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プロローグ 運命からは逃れられず

転生したら悪役令嬢♂の溺愛する弟だった件

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「……ロー……! クロ……!」

──頭が、痛い。
 甲高い叫び声が、頭痛を酷くさせる。

「……ード。クロード! しっかりしろ!」

──あれ? おれってクロードって名前だったっけ……。いや、今は確かにクロードだった。おれは死んで、生まれ変わったから……。
 蘇った前世の記憶と、今世の記憶が混ざり合って、頭が混乱する。
 頭痛のせいか、上手く頭が回らない。
 男──クロードは、一先ず目を開けた。

「良かった! 意識が戻ったんだな! クロード!」

 目の前には、とんでもなく容姿の整った子供がいた。
 真っ青な顔でクロードの顔を覗き込んでいる。
 銀色の髪に、紫色と青色のオッドアイ。
──まるでアナスタシアみたいだなあ……。

「──アナスタシア!?」

 クロードは咄嗟に、アナスタシアの肩を掴んだ。

「うお!? 元気いっぱいだな? 良かったぜ。お前が死んだらどうしようかと」

 確かめるべく、目の前にいる子供の顔をまじまじと見る。

「本物のアナスタシアだ……」
「んー。まだ意識がはっきりしてねえみたいだな。俺の名前はアナスタシオスだぜ?」
「アナスタシ……?」
「そう。オス、オス。お前の兄ちゃんだ」

 記憶を辿ると、彼はアナスタシアではなく、アナスタシオス。
 そして、姉ではなく、だと言うことを思い出した。
──ど、どういうことだ……? アナスタシアが好き過ぎて、都合の良い夢を見てるのか? いやでも。だったらなんで、アナスタシアが男なんだ?
 痛む頭の中でグルグルと思考が回る。
 混乱しているクロードを見て、アナスタシアは眉を下げた。

「ごめんな、クロード。俺が馬に乗ろうってって言ったばっかりに……」
「え?」
「覚えてねえのか? お前、落馬したんだぞ。お前が怖がってたから、そこで止めとくべきだったよな……」
「落馬……」

 アナスタシオスの後ろで、ポニーのビアンカが心配そうにクロードを覗き込んでいるのが見えた。

「そうだ。おれ、ビアンカの背中から落ちて……」

 頭を強く打ったとき、前世の記憶が一気に蘇ってきたのだった。

「痛いところとか、苦しいところある?」
「えっと。頭が……痛い」
「そうか……。駄目な兄ちゃんでごめん」

 アナスタシオスは辛そうな顔をする。
──違う。兄さんは、ゲームで見た悪役令嬢じゃない。情に熱くて弟思い。悪戯好きで、少し怒りっぽいけど、普通の男の子だ。おれは知ってる。

「そ、そんなことない。馬から落ちたのはおれの不注意で……」

 クロードは兄に心配させまいとそう話した。
 しかし、アナスタシオスはそれを感じ取ったらしい。
 悲しそうな顔で微笑んだ。

「お前は本当に優しい子だな。痛いのは自分なのに兄ちゃんの心配して……」

 アナスタシオスは立ち上がる。

「家に帰って、お医者さんに診て貰おう。立てるか?」
「う、うん」

 クロードが立ち上がろうとすると、フラついて尻餅をついてしまった。

「ほら、兄ちゃんに掴まれ」

 アナスタシオスはクロードの腕を自身の肩に回した。
 クロードを支えながら、ポニーのビアンカの手綱を引いて、馬小屋へと戻る。

「坊ちゃま方!」

 馬小屋では、メイドのメイが待ち構えていた。
 彼女はクロードが生まれる前から仕えているおばあちゃんメイドだ。

「なかなか戻られないので、心配しておりましたよ!」
「ごめん、ばあや。クロードが馬から落ちて、頭を強くて打っちまったんだ……」
「まあ、クロード坊ちゃまが!? それは大変! 直ぐにお医者様に診て貰いましょう!」

 クロードはへらりと笑う。

「大丈夫だよ、ばあや。ちょっと頭がクラクラするだけで……」
「頭の怪我を甘くみてはいけません! さあ、こちらへ!」
「うわあ!」

 ばあやがクロードを抱っこした。
──高校生にもなって抱っこなんて……。いや、今のおれは子供から絵面は良いのか。でも、恥ずかしい!

「に、兄さん……」

 クロードはアナスタシオスに助けを求める。

「クロード、兄ちゃんはビアンカを馬小屋に戻してから直ぐ行く。大丈夫だからな」

 アナスタシオスは手綱を引き、馬小屋に向かった。

「さあ、ベッドに行きましょうね、坊ちゃま」
「ちょ、ちょっと待って、ばあや!」
「何処か痛みますか?」
「いや、馬小屋の前に誰かいる……」

 馬小屋の前にいたのは、金髪で水色の瞳の子供だった。

「アデヤ・グレイス・エロス?」

 その子供は、〝アナスタシア〟と婚約破棄をする王子にそっくりだった。
 幼くはあるが、面影がある。

「よくご存知で。我が国の王子様ですね。こんなど田舎に何のご用でしょう?」

 馬小屋の前で、アナスタシオスとアデヤが対面した。

「こんにちは」

 賢いアナスタシオスはアデヤの艶やかな服装から、位の高い貴族だと察したのだろう。
 アデヤに爽やかな笑顔で挨拶をした。
 アデヤは目を見開いて、アナスタシオスの顔を見つめ続けた。

「あの……どうしました? 僕、何か失礼を……?」
「美しい……」
「へ?」

 アデヤはアナスタシオスの手を握った。

「会いたかったよ、僕の女神マ・デエス! 結婚しよう!」
「……は?」
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