30 / 79
ゲーム本編編 ヒロインの座を奪い取れ
最後の楽しいパーティー・前編
しおりを挟む
年末の学園主導のダンスパーティー。
二年後、このパーティーで〝アナスタシア〟は断罪され、婚約破棄と国外追放を言い渡される。
──絶対に回避してみせる……!
クロードは気を引き締めた。
彼の視線の先、ドレスに身を包んだアナスタシオスは今、婚約者のアデヤとダンスを踊っている。
「アナスタシア、今日も美しいね。ここ数年で、輪をかけて美しくなった」
アデヤはうっとりとアナスタシオスの顔を眺める。
アナスタシオスは「気持ち悪ぃな」と思いながらも、微笑みを返す。
「ありがとうございます、アデヤ殿下。お世辞だとしても嬉しいですわ」
「お世辞なんかじゃないさ! 君はこの学園の中で……いや、この世界の中で誰よりも美しい」
「わたくしより美しい人は他にもいますわ。例えば、わたくしの目の前……とか」
アナスタシオスは顔を赤らめて、視線を下にした。
「……す、すみません。今のは聞かなかったことに」
「したくないな」
「え?」
「アナスタシア、高等部を卒業したら、君にプロポーズをするよ。受け入れてくれるかい?」
「……ふふ。アデヤ様、それがプロポーズみたいですわ」
アデヤは照れ臭そうに笑った。
──流石兄さんだ。アデヤの心を完全に掴んでいる。いやむしろ、弄んでいる、か?
アナスタシオスはこの数年間、思わせぶりな態度をよく取るようになった。
身分の違いからの婚約破棄をチラつかせ、かつ、アデヤから離れたくないような素振りを見せる。
小悪魔、と呼ぶに相応しい。
──まあ、兄さんの美貌になら、弄ばれても良いかも……。
クロードは六年間変わらず、面食いであった。
□
次に踊るのは、軍国の第一王子シュラルドルフ・ジーグ・ストルゲだ。
シュラルドルフはここ数年で、すっかり男らしくなった。
身長は伸び、肩幅は広がり、精悍な顔つきになった。
「シュラルド王子、すっかり逞しくなりましたわね。昔はあんなにも可愛らしかったのに」
アナスタシオスは「ふふ」と笑いながら言う。
シュラルドルフは相変わらずの仏頂面のまま、抑揚のない声で話す。
「……こんな俺は嫌いか?」
「いいえ。男らしくて、羨ましいと。わたくしも筋肉をつけたいですわね」
「……君はそのままで十分──」
「え?」
「……いや、何でもない」
「そうですか?」
アナスタシオスは聞こえないふりをしつつ、「素直に綺麗だと言やあ良いのに。ムッツリめ」と心の中で悪態をついた。
シュラルドルフの出身国──軍国に住む者は総じて身体能力が高い。
勿論ダンスも激しく、美国民のアナスタシオスはついていくのが大変であった。
しかし、シュラルドルフとのダンスはそう感じない。
彼はアナスタシオスの身体能力に合わせているのだろう。
ゆったりと、落ち着いたステップを踏んでいた。
アナスタシオスは「ま、こういうとこは悪くねぇ」と心の中で評価していた。
「……すまないな」
唐突に、シュラルドルフは苦しそうな顔でそう言った。
「何のことですか?」
「……アデヤの腕のことだ」
数年前、アデヤは腕に怪我をして、剣を握れなくなった。
その原因はシュラルドルフをかばったからであった。
そのことを今思いだして、謝ったのだろう。
「それはわたくしではなく、アデヤ殿下に言うべきでは? 殿下、シュラルド王子と話がしたいとおっしゃってましたわよ」
「駄目だ」
「どうしてですの?」
「……俺はまだ、自分を許せそうにないからだ」
シュラルドルフはもう一度謝る。
「こんな俺と踊ってくれてありがとう、アナスタシア嬢」
そう言ってダンスを終えると、彼は人ごみの中に消えていった。
□
次に踊るのは、商国の第二王子ゼニファー・ホープ・プラグマだ。
顔を半分覆うような重たい眼鏡は、いつの間にか、顔にピッタリと合うようになっていた。
足はスラリと長く伸び、知的クール系の美形にしっかり進化している。
「アナスタシア嬢、ミステールはそちらで上手くやっていますか。……その、迷惑をかけてたりは」
「古株のメイドにいつも怒られていますわ。でも、楽しそうにやっています」
「そう……ですか」
「気になるのなら、会いに来て下さいな」
「そうなんですけどね。少しミステールを頼り過ぎかな、と」
「だから、最近いらっしゃらないのですね」
ゼニファーとミステールの国──商国は今、経済的に苦しい。
そのため、ゼニファーはミステールに助言を求めてやってくることがあった。
ミステールは王位継承権を放棄したが、ゼニファーに快く協力している。
「相談したいことがなくても良いじゃないですか。兄弟なんですもの。気軽にお話しにいらして?」
「しかし、ご迷惑では?」
「ミステール以外に迷惑はかかりませんわ。彼になら、いくらでも迷惑をかけて良いでしょう?」
毒を吐くアナスタシオスに、ゼニファーは思わず吹き出す。
「貴女にそうまで言わせるなんて。ミステールは本当に楽しくやってるらしい。……そうですね。では、近い内に」
「ふふ。お待ちしておりますわね。ミステールも楽しみに待っていると思いますわ」
「だと、良いですがね」
ゼニファーはフッと笑う。
「……貴女と弟君には本当に感謝しています。あのとき、ミステールと話す機会を作って頂いて」
「わたくし達は何もしていませんわよ。話をしたのはゼニファー様ご自身の意志ですもの。ゼニファー王子の気持ちが、ミステールに届いたのでしょう」
「……本当、貴女には敵いませんね」
アナスタシオスとゼニファーは顔を見合って笑い合った。
二年後、このパーティーで〝アナスタシア〟は断罪され、婚約破棄と国外追放を言い渡される。
──絶対に回避してみせる……!
クロードは気を引き締めた。
彼の視線の先、ドレスに身を包んだアナスタシオスは今、婚約者のアデヤとダンスを踊っている。
「アナスタシア、今日も美しいね。ここ数年で、輪をかけて美しくなった」
アデヤはうっとりとアナスタシオスの顔を眺める。
アナスタシオスは「気持ち悪ぃな」と思いながらも、微笑みを返す。
「ありがとうございます、アデヤ殿下。お世辞だとしても嬉しいですわ」
「お世辞なんかじゃないさ! 君はこの学園の中で……いや、この世界の中で誰よりも美しい」
「わたくしより美しい人は他にもいますわ。例えば、わたくしの目の前……とか」
アナスタシオスは顔を赤らめて、視線を下にした。
「……す、すみません。今のは聞かなかったことに」
「したくないな」
「え?」
「アナスタシア、高等部を卒業したら、君にプロポーズをするよ。受け入れてくれるかい?」
「……ふふ。アデヤ様、それがプロポーズみたいですわ」
アデヤは照れ臭そうに笑った。
──流石兄さんだ。アデヤの心を完全に掴んでいる。いやむしろ、弄んでいる、か?
アナスタシオスはこの数年間、思わせぶりな態度をよく取るようになった。
身分の違いからの婚約破棄をチラつかせ、かつ、アデヤから離れたくないような素振りを見せる。
小悪魔、と呼ぶに相応しい。
──まあ、兄さんの美貌になら、弄ばれても良いかも……。
クロードは六年間変わらず、面食いであった。
□
次に踊るのは、軍国の第一王子シュラルドルフ・ジーグ・ストルゲだ。
シュラルドルフはここ数年で、すっかり男らしくなった。
身長は伸び、肩幅は広がり、精悍な顔つきになった。
「シュラルド王子、すっかり逞しくなりましたわね。昔はあんなにも可愛らしかったのに」
アナスタシオスは「ふふ」と笑いながら言う。
シュラルドルフは相変わらずの仏頂面のまま、抑揚のない声で話す。
「……こんな俺は嫌いか?」
「いいえ。男らしくて、羨ましいと。わたくしも筋肉をつけたいですわね」
「……君はそのままで十分──」
「え?」
「……いや、何でもない」
「そうですか?」
アナスタシオスは聞こえないふりをしつつ、「素直に綺麗だと言やあ良いのに。ムッツリめ」と心の中で悪態をついた。
シュラルドルフの出身国──軍国に住む者は総じて身体能力が高い。
勿論ダンスも激しく、美国民のアナスタシオスはついていくのが大変であった。
しかし、シュラルドルフとのダンスはそう感じない。
彼はアナスタシオスの身体能力に合わせているのだろう。
ゆったりと、落ち着いたステップを踏んでいた。
アナスタシオスは「ま、こういうとこは悪くねぇ」と心の中で評価していた。
「……すまないな」
唐突に、シュラルドルフは苦しそうな顔でそう言った。
「何のことですか?」
「……アデヤの腕のことだ」
数年前、アデヤは腕に怪我をして、剣を握れなくなった。
その原因はシュラルドルフをかばったからであった。
そのことを今思いだして、謝ったのだろう。
「それはわたくしではなく、アデヤ殿下に言うべきでは? 殿下、シュラルド王子と話がしたいとおっしゃってましたわよ」
「駄目だ」
「どうしてですの?」
「……俺はまだ、自分を許せそうにないからだ」
シュラルドルフはもう一度謝る。
「こんな俺と踊ってくれてありがとう、アナスタシア嬢」
そう言ってダンスを終えると、彼は人ごみの中に消えていった。
□
次に踊るのは、商国の第二王子ゼニファー・ホープ・プラグマだ。
顔を半分覆うような重たい眼鏡は、いつの間にか、顔にピッタリと合うようになっていた。
足はスラリと長く伸び、知的クール系の美形にしっかり進化している。
「アナスタシア嬢、ミステールはそちらで上手くやっていますか。……その、迷惑をかけてたりは」
「古株のメイドにいつも怒られていますわ。でも、楽しそうにやっています」
「そう……ですか」
「気になるのなら、会いに来て下さいな」
「そうなんですけどね。少しミステールを頼り過ぎかな、と」
「だから、最近いらっしゃらないのですね」
ゼニファーとミステールの国──商国は今、経済的に苦しい。
そのため、ゼニファーはミステールに助言を求めてやってくることがあった。
ミステールは王位継承権を放棄したが、ゼニファーに快く協力している。
「相談したいことがなくても良いじゃないですか。兄弟なんですもの。気軽にお話しにいらして?」
「しかし、ご迷惑では?」
「ミステール以外に迷惑はかかりませんわ。彼になら、いくらでも迷惑をかけて良いでしょう?」
毒を吐くアナスタシオスに、ゼニファーは思わず吹き出す。
「貴女にそうまで言わせるなんて。ミステールは本当に楽しくやってるらしい。……そうですね。では、近い内に」
「ふふ。お待ちしておりますわね。ミステールも楽しみに待っていると思いますわ」
「だと、良いですがね」
ゼニファーはフッと笑う。
「……貴女と弟君には本当に感謝しています。あのとき、ミステールと話す機会を作って頂いて」
「わたくし達は何もしていませんわよ。話をしたのはゼニファー様ご自身の意志ですもの。ゼニファー王子の気持ちが、ミステールに届いたのでしょう」
「……本当、貴女には敵いませんね」
アナスタシオスとゼニファーは顔を見合って笑い合った。
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます
久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。
その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。
1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。
しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか?
自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと!
自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ?
ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ!
他サイトにて別名義で掲載していた作品です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
あなたを忘れる魔法があれば
美緒
恋愛
乙女ゲームの攻略対象の婚約者として転生した私、ディアナ・クリストハルト。
ただ、ゲームの舞台は他国の為、ゲームには婚約者がいるという事でしか登場しない名前のないモブ。
私は、ゲームの強制力により、好きになった方を奪われるしかないのでしょうか――?
これは、「あなたを忘れる魔法があれば」をテーマに書いてみたものです――が、何か違うような??
R15、残酷描写ありは保険。乙女ゲーム要素も空気に近いです。
※小説家になろう、カクヨムにも掲載してます
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。
楽しんで頂けると幸いです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!
ペトラ
恋愛
ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。
戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。
前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。
悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。
他サイトに連載中の話の改訂版になります。
悪役令嬢アンジェリカの最後の悪あがき
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【追放決定の悪役令嬢に転生したので、最後に悪あがきをしてみよう】
乙女ゲームのシナリオライターとして活躍していた私。ハードワークで意識を失い、次に目覚めた場所は自分のシナリオの乙女ゲームの世界の中。しかも悪役令嬢アンジェリカ・デーゼナーとして断罪されている真っ最中だった。そして下された罰は爵位を取られ、へき地への追放。けれど、ここは私の書き上げたシナリオのゲーム世界。なので作者として、最後の悪あがきをしてみることにした――。
※他サイトでも投稿中
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
えっ、これってバッドエンドですか!?
黄昏くれの
恋愛
ここはプラッツェン王立学園。
卒業パーティというめでたい日に突然王子による婚約破棄が宣言される。
あれ、なんだかこれ見覚えがあるような。もしかしてオレ、乙女ゲームの攻略対象の一人になってる!?
しかし悪役令嬢も後ろで庇われている少女もなんだが様子がおかしくて・・・?
よくある転生、婚約破棄モノ、単発です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる