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幼少期編 攻略対象達を攻略せよ
学園へのお誘い
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アナスタシオスを婚約破棄、国外追放、死亡という、運命の連鎖から救い出す……。
クロードの目的はただそれだけである。
しかし、運命を捻じ曲げるのは容易ではないだろう。
そこで、クロードには一つの作戦が立てた。
──兄さんに主人公のポジションを奪わせる!
予め攻略対象の心を掴んでおき、断罪イベントそのものを発生させないようにする。
──キャラクターも人間だ。少しでも情があれば、公衆の面前で断罪なんてしないだろう。
悪役令嬢アナスタシアは公衆の面前で罪を暴露されたことに怒り、主人公を階段の上から突き落とす。
それがなければ、婚約破棄こそすれ、国外追放は免れるだろう。
──全ての攻略対象のルートをクリアしていないのは致命的だが、やるしかない。
その作戦を遂行するためには、アナスタシオスの言動や行動を、ある程度コントロールしなければならない。
しかし……。
「ああ、僕の女神。今日も美しいね」
「アデヤ様、わたくしとお茶をするよりも、すべきことがあるのではなくて?」
「お姉様、あまり冷たいこと言わないで……。婚約者なんだから」
──……他人の言動と行動を思い通りにするってムズくないか?
アナスタシオスとクロードは、またもやお忍びで訪れたアデヤの相手をしていた。
ガーデンテラスでお茶会という穏やかな空間の中で、アナスタシオスはアデヤを軽くあしらっている。
アナスタシオスを救うためには、相手を言いくるめ、自分が好きな方向へと持っていかなければならない。
──無理だろ……!
瞬間湯沸かし器のアナスタシオス相手ならば尚更。
何をしでかすかわからない。
そして、そのような人物がもう一人。
「フム。僕の女神は今日も釣れないね。そこも素敵だ」
攻略対象の一人、美国の第一王子アデヤ・グレイス・エロス。
彼は見た目の美しさを何よりも重視する。
彼のイベントを進めるには、【オシャレ力】というパラメーターを上げる必要がある。
そうしないと、アデヤとまともに話すことすら出来ない。
──ルッキズムがどうこう言われる時代に、強気なキャラクターだよな……。
主人公の一生懸命さと優しさに触れた彼は、アナスタシアへの好意に疑問を抱き始める。
そして、主人公への嫌がらせの証拠を集めることに協力する。
アナスタシア断罪イベントの際、彼は内面の美しさが何よりも重要だと気付く。
『なんて醜い……』
悪女アナスタシアに冷たくそう言い放ち、婚約破棄と国外追放を言い渡す。
アナスタシオスをいじめたダンス教師やメイド達をクビにするときに、その片鱗が垣間見えた。
──つまり、兄さんには、内面まで好かれるようにして貰いたいんだけど……。
アデヤがアナスタシオスの手を取る。
アナスタシオスはニコニコと笑いながら、やんわりと手を振り解いた。
──無理だろうな。あの調子じゃ。
そもそも、アナスタシオスはアデヤが好きという訳ではない。
むしろ、一目惚れしてパパに婚約したいとおねだりしたファザコン野郎は、大嫌いな部類だろう。
クロードに出来ることは、アナスタシオスをご機嫌を取るために、メイばあやの焼いたクッキーを差し出すことだけだった。
「さて。今日、君に会いに来たのは、君の美しい顔を見るためと、キュリオ学園に招待するという話をしたいからだ」
「キュリオ学園、ですか?」
「この世界には五つの国があるだろう?」
「はい」
軍事に特化した国、軍国。
商業が盛んな国、商国。
医療と宗教の国、聖国。
勉学に励む国、賢国。
「そして、我が国……芸術を愛する国、美国ですわね」
「ウム! その通り! 五つの国の中心に、大きな島があるのは知っているかい?」
「ええ。確か、キュリオシティと呼ばれていますわよね。そこでの戦争はしない、と協定が結ばれているとか」
「トレビアン! よく勉強しているね!」
アデヤは満足そうに頷いた。
「そのキュリオシティにある学園がキュリオ学園なのだ。様々な国の出身の子が通っているから、アナスタシアも色々と学べると思うよ。どうかな?」
アデヤの問いかけに、アナスタシオスは首を横に振った。
「申し訳ありませんが、お断りさせて頂きますわ」
「どうして?」
「新しい家庭教師にも来て頂きましたし。学園に通わずとも、必要な知識は得られます。必要性を感じませんの」
そう口では言っているが、内心は全く違う。
──『大勢の前で女のふりなんか出来る訳ねえだろ! 馬鹿が!』……とか、思ってるんだろうなあ。
「……実は言うと、美しい君を、僕の婚約者として学園のみんなに紹介したいのさ」
アデヤは愛おしそうにアナスタシオスを見た。
「……そう言われては、お断り出来ませんわね」
アナスタシオスは渋々といった様子で言う。
キュリオ学園は、ゲームの舞台となる場所だ。
初等部、中等部、高等部とわかれている、小中高一貫校。
ゲームの始まり……主人公が入学するのは高等部一年からだ。
そして、婚約破棄が行われるのはそのおよそ二年後。
高等部二年の年末恒例の学園パーティー……。
──兄さんを学園に通うのを止めれば、そもそも断罪イベントは起きないはず!
「お姉様……学校に行っちゃうの?」
クロードは上目遣いでアナスタシオスに訴えった。
──弟パワー全開だ! アデヤの野郎は嫌な顔をしてるが、兄さんが死ぬよりはマシ!
アナスタシオスは「救いの手が差し伸べられた!」とでも言うように、明るい表情をした。
「まあ、クロード。寂しいのね! なんて可愛い子!」
アナスタシオスはクロードをギュッと抱き締め、頭を乱暴に撫でた。
アナスタシオスは昔からこうやって、弟のクロードを猫可愛がりするのが好きだった。
──うう、人前だと恥ずかしい……。でも、我慢だ。これも、兄さんを救うため!
クロードは押し退けたい気持ちをグッと堪える。
「アデヤ様、申し訳ありません、わたくしは可愛い弟に寂しい思いをさせたくありませんの。ですから、学園に行く件は……」
「美しい……」
「えっ」
「弟君を思う女神アナスタシア……なんて美しいんだ! 泣かないで、アナスタシア。泣いてる君も美しいけど、笑っている君はもっと美しいんだ」
「は、はあ……」
アナスタシオスは困惑する。
彼は一滴の涙も流していない。
「大丈夫だよ、アナスタシア! 弟君も入学させるから! 安心して学園に来てくれたまえ!」
アデヤはキラキラとした顔でそう言った。
──他人の言動と行動を思い通りにするって本当にムズいな……。
前途多難だ、とクロードは深くため息をついた。
クロードの目的はただそれだけである。
しかし、運命を捻じ曲げるのは容易ではないだろう。
そこで、クロードには一つの作戦が立てた。
──兄さんに主人公のポジションを奪わせる!
予め攻略対象の心を掴んでおき、断罪イベントそのものを発生させないようにする。
──キャラクターも人間だ。少しでも情があれば、公衆の面前で断罪なんてしないだろう。
悪役令嬢アナスタシアは公衆の面前で罪を暴露されたことに怒り、主人公を階段の上から突き落とす。
それがなければ、婚約破棄こそすれ、国外追放は免れるだろう。
──全ての攻略対象のルートをクリアしていないのは致命的だが、やるしかない。
その作戦を遂行するためには、アナスタシオスの言動や行動を、ある程度コントロールしなければならない。
しかし……。
「ああ、僕の女神。今日も美しいね」
「アデヤ様、わたくしとお茶をするよりも、すべきことがあるのではなくて?」
「お姉様、あまり冷たいこと言わないで……。婚約者なんだから」
──……他人の言動と行動を思い通りにするってムズくないか?
アナスタシオスとクロードは、またもやお忍びで訪れたアデヤの相手をしていた。
ガーデンテラスでお茶会という穏やかな空間の中で、アナスタシオスはアデヤを軽くあしらっている。
アナスタシオスを救うためには、相手を言いくるめ、自分が好きな方向へと持っていかなければならない。
──無理だろ……!
瞬間湯沸かし器のアナスタシオス相手ならば尚更。
何をしでかすかわからない。
そして、そのような人物がもう一人。
「フム。僕の女神は今日も釣れないね。そこも素敵だ」
攻略対象の一人、美国の第一王子アデヤ・グレイス・エロス。
彼は見た目の美しさを何よりも重視する。
彼のイベントを進めるには、【オシャレ力】というパラメーターを上げる必要がある。
そうしないと、アデヤとまともに話すことすら出来ない。
──ルッキズムがどうこう言われる時代に、強気なキャラクターだよな……。
主人公の一生懸命さと優しさに触れた彼は、アナスタシアへの好意に疑問を抱き始める。
そして、主人公への嫌がらせの証拠を集めることに協力する。
アナスタシア断罪イベントの際、彼は内面の美しさが何よりも重要だと気付く。
『なんて醜い……』
悪女アナスタシアに冷たくそう言い放ち、婚約破棄と国外追放を言い渡す。
アナスタシオスをいじめたダンス教師やメイド達をクビにするときに、その片鱗が垣間見えた。
──つまり、兄さんには、内面まで好かれるようにして貰いたいんだけど……。
アデヤがアナスタシオスの手を取る。
アナスタシオスはニコニコと笑いながら、やんわりと手を振り解いた。
──無理だろうな。あの調子じゃ。
そもそも、アナスタシオスはアデヤが好きという訳ではない。
むしろ、一目惚れしてパパに婚約したいとおねだりしたファザコン野郎は、大嫌いな部類だろう。
クロードに出来ることは、アナスタシオスをご機嫌を取るために、メイばあやの焼いたクッキーを差し出すことだけだった。
「さて。今日、君に会いに来たのは、君の美しい顔を見るためと、キュリオ学園に招待するという話をしたいからだ」
「キュリオ学園、ですか?」
「この世界には五つの国があるだろう?」
「はい」
軍事に特化した国、軍国。
商業が盛んな国、商国。
医療と宗教の国、聖国。
勉学に励む国、賢国。
「そして、我が国……芸術を愛する国、美国ですわね」
「ウム! その通り! 五つの国の中心に、大きな島があるのは知っているかい?」
「ええ。確か、キュリオシティと呼ばれていますわよね。そこでの戦争はしない、と協定が結ばれているとか」
「トレビアン! よく勉強しているね!」
アデヤは満足そうに頷いた。
「そのキュリオシティにある学園がキュリオ学園なのだ。様々な国の出身の子が通っているから、アナスタシアも色々と学べると思うよ。どうかな?」
アデヤの問いかけに、アナスタシオスは首を横に振った。
「申し訳ありませんが、お断りさせて頂きますわ」
「どうして?」
「新しい家庭教師にも来て頂きましたし。学園に通わずとも、必要な知識は得られます。必要性を感じませんの」
そう口では言っているが、内心は全く違う。
──『大勢の前で女のふりなんか出来る訳ねえだろ! 馬鹿が!』……とか、思ってるんだろうなあ。
「……実は言うと、美しい君を、僕の婚約者として学園のみんなに紹介したいのさ」
アデヤは愛おしそうにアナスタシオスを見た。
「……そう言われては、お断り出来ませんわね」
アナスタシオスは渋々といった様子で言う。
キュリオ学園は、ゲームの舞台となる場所だ。
初等部、中等部、高等部とわかれている、小中高一貫校。
ゲームの始まり……主人公が入学するのは高等部一年からだ。
そして、婚約破棄が行われるのはそのおよそ二年後。
高等部二年の年末恒例の学園パーティー……。
──兄さんを学園に通うのを止めれば、そもそも断罪イベントは起きないはず!
「お姉様……学校に行っちゃうの?」
クロードは上目遣いでアナスタシオスに訴えった。
──弟パワー全開だ! アデヤの野郎は嫌な顔をしてるが、兄さんが死ぬよりはマシ!
アナスタシオスは「救いの手が差し伸べられた!」とでも言うように、明るい表情をした。
「まあ、クロード。寂しいのね! なんて可愛い子!」
アナスタシオスはクロードをギュッと抱き締め、頭を乱暴に撫でた。
アナスタシオスは昔からこうやって、弟のクロードを猫可愛がりするのが好きだった。
──うう、人前だと恥ずかしい……。でも、我慢だ。これも、兄さんを救うため!
クロードは押し退けたい気持ちをグッと堪える。
「アデヤ様、申し訳ありません、わたくしは可愛い弟に寂しい思いをさせたくありませんの。ですから、学園に行く件は……」
「美しい……」
「えっ」
「弟君を思う女神アナスタシア……なんて美しいんだ! 泣かないで、アナスタシア。泣いてる君も美しいけど、笑っている君はもっと美しいんだ」
「は、はあ……」
アナスタシオスは困惑する。
彼は一滴の涙も流していない。
「大丈夫だよ、アナスタシア! 弟君も入学させるから! 安心して学園に来てくれたまえ!」
アデヤはキラキラとした顔でそう言った。
──他人の言動と行動を思い通りにするって本当にムズいな……。
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