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秋晴れ
「可愛くて、つい…………」
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姿を現したのは、銀籠の父親である銀。
今は狼姿で、のそのそと銀籠の隣まで移動してきた。
「ち、父上!? 来ては駄目です!」
「本当に来ないでください父上様! 俺が約束を破ってしまった事になる! そうなれば銀籠さんと会えなくなってしまいます!!」
銀の登場に銀籠は慌てたが、今ここで一番慌てているのは優輝。
早口で、今まで出したことがない程の大きな声で銀が近づかないように制していた。
「…………落ち着け」
慌てふためいている二人の様子に銀は顔を引きつらせながらも、冷静に諫めた。
「帰りが遅いと思って来てみれば……。話には聞いていたが、まさか本当に来ていたのじゃな、優輝よ」
「勝手に来てしまい申し訳ありません。貴方の息子である銀籠さんに会いに来ていました」
「会いに?」
「はい。銀籠さんに一目ぼれをしてしまったため、少しでも会いたく今日も来てしまいました。ご迷惑でしたら回数を減らさせていただきたいとも考えておりますが……おります、が…………」
優輝が丁寧に挨拶をしていると、途中で自身の言葉に苦い顔を浮かべ苦しみ始める。
ここでもし、回数を減らしてほしいと銀に言われてしまえば、本当に減らさなければならない。
自身の失言に気づき、最後まで言葉を繋げることが出来なくなってしまった。
「なら、もう二度と森に来るでなっ――……」
「そうか、それは嬉しい限りじゃのぉ。会うだけならワシは構わんぞ」
「父上!? なぜ簡単に許すのだ! 父上は我がどうなってもよいのか!? いや、我だけでなく父上にも危険が及ぶかもしれぬのだぞ!」
当たり前のように銀籠が優輝に来ないように言おうとしたのだが、銀が遮り、快く優輝を受け入れた。
一人狼狽えている銀籠を見て、銀はケラケラと笑った。
「銀籠に聞くと、絶対に二度と来るなというじゃろう。じゃから、ワシが許したんじゃ」
「何故!!」
「陰陽師という面は少々引っかかるところはあるが、それは九重家という理由で気にせんでも良いのじゃよ。次に、あ奴が信じてもよい人なのかじゃが、今も銀籠のことを考え距離を置き、怪しいものは何も持っていない。ここまであやかしのために考えられる人間じゃ、少しは信じても良いじゃろう?」
しっかりと考えられていた返答に、銀籠は言葉を詰まらせた。
親子の会話を見ている時、優輝はなぜか幸せそうに頬を緩め、口元に手を当てる。
「む、どうしたのじゃ、優輝よ」
「銀籠さんは父親の前では今のような話し方をするんだなぁと思い、思わず頬が緩みました。可愛くて、つい…………」
「かっかっかっ! 当たり前じゃろう! わしの息子じゃからな! 可愛くて綺麗でかっこいいのは当たり前じゃ!」
「それは否定しません、見惚れてしまうほどに綺麗で麗しい方なので」
二人の会話に、銀籠は赤面。
ゆでだこ状態になってしまい、逃げるように振り向きその場からいなくなってしまった。
「あっ」
「ククッ、逃げたな」
何も言えず走り去ってしまった銀籠の背中を見て、銀は喉を鳴らし笑う。
優輝は銀の隣まで移動し、腰を折り目を合わせた。
「少々、突っ走りすぎましたかね」
「いや、銀籠に耐性がなかっただけじゃろう。ぬしは悪くない、特に気にする必要もないぞ」
「嫌われたらどうしよう…………」
「それはない、安心せい」
本気でへこんでいる優輝を慰めるため、銀は人の姿に変わる。
真剣な表情を浮かべ、赤い瞳を光らせ優輝を見下ろし問いかけた。
「じゃが、銀籠を落とすのはそう簡単ではないぞ。もしかすると、ぬしの人生をかけても落とせんかもしれん。同じ種族の方が色々楽じゃろう。今ならまだ間に合う。考え直してもよいのじゃぞ?」
問いかけられた優輝は、少しも悩まず答えた。
「人生をかけてでも、落とさせていただきますよ、貴方の息子さん。叶わない恋だとしても、俺の心をここまで乱したのは銀籠さんが初めて。────絶対に、諦めたくないです」
一切目を離さず、迷いすら感じさせない水色の瞳を見つめ、銀は見定める。
本当にこの人間に自分のたった一人の息子を任せていいものか、このままにしても良いのか――……
品定めというように見つめられ、優輝は徐々に気まずくなり冷や汗がにじみ出る。
だが、ここで目をそらしてしまえば認めてもらえない。
それだけは絶対に嫌だと言うように、目をそらさず耐え続けた。
お互い目を見合わせていると、最初に目をそらしたのは満足した銀だった。
「ククッ、良い度胸だ、気に入った。わしの息子を任せようぞ」
「っ! 本当ですか?!」
銀の言葉に、優輝は心から喜び笑みを浮かべた。
「だがな? あまり無理だけはさせんでくれよ? 銀籠は二度、悲しい別れを経験しておる。一人は実の母親、もう一人は義兄弟。どちらも、人間じゃ」
「っ、え、そうなんですか? 銀籠さんの母親ということは…………。銀さんは人間の女性を愛していたということですか?」
問いかけると、銀は寂しいような、悲しいような。儚げな笑みを浮かべ、優輝の瞳を見つめた。
「────そうじゃよ。我が愛した女性は、たまたま人間じゃったんじゃ。じゃから、わしは一人になる覚悟をしていたんじゃがなぁ」
優輝の水色の瞳から目を逸らし、銀は澄んだ青空へと視線を上げた。
「それなのに、ワシはそなたの九重家に気にかけてもらい、息子の銀籠にまで恵まれた。最初こそ、最愛の妻を失って、後追いしようかとも思っていた時期があった。じゃが、ワシには銀籠がおる。ワシがいなくなれば、銀籠が一人になる。じゃから、死ぬに死ねなかったんじゃよ」
「…………あやかしと人間では、生きる時が違う。だから、それも覚悟して銀籠さんを落とさなければならないということですね」
「そうじゃ。三度目の別れを、必ず銀籠は経験してしまう。じゃから、その悲しみさえ上塗りできるほどの幸せを送ってほしいんじゃよ。それも、約束できるかのぉ?」
再度問いかける銀に、優輝はさすがに少し考えた。
顎に手を当て、銀から目をそらす。
先ほどはすぐに返答したのに、今回は悩んでいる。
そこまでの覚悟はなかったのか。
銀は息を吐き、考えを改めようと思った時だった。
やっと考えがまとまった優輝が顔を上げた。
「あの、今、銀籠さんを幸せにする方法を考えたのですが、やはりわからないです」
優輝からの返答に銀は目を細め「だったら」と否定の言葉を発しようとしたが、優輝が先に言葉を繋げてしまい止まる。
「なので、もう、あやかしの心情を理解できる法術を探し出し身につけるしかないのでしょうか。それか、俺の体をあやかしにするとか? いや、これはさすがにあったとしても禁忌でしょう。俺的にはいいですが、銀籠さんはお優しいかと思います、気にしてしまうでしょう。それだと、本当の幸せを送ることができません。うぅ、どうすればいいでしょう」
またしても考え込んでしまった優輝に、銀は数回瞬き。
目を丸くし、いまだぶつぶつ考えている優輝を見下ろした。
「…………まさか、そこまで考えておるとは思ってはいなかったぞ。驚いた」
「何を驚いているのかわかりません。愛した人を幸せにしたいと考えるのは当然なことです、そのためなら何でもしますよ」
まっすぐ言い切った優輝に、銀は確信した。
この人なら、息子を最後まで大事にしてくれる。信じられる。
自然と口角が上がり、銀籠が去っていった方向を見つめた。
「――――これから大変だとは思うが、なにかあれば相談に乗る。頑張るのじゃぞ、優輝」
「はい、ありがとうございます。では、早速」
早速何か聞きたいらしい。
銀はなんだろうと、横目で優輝を見た。
「銀籠さんについて知っていることすべて教えてください。好きな食べ物や嫌いな物、趣味や普段の行動など。あ、咄嗟に出る癖とかも教えていただけると嬉しいです。あと…………」
「自分で聞き出せ、ワシは知らん」
「なっ!」
何を言っているだと、やれやれと肩を落とし、銀はショックを受けている優輝を無視し、その場を後にした。
今は狼姿で、のそのそと銀籠の隣まで移動してきた。
「ち、父上!? 来ては駄目です!」
「本当に来ないでください父上様! 俺が約束を破ってしまった事になる! そうなれば銀籠さんと会えなくなってしまいます!!」
銀の登場に銀籠は慌てたが、今ここで一番慌てているのは優輝。
早口で、今まで出したことがない程の大きな声で銀が近づかないように制していた。
「…………落ち着け」
慌てふためいている二人の様子に銀は顔を引きつらせながらも、冷静に諫めた。
「帰りが遅いと思って来てみれば……。話には聞いていたが、まさか本当に来ていたのじゃな、優輝よ」
「勝手に来てしまい申し訳ありません。貴方の息子である銀籠さんに会いに来ていました」
「会いに?」
「はい。銀籠さんに一目ぼれをしてしまったため、少しでも会いたく今日も来てしまいました。ご迷惑でしたら回数を減らさせていただきたいとも考えておりますが……おります、が…………」
優輝が丁寧に挨拶をしていると、途中で自身の言葉に苦い顔を浮かべ苦しみ始める。
ここでもし、回数を減らしてほしいと銀に言われてしまえば、本当に減らさなければならない。
自身の失言に気づき、最後まで言葉を繋げることが出来なくなってしまった。
「なら、もう二度と森に来るでなっ――……」
「そうか、それは嬉しい限りじゃのぉ。会うだけならワシは構わんぞ」
「父上!? なぜ簡単に許すのだ! 父上は我がどうなってもよいのか!? いや、我だけでなく父上にも危険が及ぶかもしれぬのだぞ!」
当たり前のように銀籠が優輝に来ないように言おうとしたのだが、銀が遮り、快く優輝を受け入れた。
一人狼狽えている銀籠を見て、銀はケラケラと笑った。
「銀籠に聞くと、絶対に二度と来るなというじゃろう。じゃから、ワシが許したんじゃ」
「何故!!」
「陰陽師という面は少々引っかかるところはあるが、それは九重家という理由で気にせんでも良いのじゃよ。次に、あ奴が信じてもよい人なのかじゃが、今も銀籠のことを考え距離を置き、怪しいものは何も持っていない。ここまであやかしのために考えられる人間じゃ、少しは信じても良いじゃろう?」
しっかりと考えられていた返答に、銀籠は言葉を詰まらせた。
親子の会話を見ている時、優輝はなぜか幸せそうに頬を緩め、口元に手を当てる。
「む、どうしたのじゃ、優輝よ」
「銀籠さんは父親の前では今のような話し方をするんだなぁと思い、思わず頬が緩みました。可愛くて、つい…………」
「かっかっかっ! 当たり前じゃろう! わしの息子じゃからな! 可愛くて綺麗でかっこいいのは当たり前じゃ!」
「それは否定しません、見惚れてしまうほどに綺麗で麗しい方なので」
二人の会話に、銀籠は赤面。
ゆでだこ状態になってしまい、逃げるように振り向きその場からいなくなってしまった。
「あっ」
「ククッ、逃げたな」
何も言えず走り去ってしまった銀籠の背中を見て、銀は喉を鳴らし笑う。
優輝は銀の隣まで移動し、腰を折り目を合わせた。
「少々、突っ走りすぎましたかね」
「いや、銀籠に耐性がなかっただけじゃろう。ぬしは悪くない、特に気にする必要もないぞ」
「嫌われたらどうしよう…………」
「それはない、安心せい」
本気でへこんでいる優輝を慰めるため、銀は人の姿に変わる。
真剣な表情を浮かべ、赤い瞳を光らせ優輝を見下ろし問いかけた。
「じゃが、銀籠を落とすのはそう簡単ではないぞ。もしかすると、ぬしの人生をかけても落とせんかもしれん。同じ種族の方が色々楽じゃろう。今ならまだ間に合う。考え直してもよいのじゃぞ?」
問いかけられた優輝は、少しも悩まず答えた。
「人生をかけてでも、落とさせていただきますよ、貴方の息子さん。叶わない恋だとしても、俺の心をここまで乱したのは銀籠さんが初めて。────絶対に、諦めたくないです」
一切目を離さず、迷いすら感じさせない水色の瞳を見つめ、銀は見定める。
本当にこの人間に自分のたった一人の息子を任せていいものか、このままにしても良いのか――……
品定めというように見つめられ、優輝は徐々に気まずくなり冷や汗がにじみ出る。
だが、ここで目をそらしてしまえば認めてもらえない。
それだけは絶対に嫌だと言うように、目をそらさず耐え続けた。
お互い目を見合わせていると、最初に目をそらしたのは満足した銀だった。
「ククッ、良い度胸だ、気に入った。わしの息子を任せようぞ」
「っ! 本当ですか?!」
銀の言葉に、優輝は心から喜び笑みを浮かべた。
「だがな? あまり無理だけはさせんでくれよ? 銀籠は二度、悲しい別れを経験しておる。一人は実の母親、もう一人は義兄弟。どちらも、人間じゃ」
「っ、え、そうなんですか? 銀籠さんの母親ということは…………。銀さんは人間の女性を愛していたということですか?」
問いかけると、銀は寂しいような、悲しいような。儚げな笑みを浮かべ、優輝の瞳を見つめた。
「────そうじゃよ。我が愛した女性は、たまたま人間じゃったんじゃ。じゃから、わしは一人になる覚悟をしていたんじゃがなぁ」
優輝の水色の瞳から目を逸らし、銀は澄んだ青空へと視線を上げた。
「それなのに、ワシはそなたの九重家に気にかけてもらい、息子の銀籠にまで恵まれた。最初こそ、最愛の妻を失って、後追いしようかとも思っていた時期があった。じゃが、ワシには銀籠がおる。ワシがいなくなれば、銀籠が一人になる。じゃから、死ぬに死ねなかったんじゃよ」
「…………あやかしと人間では、生きる時が違う。だから、それも覚悟して銀籠さんを落とさなければならないということですね」
「そうじゃ。三度目の別れを、必ず銀籠は経験してしまう。じゃから、その悲しみさえ上塗りできるほどの幸せを送ってほしいんじゃよ。それも、約束できるかのぉ?」
再度問いかける銀に、優輝はさすがに少し考えた。
顎に手を当て、銀から目をそらす。
先ほどはすぐに返答したのに、今回は悩んでいる。
そこまでの覚悟はなかったのか。
銀は息を吐き、考えを改めようと思った時だった。
やっと考えがまとまった優輝が顔を上げた。
「あの、今、銀籠さんを幸せにする方法を考えたのですが、やはりわからないです」
優輝からの返答に銀は目を細め「だったら」と否定の言葉を発しようとしたが、優輝が先に言葉を繋げてしまい止まる。
「なので、もう、あやかしの心情を理解できる法術を探し出し身につけるしかないのでしょうか。それか、俺の体をあやかしにするとか? いや、これはさすがにあったとしても禁忌でしょう。俺的にはいいですが、銀籠さんはお優しいかと思います、気にしてしまうでしょう。それだと、本当の幸せを送ることができません。うぅ、どうすればいいでしょう」
またしても考え込んでしまった優輝に、銀は数回瞬き。
目を丸くし、いまだぶつぶつ考えている優輝を見下ろした。
「…………まさか、そこまで考えておるとは思ってはいなかったぞ。驚いた」
「何を驚いているのかわかりません。愛した人を幸せにしたいと考えるのは当然なことです、そのためなら何でもしますよ」
まっすぐ言い切った優輝に、銀は確信した。
この人なら、息子を最後まで大事にしてくれる。信じられる。
自然と口角が上がり、銀籠が去っていった方向を見つめた。
「――――これから大変だとは思うが、なにかあれば相談に乗る。頑張るのじゃぞ、優輝」
「はい、ありがとうございます。では、早速」
早速何か聞きたいらしい。
銀はなんだろうと、横目で優輝を見た。
「銀籠さんについて知っていることすべて教えてください。好きな食べ物や嫌いな物、趣味や普段の行動など。あ、咄嗟に出る癖とかも教えていただけると嬉しいです。あと…………」
「自分で聞き出せ、ワシは知らん」
「なっ!」
何を言っているだと、やれやれと肩を落とし、銀はショックを受けている優輝を無視し、その場を後にした。
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