論見通り」
「あとは、馬車が事故にさえ遭わなければ、兄さんの死の運命を回避されてと言って良い……良いよな?」
「おうよ! まー、数日は馬車に気をつけねえといけねえけどなァ」
アナスタシオスは馬車を操るメイばあやに向けて叫ぶ。
「メイばあや! 事故らねえように気をつけろよォ! ここが正念場だ!」
「お任せあれ。大事な坊ちゃま方を乗せているんですもの。万が一にも……いいえ、天地がひっくり返っても、事故など有り得ません!」
「ははっ! 頼もしいぜ! ばあや!」
馬車は駆ける。
クロードが知らない、アナスタシア婚約破棄のその後へと。
招待客が帰り、ミステールには別の仕事を振った。
その場に残ったのはクロードとアナスタシオス。
そして、お茶会の片付けをするメイドのメイだけとなった。
「どういうことだ、兄さん」
クロードは怒気を含んだ声で言った。
「あんな言い方、嫌がらせをしたと肯定しているようなものじゃないか! 兄さんなら、もっと上手い言い方をが出来ただろう!」
クロードはアナスタシオスを問い詰めた。
しかし、アナスタシオスはへらへらと笑い、余ったお菓子を摘むだけ。
その呑気なアナスタシオスを見て、クロードはハッとした。
「まさか、わざと……?」
アナスタシオスは摘み上げたマカロンを口に運ぶ。
数回咀嚼し、飲み込むと、指をぺろりと舐めた。
「流石のアデヤも、目の前で嫌がらせが行われたら疑念を抱くだろうな。これで、ゼニファーやシュラルドの話にも耳を傾けるだろうよ」
「兄さんなんで……」
アナスタシオスは改まって言った。
「クロード、俺はアデヤと婚約破棄をする」
クロードの顔がカッと熱くなる。
「諦めて死ぬつもりか!?」
クロードはテーブルを叩いて、立ち上がる。
アナスタシオスは冷めた表情でそれを見ていた。
「クロード、俺らが目指すのはなんだ?」
「アデヤとの婚約破棄、国外追放、死の運命を回避すること……」
「違うだろ。俺が死ななきゃ良いだけ」
「そ、それはそうだけど……!」
「……元々、この婚約は望まれねえもんだ。〝アナスタシア〟が男だとバレちゃいけねえ。でも、王族が男と結婚は出来ねえ。いつかは終わらせなきゃなんねえんだよ」
クロードはそっと腰を下ろす。
アナスタシオスは考えなしだった訳ではない。
そう感じて、溜飲を下げることにした。
「国王との契約で、こっちから婚約破棄は出来ねえ。だったら、向こうから婚約破棄して貰わねえとな」
アナスタシオスは空を見上げる。
空には雲一つない青い空が広がっている。
「場は良い感じに整ってる。ゼニファー辺りを少し突つけば、アナスタシアを断罪する証拠を、アデヤに渡してくるだろう。そして、アデヤに婚約破棄を切り出して貰う」
だから、今回をお茶会で〝アナスタシア〟に疑念を抱かせた。
〝アナスタシア〟は噂通り、レンコに嫌がらせをしているのではないかと。
「婚約破棄……。そしたら、国外追放もついてくるんじゃ……」
「そりゃ、【博愛の聖女】を殺そうとしたからだろ? レンコに襲いかからなきゃ大丈夫だって。あとは、馬車の事故に気をつけねえとなァ」
クロードは黙りこくる。
それを見て、アナスタシオスは申し訳なさそうに眉を少し下げた。
「……何も言わなかったのは悪かったよ。クロードに言ったら止められると思ったからよ」
「当たり前だ!」
「それに、予めお前に伝えておくと、ボロが出るかもしれなかったからさぁ。お前は嘘つけねえから。ま、そこがお前の美点なんだけど」
「兄さんが責められてるとき、本当に辛かったんだからな」
「だから、悪かったって」
クロードは手で顔を覆う。
「今まで頑張ってきたのに……」
「頑張ってきたからだろ。俺は死なねえ」
アナスタシオスはクロードの胸をドンと力強く叩いた。
「死んだとしても、ただで死ぬつもりは毛頭ねえ」
「……絶対に死ぬなよ」
「当然。俺が無事生き残ったらさ、やりてえことがあんだよ」
「何?」
「まだ秘密。でも、クロードなら俺に付き合ってくれるだろ?」
アナスタシオスはニヤリと笑う。
クロードはそう言われて、『しない』とは言わないと確信している顔だ。
その信頼が嬉しくもあり、NOと言えない自分が仕方ない。
クロードはため息をつきながら、笑みを溢した。
「地獄の底でも付き合うよ」
「勝手に地獄に送んな」
「比喩だって。本気にしないでくれ」
ムスッとするアナスタシオスに、クロードは笑った。
「あと『無事生き残ったら~』って奴、死亡フラグだから言わないでくれ……」
「こんなときに異世界の常識持ち込むんじゃねえよ」
アナスタシオスは呆れた。
□
そして、物語冒頭に戻る。
学園主導のパーティーで、アナスタシオスはアデヤに婚約破棄を言い渡された。
アナスタシオスは素直にそれを受け入れ、レンコに襲いかかることなく、国外追放を回避した。
パーティー会場を飛び出したアナスタシオスとクロードは馬車に飛び乗った。
「〝アナスタシア〟は王子に婚約破棄されて、馬車の中で傷心中……ってとこまでは目論見通り」
「あとは、馬車が事故にさえ遭わなければ、兄さんの死の運命を回避されてと言って良い……良いよな?」
「おうよ! まー、数日は馬車に気をつけねえといけねえけどなァ」
アナスタシオスは馬車を操るメイばあやに向けて叫ぶ。
「メイばあや! 事故らねえように気をつけろよォ! ここが正念場だ!」
「お任せあれ。大事な坊ちゃま方を乗せているんですもの。万が一にも……いいえ、天地がひっくり返っても、事故など有り得ません!」
「ははっ! 頼もしいぜ! ばあや!」
馬車は駆ける。
クロードが知らない、アナスタシア婚約破棄のその後へと。
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