26 / 79
幼少期編 攻略対象達を攻略せよ
望んだ未来になった……のか?
しおりを挟む
商国から帰ってきて早々に、クロードはミステールを自室に呼び出した。
人払いを済ませ、部屋で二人きりになると、毒殺未遂の真実をミステールに打ち明けた。
「嘘……?」
「ああ。ゼニファーが毒を盛ったという話は嘘だった」
ミステールは肩をすくめて笑う。
「……そんなはずはないよ。あのティーカップには絶対……」
「お前がシナリオ通りになるんだと、思い込んだからじゃないのか」
ミステールはすっと笑みを消す。
「あの防音室に呼び出して、二人きりで話したいなんて、僕を毒殺するイベントとしか考えられない」
「シナリオ上ではそうだったかもしれない。でももう、シナリオから大分外れてるだろ」
「それは……」
「〝アナスタシア〟は周囲に当たり散らしたりしないし、シュラルドルフがアデヤを怪我させることもなかっただろ」
クロードがそう言うと、ミステールは黙りこくった。
──世界は変わりつつあることを、ミステールは認めたくないんだろう……。
ミステールは今まで、未来視──シナリオの知識を頼りに生きてきた。
シナリオから外れた瞬間、今までわかっていた未来がわからなくなる。
誰だって、これからどうなるかわからないのは不安になるものだ。
──だからといって、ゼニファーの本当の気持ちから、目を逸らして貰っちゃ困る。
「ゼニファーは『ミステールに危険を知らせ、避難させたかっただだけだ』と言ってたぞ」
「嘘だ……。だって、僕を逃すだけなら、もっと良い方法があったはずだろう?」
「それは……」
確かにそうだ。
しかし、それには理由があると、クロードは思っている。
「……多分、シナリオの強制力が働いたんだと思う」
「シナリオの強制力だって?」
「アデヤが剣術大会出場を辞退したのにも関わらず、シュラルドルフは暴走しただろ? この世界は、ある程度、シナリオをなぞるように進もうとするのかもしれない」
今回の件もそうだ。
ミステールの「シナリオ通りに進むだろう」という異常な思い込みと、ゼニファーの不用意な発言。
特に、後者のゼニファーの発言は明らかにおかしい。
ゼニファーは「ミステールとの関係を改善したい」と言っていた。
そのはずなのに、「毒を盛った」と嘘をつくなんて、いくらミステールを避難させたかったとはいえ、矛盾している。
「第一、ゼニファーが何を言ってもお前は取り合わなかったんだろう? だから、荒療治に出るしかなかったんだ。きっと」
「……向こうも同じさ。僕がいくら『大丈夫だ』って言っても『ここは危険だ。避難しろ』の一点張りだった」
「お前に死んで欲しくなかったからだよ。お前はゲーム本編まで何があっても死なないことを知ってるから、ドンと構えていたんだろうけど。知らない人から見ると、危機感がないって思うだろ」
──おれも立場が同じだから、ゼニファーの気持ちがわかるなあ。
双子の兄弟のミステールを生かしたい片割れのゼニファー。
兄のアナスタシオスを生かしたい弟のクロード。
兄弟を助けたいと思う気持ちは同じだ。
「もう一度、ゼニファーとよく話してみろよ。ゼニファーの好きなマカロンでも手土産にしてさ」
「……そんな機会、もうないよ。僕はもう平民、ゼニファーは王族だ。身分が違う。向こうも僕と話したくないだろうし」
「そんなこと……」
話の途中で、コンコン、と扉をノックする音が聞こえた。
続いて、メイばあやの声が聞こえてくる。
「お話の最中すみません。少しよろしいですか?」
ミステールは椅子から腰を上げた。
「ああ、良いよ、メイさん。たった今、話が終わったところさ」
「ミステール、まだ話は……」
ミステールはクロードの言葉を待たずに、部屋の扉を開けた。
メイばあやが扉の前にいた。
彼女はミステールの顔を見て、ニッコリと笑った。
「ミステールさん、お客様ですよ」
「僕に?」
メイばあやの後ろにミステールと同じ顔をした少年が立っていた。
ゼニファーだ。
ミステールはギョッとして、一歩足を引いた。
「ぜ、ゼニファー……!?」
「や、やあ、ミステール。久しぶりだな。息災だったか?」
ゼニファーがぎこちなく挨拶する。
ミステールはばつが悪そうに顔を逸らした。
クロードはそんな二人を見て、思わず笑みが溢れた。
「ゼニファー王子、ミステール、おれ達は席を外します。どうぞ二人でゆっくり話して下さい」
クロードはそう言って、メイばあやを連れて部屋を離れた。
その後、二人がどんな話をしていたのかはわからない。
ただ、話を終えて部屋から出てきた二人が、何処かすっきりとした顔をしていて、良い話が出来たのだろうとは予想出来た。
ゼニファーは王位を継承することを決めたらしい。
「商国は私に任せて下さい」
去り際、ミステールに笑顔でそう言っていた。
ミステールは国に帰らず、フィラウティア家の執事見習いのままとなった。
たまに、ゼニファーが会いに来る。
そのとき、ミステールが何か助言をしてるらしい。
「望み通り、『二人で手を取り合って』……って感じだな」
──ミステールが大分楽してる感じもなくはないけど……。
ミステールに何か叱りつけるメイばあやと、楽しそうに追いかけっこをしているミステールを見ながら、クロードはそう思った。
人払いを済ませ、部屋で二人きりになると、毒殺未遂の真実をミステールに打ち明けた。
「嘘……?」
「ああ。ゼニファーが毒を盛ったという話は嘘だった」
ミステールは肩をすくめて笑う。
「……そんなはずはないよ。あのティーカップには絶対……」
「お前がシナリオ通りになるんだと、思い込んだからじゃないのか」
ミステールはすっと笑みを消す。
「あの防音室に呼び出して、二人きりで話したいなんて、僕を毒殺するイベントとしか考えられない」
「シナリオ上ではそうだったかもしれない。でももう、シナリオから大分外れてるだろ」
「それは……」
「〝アナスタシア〟は周囲に当たり散らしたりしないし、シュラルドルフがアデヤを怪我させることもなかっただろ」
クロードがそう言うと、ミステールは黙りこくった。
──世界は変わりつつあることを、ミステールは認めたくないんだろう……。
ミステールは今まで、未来視──シナリオの知識を頼りに生きてきた。
シナリオから外れた瞬間、今までわかっていた未来がわからなくなる。
誰だって、これからどうなるかわからないのは不安になるものだ。
──だからといって、ゼニファーの本当の気持ちから、目を逸らして貰っちゃ困る。
「ゼニファーは『ミステールに危険を知らせ、避難させたかっただだけだ』と言ってたぞ」
「嘘だ……。だって、僕を逃すだけなら、もっと良い方法があったはずだろう?」
「それは……」
確かにそうだ。
しかし、それには理由があると、クロードは思っている。
「……多分、シナリオの強制力が働いたんだと思う」
「シナリオの強制力だって?」
「アデヤが剣術大会出場を辞退したのにも関わらず、シュラルドルフは暴走しただろ? この世界は、ある程度、シナリオをなぞるように進もうとするのかもしれない」
今回の件もそうだ。
ミステールの「シナリオ通りに進むだろう」という異常な思い込みと、ゼニファーの不用意な発言。
特に、後者のゼニファーの発言は明らかにおかしい。
ゼニファーは「ミステールとの関係を改善したい」と言っていた。
そのはずなのに、「毒を盛った」と嘘をつくなんて、いくらミステールを避難させたかったとはいえ、矛盾している。
「第一、ゼニファーが何を言ってもお前は取り合わなかったんだろう? だから、荒療治に出るしかなかったんだ。きっと」
「……向こうも同じさ。僕がいくら『大丈夫だ』って言っても『ここは危険だ。避難しろ』の一点張りだった」
「お前に死んで欲しくなかったからだよ。お前はゲーム本編まで何があっても死なないことを知ってるから、ドンと構えていたんだろうけど。知らない人から見ると、危機感がないって思うだろ」
──おれも立場が同じだから、ゼニファーの気持ちがわかるなあ。
双子の兄弟のミステールを生かしたい片割れのゼニファー。
兄のアナスタシオスを生かしたい弟のクロード。
兄弟を助けたいと思う気持ちは同じだ。
「もう一度、ゼニファーとよく話してみろよ。ゼニファーの好きなマカロンでも手土産にしてさ」
「……そんな機会、もうないよ。僕はもう平民、ゼニファーは王族だ。身分が違う。向こうも僕と話したくないだろうし」
「そんなこと……」
話の途中で、コンコン、と扉をノックする音が聞こえた。
続いて、メイばあやの声が聞こえてくる。
「お話の最中すみません。少しよろしいですか?」
ミステールは椅子から腰を上げた。
「ああ、良いよ、メイさん。たった今、話が終わったところさ」
「ミステール、まだ話は……」
ミステールはクロードの言葉を待たずに、部屋の扉を開けた。
メイばあやが扉の前にいた。
彼女はミステールの顔を見て、ニッコリと笑った。
「ミステールさん、お客様ですよ」
「僕に?」
メイばあやの後ろにミステールと同じ顔をした少年が立っていた。
ゼニファーだ。
ミステールはギョッとして、一歩足を引いた。
「ぜ、ゼニファー……!?」
「や、やあ、ミステール。久しぶりだな。息災だったか?」
ゼニファーがぎこちなく挨拶する。
ミステールはばつが悪そうに顔を逸らした。
クロードはそんな二人を見て、思わず笑みが溢れた。
「ゼニファー王子、ミステール、おれ達は席を外します。どうぞ二人でゆっくり話して下さい」
クロードはそう言って、メイばあやを連れて部屋を離れた。
その後、二人がどんな話をしていたのかはわからない。
ただ、話を終えて部屋から出てきた二人が、何処かすっきりとした顔をしていて、良い話が出来たのだろうとは予想出来た。
ゼニファーは王位を継承することを決めたらしい。
「商国は私に任せて下さい」
去り際、ミステールに笑顔でそう言っていた。
ミステールは国に帰らず、フィラウティア家の執事見習いのままとなった。
たまに、ゼニファーが会いに来る。
そのとき、ミステールが何か助言をしてるらしい。
「望み通り、『二人で手を取り合って』……って感じだな」
──ミステールが大分楽してる感じもなくはないけど……。
ミステールに何か叱りつけるメイばあやと、楽しそうに追いかけっこをしているミステールを見ながら、クロードはそう思った。
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます
久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。
その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。
1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。
しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか?
自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと!
自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ?
ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ!
他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

あなたを忘れる魔法があれば
美緒
恋愛
乙女ゲームの攻略対象の婚約者として転生した私、ディアナ・クリストハルト。
ただ、ゲームの舞台は他国の為、ゲームには婚約者がいるという事でしか登場しない名前のないモブ。
私は、ゲームの強制力により、好きになった方を奪われるしかないのでしょうか――?
これは、「あなたを忘れる魔法があれば」をテーマに書いてみたものです――が、何か違うような??
R15、残酷描写ありは保険。乙女ゲーム要素も空気に近いです。
※小説家になろう、カクヨムにも掲載してます

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。
楽しんで頂けると幸いです。

一番悪いのは誰
jun
恋愛
結婚式翌日から屋敷に帰れなかったファビオ。
ようやく帰れたのは三か月後。
愛する妻のローラにやっと会えると早る気持ちを抑えて家路を急いだ。
出迎えないローラを探そうとすると、執事が言った、
「ローラ様は先日亡くなられました」と。
何故ローラは死んだのは、帰れなかったファビオのせいなのか、それとも・・・
悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!
ペトラ
恋愛
ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。
戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。
前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。
悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。
他サイトに連載中の話の改訂版になります。
悪役令嬢アンジェリカの最後の悪あがき
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【追放決定の悪役令嬢に転生したので、最後に悪あがきをしてみよう】
乙女ゲームのシナリオライターとして活躍していた私。ハードワークで意識を失い、次に目覚めた場所は自分のシナリオの乙女ゲームの世界の中。しかも悪役令嬢アンジェリカ・デーゼナーとして断罪されている真っ最中だった。そして下された罰は爵位を取られ、へき地への追放。けれど、ここは私の書き上げたシナリオのゲーム世界。なので作者として、最後の悪あがきをしてみることにした――。
※他サイトでも投稿中
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

えっ、これってバッドエンドですか!?
黄昏くれの
恋愛
ここはプラッツェン王立学園。
卒業パーティというめでたい日に突然王子による婚約破棄が宣言される。
あれ、なんだかこれ見覚えがあるような。もしかしてオレ、乙女ゲームの攻略対象の一人になってる!?
しかし悪役令嬢も後ろで庇われている少女もなんだが様子がおかしくて・・・?
よくある転生、婚約破棄モノ、単発です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる