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初冬

「うん。必ず守るし、銀籠さんの大事な銀さんも傷つけさせないよ、絶対に」

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 完全に体調が戻った銀籠は、いつものように薪を抱え森の中を歩いていた。

 あともう少しで雪が降るんじゃないかと思い、雲で覆われている空を見上げる。
 白い息を吐き手を摩っていると、後ろから足音が聞こえ振り返った。

 そこには、いつもと同じように優輝の姿が――……

「銀籠さん、遅れてごめっ――――」

「ギャァァァァァアア!! しろいおばけぇぇぇええ!!!」

「あ、やっぱり驚かせてしまった。ごめん、優輝です…………」

 銀籠の後ろに立っていたのは、予想通り優輝だった。

 だが、何故か今の優輝は白い綿のようなものに全身包まれており、一瞬誰だかわからない。

 銀籠は驚きのあまり悲鳴をあげ、バクバクと波打つ心臓を抑える。
 そんな彼と一定の距離を取り、優輝は自身を包み込んでいる白い綿を払った。

「…………な、何があったのだ?」

「じじぃの修行を少しだけ受けて、そのままの足で来たの。人気のない道をチャリンコ飛ばしてきたから多分、誰にも見られていないと思うよ」

「見られたとしても、誰も優輝だという事は気づかんと思うぞ…………」

 優輝はやっと綿を全て払い、一息ついた。

「はぁ、まったく。あのじじぃ、昨日俺が課題さぼったからって、今日は森に行くの禁止とか……、絶対に許さない」

 ぶつぶつと恨みを漏らしている優輝を見て、銀籠は苦笑い。
 さぼったおぬしが悪いだろうと思いつつ何も言わず、近づいて行った。

「動くでないぞ」

「? はい」

 近付いて来た銀籠に戸惑いつつも、言われた通り微動だにしない。
 何をされるのかと思っていると、頭に手を伸ばされた。

 言われた通り動かず待っていると、何かを掴み、くすくすと笑いかけられた。

「まだ、白い綿が付いていたぞ」

 白い歯を見せ、純粋に笑いかけてくる銀籠を間近で見てしまい、優輝は思わず固まる。
 顔を両手で覆ったかと思うと、小さくお礼を口にした。

「ありがとうございました」

「そこまで喜んでもらえると思わなかったぞ。頭に残っていた綿を取っただけで」

「はい、ありがとうございます」

「??」

 銀籠は優輝の思考がわからず首を傾げる。

 そんな仕草をしている銀籠も可愛い。
 優輝は大きく息を吐き、落ち着きを取り戻した。

 顔から手を離し、銀籠を見る。
 じぃっと見てくる視線に耐えられず、銀籠は目を逸らし頬を染め、「なんだ」と問いかけた。

「いや、ここまで近くに来てくれたから。今のうちに堪能しようかなと思って」

「…………」

「あ、待って! 俺が悪かったから置いて行かないで!!」

 呆れたように目を伏せ、銀籠は何も返さずスタスタと歩き去る。

 優輝は置いていかれないようにすぐに駆け出し、隣へ。
 そのまま、何事も無かったかのように二人は会話を楽しんだ。

 すぐ小屋へと辿り着き、薪を下ろすのを手伝っていると、銀が狼の姿で現れる。

「おっ、今日は来ないかもと思っていたが、振り切ってきたんじゃな」

「知っていたんですか? 銀さん」

「通達が来ていたからな。今日はそちらに優輝は行かないかもしれんと」

「うわぁ」

 なんでそこだけ律儀なんだよと、優輝はため息を吐いた。
 銀はそんな彼の姿にケラケラ笑い、垂れている手を舐めてあげる。

「元気出せ、戻ってからが怖いぞ」

「うっ、言わないで…………」

 さきほどとは違う意味で顔を覆い、項垂れる。
 そんな優輝の姿を見て、銀籠は眉を下げぽんっと肩を叩いた。

「どんまい」

「…………いいよ。銀籠さんの笑顔を見る事が出来たから」

「あほか。我の笑顔にそんな価値はない」

「いて」

 肩に乗せていた手で優輝の頭を優しくはたく。
 衝撃で思わず「いて」と言ってしまったが、まったく痛くはない。

 ここまで気を許してくれたのかと、頭を摩りながら銀と話している銀籠を見る。

 楽しげに笑っている銀籠を目にし、優輝も釣られるように笑みがこぼれた。

 近付き、二人の会話に入ろうとしたが、踏み出した足が止まる。

「…………」

 周りに視線を向け、何かを探し始めた。
 銀籠は優輝の様子に子首を傾げ、銀は平然と問いかけた。

「優輝、気づいたか?」

「銀さん、まさか気づいていたのですか?」

「まぁのぉ」

 二人の会話が理解できない銀籠は唖然。
 だが、すぐに気を取り直し銀へと振り向いた。

「何か来ておるのか?」

「まぁな。じゃが、邪悪なものではない」

 鼻をヒクヒクと動かし、周りへと視線を送る。
 優輝も警戒を高めつつ、銀籠をいつでも守れるように札を一枚取り出し、気配を探っていた。

「────確かに。銀さんの言う通り、殺気などは感じません。感じは、しませんが……」

「うむ…………」

 二人は険しい顔を浮かべながら銀の近くにいる銀籠を一斉に見た。
 なぜいきなり見つめられたのかわからず、銀籠は数回瞬きを繰り返す。

「な、何が近づいて来ておるのだ?」

「…………人、だと思うんだよね、この気配」

 優輝が眉を下げ言うと、銀籠はヒュッと息を吸い、顔を真っ青にした。
 そんな銀籠の背中をさすり、大丈夫だよと安心させる。

 銀は狼姿のまま銀籠の隣に移動し、頬を舐めた。

「安心するがよい、銀籠。ここにはわしと優輝がおる。なにか悪い者だったとしても、簡単に払う事が出来るじゃろう」

「うん。必ず守るし、銀籠さんの大事な銀さんも傷つけさせないよ、絶対に」

 優輝は、近づいて来ている気配を探る為、目を閉じると、すぐに誰だか分かった。

「あ、この気配、知ってる」

「む? 知っている?」

「はい。あの人なら、大丈夫です。同じ、陰陽師仲間なので」

 今の言葉に銀は目を丸くするが、何かを思い出した。

「もしかしてじゃが、桜羽夕凪さくらばゆうなか?」
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