悪役令嬢♂〜彼は婚約破棄国外追放死亡の運命を回避しつつ、ヒロイン達へ復讐を目論む〜

フオツグ

文字の大きさ
上 下
4 / 79
プロローグ 運命からは逃れられず

死の運命を回避し、次の死の運命へ

しおりを挟む
 突然の告白にポカンとしていたアナスタシオスだったが、直ぐに我に返った。

「あの、勘違いなさってるようですが、僕はおと──」
「詳しいことは追って連絡する!」
「あっ、ちょっと……!」

 アデヤは立ち去った。
 まるで嵐のようだった。
 残されたアナスタシオスは呆然と立ち尽くすしかなかった。

「おやおや、アナスタシオス坊ちゃまはお綺麗ですからね。アデヤ様の心を奪っちゃって……」

 メイばあやは「うふふ」と笑う。

「すみません、クロード坊ちゃま。お部屋に急ぎましょうね」

 メイはクロードを抱え、足早に家の中へ入った。

 □

 クロードは自室のベッドに運ばれた。
 家から一番近い診療所の医者に診て貰ったが、たんこぶが出来ていた程度で問題はなさそうとのことだった。
 しかし、まだ頭がグラグラとするため、クロードはベッドに横になっていた。

「具合はどうだ? クロード」

 アナスタシオスが部屋に入ってくる。

「まだフラつくけど、多分大丈夫」
「そっか。何かあったら、俺かばあやに言うんだぜ?」
「うん」

 クロードは頷いた。

「兄さん、アデヤ様の求婚、どう返事するつもりなんだ?」
「なんだ。聞いてたのか? 勿論断るぜ。『俺は男。結婚出来ない』ってな」

 それを聞いて、クロードは安心した。
 〝アナスタシア〟はあの王子と婚約し、将来婚約破棄されて国外へ追放。
 そして、亡き人となるのだ。
──兄さんはきっと、〝アナスタシア〟だ。
 ゲーム内の〝アナスタシア〟も、ど田舎の馬小屋の前でアデヤと出会う。
 そのとき、アデヤが彼女に一目惚れして、告白。
 のちに婚約をする。
 ここで婚約しなければ、〝アナスタシア〟と同じ道を辿ることはない。
──良かった。
 ここはゲームと似て非なる世界なのだろう。
 だから、〝アナスタシア〟は男なのだ。
 クロードはホッと胸を撫で下ろした。

「うっ……」

 急に、胃から何か迫り上がってくるのを感じた。
 クロードは咄嗟に口元を抑える。

「クロード!? どうした!?」
「気持ち悪い……」
「ばあや! お医者さんを呼べ! クロードが……!」

 心配するアナスタシオスの声がどんどんと遠くなり、クロードの意識は落ちた。

 □

──頭が痛い。まるで、頭を殴られ続けているみたいだ。
 意識が朦朧とする中、声が聞こえる。

「もうワシに出来ることはないですじゃ……」

 嗄れた声が聞こえる。
 先程、頭の怪我を診てくれた診療医の声だ。

「医者なら何とかしろよ! クロードを治せ!」
「し、しかし、坊ちゃん。一介の診療医にはどうにも出来ませんですじゃ」
「……もう良い! 別の医者に診て貰う!」
「弟君を治すには聖国の医師くらいでないと……」
「じゃあ、その医者を呼べ!」
「アナスタシオス」

 クロードの父の声だ。

「ウチが貧乏なのを知ってるだろう? 聖国の医師を呼べる金はない。クロードは……もう……」

 父が鼻を啜る音が聞こえてくる。

「ナーシャ、人はいずれ死ぬものなの」

 これは、クロードの母の声だ。

「簡単には受け入れられないかもしれないけど……」

──おれ、死ぬのか……? 前世の記憶を取り戻したばかりなのに?
 訳もわからず、混乱したまま、考えがまとまらない。
 しかし、これだけははっきりと思った。
──……死にたくない。

「……金は、俺が用意する」

 アナスタシオスはっきりとそう言った。
 コツコツと足音が近づく。

「……クロード、安心しろ。兄ちゃんが何とかしてやるからな」

 アナスタシオスの頼りになる声が近くに聞こえて、クロードは安堵した。
 そして、そのまま、深い眠りについた。

 □

「ん……」

 クロードは目を覚ます。
 頭の痛みは引いていて、ぐわんぐわんと揺れることもなくなっていた。

「おれ……生きてる……?」

 頭に手を添えると、包帯の感触があった。

「ああ! クロード坊ちゃま!」
「ばあや……?」
「ああ、良かった! 目を覚まされて!」

 メイばあやは涙ぐみながらクロードを抱き締める。
──あれ、夢じゃなかったんだな。
 死ぬ寸前だったときに聞こえたアナスタシオスの言葉を思い出す。

『兄ちゃんがなんとかしてやるからな』

──なんとかしてくれたんだ。兄さんは約束を守る人だから……。
 クロードは嬉しくて泣いてしまう。

「兄さんは何処? 治ったって報告しないと!」

 そう言うと、メイばあやはたちまち表情を暗くした。

「……クロード坊ちゃま、アナスタシオス坊ちゃまは──」
「……え」

 □

 クロードは止めるメイばあやを振り払い、アナスタシオスの元に向かった。
 廊下を一人で歩くアナスタシオスの後ろ姿を見つけると、クロードは叫んだ。

「兄さん!」

 アナスタシオスは振り向く。

「クロード……! 目を覚ましたのか!」

 クロードの顔を見て、アナスタシオスは表情を明るくさせた。

「まだ起き上がっちゃ駄目だぜ? お前はまだまだ元気じゃねえんだからな」
「王子との婚約を受け入れたって本当なのか」
「……あー……」

 クロードがそう聞くと、アナスタシオスはバツが悪そうな顔をする。

「ばあやから聞いたのか? ったく、クロードが本調子になるまで言うなって言っといたのに……」
「どうして……! 断るって言ってたじゃないか!」
「クロード」

 アナスタシオスはため息混じりに言った。

「わたくしのことはこれから『お姉様』と呼ぶのよ」
「え……」
「わたくし、アナスタシア・フィラウティアはアデヤ様と婚約したの。国王直々に申し出をされてね」
「ど、どうして……兄さんは男だろ!?」
「しー。声が大きいわ。初恋相手が男だなんて知ったら、アデヤ様は傷ついてしまう……。わたくしが男だと彼にバレてはいけないの」

 「わかった?」とアナスタシオスに念を押される。
 クロードは頷くしかなかった。

「わかっ……た……」
「良い子ね」

 アナスタシオスは満足そうに微笑む。

「両親とばあや以外には言っては駄目。念には念を入れて、ね。口に戸は建てられないもの。これは国王の命よ。国王様はとんだ親馬鹿……子煩悩な方よね」
「その要求を呑む代わりに、おれの怪我を治療して貰ったんだな」

 アナスタシオスは驚いた顔をしたが、直ぐに優しく微笑んだ。

「賢い子ね。アデヤ様を傷つけたら──王家に楯突いたら、わたくし達家族に何があるかわからない。賢い貴方ならわかるわね」
「でも……!」
「クロード、これからわたくし達の生活は一変するわ。クロードも家族のために、勉学に励むのよ」

 アナスタシオスはクロードに背を向けて、歩き出す。
──おれのせいだ。
 クロードの治療費のため、アナスタシオスは王子と婚約した。
 死の未来に、一歩踏み出してしまった。
──踏み出させてしまった……。
 クロードはこの先、アナスタシオスに起こる破滅を知っている。
 アデヤとの婚約破棄。
 国外追放。
 そして、死……。
 ならば、すべきことは一つだ。
──アナスタシア……いや、おれの愛する兄を、死の運命から必ず救ってみせる。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

あなたを忘れる魔法があれば

美緒
恋愛
乙女ゲームの攻略対象の婚約者として転生した私、ディアナ・クリストハルト。 ただ、ゲームの舞台は他国の為、ゲームには婚約者がいるという事でしか登場しない名前のないモブ。 私は、ゲームの強制力により、好きになった方を奪われるしかないのでしょうか――? これは、「あなたを忘れる魔法があれば」をテーマに書いてみたものです――が、何か違うような?? R15、残酷描写ありは保険。乙女ゲーム要素も空気に近いです。 ※小説家になろう、カクヨムにも掲載してます

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

悪役令嬢アンジェリカの最後の悪あがき

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【追放決定の悪役令嬢に転生したので、最後に悪あがきをしてみよう】 乙女ゲームのシナリオライターとして活躍していた私。ハードワークで意識を失い、次に目覚めた場所は自分のシナリオの乙女ゲームの世界の中。しかも悪役令嬢アンジェリカ・デーゼナーとして断罪されている真っ最中だった。そして下された罰は爵位を取られ、へき地への追放。けれど、ここは私の書き上げたシナリオのゲーム世界。なので作者として、最後の悪あがきをしてみることにした――。 ※他サイトでも投稿中

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

えっ、これってバッドエンドですか!?

黄昏くれの
恋愛
ここはプラッツェン王立学園。 卒業パーティというめでたい日に突然王子による婚約破棄が宣言される。 あれ、なんだかこれ見覚えがあるような。もしかしてオレ、乙女ゲームの攻略対象の一人になってる!? しかし悪役令嬢も後ろで庇われている少女もなんだが様子がおかしくて・・・? よくある転生、婚約破棄モノ、単発です。

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

処理中です...