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ゲーム本編編 ヒロインの座を奪い取れ
聞き込み調査
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クロードが情報を集めずとも、主人公レンコの行動は嫌でも耳に届いた。
「あの【博愛の聖女】は一体なんなんだ。醜いにも関わらず、この僕に話しかけてくるなんて! そう思うだろう! 弟君!」
会って早々、アデヤはクロードに愚痴を吐いた。
「顔の美醜については、おれが何かを言える立場じゃないですが……」
「確かに、君は美しくないはけれど、美しくないなりの謙虚さがある。あの女は愚かなことに、自分の醜さを理解していないのだ」
「はは……」
クロードは愛想笑いするしかなかった。
──さも当然のようにおれの顔をディスるよな、この王子……。
「しかも、あの女、僕のアナスタシアのことをなんて言ったと思う!?」
「なんて言ってたんです?」
「ああ! 口に出すのも悍ましい! とにかく、アナスタシアの容姿を馬鹿にしたんだ!」
「はあ!? それは許せないですね!」
「だろう!?」
クロードとアデヤはこのとき初めて、意気投合した。
アデヤはハッとして、こほんと咳払いをする。
その次に、しい、と唇に人差し指を当てた。
「この話は内緒だよ? 弟君だって、アナスタシアが傷つく姿は見たくないだろう?」
「はい。勿論です」
口ではそう言いつつも、クロードはアナスタシオスに報告する気でいた。
──報告はするけどな。素の兄さんは悪口を言われたくらいじゃ傷つかない。……怒り狂うだろうけど。
□
シュラルドルフに【博愛の聖女】についての聞き込みをした。
「シュラルドルフ王子! こんにちは!」
「……こんにちは」
シュラルドルフはアデヤやアナスタシオスと距離を置いているとはいえ、挨拶をすれば返してくれる。
その流れで世間話をするようになっていた。
クロードは【博愛の聖女】について聞き込みをする。
「さっき話していたの、【博愛の聖女】様ですよね。何を話されたんですか?」
クロードがそう聞くと、シュラルドルフは眉をピクリと動かした。
「……どうして、そんなことを聞く?」
「いえ、大したことでは……! 【博愛の聖女】様は何をお話しするのかなって興味があって」
シュラルドルフは首を横に振った。
「……聞いたらきっと気分が悪くなる」
「え?」
「……アナスタシアの悪口だ」
「あ……やっぱり、そうなんですね」
「……『やっぱり』?」
「他の人からも同じようなことを聞いていたので」
内緒にすると約束したから、アデヤから聞いたとは言わなかった。
「……なるほど。だからか」
「『だからか』って?」
「……【博愛の聖女】には、アデヤからアナスタシア嬢を引き離したくないかと言われた」
「え……!」
──レンコはシュラルドルフルートを進めるつもりなのか……?
そうなると、シュラルドルフの考えを聞いておく必要がある。
「シュラルドルフ王子はどうするつもりですか?」
「『そのつもりはない』と答えた。俺は友人二人の幸せを願っているからな」
──よ、良かった……。
クロードはホッと胸を撫で下ろした。
□
ゼニファーにも【博愛の聖女】についての話を聞いた。
「【博愛の聖女】様とはお会いしましたよ。まあ、貢ぎ物をたくさんくれますね」
「貢ぎ物……? 例えば?」
「服やら、お菓子やら、置き物やら……節操がありません。ただ、数が多くて。断るのも一苦労ですよ」
ゼニファーは呆れたようにため息をついた。
──レンコはゼニファーの好感度を上げようと、プレゼント攻撃をしているのか?
ゼニファーは高価なものをあげれば喜ぶ。
クロードもこの六年、校内バイトで貯めた金をほとんどゼニファーに注いできた。
最近は余裕が出て来たのか、クロードのプレゼントすら断るようになっている。
「手作りのマカロンも渡してきました。何処から嗅ぎつけたのか、私の好物がマカロンだと知っているようで。食べ物を贈られても困るのですがね……」
「まあ、そうですね……」
──何が入ってるかわからないからな。
王族とはそういうものだ。
「全く、私はもので釣られると思われているのでしょうか?」
レンコはどうかわからないが、少なくともクロードはそう思っている。
□
シルフィトにも【博愛の聖女】についての話を振ってみた。
「ああ……【博愛の聖女】ね」
シルフィトはため息混じりにそう言った。
「会って話したのか?」
「話したけど、知能レベルが違い過ぎて、話にならなかったね」
シルフィトは鼻で笑った。
「『お姉ちゃまって呼んで』って言われて、腹が立ったよ。シルはお子ちゃまじゃないっての」
「おれのお姉様のことは『お姉ちゃま』って呼んでるのに?」
「それは昔からずっと呼んでるから……。今更変えるのもちょっとね……」
シルフィトは「というか」とパッと顔を上げた。
「クロ、また成績下がったね?」
クロードはぎくりとする。
「そ、そんなに下がってないと思うけどな~?」
目を泳がせるクロードに、シルフィトは呆れた。
「シルのライバルなんだから、ちゃんとしてよね……」
「も、元々勉強が好きという訳じゃないからなあ」
──今までは前世の知識で無双出来てただけだからな!
そろそろ、今世の年齢が前世の年齢に追いついてしまう。
元々、クロードは特別頭が良い訳ではない。
勉強面でのアドバンテージはとっくになくなっていた。
騙していたようになって、クロードはシルフィトに申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
□
ラヴィスマンにも【博愛の聖女】についての話をしてみた。
「【博愛の聖女】のう……」
ラヴィスマンは馬を撫で、思い出しながら話した。
「そういえば、彼女に我のことを話したか?」
「え……? いいえ。話してませんよ。どうしてですか?」
「【博愛の聖女】は我を聖国の王族だと知っておった」
──ああ、そっか。前世の記憶があるってことは、ラヴィスマンが聖国の王子だって知ってるってことだもんな。
クロードは首を横に振る。
「おれは彼女と話したことがありません。お姉様やシルとは会って話したみたいです。でも、二人が話したとも思えませんし……」
「我もそなた達が漏らしたとは思ってもおらぬよ。はて、何処から漏れたのかのう……」
クロードは「あれ?」と思った。
「ラヴィ先輩は情報が漏れたと思ってるんですね」
「あの女子が自力で気付くとは思ってるおらぬからの」
ラヴィスマンはそう言って、ふんわりと微笑んだ。
「あの【博愛の聖女】は一体なんなんだ。醜いにも関わらず、この僕に話しかけてくるなんて! そう思うだろう! 弟君!」
会って早々、アデヤはクロードに愚痴を吐いた。
「顔の美醜については、おれが何かを言える立場じゃないですが……」
「確かに、君は美しくないはけれど、美しくないなりの謙虚さがある。あの女は愚かなことに、自分の醜さを理解していないのだ」
「はは……」
クロードは愛想笑いするしかなかった。
──さも当然のようにおれの顔をディスるよな、この王子……。
「しかも、あの女、僕のアナスタシアのことをなんて言ったと思う!?」
「なんて言ってたんです?」
「ああ! 口に出すのも悍ましい! とにかく、アナスタシアの容姿を馬鹿にしたんだ!」
「はあ!? それは許せないですね!」
「だろう!?」
クロードとアデヤはこのとき初めて、意気投合した。
アデヤはハッとして、こほんと咳払いをする。
その次に、しい、と唇に人差し指を当てた。
「この話は内緒だよ? 弟君だって、アナスタシアが傷つく姿は見たくないだろう?」
「はい。勿論です」
口ではそう言いつつも、クロードはアナスタシオスに報告する気でいた。
──報告はするけどな。素の兄さんは悪口を言われたくらいじゃ傷つかない。……怒り狂うだろうけど。
□
シュラルドルフに【博愛の聖女】についての聞き込みをした。
「シュラルドルフ王子! こんにちは!」
「……こんにちは」
シュラルドルフはアデヤやアナスタシオスと距離を置いているとはいえ、挨拶をすれば返してくれる。
その流れで世間話をするようになっていた。
クロードは【博愛の聖女】について聞き込みをする。
「さっき話していたの、【博愛の聖女】様ですよね。何を話されたんですか?」
クロードがそう聞くと、シュラルドルフは眉をピクリと動かした。
「……どうして、そんなことを聞く?」
「いえ、大したことでは……! 【博愛の聖女】様は何をお話しするのかなって興味があって」
シュラルドルフは首を横に振った。
「……聞いたらきっと気分が悪くなる」
「え?」
「……アナスタシアの悪口だ」
「あ……やっぱり、そうなんですね」
「……『やっぱり』?」
「他の人からも同じようなことを聞いていたので」
内緒にすると約束したから、アデヤから聞いたとは言わなかった。
「……なるほど。だからか」
「『だからか』って?」
「……【博愛の聖女】には、アデヤからアナスタシア嬢を引き離したくないかと言われた」
「え……!」
──レンコはシュラルドルフルートを進めるつもりなのか……?
そうなると、シュラルドルフの考えを聞いておく必要がある。
「シュラルドルフ王子はどうするつもりですか?」
「『そのつもりはない』と答えた。俺は友人二人の幸せを願っているからな」
──よ、良かった……。
クロードはホッと胸を撫で下ろした。
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ゼニファーにも【博愛の聖女】についての話を聞いた。
「【博愛の聖女】様とはお会いしましたよ。まあ、貢ぎ物をたくさんくれますね」
「貢ぎ物……? 例えば?」
「服やら、お菓子やら、置き物やら……節操がありません。ただ、数が多くて。断るのも一苦労ですよ」
ゼニファーは呆れたようにため息をついた。
──レンコはゼニファーの好感度を上げようと、プレゼント攻撃をしているのか?
ゼニファーは高価なものをあげれば喜ぶ。
クロードもこの六年、校内バイトで貯めた金をほとんどゼニファーに注いできた。
最近は余裕が出て来たのか、クロードのプレゼントすら断るようになっている。
「手作りのマカロンも渡してきました。何処から嗅ぎつけたのか、私の好物がマカロンだと知っているようで。食べ物を贈られても困るのですがね……」
「まあ、そうですね……」
──何が入ってるかわからないからな。
王族とはそういうものだ。
「全く、私はもので釣られると思われているのでしょうか?」
レンコはどうかわからないが、少なくともクロードはそう思っている。
□
シルフィトにも【博愛の聖女】についての話を振ってみた。
「ああ……【博愛の聖女】ね」
シルフィトはため息混じりにそう言った。
「会って話したのか?」
「話したけど、知能レベルが違い過ぎて、話にならなかったね」
シルフィトは鼻で笑った。
「『お姉ちゃまって呼んで』って言われて、腹が立ったよ。シルはお子ちゃまじゃないっての」
「おれのお姉様のことは『お姉ちゃま』って呼んでるのに?」
「それは昔からずっと呼んでるから……。今更変えるのもちょっとね……」
シルフィトは「というか」とパッと顔を上げた。
「クロ、また成績下がったね?」
クロードはぎくりとする。
「そ、そんなに下がってないと思うけどな~?」
目を泳がせるクロードに、シルフィトは呆れた。
「シルのライバルなんだから、ちゃんとしてよね……」
「も、元々勉強が好きという訳じゃないからなあ」
──今までは前世の知識で無双出来てただけだからな!
そろそろ、今世の年齢が前世の年齢に追いついてしまう。
元々、クロードは特別頭が良い訳ではない。
勉強面でのアドバンテージはとっくになくなっていた。
騙していたようになって、クロードはシルフィトに申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
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ラヴィスマンにも【博愛の聖女】についての話をしてみた。
「【博愛の聖女】のう……」
ラヴィスマンは馬を撫で、思い出しながら話した。
「そういえば、彼女に我のことを話したか?」
「え……? いいえ。話してませんよ。どうしてですか?」
「【博愛の聖女】は我を聖国の王族だと知っておった」
──ああ、そっか。前世の記憶があるってことは、ラヴィスマンが聖国の王子だって知ってるってことだもんな。
クロードは首を横に振る。
「おれは彼女と話したことがありません。お姉様やシルとは会って話したみたいです。でも、二人が話したとも思えませんし……」
「我もそなた達が漏らしたとは思ってもおらぬよ。はて、何処から漏れたのかのう……」
クロードは「あれ?」と思った。
「ラヴィ先輩は情報が漏れたと思ってるんですね」
「あの女子が自力で気付くとは思ってるおらぬからの」
ラヴィスマンはそう言って、ふんわりと微笑んだ。
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