悪役令嬢♂〜彼は婚約破棄国外追放死亡の運命を回避しつつ、ヒロイン達へ復讐を目論む〜

フオツグ

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幼少期編 攻略対象達を攻略せよ

初めての友達

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 アナスタシオスはクロードの一つ上の兄だ。
 攻略対象の三人は兄と同年齢。
 つまり、クロードだけ知り合いのいない教室で授業を受けることとなる。
 クロードは大変心細かった。
──落ち着け。こんなときは兄さんの顔を思い出せ。ああ、目の保養……。
 面食いにも程がある。

「……フィラウティア。クロード・フィラウティア!」
「は、はい!」

 名字を呼ばれて、クロードはハッと顔を上げた。

「初登校なのに、気が抜けているようですね」

 教師は呆れたようにため息をつく。
 クラスメイトはクスクスと笑っていた。
 そのとき、クロードの脳内に前世の学校でのトラウマが蘇る。
──ぼんやりとしていたら教師に指名されて授業を聞いていなかった故に問題が解けずみんなの前で恥をかいた中学二年の春──!

「す、すみません……」

 クロードは顔を赤くして、ただ縮こまるしかなかった。
 教師はもう一度ため息をつくと、チョークを手に取り、黒板にスラスラと計算式を書き出した。
 一と十二分の五、足す、二と十六分の三。

「フィラウティア、この問題が解けますか?」

 そう問われて、クロードはフッと笑った。
──馬鹿にすんなよ? おれはこれでも人生二周目。余裕に決まってんだろ!

「ええと。三と……四十八分の二十九……?」

 余裕である、と言ったのは、計算の仕方がわかる、という意味である。
 暗算に自信はなかった。
──そもそも、勉強は好きじゃないし……。
 教師に目をやると、教師は驚いたように目を見開いていた。

「せ、正解です。ちゃんと授業を聞いていたみたいですね」

──合ってて良かった……。
 クロードはホッとして、席に座った。

 □

 授業が終わり、クロードは机に伏していた。
──なんかドッと疲れたな……。先生に当てられるのは、いくつになっても慣れないもんだ。

「君、凄いね……」
「へ?」

 気付けば、横に人が立っていた。
 その人物はクロードに向かって、ニヤニヤと笑っていた。

「この年齢であの問題を解けるのは、この教室で一人だけだと思ってたよ……」
「あ、あんたは、シルフィト……王子」

 攻略対象の一人、賢国の第八王子シルフィト・ウィズダム・マニア。
 後ろで結ったペリドット色の髪。
 ラベンダー色の大きな瞳を、前髪から覗かせている。
 下がり眉で気弱な印象の、可愛い系イケメンだ。
 ゲーム本編では、二年目に登場。
 主人公ヒロインの後輩になる。
 【知力】というパラメーターを上げておくと、主人公ヒロインを『お姉ちゃま』と呼び慕うようになる。
 ちょっとイタい子だ。
 そして、そのイタさは彼の属性に起因するものであった。
──こいつはヤンデレ属性だ。
 イベントを進めると、監禁イベントが発生する。

『あのね。お姉ちゃまが意地悪されるの、黙って見てられなくて……。お姉ちゃまはずっと、ずっとずっとずっと! 死ぬまで、ここにいると約束して。そうすれば、お姉ちゃまをあの女から守れる。賢いお姉ちゃまなら、わかってくれるよね……?』

 ちなみに、アナスタシアはそれを嗅ぎつけて、主人公ヒロインを解放するという、ファインプレーをかます。
──アナスタシアは嫌がらせだと思ってたっぽいけど。あのときは助かったぜ、アナスタシア!
 監禁に失敗したシルフィトは、諸悪の根源たるアナスタシアを消そうと考え、断罪イベントを起こす……。
 主人公ヒロインポジションを奪うという作戦において、ヤンデレ属性のこいつの好感度を上げるのは危険が伴う。
 そもそも、主人公ポジションを奪うには、成績が良くないといけないが……。
──……そういえば、兄さんの成績ってどれくらいなんだろう? 

「学校に通ってなくて、あの問題を解けるだなんて。もしかして、君──」

 クロードはハッとした。
──こいつは賢い。おれが人生二周目なの、バレたか……?

「──天才?」

──良かったバレてない。
 クロードはホッと胸を撫で下ろした。

「いや、あれぐらい、やり方を知ってれば解けて当然だと……」
「へえ。解けて当然なの」
「あ、ヤベ。間違えました!」

 気が抜けて、本音が出てしまった。
 人生二周目なことを悟られてはいけない、と気を引き締める。

「た、たまたまですよ。何処かで見たことがある問題だったから解けただけで。勉強は苦手な方です」
「そう謙遜しないで。君は賢い……シルの次にね」

──男の一人称が名前なのキツ……。
 などと思っていると、シルフィトはクロードの手を掴んだ。

「だから、君をシルのライバルと認めよう!」
「は、はあ……。ありがとうございます……?」
「クロードだったよね。これから、〝クロ〟って呼ぶね。あ、シルのことは〝シル〟で良いよ」

 シルフィトは照れ臭そうに顔を赤らめて言った。
──この子、友達が欲しいだけなんじゃ……? だったら、利用する手はない!
 クロードはシルフィトの手を握り返した。

「よろしく、シル!」

 そう言って、ニッコリと笑った。
──おれがシルフィトと親しくしていれば、シルフィトに断罪されるルートは潰せるはず! 友人の姉を陥れようだなんて思わないだろ!

「ふ、不敬だぞっ! 王子に敬語を使わないなんて……!」
「ええ……? あだ名呼びは良くて、これは駄目……?」

 クロードはシルフィトの扱いに、やはり悩んだ。
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