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犬宮探偵事務所の復讐

「――――とどめだ」

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「呪異、調子はどう?」

『手加減しながらでは、難しい』

 滅紫めっし色の膝まで長い髪を翻し、錫杖で襲ってくる陰陽師達を薙ぎ払う呪異。
 一発が強いため、一気に倒す事が可能。

 黒田も赤い糸を放ち、陰陽師や巫女を拘束。身動きを封じていた。

 戦況は黒田達の方が優位に思えるが、数が数なだけに、黒田達はどんどんめんどくさくなってきていた。

『呪い殺しては駄目か』

「まだ賢からの指示は出ていない。勝手にそんなことをすれば嫌われると思うが、いいか?」

『い、いやだ…………』

「なら、我慢な」

 黒田の返答に、呪異はショックを受け首を横に振る。
 二人の余裕そうな態度に回りの陰陽師達は馬鹿にされたと思い、法力をお札に込め始めた。

 すぐに二人は気配を察し、法力を込め始めた陰陽師達を優先で拘束し、薙ぎ払う。

「雑魚は雑魚だが、油断は出来ねぇなぁ」

『めんどうさい』

「同意」

 ――――最初は二十くらいはいた雑魚共も、今では十人程度まで減らす事が出来た。

 追加も今のところはなし。だが、こちらは体力気力共に削られちまったし、今からボス戦と考えるとちょいきついな。仕方がないけど。

 ――――カサ、カサ

『足音』

「来たな」

 すぐさま残りの雑魚を倒し、二人は近づいて来る足音の方向を見る。

 ――――カサッ

 足音が、止まる。
 二人の目の前には、一人の老人と巫女装束の女性が姿を現した。

 二人の足元に転がる陰陽師や巫女の姿を見て、老人は眉を顰め顔を二人を交互に見る。

「これは、主らがやったらしいな」

「まぁ、俺達しかいないわなぁ」

 首をコキコキと鳴らしながら、黒田が適当に答える。
 余裕そうに思わせながらも、赤い瞳は鋭く光り、老人から目を離さない。

 赤い糸を垂らし、白い歯を見せ笑った。

「お前が紅城神社の陰陽頭か。じじぃになったもんだなぁ」

「…………お前さんは見た目、全く変わらんな、黒田朔よ」

「イケメン度は増してんだろ。まぁ、だからって、惚れんなよ? 俺は老人に興味ねぇからな」

 軽口をたたく二人をよそ目に、呪異は錫杖を構え老人を見据えた。

『あの者、呪うか?』

「まぁ、待て。まだ早い」

 陰陽頭と黒田が目を合わせ続けていると、巫女の姿をしている女性、御子柴が陰陽頭に耳打ちする。

「あの、陰陽頭。あの者を存じで?」

「あぁ、あやつは昔、紅城神社にいた元陰陽師だ」

「えっ、あの者が? ですが、確かあの者は首無しという怪異……」

 初耳だったため、御子柴は目を大きく開き質問を繰り返す。
 その際、確認するように横目で陰陽頭を見て来る黒田を見た。

「だが、あいつは我々を裏切った、裏切り者だ」

「裏切り者なんて酷いなぁ~。事実だけど」

 赤い糸を地面に垂らし、一度上げた手を下ろす。
 黒田は赤い瞳を細め、可笑しいと笑った。

「仕方ねぇだろうが、お前らのやり方はどうしても気に入らなかった。怪異である俺が、人様の考えることを理解するのは難しいだけかもしれねぇけど」

「なら、話の通じる怪異と共に生活をすればいいだろう。わざわざ人里に降りんでも、怪異と共に過ごせばよかろう」

「それも考えたが、人は面白いからな、いい刺激になるんだ。今も、いい刺激をもらっているぞ、人間」

「戯言が」

 二人が会話をしている時、御子柴は準備を整えていた。
 氷柱女房しがまにょうぼうに耳打ち、黒田の隣にいる呪異を凍らせるように指示を出した。

 頷き、気づかれないようにふわっと冷気を出す。
 藍色の瞳を細め、気づかれないように凍らせ始めた。

 黒田達はまだ気づいていない、余裕そうに陰陽頭と話していた。
 このまま気づかれず、まずは呪異を倒す。この後、陰陽頭と共に黒田を殺せば終わり。

 この先には、狙っている憑き人の犬宮と奇血持ちの最古がいる。
 それを知っている御子柴は、森の奥を見据え手で隠している赤い唇を横に引き延ばした。

 ピキピキと呪異の足元が凍り始める。
 呪異は空中に浮かんでいる為、まだ気づいていない。

 だが――……

「――――おっ?」

『ん? どうした』

「足元」

『???』

 黒田が呪異の足元を見ると氷が張っており、呪異もない眼球を下に向け固まった。

「気づいたみたいだけれど、遅いわよ!」

 御子柴が叫ぶのと同時に氷柱女房しがまにょうぼうが力を強め、勢いよく呪異を凍らせ始めた。

 勢いよくせり上がる氷、呪異は動くことが出来ず足から腰、首、頭と凍らされてしまう。
 黒田は自身が巻き込まれないように後ろへと跳び、避けた。

「ほ~、呪異を凍らせたか。さすがだな」

 感心したような声を上げ、凍って動かなくなった呪異を見上げる。
 そんな黒田の横に突如、雷が飛んで行った。


 ――――っ!?


 咄嗟に腕で防いだが、感電。
 後ろに吹っ飛ばされ、背中を強く木にぶつけてしまった。

「ガハッ!!」

「まだだ」

 黒田は震える体で顔を上げ、お札を持ち構えている陰陽頭を見た。

 黒田が痺れて動けない時を狙うように、またしても法力で雷を仕掛ける。
 腕で防ぐが、完全に防ぎきれず苦しげな声を出す。

 立ち上がりたくとも、黒田の身体は痺れ動けない。
 呪異も氷漬けにされてしまっている為、ガタガタと揺れるだけで何も出来ない。

「――――とどめだ」

 陰陽頭の言葉で御子柴が氷柱女房しがまにょうぼうに指示。
 氷の刃を作り、黒田へと勢いよく放った。

 黒田の赤い瞳には、向かってくる氷の刃が映る。
 避けたくとも、防ぎたくとも。体はもう、動かない。

 何も出来ないまま、黒田は赤い瞳を閉じてしまった。

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『――――そっちに向かったよ』
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