8 / 79
幼少期編 攻略対象達を攻略せよ
おれ達の小さな復讐劇
しおりを挟む
たまに、アデヤは婚約者の〝アナスタシア〟にお忍びで会いに来る。
〝アナスタシア〟の屋敷にいる者ならば知っていることだ。
しかし、約束の時刻より早めに来ることは、対応した者しか知らない……。
「アデヤ殿下! こんにちは!」
アデヤの到着をメイばあやから聞いたクロードは、いち早く玄関に来た。
「君は……誰だっけ?」
「アナスタシアの弟のクロードです」
「……ああ、弟君!」
アデヤはそう言いつつも、ピンときてない様子だった。
──美しくない顔は覚えないってか。ゲームと同じだな。
クロードは呆れながら、出来るだけ笑顔で対応する。
「ええと。姉は今ダンスレッスン中でして……」
「ああ、知ってるさ。いつも通り、庭で待たせて貰うよ」
「あ! お待ち下さい、殿下!」
庭に向かおうとするアデヤをクロードは呼び止めた。
「お姉様、ダンスが上達したんですよ! 踊る姿はまるで天からの使いのようで……!」
「ウム。当然だ。アナスタシアは美しい! その美しいアナスタシアがダンスをしたのなら、美しくない訳がないだろう……」
「はい! 凄く素敵なんです! お姉様が美し過ぎて、周りに羽が舞っているように見えるんですよ!」
これは大嘘である。
ダンスレッスン室にアデヤを導くために、話をこれでもかと盛ったのだ。
──まあ、兄さんに羽が生えたら素敵だろうけど。
「なんと、羽が! そこまで言われたら、アナスタシアのダンスを見てみたくなったな。弟君、アナスタシアのところに案内してくれたまえ」
「はい! こちらです! 殿下!」
クロードが先頭に立ち、ダンスレッスン室に急いで向かう。
目的地の近くまで来ると、スピードを落とした。
「どうしたんだ、弟君? 急に足取りが重くなったようだが」
「す、すみません。少し迷ってしまいまして」
──兄さん、上手くやってくれよ……。
そう願いながら、クロードはアナスタシオスの言っていた合図を待った。
──バチン!
何か叩れた音が廊下に響き渡る。
これが、アナスタシオスの言っていた合図だ。
「なんだ、この美しくない音は……?」
アデヤが首を傾げる。
クロードはすかさず言った。
「ダンスレッスン室から聞こえてきたような。覗いてみましょう」
クロードは扉を少し開けて、中を覗き見た。
「ええっ。そんな……」
クロードはわざとらしく、驚いた様子を見せた。
「どうした?」
そうしたら、気になったアデヤが続いて中を覗き見る。
「この田舎者! 何度も言ったらわかるの!」
「申し訳ありません! 申し訳ありません!」
アナスタシオスは頭を床に擦り付けて謝る。
ダンス教師はアナスタシオスの背を、手に持った扇子で何度も叩いている。
──兄さん……!
クロードは今にでも飛び出したい気持ちを抑える。
一番に飛び出すのは、自分ではない。
「何をしている?」
アデヤが扉を開けて、レッスン室の中に入った。
「えっ。アデヤ殿下……!?」
ダンス教師はアデヤを見て、目を見開く。
アナスタシオスも目を見開き、驚いたふりをしていた。
「僕の美しいアナスタシアに何をしていると聞いているんだ」
アデヤは眉間に皺を寄せて、怒りを露わにする。
ダンス教師がアデヤの前に出る。
「で、殿下! これはレッスンのためで……」
「なんて醜い顔だ……」
アデヤはまるでゴミでも見るかのような目で、ダンス教師を見た。
「美しいものを愛しめない君には失望した。王家に仕える資格はない。父に報告させて貰う」
「そ、そんな……!」
ダンス教師は顔を青くさせ、その場に崩れ落ちた。
続いて、アデヤは控えていたメイド達に目を向けた。
「君達もだ」
メイド達がどよめく。
「美しいものが穢されるさまを黙って見ていられるだなんて、美国民として恥ずかしい限りだ。処分は追って連絡する」
そう言い終えると、ダンス教師とメイド達に背を向け、アナスタシオスに近づいた。
「アナスタシア、立てるかい」
アデヤは優しくそう言い、アナスタシオスに手を差し伸べる。
「は、はい……」
アナスタシオスは戸惑いながらその手を取る。
「ああ、アナスタシアの美しい顔が……。額に擦り傷もあるなんて! 直ぐに綺麗にしよう」
アデヤはアナスタシオスの手を引いて、ダンスレッスン室を後にした。
──計画通り。
アナスタシオスはアデヤが見ていないところで、ほくそ笑むのだった。
□
その夜。
アナスタシオスの寝室で、再び秘密のお茶会が開かれた。
そのお茶会は優雅なものではなく、祝勝会といった様子だった。
「滅茶苦茶上手くいったなー! ざまあみろ、クソ女教師とクソメイド共!」
ぎゃはは、とアナスタシオスは下品に大笑いする。
「小さな復讐成功を祝して、乾杯ー!」
アナスタシオスとクロードは、紅茶の入ったティーカップを上に掲げて乾杯をした。
浮かれ気味のアナスタシオスに対して、クロードは浮かない様子だった。
「どうした? クロード。腹でも空いたか?」
「いや、アデヤ殿下の美への執着心は凄いもんだったなって」
「まあ、確かに? 全員クビにするなんて、思い切ったことするよな。あのファザコン」
「……あれじゃあ、まるで独裁者じゃないか」
──あの強引さ……。兄さんに向けられたら脅威になる。ちょっとしたことで、婚約破棄からの国外追放されたら……。
クロードは恐怖で体を震わせる。
「クロードの言う通り、俺にベタ惚れだったなあ、あいつ。もっと我儘言っても聞いてくれっかも……」
「そ、それは駄目だ!」
──死亡フラグへの第一歩になってしまう!
そう思って、クロードは力強く否定してしまった。
「お、おう……。急にどうしたよ。いつもなら、『兄さんの美貌なら何でも聞いちゃうなあ!』って言うのによ……」
──ぜ、前世の記憶取り戻す前の俺~! 面食い過ぎだろ!
クロードは過去の自分を殴りたくなった。
「で、殿下を敵に回したら大変なことになるだろ? ご機嫌は取っておいた方が良いと思う」
「あー、確かに。一理ある」
アナスタシオスは「はー」とため息をついた。
「次に来る教師は、教え上手で美人の姉ちゃんにして貰おうと思ったんだけどなあ」
「兄さんより美人な人は来ないと思う……」
クロードは呆れて、ため息をついた。
〝アナスタシア〟の屋敷にいる者ならば知っていることだ。
しかし、約束の時刻より早めに来ることは、対応した者しか知らない……。
「アデヤ殿下! こんにちは!」
アデヤの到着をメイばあやから聞いたクロードは、いち早く玄関に来た。
「君は……誰だっけ?」
「アナスタシアの弟のクロードです」
「……ああ、弟君!」
アデヤはそう言いつつも、ピンときてない様子だった。
──美しくない顔は覚えないってか。ゲームと同じだな。
クロードは呆れながら、出来るだけ笑顔で対応する。
「ええと。姉は今ダンスレッスン中でして……」
「ああ、知ってるさ。いつも通り、庭で待たせて貰うよ」
「あ! お待ち下さい、殿下!」
庭に向かおうとするアデヤをクロードは呼び止めた。
「お姉様、ダンスが上達したんですよ! 踊る姿はまるで天からの使いのようで……!」
「ウム。当然だ。アナスタシアは美しい! その美しいアナスタシアがダンスをしたのなら、美しくない訳がないだろう……」
「はい! 凄く素敵なんです! お姉様が美し過ぎて、周りに羽が舞っているように見えるんですよ!」
これは大嘘である。
ダンスレッスン室にアデヤを導くために、話をこれでもかと盛ったのだ。
──まあ、兄さんに羽が生えたら素敵だろうけど。
「なんと、羽が! そこまで言われたら、アナスタシアのダンスを見てみたくなったな。弟君、アナスタシアのところに案内してくれたまえ」
「はい! こちらです! 殿下!」
クロードが先頭に立ち、ダンスレッスン室に急いで向かう。
目的地の近くまで来ると、スピードを落とした。
「どうしたんだ、弟君? 急に足取りが重くなったようだが」
「す、すみません。少し迷ってしまいまして」
──兄さん、上手くやってくれよ……。
そう願いながら、クロードはアナスタシオスの言っていた合図を待った。
──バチン!
何か叩れた音が廊下に響き渡る。
これが、アナスタシオスの言っていた合図だ。
「なんだ、この美しくない音は……?」
アデヤが首を傾げる。
クロードはすかさず言った。
「ダンスレッスン室から聞こえてきたような。覗いてみましょう」
クロードは扉を少し開けて、中を覗き見た。
「ええっ。そんな……」
クロードはわざとらしく、驚いた様子を見せた。
「どうした?」
そうしたら、気になったアデヤが続いて中を覗き見る。
「この田舎者! 何度も言ったらわかるの!」
「申し訳ありません! 申し訳ありません!」
アナスタシオスは頭を床に擦り付けて謝る。
ダンス教師はアナスタシオスの背を、手に持った扇子で何度も叩いている。
──兄さん……!
クロードは今にでも飛び出したい気持ちを抑える。
一番に飛び出すのは、自分ではない。
「何をしている?」
アデヤが扉を開けて、レッスン室の中に入った。
「えっ。アデヤ殿下……!?」
ダンス教師はアデヤを見て、目を見開く。
アナスタシオスも目を見開き、驚いたふりをしていた。
「僕の美しいアナスタシアに何をしていると聞いているんだ」
アデヤは眉間に皺を寄せて、怒りを露わにする。
ダンス教師がアデヤの前に出る。
「で、殿下! これはレッスンのためで……」
「なんて醜い顔だ……」
アデヤはまるでゴミでも見るかのような目で、ダンス教師を見た。
「美しいものを愛しめない君には失望した。王家に仕える資格はない。父に報告させて貰う」
「そ、そんな……!」
ダンス教師は顔を青くさせ、その場に崩れ落ちた。
続いて、アデヤは控えていたメイド達に目を向けた。
「君達もだ」
メイド達がどよめく。
「美しいものが穢されるさまを黙って見ていられるだなんて、美国民として恥ずかしい限りだ。処分は追って連絡する」
そう言い終えると、ダンス教師とメイド達に背を向け、アナスタシオスに近づいた。
「アナスタシア、立てるかい」
アデヤは優しくそう言い、アナスタシオスに手を差し伸べる。
「は、はい……」
アナスタシオスは戸惑いながらその手を取る。
「ああ、アナスタシアの美しい顔が……。額に擦り傷もあるなんて! 直ぐに綺麗にしよう」
アデヤはアナスタシオスの手を引いて、ダンスレッスン室を後にした。
──計画通り。
アナスタシオスはアデヤが見ていないところで、ほくそ笑むのだった。
□
その夜。
アナスタシオスの寝室で、再び秘密のお茶会が開かれた。
そのお茶会は優雅なものではなく、祝勝会といった様子だった。
「滅茶苦茶上手くいったなー! ざまあみろ、クソ女教師とクソメイド共!」
ぎゃはは、とアナスタシオスは下品に大笑いする。
「小さな復讐成功を祝して、乾杯ー!」
アナスタシオスとクロードは、紅茶の入ったティーカップを上に掲げて乾杯をした。
浮かれ気味のアナスタシオスに対して、クロードは浮かない様子だった。
「どうした? クロード。腹でも空いたか?」
「いや、アデヤ殿下の美への執着心は凄いもんだったなって」
「まあ、確かに? 全員クビにするなんて、思い切ったことするよな。あのファザコン」
「……あれじゃあ、まるで独裁者じゃないか」
──あの強引さ……。兄さんに向けられたら脅威になる。ちょっとしたことで、婚約破棄からの国外追放されたら……。
クロードは恐怖で体を震わせる。
「クロードの言う通り、俺にベタ惚れだったなあ、あいつ。もっと我儘言っても聞いてくれっかも……」
「そ、それは駄目だ!」
──死亡フラグへの第一歩になってしまう!
そう思って、クロードは力強く否定してしまった。
「お、おう……。急にどうしたよ。いつもなら、『兄さんの美貌なら何でも聞いちゃうなあ!』って言うのによ……」
──ぜ、前世の記憶取り戻す前の俺~! 面食い過ぎだろ!
クロードは過去の自分を殴りたくなった。
「で、殿下を敵に回したら大変なことになるだろ? ご機嫌は取っておいた方が良いと思う」
「あー、確かに。一理ある」
アナスタシオスは「はー」とため息をついた。
「次に来る教師は、教え上手で美人の姉ちゃんにして貰おうと思ったんだけどなあ」
「兄さんより美人な人は来ないと思う……」
クロードは呆れて、ため息をついた。
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
えっ、これってバッドエンドですか!?
黄昏くれの
恋愛
ここはプラッツェン王立学園。
卒業パーティというめでたい日に突然王子による婚約破棄が宣言される。
あれ、なんだかこれ見覚えがあるような。もしかしてオレ、乙女ゲームの攻略対象の一人になってる!?
しかし悪役令嬢も後ろで庇われている少女もなんだが様子がおかしくて・・・?
よくある転生、婚約破棄モノ、単発です。
悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。
楽しんで頂けると幸いです。
婚約破棄の、その後は
冬野月子
恋愛
ここが前世で遊んだ乙女ゲームの世界だと思い出したのは、婚約破棄された時だった。
身体も心も傷ついたルーチェは国を出て行くが…
全九話。
「小説家になろう」にも掲載しています。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい
棗
恋愛
婚約者には初恋の人がいる。
王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。
待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。
婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。
従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。
※なろうさんにも公開しています。
※短編→長編に変更しました(2023.7.19)
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【完結】どうやら、乙女ゲームのヒロインに転生したようなので。逆ざまぁが多いい、昨今。慎ましく生きて行こうと思います。
❄️冬は つとめて
恋愛
乙女ゲームのヒロインに転生した私。昨今、悪役令嬢人気で、逆ざまぁが多いいので。慎ましく、生きて行こうと思います。
作者から(あれ、何でこうなった? )
記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?
ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」
バシッ!!
わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。
目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの?
最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故?
ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない……
前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた……
前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。
転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる