悪役令嬢♂〜彼は婚約破棄国外追放死亡の運命を回避しつつ、ヒロイン達へ復讐を目論む〜

フオツグ

文字の大きさ
上 下
18 / 79
幼少期編 攻略対象達を攻略せよ

シナリオ改変の後に

しおりを挟む
「うう……」

 シュラルドルフは瞼を開ける。
 長い間眠っていたのか、体が重く、直ぐには起き上がれなかった。

「シュラルドルフ王子! 目を覚まされたのですね!?」

 シュラルドルフの顔を心配そうに覗き込んだのは美しい人。
 アナスタシア・フィラウティアとその弟クロードの顔があった。
 シュラルドルフはゆっくりと上体を起こした。

「ここは……」
「学園の保健室ですじゃ」

 そうシュラルドルフに話しかけたのは、桃色の長髪の男子生徒ラヴィスマンであった。
 ラヴィスマンは優しく微笑みかける。

「我は聖国の者ですじゃ。勝手ながら、貴方の診察をさせて頂きました。自分の名前は言えますかな?」
「……シュラルドルフ・ジーグ・ストルゲだ」
「ご出身は?」
「……軍国。俺は軍国の第一王子だ」
「ほうほう。では、この二人が誰だか覚えてますかの?」

 この二人、と言って指を差したのはアナスタシオスとクロードだった。

「……アナスタシア・フィラウティアとその弟……クロードだ」
「ふむ」

 ラヴィスマンは頷く。

「特に問題はないようじゃの」
「良かった……本当に!」

 顔の全く違う姉弟は抱き合って喜びを分かち合う。

「診て下さってありがとうございます、ラヴィ様」
「何の、何の。友人の頼みとあらば、直ぐに駆けつけるでな」

 そう言ってからからと笑いながら、ラヴィスマンは後ろに下がった。
 シュラルドルフは今の状況を掴めず、ただただ困惑する。

「一体何が……」
「貴方は剣術大会の最中に、錯乱してしまったようです」

 フィラウティア姉弟の後ろにアデヤとゼニファーがいた。
 彼らは厳しい表情をしていたが、安堵が隠せていない。

「……俺は何をしたんだ」
「私達に襲いかかってきたのです。覚えていらっしゃいませんか」
「……すまない」
「……そうですか」

 ゼニファーは険しい顔で続けた。

「貴方は、このキュリオシティでの不戦協定を破りました。私はこのことを、商国王に報告せねばなりません」
「え!? 報告!?」

 クロードは驚きの声を上げる。
──そんなことしたら、大事になるじゃないか! シュラルドルフがゼニファーとアデヤに後ろめたさを残したら、アナスタシア断罪ルートに繋がる! なんとかしなければ……!

「報告なんて大袈裟な……! 剣術大会でちょっと行き違いがあっただけじゃないですか!?」
「行き違い?」
「そ、そうです! シュラルドルフ王子は試合が終わったことに気付いてなくて、それで……!」
「試合の延長だったと? 私は剣を持っていなかったのに? アデヤ様が乱入してきたのに? 貴方方がしがみついて止めていたのに?」
「そ、それは……」

 クロードは言葉に詰まってしまう。

「話になりませんね」

 ゼニファーは首を横に振った。

「では、私はこれで失礼します」

 ゼニファーは踵を返し、扉へと向かう。
 そして、保健室の扉に手をかけた。

「本当によろしいのですか?」

 アナスタシオスが冷たい声でそう尋ねる。

「……何です?」
「ゼニファー王子には言いたいことがあるように見えますわ。貴方の御父上に報告してしまったら、言えないままになるかもしれません。今ここで言うべきです」

 ゼニファーは眼鏡を押し上げながら、ため息をつく。

「アナスタシア嬢、王族同士の関係というのは難しいのですよ。貴女には理解出来ないでしょうが……」
「ええ! 何もわかりませんわ! 辺境の男爵令嬢ですもの!」

 アナスタシアは胸を張って言った。

「でもね、これだけはわかります。お二人には言葉が足りない! ……言いたいことがあるなら、直ぐに言えってんだ! うだうだ面倒臭えな!」

 急に口調が崩れたアナスタシオスに、ゼニファーは面食らった顔をする。

「おっと、失礼。田舎の乱暴な言葉遣いが出てしまいましたわ」

 アナスタシオスはおほほ、と上品に笑った。

「ゼニファー王子、シュラルドルフ王子の言葉に耳を傾けてあげて下さい。彼はのんびり屋さんですから、直ぐに言葉は出て来ないかもしれませんけれど」

 ゼニファーはグッと唇を噛む。
 そして、ズカズカとシュラルドルフに近づいた。

「シュラルドルフ王子、私に刃を向けたのはどうしてですか?」
「……それは」
「答えられませんか?」
「ゼニファー王子、少し落ち着いて……」

 矢継ぎ早に聞くゼニファーをクロードは窘める。
 ゼニファーはばつが悪そうな顔した。

「……すみません。ゆっくりで構いませんので、正直に答えて下さい」

 ゼニファーはシュラルドルフの顔を見て、彼の言葉を待った。

「……声が」

 シュラルドルフはたっぷりと間を開けた。
 話そうか迷いながら、言葉を選びながら、ポツポツと語り出す。

「声が、聞こえたのだ。父の声が」
「貴方の父……軍国王ですか」
「そうだ。その声は、『他国の王子の首を取れ』と言ってきた」
「他国の王子……私達のこと」

 シュラルドルフは頷いた。

「父は愛国心が非常に強いお人だ。我が軍国が世界を支配すると信じてやまない。だから父は、俺に何度も言い聞かせたのだ。『負けは許されない』……と」

 シュラルドルフは目を瞑り、天を仰いだ。

「俺はあの人の言うことが正しいと思っていた。ここ、キュリオ学園に来る前までは……」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

あなたを忘れる魔法があれば

美緒
恋愛
乙女ゲームの攻略対象の婚約者として転生した私、ディアナ・クリストハルト。 ただ、ゲームの舞台は他国の為、ゲームには婚約者がいるという事でしか登場しない名前のないモブ。 私は、ゲームの強制力により、好きになった方を奪われるしかないのでしょうか――? これは、「あなたを忘れる魔法があれば」をテーマに書いてみたものです――が、何か違うような?? R15、残酷描写ありは保険。乙女ゲーム要素も空気に近いです。 ※小説家になろう、カクヨムにも掲載してます

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。

愛する人のためにできること。

恋愛
彼があの娘を愛するというのなら、私は彼の幸せのために手を尽くしましょう。 それが、私の、生きる意味。

一番悪いのは誰

jun
恋愛
結婚式翌日から屋敷に帰れなかったファビオ。 ようやく帰れたのは三か月後。 愛する妻のローラにやっと会えると早る気持ちを抑えて家路を急いだ。 出迎えないローラを探そうとすると、執事が言った、 「ローラ様は先日亡くなられました」と。 何故ローラは死んだのは、帰れなかったファビオのせいなのか、それとも・・・

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

悪役令嬢アンジェリカの最後の悪あがき

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【追放決定の悪役令嬢に転生したので、最後に悪あがきをしてみよう】 乙女ゲームのシナリオライターとして活躍していた私。ハードワークで意識を失い、次に目覚めた場所は自分のシナリオの乙女ゲームの世界の中。しかも悪役令嬢アンジェリカ・デーゼナーとして断罪されている真っ最中だった。そして下された罰は爵位を取られ、へき地への追放。けれど、ここは私の書き上げたシナリオのゲーム世界。なので作者として、最後の悪あがきをしてみることにした――。 ※他サイトでも投稿中

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

処理中です...