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ゲーム本編編 ヒロインの座を奪い取れ

ヒロインとの接触

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「さあて、運命の日だな」

 アナスタシオスとクロードは校舎を見上げた。
 今日はアナスタシオスが高等部に上がる日。
 そして、【博愛の聖女】である主人公ヒロインが高等部へ入学する日でもある。
 主人公ヒロインは校門の前に立って校舎を見上げてるところ、〝アナスタシア〟とぶつかってしまう。

『道のど真ん中でボーッと突っ立って、一体何を考えてらっしゃるの?』

 〝アナスタシア〟は尻餅をついている主人公ヒロインに冷たくそう言い放つのだ。
 これ以降、主人公ヒロインは〝アナスタシア〟の目の敵にされ、様々な嫌がらせを受けるのだ。

「予定通り、主人公ヒロインと接触しないようにしよう」
「おうよ。『君子危うきに近寄らず』ってな。わざわざ死神に近付く必要はねえ」

 アナスタシオスの死亡フラグを折るため、二人は複数の計画を立てていた。
 その一つは、入学から卒業まで主人公ヒロインに一切関わらないことだった。
 そうすれば、アナスタシオスは主人公ヒロインに嫌がらせすることもなく、殺害未遂をすることもない。
──シナリオの強制力を考えると、そう簡単にはいかないだろうけど。それなら、次の計画を実行するだけだ。

「しっかし、朝の通学時とかいう、人通りの多い時間の校門前に、人が立ってるなんてことがあんのか……?」

 そんな話をしている内に、校門が見えてくる。
 校門のど真ん中、一人の少女が校舎を見上げて仁王立ちしていた。

「……あったな」

 おそらく、あの少女が今作の主人公ヒロイン
 今は世界観と学園について説明するモノローグ中だろう。

「関わり合いになりたくねえ~。早く通り抜けちまおう」
「そうだな」

 アナスタシオスとクロードは歩を進め、主人公ヒロインの横を通り抜けた。
 そのとき急に、主人公ヒロインの体が揺れ、アナスタシオスの方へ倒れかかってきた。
──危ない、兄さん!
 クロードは咄嗟に、アナスタシオスと主人公ヒロインの間に割って入る。

「うおあっ!?」

 少女の体を支えきれず、尻餅をついてしまう。
 校門のど真ん中であったが故に、「なんだなんだ」と周囲の人が立ち止まる。

「いったぁい」

 クロードに倒れかかった少女が猫撫で声を出す。
──落ち着け、おれ。おれと彼女は初対面なんだ。冷静に、冷静に……。

「大丈夫ですか? お嬢様」

 そう声をかけている間に、クロードはアナスタシオスに先に行くように目で合図する。
 アナスタシオスは頷いて、そそくさと校舎の中へ入っていく。
──これで、兄さんが主人公ヒロインと接触することは免れた……。
 クロードの腕の中で少女は顔を上げた。
 クロードの顔を見ると、少女の表情が一変する。

「は? 誰、あんた」

 思わぬ反応に、クロードは面食らった。

「アナスタシアは何処? さっきまでそこにいたじゃない!」

──こいつ、兄さんのことを知ってる……!?
 クロードは困惑するが、顔に出ないように努めた。

「何の話でしょう?」

 クロードは少女に微笑む。

「それよりも、大丈夫ですか? 急に倒れたように見えましたよ。具合が悪いのなら、保健室に行きましょう」

 クロードは手を差し出す。
 少女はパチンとその手を叩き落とした。

「誰がアンタと行くかよ、バーカ!」

 少女はそう言い放つと、すくっと立ち上がって、ズカズカと校舎へと入っていく。
 クロードは呆然と、その後ろ姿を見つめた。
──な、何だったんだ……?

「弟君、大丈夫か?」

 そう話しかけてきたのは、アデヤとゼニファーだった。
 クロードは慌てて立ち上がる。

「アデヤ殿下、ゼニファー王子! 見てたんですか」
「あんな目立つところで座っていたら、誰だって見てしまうよ」

 アデヤは呆れたように言う。

「しかし、なんなんだ、あの少女は? 人にぶつかっておいて謝りもしないなんて、礼儀がなってないな」

 ゼニファーは眼鏡を押し上げる。

「彼女の顔に見覚えがあります。彼女は新しい【博愛の聖女】様、レンコ嬢です」
「【博愛の聖女】!? 彼女が!?」

 クロードはやっぱりな、と思った。

「【博愛の聖女】の顔と名前は公表されています。アデヤ様も覚えがあるのでは?」
「あんな、何処にでもいるような醜い顔なら、覚える気が起きなくて当然だ」
「当然じゃ……ないとは思いますが」

 相変わらず外見至上主義のアデヤに、クロードは心の中で呆れた。

「しかし、聖女というにはあまりにも礼を欠いている。あれでは、貴族社会でさぞ苦労してきたことだろう」
「それが……今回の【博愛の聖女】様は平民だそうで」
「平民だって!?」
「歴史書の記述によると、平民から【博愛の聖女】が選ばれることは珍しくないようです」
「ウーム……」

 アデヤは腕を組んで唸る。

「神にとって、人間の作った身分制度など無意味だということか……」
「【博愛の聖女】は愛を育むべく、キュリオ学園に通うことが義務付けられています。ですから、特待生として、高等部から学園に入学するのだと」
「平民なら尚更、礼儀をちゃんとしないと駄目だろう。学園に通っているのはほぼ貴族階級の人間なのだから」
「これから学ぶことになるでしょう。私達は彼女の見本となるように振る舞わなければなりませんね」
「ああ……あれが【博愛の聖女】だなんて! 何故、アナスタシアじゃないんだ! 何かの間違いであって欲しい!」

 アデヤは悔しそうにそう言った。
──はは……兄さんの演技にすっかり騙されてんなあ。将来、婚約破棄される心配がなさそうなくらいだ。
 クロードは主人公ヒロインの顔を思い浮かべる。
──それにしても、さっきの彼女の反応……嫌な予感がするな。
 彼女は〝アナスタシア〟を知っていた。
 更に、〝アナスタシア〟とぶつかろうとしていた。
 それが当然のように。
──まさか、あの子もなのか……?
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