35 / 48
仲冬
「優輝、お願い。無事でいて――……」
しおりを挟む
神楽は台所から出て、開成の元に向かっていた。
涙が溢れて止まらない。頬を伝い、空中に落ちる。
何とか止めようと、目元を擦りながら廊下を歩く。
開成の部屋にたどり着くと、何も言わずに襖を開き開成を驚かせてしまった。
「っ! おい、なにもいわっ――ど、どうした?」
「お、おじいちゃぁあん。もう、わ、わかんない。優輝が、夕凪姉さんが、私……もういやだよぉぉぉお」
「!? と、とりあえず落ち着け、何があったんだ? 優輝がどうした? 夕凪と飯を作っていたんじゃないのか?」
子供のように泣きじゃくる神楽に駆け寄り、頭を撫でてあげる。
何故ここまで取り乱し、泣いているのか開成には分からず焦る。
神楽がここまで取り乱したのは、親が任務中に命を落として以来。
優輝と神楽は、普段ゲームがしたいとわがまま放題。でも、大人の考えも持っており、本当に学生なのか疑う時がある。
それは、親が任務でいないことが多く、二人でずっと寄り添い生きてきたから。
神楽は優輝の姉というのもあり、気丈に振る舞うことが多い。
そんな神楽が、今回は人の目も気にせず泣きじゃくっている。
開成は落ち着かせようと抱きしめ、背中を撫でてあげた。
何も言わずに撫でていると、徐々に落ち着き始め、涙も止まったらしく顔を上げた。
「おじいちゃん」
「どうした、神楽。ワシに話せることか?」
「…………うん」
開成は神楽を部屋の中心に置いてある座布団に座らせる。
ティッシュで涙を拭いてあげると、神楽は鼻をすすりながらさっきの出来事を話した。
言葉がまとまっておらず、雑然としている。
だが、それでも開成は途中言葉をはさむことはせず、聞き続けた。
「……うーむ。これは本人達が解決しなければならない案件だな。今時の者が何を思って、どのように考えているのか。それを理解できないワシでは手を貸すことや助言は出来ん」
「女性心も理解出来てないもんね、おじいちゃん」
「…………ま、まぁ。それに関しては、すまん」
神楽からの言葉に苦笑い、気まずそうに謝り気を取り直すように咳払いをした。
「だが、神楽はすごいな」
「え、なんで…………。私、最低なことを言ったんだよ? なんで、凄いの?」
「すごいだろう。自分も辛いのに、夕凪の事を一番に考えそのような発言できる人はいないぞ。自分も苦しく辛いはずなのに。さすが、ワシの自慢の孫だ」
にこりと笑う開成に、神楽は目を逸らす。
口を閉じ、先ほどの光景を思い出しながら考え込んだ。
「――神楽よ、お前は人の事を一番に考える事が出来る。それは、神楽にとって当たり前なことかもしれん。だがな、それができる人は少ないものだ。人というのは、何より自分を優先してしまう。だから、人のことを一番に考えることが出来る自分の事を、信じてみるがよい。そして、自分が信じる夕凪や優輝を信じてみよ。大丈夫だ、悲しむ結果にはならん、約束しよう」
何故そんなことを自信満々言えるのか、神楽はわからない。
また質問しようとしたが、二人の視界の端に白い何かが映り、言葉を発する事が出来なくなってしまった。
「っ、これって…………」
「優輝の式神か?」
部屋の中には、スズメくらいの大きさの紙の鳥がはばたいている。
開成が手を伸ばすと、待っていましたといいように止まった。
ポンッと音を鳴らし、鳥の形をしていた式神は、ただの紙切れと変化。
そこに描かれているのは、森の中の風景。
緑の木が立ち並び、霧で霞む森の中。
視界が悪く、しっかり見てもどこの森なのか判別すら出来ない。
なぜ、優輝がわざわざこんな風景を式神にしてまで開成達に送ってきたのか。
考えながら二人で覗き込んでみると、神楽が何かに気づき指を指した。
「ねぇ、これって。まさか、血痕……じゃない、よね……?」
「なに?」
指を差された方を見てみると、風景画の端っこに誰かの痕が見切れていた。
よくよく見てみると、それが赤黒い何かということは分かる。飛び散っているような形をしており、想像したくないものを連想させる。
「…………まさか…………」
開成は一気に顔を青くし、立ち上がり走り出した。
神楽も続くように走り玄関に。
陰陽寮のある森の中を走ると、駐車場が見えてきて車の中に駆け込んだ。
「おじいちゃん! まさか、あれって優輝の…………」
「わからん。だが、何かあったのは確実だ。早く行くぞ」
開成がアクセルを踏むと、車は動き出す。
向かうのは、銀籠達が住む森。
汗を滲ませながらハンドルを握る開成と、不安そうに眉を顰め外を見る神楽。
「優輝、お願い。無事でいて――……」
・
・
・
・
・
・
台所からやっと動くことが出来た夕凪は、開成の部屋にいた。
畳の上に投げ出されていた紙を拾い上げ、森の風景を見る。
「…………優輝?」
すぐに血痕にも気づき、夕凪は慌てたように紙をポケットの中に入れ外へと向かう。
冷たい風が吹く中、紅色の髪を揺らし遠くを見た。
藍色と緑のオッドアイの瞳は、色が変わり金色に。
これは、夕凪が神通力を発動している証拠。
「早く行かないといけない気がするわね……。神足通を使いましょう」
神足通とは、高い壁が合ったり、超えられない壁があったとしても、空を飛んだりすり抜けたりできる、神通力の一種。
右の人差し指と中指を立て目を閉じ集中すると、夕凪の身体からオーラが立ち込め彼女を包み込む。
準備は整った。
そう言うように目を開けると、夕凪は地面を蹴り、人ではありえない脚力を見せる。
自身より何倍も高い木を軽々と跳びこえ、一つの場所へと向かい始めた。
涙が溢れて止まらない。頬を伝い、空中に落ちる。
何とか止めようと、目元を擦りながら廊下を歩く。
開成の部屋にたどり着くと、何も言わずに襖を開き開成を驚かせてしまった。
「っ! おい、なにもいわっ――ど、どうした?」
「お、おじいちゃぁあん。もう、わ、わかんない。優輝が、夕凪姉さんが、私……もういやだよぉぉぉお」
「!? と、とりあえず落ち着け、何があったんだ? 優輝がどうした? 夕凪と飯を作っていたんじゃないのか?」
子供のように泣きじゃくる神楽に駆け寄り、頭を撫でてあげる。
何故ここまで取り乱し、泣いているのか開成には分からず焦る。
神楽がここまで取り乱したのは、親が任務中に命を落として以来。
優輝と神楽は、普段ゲームがしたいとわがまま放題。でも、大人の考えも持っており、本当に学生なのか疑う時がある。
それは、親が任務でいないことが多く、二人でずっと寄り添い生きてきたから。
神楽は優輝の姉というのもあり、気丈に振る舞うことが多い。
そんな神楽が、今回は人の目も気にせず泣きじゃくっている。
開成は落ち着かせようと抱きしめ、背中を撫でてあげた。
何も言わずに撫でていると、徐々に落ち着き始め、涙も止まったらしく顔を上げた。
「おじいちゃん」
「どうした、神楽。ワシに話せることか?」
「…………うん」
開成は神楽を部屋の中心に置いてある座布団に座らせる。
ティッシュで涙を拭いてあげると、神楽は鼻をすすりながらさっきの出来事を話した。
言葉がまとまっておらず、雑然としている。
だが、それでも開成は途中言葉をはさむことはせず、聞き続けた。
「……うーむ。これは本人達が解決しなければならない案件だな。今時の者が何を思って、どのように考えているのか。それを理解できないワシでは手を貸すことや助言は出来ん」
「女性心も理解出来てないもんね、おじいちゃん」
「…………ま、まぁ。それに関しては、すまん」
神楽からの言葉に苦笑い、気まずそうに謝り気を取り直すように咳払いをした。
「だが、神楽はすごいな」
「え、なんで…………。私、最低なことを言ったんだよ? なんで、凄いの?」
「すごいだろう。自分も辛いのに、夕凪の事を一番に考えそのような発言できる人はいないぞ。自分も苦しく辛いはずなのに。さすが、ワシの自慢の孫だ」
にこりと笑う開成に、神楽は目を逸らす。
口を閉じ、先ほどの光景を思い出しながら考え込んだ。
「――神楽よ、お前は人の事を一番に考える事が出来る。それは、神楽にとって当たり前なことかもしれん。だがな、それができる人は少ないものだ。人というのは、何より自分を優先してしまう。だから、人のことを一番に考えることが出来る自分の事を、信じてみるがよい。そして、自分が信じる夕凪や優輝を信じてみよ。大丈夫だ、悲しむ結果にはならん、約束しよう」
何故そんなことを自信満々言えるのか、神楽はわからない。
また質問しようとしたが、二人の視界の端に白い何かが映り、言葉を発する事が出来なくなってしまった。
「っ、これって…………」
「優輝の式神か?」
部屋の中には、スズメくらいの大きさの紙の鳥がはばたいている。
開成が手を伸ばすと、待っていましたといいように止まった。
ポンッと音を鳴らし、鳥の形をしていた式神は、ただの紙切れと変化。
そこに描かれているのは、森の中の風景。
緑の木が立ち並び、霧で霞む森の中。
視界が悪く、しっかり見てもどこの森なのか判別すら出来ない。
なぜ、優輝がわざわざこんな風景を式神にしてまで開成達に送ってきたのか。
考えながら二人で覗き込んでみると、神楽が何かに気づき指を指した。
「ねぇ、これって。まさか、血痕……じゃない、よね……?」
「なに?」
指を差された方を見てみると、風景画の端っこに誰かの痕が見切れていた。
よくよく見てみると、それが赤黒い何かということは分かる。飛び散っているような形をしており、想像したくないものを連想させる。
「…………まさか…………」
開成は一気に顔を青くし、立ち上がり走り出した。
神楽も続くように走り玄関に。
陰陽寮のある森の中を走ると、駐車場が見えてきて車の中に駆け込んだ。
「おじいちゃん! まさか、あれって優輝の…………」
「わからん。だが、何かあったのは確実だ。早く行くぞ」
開成がアクセルを踏むと、車は動き出す。
向かうのは、銀籠達が住む森。
汗を滲ませながらハンドルを握る開成と、不安そうに眉を顰め外を見る神楽。
「優輝、お願い。無事でいて――……」
・
・
・
・
・
・
台所からやっと動くことが出来た夕凪は、開成の部屋にいた。
畳の上に投げ出されていた紙を拾い上げ、森の風景を見る。
「…………優輝?」
すぐに血痕にも気づき、夕凪は慌てたように紙をポケットの中に入れ外へと向かう。
冷たい風が吹く中、紅色の髪を揺らし遠くを見た。
藍色と緑のオッドアイの瞳は、色が変わり金色に。
これは、夕凪が神通力を発動している証拠。
「早く行かないといけない気がするわね……。神足通を使いましょう」
神足通とは、高い壁が合ったり、超えられない壁があったとしても、空を飛んだりすり抜けたりできる、神通力の一種。
右の人差し指と中指を立て目を閉じ集中すると、夕凪の身体からオーラが立ち込め彼女を包み込む。
準備は整った。
そう言うように目を開けると、夕凪は地面を蹴り、人ではありえない脚力を見せる。
自身より何倍も高い木を軽々と跳びこえ、一つの場所へと向かい始めた。
0
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説
その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました
海野幻創
BL
人好きのする端正な顔立ちを持ち、文武両道でなんでも無難にこなせることのできた生田雅紀(いくたまさき)は、小さい頃から多くの友人に囲まれていた。
しかし他人との付き合いは広く浅くの最小限に留めるタイプで、女性とも身体だけの付き合いしかしてこなかった。
偶然出会った久世透(くぜとおる)は、嫉妬を覚えるほどのスタイルと美貌をもち、引け目を感じるほどの高学歴で、議員の孫であり大企業役員の息子だった。
御曹司であることにふさわしく、スマートに大金を使ってみせるところがありながら、生田の前では捨てられた子犬のようにおどおどして気弱な様子を見せ、そのギャップを生田は面白がっていたのだが……。
これまで他人と深くは関わってこなかったはずなのに、会うたびに違う一面を見せる久世は、いつしか生田にとって離れがたい存在となっていく。
【続編】
「その溺愛は行き場を彷徨う……気弱なスパダリ御曹司は政略結婚を回避したい」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/911896785
【完結】遍く、歪んだ花たちに。
古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。
和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。
「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」
No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。
【完結】嘘はBLの始まり
紫紺(紗子)
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。
突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった!
衝撃のBLドラマと現実が同時進行!
俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡
※番外編を追加しました!(1/3)
4話追加しますのでよろしくお願いします。
【完結】運命さんこんにちは、さようなら
ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。
とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。
==========
完結しました。ありがとうございました。
白猫の嫁入り
キルキ
BL
前世の記憶持ちの猫が、普通の人間の生活を手に入れるために頑張っていたらいつの間にか飼い主と良い感じになっていた話。
受主人公・・・前世はしがないサラリーマン。死に方が原因で、今世でもトラウマが残っている。ある日神様に使命をくだされた結果、ヒトの身体を手に入れるも、飼い主の大輝に対して"好き"としか言えない縛りがついてしまう。
大輝・・・攻め。夏休み中の大学生。いろいろびっくり仰天な主人公の面倒を献身的にしてくれる。優しくて顔が良くて女にモテる。
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
目が覚めたら、カノジョの兄に迫られていた件
水野七緒
BL
ワケあってクラスメイトの女子と交際中の青野 行春(あおの ゆきはる)。そんな彼が、ある日あわや貞操の危機に。彼を襲ったのは星井夏樹(ほしい なつき)──まさかの、交際中のカノジョの「お兄さん」。だが、どうも様子がおかしくて──
※「目が覚めたら、妹の彼氏とつきあうことになっていた件」の続編(サイドストーリー)です。
※前作を読まなくてもわかるように執筆するつもりですが、前作も読んでいただけると有り難いです。
※エンドは1種類の予定ですが、2種類になるかもしれません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる