悪役令嬢♂〜彼は婚約破棄国外追放死亡の運命を回避しつつ、ヒロイン達へ復讐を目論む〜

フオツグ

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ゲーム本編編 ヒロインの座を奪い取れ

最後の楽しいパーティー・前編

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 年末の学園主導のダンスパーティー。
 二年後、このパーティーで〝アナスタシア〟は断罪され、婚約破棄と国外追放を言い渡される。
──絶対に回避してみせる……!
 クロードは気を引き締めた。
 彼の視線の先、ドレスに身を包んだアナスタシオスは今、婚約者のアデヤとダンスを踊っている。

「アナスタシア、今日も美しいね。ここ数年で、輪をかけて美しくなった」

 アデヤはうっとりとアナスタシオスの顔を眺める。
 アナスタシオスは「気持ち悪ぃな」と思いながらも、微笑みを返す。

「ありがとうございます、アデヤ殿下。お世辞だとしても嬉しいですわ」
「お世辞なんかじゃないさ! 君はこの学園の中で……いや、この世界の中で誰よりも美しい」
「わたくしより美しい人は他にもいますわ。例えば、わたくしの目の前……とか」

 アナスタシオスは顔を赤らめて、視線を下にした。

「……す、すみません。今のは聞かなかったことに」
「したくないな」
「え?」
「アナスタシア、高等部を卒業したら、君にプロポーズをするよ。受け入れてくれるかい?」
「……ふふ。アデヤ様、それがプロポーズみたいですわ」

 アデヤは照れ臭そうに笑った。
──流石兄さんだ。アデヤの心を完全に掴んでいる。いやむしろ、弄んでいる、か?
 アナスタシオスはこの数年間、思わせぶりな態度をよく取るようになった。
 身分の違いからの婚約破棄をチラつかせ、かつ、アデヤから離れたくないような素振りを見せる。
 小悪魔、と呼ぶに相応しい。
──まあ、兄さんの美貌になら、弄ばれても良いかも……。
 クロードは六年間変わらず、面食いであった。

 □

 次に踊るのは、軍国の第一王子シュラルドルフ・ジーグ・ストルゲだ。
 シュラルドルフはここ数年で、すっかり男らしくなった。
 身長は伸び、肩幅は広がり、精悍な顔つきになった。

「シュラルド王子、すっかり逞しくなりましたわね。昔はあんなにも可愛らしかったのに」

 アナスタシオスは「ふふ」と笑いながら言う。
 シュラルドルフは相変わらずの仏頂面のまま、抑揚のない声で話す。

「……こんな俺は嫌いか?」
「いいえ。男らしくて、羨ましいと。わたくしも筋肉をつけたいですわね」
「……君はそのままで十分──」
「え?」
「……いや、何でもない」
「そうですか?」

 アナスタシオスは聞こえないふりをしつつ、「素直に綺麗だと言やあ良いのに。ムッツリめ」と心の中で悪態をついた。
 シュラルドルフの出身国──軍国に住む者は総じて身体能力が高い。
 勿論ダンスも激しく、美国民のアナスタシオスはついていくのが大変であった。
 しかし、シュラルドルフとのダンスはそう感じない。
 彼はアナスタシオスの身体能力に合わせているのだろう。
 ゆったりと、落ち着いたステップを踏んでいた。
 アナスタシオスは「ま、こういうとこは悪くねぇ」と心の中で評価していた。

「……すまないな」

 唐突に、シュラルドルフは苦しそうな顔でそう言った。

「何のことですか?」
「……アデヤの腕のことだ」

 数年前、アデヤは腕に怪我をして、剣を握れなくなった。
 その原因はシュラルドルフをかばったからであった。
 そのことを今思いだして、謝ったのだろう。

「それはわたくしではなく、アデヤ殿下に言うべきでは? 殿下、シュラルド王子と話がしたいとおっしゃってましたわよ」
「駄目だ」
「どうしてですの?」
「……俺はまだ、自分を許せそうにないからだ」

 シュラルドルフはもう一度謝る。

「こんな俺と踊ってくれてありがとう、アナスタシア嬢」

 そう言ってダンスを終えると、彼は人ごみの中に消えていった。

 □

 次に踊るのは、商国の第二王子ゼニファー・ホープ・プラグマだ。
 顔を半分覆うような重たい眼鏡は、いつの間にか、顔にピッタリと合うようになっていた。
 足はスラリと長く伸び、知的クール系の美形にしっかり進化している。

「アナスタシア嬢、ミステールはそちらで上手くやっていますか。……その、迷惑をかけてたりは」
「古株のメイドにいつも怒られていますわ。でも、楽しそうにやっています」
「そう……ですか」
「気になるのなら、会いに来て下さいな」
「そうなんですけどね。少しミステールを頼り過ぎかな、と」
「だから、最近いらっしゃらないのですね」

 ゼニファーとミステールの国──商国は今、経済的に苦しい。
 そのため、ゼニファーはミステールに助言を求めてやってくることがあった。
 ミステールは王位継承権を放棄したが、ゼニファーに快く協力している。

「相談したいことがなくても良いじゃないですか。兄弟なんですもの。気軽にお話しにいらして?」
「しかし、ご迷惑では?」
「ミステール以外に迷惑はかかりませんわ。彼になら、いくらでも迷惑をかけて良いでしょう?」

 毒を吐くアナスタシオスに、ゼニファーは思わず吹き出す。

「貴女にそうまで言わせるなんて。ミステールは本当に楽しくやってるらしい。……そうですね。では、近い内に」
「ふふ。お待ちしておりますわね。ミステールも楽しみに待っていると思いますわ」
「だと、良いですがね」

 ゼニファーはフッと笑う。

「……貴女と弟君には本当に感謝しています。あのとき、ミステールと話す機会を作って頂いて」
「わたくし達は何もしていませんわよ。話をしたのはゼニファー様ご自身の意志ですもの。ゼニファー王子の気持ちが、ミステールに届いたのでしょう」
「……本当、貴女には敵いませんね」

 アナスタシオスとゼニファーは顔を見合って笑い合った。
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