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幼少期編 攻略対象達を攻略せよ

完璧系王子様との決闘

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「では、このゼニファーが、勝負の立会人を勤めさせて頂きます」
「ああ。頼むよ、ゼニファー」

 アデヤが頷く。

「勝敗は『降参』と言った方が負け。それでよろしいですか?」
「はい!」

 クロードは大きな声で返事をした。

「それでは、ご両人。剣を構えて」

 アデヤは片手で弄ぶように剣を持っている。
 対してクロードは両手でしっかりと剣を持った。

「……初め!」
「うおおおおお!」

 ゼニファーの合図とほぼ同時に、クロードは駆け出した。
 アデヤの脇腹目掛けて、剣を横に振る。
 アデヤはゆっくりと剣を動かしたかと思うと素早く剣を振った。

「ぐうっ……!」

 剣が弾かれ、クロードはバランスを崩し、尻餅をついた。

「い、いてて……」

 クロードは地面に打ちつけた尻を摩る。

「『剣技は人を傷つけるものでは非ず。人に魅せるものである』……僕の美学だ」

 クロードの喉元に剣先が向けられた。

「どうだい? 僕の美しい剣技は」

 アデヤはキラキラと眩しい笑顔でそう言った。
 クロードはごくりと唾を飲み込む。
──ルッキズムですっかり忘れてた……。そういえば、アデヤは完璧王子様属性!
 勉強、運動、美術……アデヤは何でも美しく完璧にこなす。
 これでも、乙女ゲームの攻略対象である。
──そりゃ、モブキャラのおれが全く敵わないはずだ……!

「それでも……」

 クロードは立ち上がり、痺れる手で剣を握り直す。

「……まだ、やるかい?」
「勿論です。おれはまだ、諦められない!」

──おれは兄さんを救いたい!
 この勝負は『降参』と言った方が負け。
 つまり、『降参』と言わなければ負けにはならない。
 これが目当てで、そういうルールにしたのだ。
──おれは絶対に『降参』と言わない!

「おれは絶対に負けません!」

 クロードはギッとアデヤは睨みつけた。

「醜い……」

 アデヤは深く、深くため息をついた。

「潔く負けを認めないなんて。君の姉はあんなに美しいのにね」

 彼は剣を持ち直す。

「弱い者を悪戯に傷つけるのは僕の美学に反する。が……諦めが悪いなら仕方ない。君が納得するまでやろうか」
「やあああああ!」

 クロードは剣を振り上げ、アデヤの肩に向かって振り下ろす。
 アデヤはそれを軽く弾いた。

「くっ……!」

──駄目だ! 力量に差があり過ぎる!
 クロードが体制を崩したところ、アデヤはガラ空きの懐に入り込む。
──え、早っ……!
 次の瞬間、腹部に痛みが走る。

「かはっ……」

 クロードは地面に伏す。

「ゲホッ、ゴホッ! うう……」
「まだやるかい?」

 痛みで涙目になりながら、クロードは言う。

「や、やりま──!」

「──クロード!」

 甲高い声が校庭に響き渡る。
──この声は……!

「お、お姉様……!?」

 アナスタシオスだった。
 アナスタシオスはクロードに駆け寄ると、ギュッと抱き締める。

「どうしてここに!?」
「シルフィトが教えてくれたの。クロードとアデヤ殿下が決闘をしていると」
「シルが……?」

 ふと横を見ると、心配そうな顔をしたシルフィトの姿があった。
──見られてたのか……。

「殿下! わたくしの弟に何をするんですか!?」

 アナスタシオスがアデヤをキッと睨みつけた。
 アデヤは慌てて答える。

「いや、それは、君の弟が……」
「言い訳なんて聞きたくありません! 人を傷つける殿下なんて大嫌いです!」
「だい……きらい……?」

 アデヤは何を言われたか理解出来ず、困惑した。

『大嫌いです』

 そのアナスタシオスの言葉がアデヤの頭の中で反芻する。
 アデヤはぷるぷると体を震わせて言った。

「……辞める……」
「あ、アデヤ様?」

 ゼニファーが心配そうにアデヤを見た。

「剣術大会に出るの辞める!」
「ええっ!?」

 □

 図らずも、クロードはアデヤの剣術大会に辞退をもぎ取った。
──完全に兄さんのおかげだけどな……。おれはただ完敗しただけ。
 そして、迎えた剣術大会当日……。

「まあ、見て! クロード! 闘技場よ! 大きいわね!」

 アナスタシオスは初めての闘技場に大興奮の様子だった。
 剣術大会はキュリオシティ闘技場で行う。
 観客席も用意されていて、クロード達はそこから剣術大会を観戦出来るのだ。

「ここで見ましょう! ほら、早く!」

 アナスタシオスは当然のように一番前の席を陣取った。
 しかし、文句を言う人は誰もいなかった。

「ああ、アナスタシア! 君に僕の美しい剣技を見せられないのは残念だ!」

 アナスタシオスの横に、アデヤがくっついていたからだ。
 アデヤは美国の王子。
 彼がいる前で、彼の婚約者に文句を言う勇気のある生徒は周りにいなかった。

「美しい剣技ならば、人を傷つけても良いと?」

 アナスタシオスは口を尖らせて言った。

「拗ねないで、僕の女神マ・デエス! 君の美しさに誓って、剣技で人を傷つけることは二度とないと約束しよう!」
「本当に?」
「本当だとも! その代わりに、ゼニファーの戦いを見てくれたまえ!」

 アデヤが棄権したことで、シュラルドルフはトーナメントを勝ち上がる。
 どんな因果か、次にシュラルドルフと当たるのは、商国の第二王子ゼニファーであった。

「ゼニファーには僕の剣技を授けた。彼が僕の代わりに、剣技の美しさを魅せてくれるだろう!」

 アデヤは誇らしげに語る。
──運命の剣術大会……。頼むから、何も起きないでくれよ……!
 クロードはただそう願った。
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