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幼少期編 攻略対象達を攻略せよ

暴走

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「負ケハ許サレナイ……!」

 シュラルドルフはゼニファーの脳天に向けて剣を振り下ろす。

「なっ……!」

──避けなければならない。
 ゼニファーは直感的にそう思った。
 この攻撃を受けたら、致命傷になると。
 そして、避けられないとも……。

「うわあああああ!」

 ゼニファーの剣は未だ遠くの方にある。
 剣を持っていないゼニファーは咄嗟に両腕で体を庇った。
 ガキン、と剣同士がぶつかる音がして、ゼニファーは恐る恐る前を見た。

「あ、アデヤ様……!?」

 そこには、先程まで客席にいたはずのアデヤの背中があった。
 シュラルドルフの振った剣は、アデヤの剣によって防がれている。
 アデヤはパッとゼニファーを見た。

「無事かい、ゼニファー!」
「わ、私は無事ですが……!」

 グッと剣に力を込め、アデヤはシュラルドルフの剣を弾く。
 シュラルドルフは後ろに大きく飛び、距離を取った。

「どうしたんだ、シュラルド! 君は、理由もなく人を傷つけるような人じゃないだろう!?」
「ウウ……アァ……」

 シュラルドルフは片手で頭を押さえて、フラフラと横に揺れている。

「下がって下さい、アデヤ様! 今のシュラルドルフ様に話が通じません!」
「シュラルドは人間だ。話せば伝わるさ!」
「そういう問題ではないのです! 私は直感的に人の感情が読めるのですが……」

 ゼニファーは眉をしかめ、シュラルドルフを見つめた。

「シュラルドルフ様の感情が先程から読めないのです……! どす黒いもやのようなものが彼を包んでいて……」
「もや……!? それはどうしたら晴れるんだ!?」
「わかりません……! とりあえず、今のシュラルドルフ様は危険です! 逃げましょ──」

 シュラルドルフは剣を握り直し、アデヤに向かっていく。

「シュラルド……!」

 クロードは客席から、その様子をただ茫然と見てることしか出来なかった。
──このままでは、シナリオ通り、アデヤが怪我を負ってしまう。アデヤが剣術大会の出場を辞退しても、その運命は変わらないのか。
 無力感がクロードの心を支配する。
──結局、運命には抗えないのか……。

「──馬鹿か、おれは!」

 クロードは力強く一歩足を踏み出した。
──おれは、今! ここに生きている! アナスタシアが断罪されるのを、画面の向こうで見てるしか出来なった、前世とは違う!

「動くんだ、おれ!」

 クロードは客席から飛び降りる。
 着地した際、足がじーんと痛んだが、直ぐにシュラルドルフに向かって走り出した。

「うおりゃあ!」

 クロードはシュラルドルフに横からから抱きつき、進行を阻止する。

「君は……!」
「弟君!?」

 アデヤとゼニファーが驚く。
 クロードは叫んだ。

「アデヤ殿下! ゼニファー王子! 今の内に逃げて下さい! シュラルドルフ王子はおれが食い止めま──ブッ!」

 シュラルドルフの裏拳打ちがクロードの鼻に当たる。

「いてて……」

 鼻血が垂れ、痛みで涙が滲んでしまうが、腕だけは決して離さなかった。
 クロードは力一杯叫んだ。

「目を覚ませ! シュラルドルフ! 目の前にいるのは誰だ!? よく考えろ!」
「ウウ……ウ……! 負ケハ、負ケ、ハ、許サレナイ……!」

 シュラルドルフは前に進もうと足を動かした。

「止まれ! 止まれよぉ……!」

 クロードはシュラルドルフに全体重をかけて止めようとする。
 しかし、彼はずりずりとクロードを引き摺りながら進んでいく。
──駄目だ! 俺じゃ止められない……! 転生前の……高校生くらいの力と体重だったら……!

「く、そお……!」

──結局、おれは無力なんじゃないか……!
 クロードが諦めかけたそのときだった。
 ぴたり、とシュラルドルフの動きが止まった。

「えっ……?」

 横を見ると、アナスタシオスがいた。
 アナスタシオスはクロードと同じようにシュラルドルフにしがみついて、動きを止めようとしている。

「に……お姉様!?」
「諦めんな、クロード! 死ぬ気で力を込めろ!」

 アナスタシオスの口調が崩れてる。
 だが、そんなこと気にしてられない。
 腕に力を込め、シュラルドルフが進まないように止める。

「邪魔、ヲ、スルナ……!」

 シュラルドルフが腕を振る。
 彼の腕が、アナスタシオスの頬や頭にガンガンと当たる。

「いってえな、クソ……」
「お姉様! 危ないから離れてくれ!」
「平気だ、こんくらい!」

 アナスタシオスは必死に叫ぶ。

「シュラルド! てめえは傷つけたくないはずだ! だって、目の前にいるのは、親友なんだからよお!」
「シン……ユウ……?」
「そうだ! 見ろ!」

 アナスタシオスはシュラルドルフの顎を掴み、前を向かせる。

「金髪と水色の目の奴は誰だ!?」
「ア……アデ、ヤ、ダ……」
「水色の髪、黄緑色の目の奴は!?」
「ゼ、ニ……ファー……」
「二人はてめえのなんだ!?」

 アデヤとゼニファーを見るシュラルドルフの目に光が宿る。

「……シン、ゆう、だ……」

──あ。シュラルドルフ様を包んでいた黒いもやが消えていく……。
 ゼニファーは霧散する黒いもやを眺める。

「お、れは……」

 シュラルドルフの手から剣が滑り落ちた。
 足の力が抜け、シュラルドルフはその場に倒れ込んだ。

「しゅ、シュラルド!?」
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