魔王自ら勇者を育成してやろう！

第三部 決着をつけてやろう！

第四十二話 時を超えてやろう！

　気付けば、我が輩は肥沃な大地に立っていた。

「ここは……」

　1000年前か？

「何もないな……」

　周囲を見ても、ここが1000年前なのかを判断出来るようなものはなかった。
　破壊されて原型をとどめていない建物と枯れ果てた植物が点々とあるだけ。
　何かないかと見上げれば、赤黒い空が広がっている。

　……我が輩が壊しまくった世界はこんなものだったかもしれない。
　我が輩が【剿滅の魔王】と呼ばれることで、周りがどうなっていたのかなんて、気にしたことなどなかった。
　大陸が焦土になろうが、塩水に沈もうが、どうでも良かった。
　重要だったのは、我が輩の前に勇者が現れることだけ。

「なんだよ、ここ……。ここが1000年前なのか……？」

　隣を見ると、コレールとグロルが見開いた目で空を見ていた。

「まるでこの世の終わりじゃねえか！」

「こ、こんなところが、1000年前な訳がない……。魔法が、失敗したんじゃないか？」

　何故二人もここに……？
　あ、そうか。
　魔法陣を起動したとき近くにいたから一緒に移動して来たのか。
　まあ、あの城に二人だけ残したら後々大変だっただろうから怪我の功名だな。
　討伐対象が城に不法侵入した挙げ句、国王を脅した者の仲間となればただで済むまい。

「ちょっと～っ！」

　後ろから甲高い声が聞こえて来た。
　振り向くと、ラウネンが顔を真っ赤にしてこちらを睨みつけていた。

「なんだ。貴様も来たのか」

「近くにいたから巻き込まれたのっ！　どうしてくれんのこれっ！？」

「そう言われても、不可抗力だしな」

　だからと言って、直ぐに帰らせる訳にはいかない。
　今の我が輩には元の時代に帰るための魔力が残っていない。
　《1000年時空間移動》を発動したとき、魔力を半分以上持っていかれたのだ。

　まさか我が輩の魔力が足りなくなるとは思っていなかった。
　《1000年時空間移動》、コストパフォーマンスが悪過ぎる。
　また1000年もの時を超える魔法を発動するには同じくらいの魔力が必要になるのだが……。
　コレールやグロルの魔力では全く賄えない。
　しかし、四天王の一角であるラウネンならば、かなりの魔力を有している。
　ラウネンと我が輩の魔力を合わせれば現代に戻る魔法を使えるだろう。

「ついて来い。悪いようにはしない」

「う～っ。わかりましたよぅ……」

　「この暴君め」と小声で言ったのは聞き逃さなかった。
　だが、今はこいつに罰を与える時間はない。
　我が輩達の目的を果たそう。

「フラットリーを捜すぞ」

　空を見て呆けている二人に言う。
　二人はハッとして、我が輩を見た。

「捜すって……。ど、何処を捜すつもりなんだ？」

「世界中を飛び回っていれば見つかるだろう」

「飛び回るって……さっきの速度で？」

　さっき、というとラウネンの城に乗り込んだときのことだろう。
　グロルはあのとき目を回したことを思い出したようで、顔を青くしてうっと口を塞ぐ素振りをした。

「なあ、適当に飛び回るより、まずフラットリー教の聖地、ブジャルドに行ってみようぜ」

「ふむ。確かに、聖地と呼ばれる場所ならフラットリーの居所の手がかりがあるかもしれぬな」

　運が良かったらそこにいる可能性もある。

「では、そこに……」

　「向かおう」と言いかけたとき、四方から炎が我が輩達に向かって放射された。
　我が輩は皆の周りに防壁魔法を張り、炎を防ぐ。

「なんだ！？」

　コレールとグロルが周囲を見渡す。
　しかし、炎を放射してきた者は姿を現す気がないようだ。
　この我が輩に横槍を入れるとは良い度胸だ。
　姿を現すつもりがないのなら、現さざるを得ない状況にしてやろう。
　我が輩は壊れた建物の残骸を爆発させる。
　「また攻撃された！？」とコレールとグロルは慌てて構えた。
　爆煙の中、炎を放射してきた者がようやく姿を現す。

「ど、ドラゴンだ……」

　炎を司るドラゴン、サラマンダーだ。
　しかも、複数体。

「た、戦わないと！」

「止めておけ。貴様らに敵う相手ではない」

　立ち向かおうとするコレールを手で制する。
　このドラゴンは現代で戦ったドラゴンより遥かに強い。

「で、でも、囲まれてるよ！」

　確かに、囲まれていて逃げ場がない。
　走り抜けようにもドラゴンの真下を通らなければならず、踏みつけられる恐れがある。
　《飛行》魔法で空へ抜けようにもドラゴンの翼が邪魔だ。
　だが、今の我が輩にはこいつらを相手している時間も魔力も勿体ない。
　なれば……。

「このまま、【ブジャルド】へ《転移》する」

　一瞬で移動してしまえば良い。
　「はあ？」と真っ先に反応したのはラウネンだった。

「《転移》ぃ？　キミ、そんな魔力残ってないでしょっ？」

「馬鹿にするな。《転移》する魔力ぐらい残っている」

　言った通り、《転移》を使う。
　次の瞬間、周りにいたサラマンダー共は消えていた。

「あの巨大な魔法陣起動させたばっかだってのに、マジで魔力残ってるのかよ……」

　ラウネンは口の端を引きつらせていた。