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ゲーム本編編 ヒロインの座を奪い取れ

憤り

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「口程にもねえなあ!? 【博愛の聖女】様!」

 いつもの秘密のお茶会にて。
 アナスタシオスは愉快そうに大笑いしていた。

「見たかぁ? あのレンコのアホ面! いつの間にか俺のペースに呑まれて、何も言えなくなってやんの!」

 クロードは深いため息をついて、頭を抱えた。

「出来るだけ接触しないって言ったのに……」
「あれだけの馬鹿なら接触しても問題ねえよ。こっちが手綱を握っときゃ、思った通りに動いてくれらあ」

 アナスタシオスはティーカップを揺らし、紅茶の香りを楽しんだ。

「にしても、あいつは一体何を狙ってやがんだ? 誰かと結ばれたいのなら、わざわざ俺を悪者にする必要なんてねえだろ?」
「誰とも結ばれたくない……ってことはないよな。何か別の目的があって動いてるのか……」
「敵の目的がわからねえと動きづれえな。どうにかして、レンコから吐かせてえが……。まあ、俺の口八丁で何とかなんだろ」
「ま、また話すつもりなのか……!?」

 レンコはアナスタシオスの死の原因だ。
 近づくだけでリスクがある。
 しかし、アナスタシオスは「当たり前だろ」と鼻を鳴らす。

「今なら、レンコに対する嫌がらせの調査って名目で話しかけられるんだぜ? こんなチャンス二度とねえ」
「危険だ! 相手は兄さんを殺そうと企んでるんだぞ!? 何をされるか……!」
「じゃあ、ミステールにやらせるか? 姿見せりゃ、向こうから話しかけてくるだろうしな?」

 アナスタシオスは後ろに控えていたミステールに目を向けた。
 ミステールは眉をハの字にした。

「うーん。主人公補正があるから、あまり話したくないんですけどねえ……」
「だよなあ。こっちとしても、ミステールを懐柔されるとマズい」

 クロードは立ち上がった。

「じゃあ、おれが──!」
「駄目だ」

 アナスタシオスはきっぱりとそう言った。

「てめえは嘘がつけねえ。てめえが俺の味方だとバレると都合が悪ぃ」
「でも……」
「今は何もしなくて良い。そんときが来たら頼るからよ」
「そのときって……」

──一体、いつだよ。
 クロードはゆっくりと腰を下ろす。

「しかし、ゼニファーが調査に乗り出したのは困りましたね。レンコと関わる口実が出来てしまった」
「調べたらレンコの自作自演だってわかるんじゃねえの?」
「どうでしょうね。ここはレンコにとって、大変都合が良い世界ですよ」
「……引き込まれるのも時間の問題かもなァ。どうすんだよ、兄弟?」
「兄弟として助言はします。それ以上は何も。あまり過保護になるのもどうかと思いますし?」
「……おい、なんでそこで俺を見る?」
「何ででしょうねえ」

 そんな二人の会話を、クロードはぼんやりと聞いていた。
──おれ、何の役にも立たないな……。
 アナスタシオスは持ち前のコミュニケーション能力を活かして、攻略対象達とレンコを相手している。
 ミステールは好感度を都度見ることが出来る。
──じゃあ、おれは?
 コミュニケーション能力も好感度を見ることも出来ない。
 離れた教室にいるから、アナスタシオスを物理的に庇うことも出来ない。
──これじゃあ、兄さんを守るどころか、守られているようだ……。
 クロードはぎゅっと自分の拳を握った。

 □

「レンコ嬢への嫌がらせの件ですが、調査が難航しています」

 ゼニファーが神妙な面持ちでアナスタシオス達にそう報告した。

「あら、そうですの……」

 アナスタシオスは悲しそうに眉を下げる。

「というのも、嫌がらせが急になくなったようでして。私が調査に乗り出すと宣言したから、臆したのでしょうかね」
「レンコちゃんを傷つけたのは許せないけれど、嫌がらせがなくなったのは良いことですわ!」
「しかし、貴女の潔白は証明出来ませんでした」

 ゼニファーは「力及ばず、すみません」と目を伏せた。

「ゼニファー王子が謝る必要はありませんわ。悪いのは嫌がらせをした人ですもの! 調査をして頂いてありがとうございますわ」

 アナスタシオスの優しい笑顔に、ゼニファーは口元が綻んだ。

「それと……心苦しいのですが、貴女に一つお願いがあります」
「何でしょう?」
「今後、彼女への接触は控えて頂きたいのです」
「え、でも……」

──レンコから情報を聞き出してえんだけど?
 とは口が裂けても言えなかった。

「レンコ嬢は貴女のことを疑い、恐怖しているようです。疑いが完全に晴れるまでの間、距離を取るべきかと」
「そんな……」
「レンコ嬢のことを想うのなら、そういうことも必要でしょう」
「……わかりましたわ」

 アナスタシオスは渋々それを了承した。

 □

「──なんて、従う訳ないんだよなあ」

 ゼニファーと別れた直後、アナスタシオスはクロードにそう言った。

「いやだから、なるべく関わるなって……」
「レンコから情報を引き出すには直接聞くしかねえんだって」

 アナスタシオスは呆れたように息を吐く。

「だが、どうやら避けられてるみてえだな。授業が終わって直ぐ声をかけようとしたんだが、直ぐにどっか行っちまった。真正面からやり合っても負けると気づいたらしい」
「まあ、兄さんと口でやり合いたくはないだろうな……」

 クロードはアナスタシオスに口論で勝ったことがない。
 顔を突き合わすと、クロードが折れてしまうのもあるだろう。

「つまんねえな。遊び甲斐があったのに」

 アナスタシオスは唇をツンと尖らせた。
──兄さんが困ってる……。やはり、レンコの目的を知るのは必須条件だ。
 しかし、アナスタシオスはレンコと接触を避けられている。
 ミステールはレンコに魅了される恐れがあり、近づけさせたくない。
──となれば……。
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