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犬宮探偵事務所の復讐
復讐の炎で燃やし尽くしてやる
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「――――わぁお、マジでギリギリ」
白い八重歯を見せ笑い、黒田は顔を上げた。
そんな彼の身体に傷は増えていない。
「よっと」と立ち上がる黒田の目線の先には、驚愕の表情を浮かべている二人の姿と、上半身がなくなり姿を保てなくなってしまった氷柱女房。
「し、氷柱女房……?」
上半身を失い、下半身しか残っていない氷柱女房の背後には大きな化け物の顔。
黒くギロッとした瞳を、怯えている二人を見下ろした。
「なぜ、ここに魁が……」
姿を保てなくなった氷柱女房は、スゥと姿が消える。
残ったのは、破れたお札のみ。
『こやつらで最後だ、喰ろうても良いな?』
魁が、誰かに問いかける。
誰に問いかけているのか、突如出てきた魁に驚き、思考が止まってしまった御子柴と陰陽頭にはわからない。
何が起きたのか理解出来ずにいると、森の奥から二人分の足音が聞こえ始める。
目線だけを向けると、御子柴達にとっての目的の人物二人が木々の間から姿を現した。
「まだ待って。呪いをかけていないから」
低く、力が抜けるような声で魁を押えたのは、片手に最古を抱き汗を拭いている犬宮。
「賢、無事だったか」
「それはこっちの台詞。呪異は大丈夫なの?」
黒田の傷を気にしつつも、凍り付いている呪異を見て犬宮は聞いた。
「あぁ、問題ねぇよ。ほれ、出てこい。一人で涼んでんじゃねぇよ」
氷を黒田がコンコンと叩くと、じゅぅぅぅうと、黒い煙が現れ氷が溶け始める。
氷が水になり地面を濡らすと、呪異が何事もなかったかのように現れ、周りを見回いた。
『――――涼しかった』
「マイペースだね」
犬宮の声が聞こえ、呪異はグルンと首を動かし彼を見た。
無いはずの目を輝かせ、子供のように陰陽頭達の隣を通り過ぎ犬宮へと向かう。
「久しぶり、元気そうで良かったよ、呪異」
『すぐも、元気そうで良かった』
呪異は犬宮の事を昔から”すぐ”と読んでいた。
理由は不明、呼びやすいからだろうと黒田と犬宮は思っている。
仲良さそうにしている二人を見て、やっと現状を把握できて来た御子柴と陰陽頭は振り向いた。
「一体、何が起きた。なぜ、こんな所に魁がいる。呪異とは、なんだ」
「質問は一つにして欲しいんだけど、まぁいいよ。まず、魁について説明してあげる」
魁を手招きすると、素直に犬宮の隣まで移動して来た。
従順な魁を見て、二人は怪訝そうな顔を浮かべ何も言えない。
「魁は俺の血を渡す代わりに、俺のために動いてくれているの。等価交換だね」
魁の頬を撫でながら、犬宮が説明を始める。
「それで、何故ここに居るかなんだけど。討伐対象である陰陽師や巫女が本堂から居なくなったから。最後の二人となったお前らを狙う為にここまで来た」
冷静に話す犬宮、黒田も邪魔しないように近くの木に背中を預け見届ける。
「次に呪異について。こいつは黒田の相棒らしい。黒田の為なら何でもする。恐力な仲間。そして、俺の復讐を達成させるためには重要な人材」
「復讐だと……?」
犬宮の言葉を陰陽頭は片眉を上げ聞き返す。
「忘れたなんて言わせない、十年前の出来事を。俺は、絶対に許さない」
最古を下ろし、犬宮は表情を隠すように顔を下げた。
「まだ餓鬼だった俺は、自身が憑き人なんて知らなかった。無意識に人を襲い、大事な人達を危険に晒していた」
後悔するような声で、懺悔するように言う犬宮。
黒田は腕を組み、何も言わず聞く。
「なぁ、聞かせてくれよ。何であの時、お前らは俺を殺さなかった。どうせ、俺を助けたかったからではないんだろ?」
黒い髪の隙間から見える漆黒の瞳は、陰陽頭を見据える。
鋭い眼光、少しでも言葉を間違えれば、次に向けられるのは殺意。
そう思ってしまい、陰陽頭は何も言えなくなる。
御子柴も同じで、歯をガタガタと震わせ怯えていた。
「――――まぁ、いいや。聞いたところで意味はないし」
俯かせていた顔を上げ、最古を後ろへ下げつつ御子柴達を睨む。
「俺は、俺にしてきたこと、俺の姉にしてきたこと。お前らが、自身のためにしてきたこと全てを今、ここで、返すだけ」
憎悪の込められている瞳。
狂気とも呼べるその瞳には過去、自身がされてきた残酷行為が映し出されていた。
血を抜かれ、爪を剥がれ。体を何度も切り刻まれ、殴られた。
感情が高まり狗神が表に出れば、陰陽師達全員で電気を流したり、陰陽術で殺そうとしてくる。
そんな日々を過ごしてきた犬宮には、一人の姉がいた。
姉はそんな犬宮の姿を見ていられず、何度も何度も紅城神社に抗議をしていた。
その姉の名前が、犬宮和美。
何度も泣いて、何度も追い返されても、殴られても。
たった一人の弟のために頑張り、犬宮を救い出すため奔走していた。
その事も犬宮は知っており、それらの記憶が今、蘇る。
「俺達を苦しめたお前らを、俺は絶対に許さない。お前らのせいで、病気になってしまった姉さんに会う事も許されなかった。黒田が居なければ、俺は姉さんの死に目にも会えなかった。お前らは自身の栄光のために、俺達を苦しめたんだ」
右手を前に出し、御子柴と陰陽頭に向ける。
犬宮から放たれる空気は殺気というには生ぬるいほどに重く、立っていられない。
二人は大粒の涙を流し、後ろに後ずさる。
だが、それは呪異と黒田によって止められた。
「お前らは俺の大事な奴を苦しめた。約束のためにここから動かないでくれ」
『お前らを、呪う』
黒田は笑顔、呪異は真顔。
犬宮だけでなく、二人からの威圧に何も言えない。
────ジャリッ
犬宮が二人の近くまで移動。
その時には、狗神が表に出ており準備が整っていた。
半透明な犬の耳、尾。
瞳は黒田と同じく赤く染まっており、炎が渦を巻いているようにメラメラと燃えていた。
「『――――お前らを、復讐の炎で燃やし尽くしてやる』」
犬宮と狗神の声が重なり、二人分の声が森に響き渡った――……
白い八重歯を見せ笑い、黒田は顔を上げた。
そんな彼の身体に傷は増えていない。
「よっと」と立ち上がる黒田の目線の先には、驚愕の表情を浮かべている二人の姿と、上半身がなくなり姿を保てなくなってしまった氷柱女房。
「し、氷柱女房……?」
上半身を失い、下半身しか残っていない氷柱女房の背後には大きな化け物の顔。
黒くギロッとした瞳を、怯えている二人を見下ろした。
「なぜ、ここに魁が……」
姿を保てなくなった氷柱女房は、スゥと姿が消える。
残ったのは、破れたお札のみ。
『こやつらで最後だ、喰ろうても良いな?』
魁が、誰かに問いかける。
誰に問いかけているのか、突如出てきた魁に驚き、思考が止まってしまった御子柴と陰陽頭にはわからない。
何が起きたのか理解出来ずにいると、森の奥から二人分の足音が聞こえ始める。
目線だけを向けると、御子柴達にとっての目的の人物二人が木々の間から姿を現した。
「まだ待って。呪いをかけていないから」
低く、力が抜けるような声で魁を押えたのは、片手に最古を抱き汗を拭いている犬宮。
「賢、無事だったか」
「それはこっちの台詞。呪異は大丈夫なの?」
黒田の傷を気にしつつも、凍り付いている呪異を見て犬宮は聞いた。
「あぁ、問題ねぇよ。ほれ、出てこい。一人で涼んでんじゃねぇよ」
氷を黒田がコンコンと叩くと、じゅぅぅぅうと、黒い煙が現れ氷が溶け始める。
氷が水になり地面を濡らすと、呪異が何事もなかったかのように現れ、周りを見回いた。
『――――涼しかった』
「マイペースだね」
犬宮の声が聞こえ、呪異はグルンと首を動かし彼を見た。
無いはずの目を輝かせ、子供のように陰陽頭達の隣を通り過ぎ犬宮へと向かう。
「久しぶり、元気そうで良かったよ、呪異」
『すぐも、元気そうで良かった』
呪異は犬宮の事を昔から”すぐ”と読んでいた。
理由は不明、呼びやすいからだろうと黒田と犬宮は思っている。
仲良さそうにしている二人を見て、やっと現状を把握できて来た御子柴と陰陽頭は振り向いた。
「一体、何が起きた。なぜ、こんな所に魁がいる。呪異とは、なんだ」
「質問は一つにして欲しいんだけど、まぁいいよ。まず、魁について説明してあげる」
魁を手招きすると、素直に犬宮の隣まで移動して来た。
従順な魁を見て、二人は怪訝そうな顔を浮かべ何も言えない。
「魁は俺の血を渡す代わりに、俺のために動いてくれているの。等価交換だね」
魁の頬を撫でながら、犬宮が説明を始める。
「それで、何故ここに居るかなんだけど。討伐対象である陰陽師や巫女が本堂から居なくなったから。最後の二人となったお前らを狙う為にここまで来た」
冷静に話す犬宮、黒田も邪魔しないように近くの木に背中を預け見届ける。
「次に呪異について。こいつは黒田の相棒らしい。黒田の為なら何でもする。恐力な仲間。そして、俺の復讐を達成させるためには重要な人材」
「復讐だと……?」
犬宮の言葉を陰陽頭は片眉を上げ聞き返す。
「忘れたなんて言わせない、十年前の出来事を。俺は、絶対に許さない」
最古を下ろし、犬宮は表情を隠すように顔を下げた。
「まだ餓鬼だった俺は、自身が憑き人なんて知らなかった。無意識に人を襲い、大事な人達を危険に晒していた」
後悔するような声で、懺悔するように言う犬宮。
黒田は腕を組み、何も言わず聞く。
「なぁ、聞かせてくれよ。何であの時、お前らは俺を殺さなかった。どうせ、俺を助けたかったからではないんだろ?」
黒い髪の隙間から見える漆黒の瞳は、陰陽頭を見据える。
鋭い眼光、少しでも言葉を間違えれば、次に向けられるのは殺意。
そう思ってしまい、陰陽頭は何も言えなくなる。
御子柴も同じで、歯をガタガタと震わせ怯えていた。
「――――まぁ、いいや。聞いたところで意味はないし」
俯かせていた顔を上げ、最古を後ろへ下げつつ御子柴達を睨む。
「俺は、俺にしてきたこと、俺の姉にしてきたこと。お前らが、自身のためにしてきたこと全てを今、ここで、返すだけ」
憎悪の込められている瞳。
狂気とも呼べるその瞳には過去、自身がされてきた残酷行為が映し出されていた。
血を抜かれ、爪を剥がれ。体を何度も切り刻まれ、殴られた。
感情が高まり狗神が表に出れば、陰陽師達全員で電気を流したり、陰陽術で殺そうとしてくる。
そんな日々を過ごしてきた犬宮には、一人の姉がいた。
姉はそんな犬宮の姿を見ていられず、何度も何度も紅城神社に抗議をしていた。
その姉の名前が、犬宮和美。
何度も泣いて、何度も追い返されても、殴られても。
たった一人の弟のために頑張り、犬宮を救い出すため奔走していた。
その事も犬宮は知っており、それらの記憶が今、蘇る。
「俺達を苦しめたお前らを、俺は絶対に許さない。お前らのせいで、病気になってしまった姉さんに会う事も許されなかった。黒田が居なければ、俺は姉さんの死に目にも会えなかった。お前らは自身の栄光のために、俺達を苦しめたんだ」
右手を前に出し、御子柴と陰陽頭に向ける。
犬宮から放たれる空気は殺気というには生ぬるいほどに重く、立っていられない。
二人は大粒の涙を流し、後ろに後ずさる。
だが、それは呪異と黒田によって止められた。
「お前らは俺の大事な奴を苦しめた。約束のためにここから動かないでくれ」
『お前らを、呪う』
黒田は笑顔、呪異は真顔。
犬宮だけでなく、二人からの威圧に何も言えない。
────ジャリッ
犬宮が二人の近くまで移動。
その時には、狗神が表に出ており準備が整っていた。
半透明な犬の耳、尾。
瞳は黒田と同じく赤く染まっており、炎が渦を巻いているようにメラメラと燃えていた。
「『――――お前らを、復讐の炎で燃やし尽くしてやる』」
犬宮と狗神の声が重なり、二人分の声が森に響き渡った――……
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