37 / 48
仲冬
「そう考えればまだマシだ…………」
しおりを挟む
「――――夕凪、姉さん?」
「大丈夫!? 優輝!!」
夕凪は優輝を横抱きにし、狗神から一定の距離をとった。
切羽詰まったような顔で、意識が朦朧としている優輝を見下ろす。
大丈夫とも言えないまま、優輝は先程まで自身がいた場所を見た。
そこには、狗神が行き場のない手をさ迷わせ、恨めしそうに夕凪を見ている姿がある。
「優輝、酷い怪我……。式神は?」
「いつも、持ってきてないから。この森に来るとき…………」
「なんで!?」
「…………ちょっと」
優輝が気まずそうに顔を逸らす。
その反応だけで、夕凪は理由を全て理解した。
「…………なんで、そこまでするの。息子さんに会う為だけで命を粗末にしないで」
「粗末にはしない。今回はちょっと、俺の動き出しが遅かっただけ。それより、もう大丈夫だから下ろしてくれると嬉しいかな。普通に恥ずかしい」
改めて見てみると、夕凪は慌てていたとはいて、自分より大きな男性を横抱きにしている状態になっていることに気づく。しかも、相手は自身が好いている人。
顔を真っ赤にし、慌てつつも優しく下ろした。
「夕凪姉さん、まさか、神通力を使ったの?」
「今が使い時でしょ? それより、狗神が動き出したわ。私の神通力は戦闘には向かないの。貴方が式神を持っていないのなら、逃げるしかないわ」
「そうだね、逃げるタイミングがあれば……だけど…………」
優輝はもうぼろぼろ、早く治療しなければ危ないレベル。
横目でそんな彼の姿を見て、夕凪は行き場のない怒りが込み上げる。
目を伏せ、ぼそりと言葉を呟いた。
「貴方が、あの半妖と出会わなければ…………」
今の言葉は、隣にいた優輝に届いてしまい驚愕。
まさか、夕凪がそんなことを言うなど思っていなかった優輝は、思わず彼女を横目で見る。
「夕凪姉さん、どうしたの? そんなことを言うなんて」
「…………だって、貴方があの半妖と出会わなければ、このようにはなっていなかった。いつものように式神を使い分け、簡単に倒せいていた。だけれど、半妖のために貴方は最低限の荷物だけで森に来てしまった。このように思ってしまうのは仕方がないと思うのだけれど?」
「今回は追い出されたからというのもあるけどね…………」
悲しげだが怒りも含まれている瞳を向けられ、優輝は困惑しながらも、いつものように言葉を返す。
だが、彼女から放たれる今まで感じた事がない空気に、これ以上何も言えず口を閉ざしてしまった。
そんな事をしていると、狗神が二人の間に割って入ってきた。
何の前触れもなく、地面を強く蹴り夕凪を狙う。
「夕凪姉さん!」
「っ!?」
戦闘途中で自分の気持ちを制御できず、よそを見てしまっていた夕凪は、体が反応しない。
目の前がスローモーションのようにゆっくりと動く。
神通力を発動したくとも、その思考すら頭に現れない。
目の前に繰り出されている狗神の鋭い爪が体を切り裂く瞬間を、ただただ身構えるだけ。
何も考えられず、抗う事が出来ず体が引き裂かれる――……
――――――――ガシッ!!
「きゃっ!!!」
肩を掴まれる感覚と後ろに引っ張られる衝撃で、夕凪の視界は正常に戻った。
突如後ろに引っ張られたため、咄嗟に体が反応せず後ろに転ぶ。だが、痛みは無い。
狗神は後ろに転んだ夕凪に再度切りかかろうとしたが、目に映る何かにより止まり、一点を集中し始めた。
狗神の視線の先には、夕凪を抱き留め、銀色の瞳を狗神に向けている男性。
銀色のウルフカットの髪、左右には狼のような耳が髪から覗き見えており、口からは鋭く尖っている八重歯。
夕凪を抱き留めている手は、狗神と同じくらい鋭く尖っていた。
「あ、貴方は、銀籠さん…………?」
夕凪は見上げ、彼の顔を見る。
名前を呼ばれた銀籠は、下を向くことはせず小さく頷いた。
「銀籠さん! 無事だったんだね」
「あぁ、強い気配を感じてな、一時避難をしていたのだ。まさか、準備を整えている時にこのような事態になっているなど思っていなかったぞ」
夕凪は、そんなことを言っている銀籠をただただ見上げる。
そんな時、微かに彼の手が震えている事に気が付いた。
「…………あの、私に触れても大丈夫なのかしら…………?」
「大丈夫ではない。だが、優輝を助けた人間、そう考えれば、まだマシだ…………」
口ではそう言っているが、銀籠の顔は青く、息が荒い。
冷や汗が滲み出ており、本当にマシなのか疑う。
何も言えずに見上げていると、銀籠は夕凪から手を離す。
立ち上がろうとするが、体がふらついてしまった。
「っ、大丈夫? 銀籠さん」
「はぁ、大丈夫だ。問題ない」
優輝が倒れそうになった銀籠を支えるが、すぐに離れ二人を後ろに下がらせた。
「ジンロウ、ギンヲ、ギンヲ、ダセェェェエエ!!!!」
男性は怒り狂ったように銀籠に向かって鋭い爪を振りかざす。
優輝が銀籠の名前を叫び、自身の怪我などお構いなしに守ろうと駆け出した。だが、それは意味のない事。
狗神の血走らせた瞳は、次の瞬間に見開かれ唖然とすることとなった。
「大丈夫!? 優輝!!」
夕凪は優輝を横抱きにし、狗神から一定の距離をとった。
切羽詰まったような顔で、意識が朦朧としている優輝を見下ろす。
大丈夫とも言えないまま、優輝は先程まで自身がいた場所を見た。
そこには、狗神が行き場のない手をさ迷わせ、恨めしそうに夕凪を見ている姿がある。
「優輝、酷い怪我……。式神は?」
「いつも、持ってきてないから。この森に来るとき…………」
「なんで!?」
「…………ちょっと」
優輝が気まずそうに顔を逸らす。
その反応だけで、夕凪は理由を全て理解した。
「…………なんで、そこまでするの。息子さんに会う為だけで命を粗末にしないで」
「粗末にはしない。今回はちょっと、俺の動き出しが遅かっただけ。それより、もう大丈夫だから下ろしてくれると嬉しいかな。普通に恥ずかしい」
改めて見てみると、夕凪は慌てていたとはいて、自分より大きな男性を横抱きにしている状態になっていることに気づく。しかも、相手は自身が好いている人。
顔を真っ赤にし、慌てつつも優しく下ろした。
「夕凪姉さん、まさか、神通力を使ったの?」
「今が使い時でしょ? それより、狗神が動き出したわ。私の神通力は戦闘には向かないの。貴方が式神を持っていないのなら、逃げるしかないわ」
「そうだね、逃げるタイミングがあれば……だけど…………」
優輝はもうぼろぼろ、早く治療しなければ危ないレベル。
横目でそんな彼の姿を見て、夕凪は行き場のない怒りが込み上げる。
目を伏せ、ぼそりと言葉を呟いた。
「貴方が、あの半妖と出会わなければ…………」
今の言葉は、隣にいた優輝に届いてしまい驚愕。
まさか、夕凪がそんなことを言うなど思っていなかった優輝は、思わず彼女を横目で見る。
「夕凪姉さん、どうしたの? そんなことを言うなんて」
「…………だって、貴方があの半妖と出会わなければ、このようにはなっていなかった。いつものように式神を使い分け、簡単に倒せいていた。だけれど、半妖のために貴方は最低限の荷物だけで森に来てしまった。このように思ってしまうのは仕方がないと思うのだけれど?」
「今回は追い出されたからというのもあるけどね…………」
悲しげだが怒りも含まれている瞳を向けられ、優輝は困惑しながらも、いつものように言葉を返す。
だが、彼女から放たれる今まで感じた事がない空気に、これ以上何も言えず口を閉ざしてしまった。
そんな事をしていると、狗神が二人の間に割って入ってきた。
何の前触れもなく、地面を強く蹴り夕凪を狙う。
「夕凪姉さん!」
「っ!?」
戦闘途中で自分の気持ちを制御できず、よそを見てしまっていた夕凪は、体が反応しない。
目の前がスローモーションのようにゆっくりと動く。
神通力を発動したくとも、その思考すら頭に現れない。
目の前に繰り出されている狗神の鋭い爪が体を切り裂く瞬間を、ただただ身構えるだけ。
何も考えられず、抗う事が出来ず体が引き裂かれる――……
――――――――ガシッ!!
「きゃっ!!!」
肩を掴まれる感覚と後ろに引っ張られる衝撃で、夕凪の視界は正常に戻った。
突如後ろに引っ張られたため、咄嗟に体が反応せず後ろに転ぶ。だが、痛みは無い。
狗神は後ろに転んだ夕凪に再度切りかかろうとしたが、目に映る何かにより止まり、一点を集中し始めた。
狗神の視線の先には、夕凪を抱き留め、銀色の瞳を狗神に向けている男性。
銀色のウルフカットの髪、左右には狼のような耳が髪から覗き見えており、口からは鋭く尖っている八重歯。
夕凪を抱き留めている手は、狗神と同じくらい鋭く尖っていた。
「あ、貴方は、銀籠さん…………?」
夕凪は見上げ、彼の顔を見る。
名前を呼ばれた銀籠は、下を向くことはせず小さく頷いた。
「銀籠さん! 無事だったんだね」
「あぁ、強い気配を感じてな、一時避難をしていたのだ。まさか、準備を整えている時にこのような事態になっているなど思っていなかったぞ」
夕凪は、そんなことを言っている銀籠をただただ見上げる。
そんな時、微かに彼の手が震えている事に気が付いた。
「…………あの、私に触れても大丈夫なのかしら…………?」
「大丈夫ではない。だが、優輝を助けた人間、そう考えれば、まだマシだ…………」
口ではそう言っているが、銀籠の顔は青く、息が荒い。
冷や汗が滲み出ており、本当にマシなのか疑う。
何も言えずに見上げていると、銀籠は夕凪から手を離す。
立ち上がろうとするが、体がふらついてしまった。
「っ、大丈夫? 銀籠さん」
「はぁ、大丈夫だ。問題ない」
優輝が倒れそうになった銀籠を支えるが、すぐに離れ二人を後ろに下がらせた。
「ジンロウ、ギンヲ、ギンヲ、ダセェェェエエ!!!!」
男性は怒り狂ったように銀籠に向かって鋭い爪を振りかざす。
優輝が銀籠の名前を叫び、自身の怪我などお構いなしに守ろうと駆け出した。だが、それは意味のない事。
狗神の血走らせた瞳は、次の瞬間に見開かれ唖然とすることとなった。
0
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説
そして、もう一度
瀬名よしき
BL
【BL】前世で女の子だった主人公が、転生して男の子に…
大学卒業後に入社した会社で転職を考えるようになった四木優は、転職エージェントを通じて転職活動をしていた。
しかし、心から転職したいと思える会社が見つからず、転職活動は難航。あるとき、転職エージェントから、自分には不釣り合いとも思える大手IT企業を勧められる。
自信はこれっぽっちもなかったが、ダメ元で応募。運良く書類選考を通過し、一次面接へ。そこで、前世で恋人だった海道と出逢う。
▼登場キャラ
受:四木優(よつぎゆう)
前世の記憶をわずかに持つ24歳。転職活動中。
前世での名前は、三枝優(さえぐさゆう)。やんちゃな女の子で、近所に住む幼馴染の男の子(攻)と交際していた。15歳で死んでしまい、現世には男の子として転生した。
攻:海道勇(かいどういさむ)
大手IT企業に勤める41歳。プロマネ(プロジェクトマネージャー)の肩書を持つ。元システムエンジニア。
男女問わずよくモテるが、15歳で亡くなった受(三枝優)のことがずっと忘れられず、誰かと交際してもすぐに破局してしまう。
その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました
海野幻創
BL
人好きのする端正な顔立ちを持ち、文武両道でなんでも無難にこなせることのできた生田雅紀(いくたまさき)は、小さい頃から多くの友人に囲まれていた。
しかし他人との付き合いは広く浅くの最小限に留めるタイプで、女性とも身体だけの付き合いしかしてこなかった。
偶然出会った久世透(くぜとおる)は、嫉妬を覚えるほどのスタイルと美貌をもち、引け目を感じるほどの高学歴で、議員の孫であり大企業役員の息子だった。
御曹司であることにふさわしく、スマートに大金を使ってみせるところがありながら、生田の前では捨てられた子犬のようにおどおどして気弱な様子を見せ、そのギャップを生田は面白がっていたのだが……。
これまで他人と深くは関わってこなかったはずなのに、会うたびに違う一面を見せる久世は、いつしか生田にとって離れがたい存在となっていく。
【続編】
「その溺愛は行き場を彷徨う……気弱なスパダリ御曹司は政略結婚を回避したい」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/911896785
【完結】遍く、歪んだ花たちに。
古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。
和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。
「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」
No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。
【完結】嘘はBLの始まり
紫紺(紗子)
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。
突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった!
衝撃のBLドラマと現実が同時進行!
俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡
※番外編を追加しました!(1/3)
4話追加しますのでよろしくお願いします。
【完結】運命さんこんにちは、さようなら
ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。
とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。
==========
完結しました。ありがとうございました。
旦那様と僕~それから~
三冬月マヨ
BL
『旦那様と僕』のそれから。
青年となった雪緒に、旦那様は今日も振り回されている…かも知れない。
旦那様は今日も不憫…かも知れない。
『空にある川』(それぞれの絆)以降は『寝癖と塩~』とリンクしています。
白猫の嫁入り
キルキ
BL
前世の記憶持ちの猫が、普通の人間の生活を手に入れるために頑張っていたらいつの間にか飼い主と良い感じになっていた話。
受主人公・・・前世はしがないサラリーマン。死に方が原因で、今世でもトラウマが残っている。ある日神様に使命をくだされた結果、ヒトの身体を手に入れるも、飼い主の大輝に対して"好き"としか言えない縛りがついてしまう。
大輝・・・攻め。夏休み中の大学生。いろいろびっくり仰天な主人公の面倒を献身的にしてくれる。優しくて顔が良くて女にモテる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる