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ゲーム本編編 ヒロインの座を奪い取れ

もう一人の転生者

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「あんた、転生してきたんでしょお?」

 後ろから唐突にそう言われて、アナスタシオスは立ち止まる。
 振り返ると、そこには主人公ヒロインレンコが立っていた。
 親の仇でも見るような鋭い目つきで、アナスタシオスを睨んでいる。
 アナスタシオスは目を動かして周囲を見回すが、人が全くいない。
──俺専門の死神と二人きりってか。やべえな。
 アナスタシオスはそう思いつつ、努めて冷静に答える。

「……転生? 何のことかしら」
「すっとぼけないでよ! アデヤ王子だけでなく、シュラルド王子もゼニファー王子も手玉に取ってさあ?」

 アナスタシオスは「あらまあ」と上品に言った。

「手玉に取るだなんて。殿下はわたくしの婚約者ですし、あとのお二人はただの友人ですわ」
「彼らだけじゃないわ! ラヴィとシルフィトもあんたに夢中! ミステールに至っては専属執事にしてるし!? キャラ崩壊も甚だしいわ!」

 レンコはアナスタシオスを指差す。

「全部全部、私のものなのに! ゲーム知識活かして、逆ハー作ろうとしてんでしょ! 汚い女!」

── 『きゃらほうかい』? 『ぎゃくはー』? こいつも訳わかんねえことばっかり言うな。やっぱり、こいつもクロードと同じ……。
 アナスタシオスは「ふう」と大きなため息をつく。

「……話が見えないけれど、貴女は転生してきた……ってことなのね?」
「だから! そう言ってんじゃん!」
「なら、貴女は自覚すべきね」

 アナスタシオスは不敵に笑う。

「今の貴女は平民。対して、わたくしは王子の婚約者。身の程を弁えなさい」
「フン! そう言ってられるのは今だけよ」

 レンコはにんまりと笑った。

「あんたはこれからあっさり婚約破棄されて、呆気なく死ぬんだから」

 □

「そ、そんなこと言われたのか!?」
「まあな」

 秘密のお茶会。
 アナスタシオスがレンコと接触したと聞いて、クロードは飛び上がった。
 更に、レンコと話した内容を聞いて、更に飛び上がった。

「レンコもおれと同じ転生者だったなんて……」

 思わなかった、と言いかけて、クロードは「でも、やっぱりそうだよな」と独りごつ。

「校門のところで、兄さんにぶつかろうとして来てたし。ぶつかった相手が〝アナスタシア〟じゃなかったのが、心底不思議そうだったし」

 それも、レンコが〝アナスタシア〟とぶつかることを知っていたのなら辻褄が合う。
 レンコはこの世界が【キュリオシティラブ】の世界であることを知っているのだ。

「っていうか、兄さん。なんで『自分は転生者じゃない』って否定しなかったんだよ?」
「俺が転生者だと誤解させておいた方が、クロードが動きやすくなるだろ? 俺はクロードの話を聞いただけで、これからどうなるかなんて詳しく知らねえからな」

 クロードは訝しげにアナスタシオスを見た。

「……また、全部背負おうとしてるんじゃないだろうな?」
「んな訳ねえって。損得を考えただけ」

 アナスタシオスはけらけらと笑った。
──本当か……?
 クロードがいくらアナスタシオスを見ても、彼の本心はわからない。
 六年間、女性として周囲を騙し続けてきた男だ。
 本心を隠すのが格段に上手くなってる。
──おれには包み隠さず話して欲しいんだけどな……。

「とりあえず、情報が欲しいな。ミステール?」

 アナスタシオスは後ろに控えていたミステールに目を向ける。

「はい、何でしょう。ナーシャ坊ちゃん」
「奴から情報を聞き出せ。つっても、直接話すんじゃねえぞ? 動向をチェックして、聞き耳立てろ。そして、それを俺達に伝えろ」
「承知しました」

 ミステールはにっこりと笑った。

「クロードの話だと、レンコは六人の王子の誰かと結ばれるんだろ? しかも、誰と結ばれるかで俺の運命がちょっと変わると」
「ああ、そうだ」

 アデヤの場合は、主人公ヒロインの内面の美しさに触れ、悪女アナスタシアを断罪する。
 シュラルドルフとゼニファーの場合は、友人アデヤを悪女アナスタシアから救うべく協力する。
 ラヴィスマン、シルフィト、ミステールの場合は、悪女アナスタシアに虐められている主人公ヒロインを救うべく、暗躍する。

「でもまあ、婚約破棄と国外追放、死亡する運命は変わらないけどな……」
「あいつもそれを知ってんだろ。だから、『俺は呆気なく死ぬ』って吐き捨てたんだ」
「レンコは兄さんが死ぬのが当然だと思ってるのか……。酷い話だ」

──兄さんは今ここに生きてるのに。
 クロードが眉を下げると、アナスタシオスはクロードの頭を撫でた。

「大丈夫。俺は死なねえよ」

 そう言って、にっと笑って見せた。

「兄さん……」
「今まで好きでもねえアデヤの野郎に散々媚び売ってやったんだ。むざむざ殺されてたまるかよ」

 アナスタシオスの目に怒りの炎が見える。
──本当にアデヤのこと嫌いなんだな……。
 アナスタシオスはメイばあやのクッキーを一齧りして、気持ちを落ち着ける。

「あの女が誰と結ばれたがってるか、ちゃんと見ておかねえとな。それで、今後の身の振り方が大きく変わる」
「そうだな。俺の方でも情報を集めてみるよ」
「おう。頼んだぜ、兄弟」

 アナスタシオスは拳を突き出す。
 クロードはその拳に自身の拳をぶつけた。
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