悪役令嬢♂〜彼は婚約破棄国外追放死亡の運命を回避しつつ、ヒロイン達へ復讐を目論む〜

フオツグ

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幼少期編 攻略対象達を攻略せよ

めでたしめでたし

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「シュラルドルフにもゼニファーにも弟君にも、怪我がなくて良かった」

 アデヤは満足そうにうんうんと頷く。

「だが、アナスタシア! 君はどうして無茶をしたんだ! 君の美しい顔に傷がついたらどうする!」

 アデヤは目を吊り上げて、アナスタシオスを叱りつける。
 そうされてアナスタシオスは冷めた表情で言った。

「……アデヤ様。わたくしは自分が傷つくよりも、愛する人が傷つくことが嫌です」

 アナスタシオスにとって、『愛する人』とはクロードを示していた。
 しかし、アデヤは自分自身のことと脳内で変換しただろう。
 わざと、そう勘違いするような言い方をした。

「もしまた、愛する人が傷つけられるようなことがあったとしても、わたくしがすることは同じですわ」
「僕も君と同じ考えだ! 僕も愛する人……君に傷ついて欲しくない!」

 アデヤはアナスタシオスの手を握った。
 眉を下げ、心底心配そうな顔で訴える。

「頼む、僕のアナスタシア。もう無茶は止めてくれ。僕の心臓がもたない……」

 そこまで言われても、アナスタシオスは納得していないようだった。
 強い力でアデヤの手を振り解く。

「……嫌なのであれば、婚約破棄をして頂くしかありません」
「アナスタシア!」

 アナスタシオスは早足で保健室の扉に向かう。

「お大事なさって下さい」

 アナスタシオスは一礼をすると、保健室を出た。
──え、嘘だろ!?
 クロードは慌てて、アナスタシオスの後を追った。
 アナスタシオスは走るような速度で廊下を歩いている。

「待ってくれ! お姉様!」

 クロードはアナスタシオスき追いつくと、彼の肩を掴んだ。

「婚約破棄って、本気なのか!?」
「本気よ」

 アナスタシオスは振り返る。
 人目があるからか、彼は淑やかに振る舞っている。

「そもそも、わたくしとアデヤ殿下は望まれない婚約だったでしょう」

 男同士で婚約したことだろう。
 王族は子を成し、血を残していかなければならない。
 男同士ではそれを成せない。

「そして、今回、価値観が違うことがわかった。これでお別れ。全て終わりよ」
「終わり……」
「婚約がなくなったら、学園を去らなければならないわ。クロード、準備をしてね」

 アナスタシオスは前に向き直り、廊下の先を行く。
 クロードはその背中を見送ることしか出来なかった。
──終わり……終わりか。
 クロードの目的は、アナスタシオスが死なないようにすること。
 学園を去れば、彼が【博愛の聖女】をいじめて、断罪されて、国外追放されることもない。
 ハッピーエンドだ。
 めでたしめでたし。
──本当に?
 アデヤとの婚約は望んでなかった。
 学園に通う話が出たときだって、行きたくなさそうだった。
 だが、アナスタシオスの背中に、悲壮感を感じるのは何故だろう。

「お姉様、寂しいんじゃないのか?」

 浮かんだ疑問をぶつけてみる。
 アナスタシオスはぴたりと足を止めた。

「……そんな訳、ないじゃない」

 アデヤとの婚約がなくなったら、学園に通えなくなる。
 元いた場所に戻ることになるだろう。
 そこにいる同年代の子供は、アナスタシオスとクロードの二人だけだ。
──兄さんは学園に来てから、楽しそうだった。
 たくさんの人と一緒に勉強をして、好きな乗馬を同じ趣味の人と楽しんで、剣術大会を観戦して……。
 忙しかったが、退屈な田舎より、確かに充実していた。

「寂しくなんてないわ。少し前に戻るだけよ」
「でも……」
「うるっさい! もう終わったの! 弟の癖に口答えしない!」

 アナスタシオスは激昂した。
 周囲の目が彼に向く。

「いつか、こんな日が来ると思ってた。だから、知らないふりしてたのに。なんで、迷わせるようなこと……」

 アナスタシオスは顔を顰めて、クロードを睨みつける。

「……ごめん」

 クロードはただ謝るしか出来なかった。
 長い目で見れば、この婚約破棄はとても良いものだ。
 誰も傷つかずに済む。
 一時の感情で──学園生活が楽しいからという理由で、チャンスを逃して良いはずがない。
 アナスタシオスは再び足を前に進めた。
──終わって良いんだ。兄さんの死亡フラグもこれでなくなるんだから……。
 クロードもアナスタシオスの後に続いて、足を踏み出した──。

「──待ってくれ、アナスタシア!」

 呼び止められて、二人は足を止める。
 振り向くと、肩で息をするアデヤがいた。

「君はずっと、そんな風に思っていたのか。望まれない婚約だと。王族と男爵家の娘なんて、身分違いの恋だと!」

──違う。
 男同士で婚約したことだ。
 だが、そんなこと、アデヤが知る由もない。

「だって、そうでしょう!? 他の人達も言っています。殿下の婚約者がこんな田舎者では、あまりにも釣り合っていないと!」

 アナスタシオスはその話に乗った。
 本当のことは言えないからだ。

「美しさに嫉妬する醜い者達の言うことなど、君が気にすることはない! 君は誰よりも美しいのだから!」

 アデヤは早足でアナスタシオスに近づき、彼を抱き締めた。

「僕は君を愛している! 他の人にも、父にも! 文句など言わせるものか!」

 人の往来の中での熱烈な愛の告白。
 それを聞いた周囲の人間は色めき立った。

「きゃー! 素敵! アデヤ王子、本当に婚約者を愛しているのね!」
「人前で抱き合うなんてお熱いですねえ。ヒューヒュー!」

 アナスタシオスは非常に戸惑ったが、空気を読んでアデヤの背中に手を回す。
 すると、歓声が一際大きくなった。

 アデヤと周囲の人達にすっかり忘れ去られたクロードは、そっとその場を離れた。
──やっぱり、国王にも文句言われてたんだな。そりゃそうか。男との婚約関係なんて、普通続けられる訳ないし。
 クロードは「あれ?」と首を傾げる。
──確かにそうだよな?
 声変わりや体つき……歳を重ねたら、どうしても男女の違いが出てくるものだ。
──もしかして、死亡フラグを折る、又とないチャンスを潰した!? おれが呼び止めたせいで、アデヤが追いついちゃって!? ごめん、兄さん!
 クロードは頭を抱えて、その場に蹲った。

「でも……」

 クロードは学園でのアナスタシオスの笑顔を思い出す。
──死亡フラグを折る方法はまたあとで考えよう……。

「君は誰だ?」

 突如、目の前に逆さの顔が現れる。

「ひっ……!?」

 クロードは驚いて、尻餅をついた。
 後ろに人が立っていて、顔を覗き込まれていたのだ。

「僕は知らない。君のことを知らない」

 ゼニファーとほぼ同じ顔のその男。
 攻略対象の一人だ。
──絶対に会いたくなかった。このキャラだけには……!

「ミステール・ルダス……!」
「やあ、クロード・フィラウティア。初めまして?」
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