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犬宮探偵事務所の復讐

『そっちが終わったらすぐに戻ってきて』

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 一人残された犬宮は、汗を流しながら周りに集中していた。

「はぁ…………」

 息が荒く、眉間には深い皺が刻まれている。

 ――――さすがにきついな。
 気配を探り、嗅覚で陰陽師達や心優、黒田の位置把握。それに加え、場所を伝えないといけないし、考えなければならないことが沢山。

 考える分には特に苦ではない。
 ただ、広範囲を把握しながらっていうのが辛い。

 ――――カサカサ

「っ、……翔か」

 集中している犬宮の耳に、草が揺れる音が聞こえた。

 目を開け振り向くと、最古がニコニコと笑みを浮かべながら犬宮の元に歩み寄ってきた。

 頭を撫でてあげると、最古は安心したように微笑む。

「頑張ったね。あともう少しだよ」

 言うと、犬宮はまた集中し始めた。
 目を閉じ汗を流し集中している犬宮を見上げ、最古は笑顔を浮かべながら考え込む。

「…………」

 すぅっと、最古は犬宮から視線を外したかと思うと、ゆっくりと目を開け漆黒の瞳を森へと向けた。

 数秒後、右の人差し指で森の奥を指し、口を開く。

「――――男、女、二十」
「っ、翔?」

 犬宮が何も指示を出していないのに、最古は誰かの気配を感じ取り伝えた。
 だが、他のことにも気を回している犬宮はすぐに理解出来ない。

 ────男は陰陽師、女は巫女。二十ということは、二百メートル先か。

「…………翔が指さしている方は確か、黒田の方向。――――あ」

 目を閉じ黒田の方に意識を集中すると、最古が言っていた通り、巫女一人と陰陽師一人が近づいているのが臭いでわかった。

「――――さすが翔だよ、助かった」

 口角を上げ、犬宮は興奮したように最古の頭を撫でた。
 嬉しく、最古も振り向き笑顔を浮かべる。

「黒田、戦闘中かもしれないけど聞いて。そっちに、御子柴と陰陽師の長が近づいている。距離は二百メートル近い、警戒して」

 すぐに黒田に伝え、犬宮は心優の方も探る。

 わかったのは、雑魚と戦闘を繰り広げていること。
 それがわかれば、ひとまずは無事ということが分かるため、犬宮は息を浅く吐いた。

 ────とうとう、戦闘が始まり出した。
 ここからはどこで何をしているのか。

 絶対に、一つも取り残しは許されない。
 魁の動きも把握し、龍と竜の行方も探る。

「――――あぁぁぁあ、鼻血出そう……」

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「だぁぁぁぁぁあ!! キリがない!!!」

 ――――殴っても蹴っても、次から次へと現れる陰陽師達。

 巫女達も式神を出して応戦してくるけど、それはおやじが一発で本人達を仕留めて式神はいなくなる。

 仕留めると言っても、拳銃で一発、腕や肩を撃って気を逸らさせているだけだから、殺してはいない。

「心優ちゃんや。殺しては駄目か?」

「さすがに駄目。犬宮さんからはやむを得ない時があるとは言っていたけど、今はまだその時ではないんだから」

「めんどくさいなぁ……」

 相手は私達より弱い雑魚、本当に鍛えている陰陽師達なのか疑うレベル。
 普通に、式神や法術を出す前に気絶させることができるし。

 ただ、体力が減ってきて、喉が切れていたくなってきてしまった。
 血の味も滲んできて、気持ち悪い。

 息も苦しくなってきたし、体が重い。
 でも、まだまだ終わりが見えない。

「絶対に、この先には行かせない。行かせるわけには、行かないんだ」

 この先には犬宮さんがいる。
 だから、絶対に行かせるわけにはいかない。行かせてしまっては、私達の司令塔がいなくなる。

『心優、戦闘途中だろうけど聞いてほしい。雑魚はもう少しでいなくなるから頑張って。ただ、黒田の方が苦戦している』

 ────え、黒田さんが苦戦? あっちで何が起きてるの?!

『予想より雑魚があっちにも流れてしまったみたいで、呪異を刀の姿から怪異の姿にして何とか耐えている状態。俺も動き出さないといけないみたいだから、そっちが終わったらすぐに戻ってきて』

 矢継ぎ早に言われ、心優の意識が一瞬、陰陽師から逸れる。
 その隙に法術を放とうとしたが、すぐに意識を戻し、回し蹴りで気絶させた。

 ――――はぁ、今回の伝達。簡単に言えば、黒田さんの方が危険だから、早くこっちを終らせて犬宮さんの所に戻れって事でしょ。

 わかったわよ、早く戻るわよ!

「おやじ!! 早くこっちを終らせて犬宮さんの所に戻るよ! 指示が来た!」

「っ、あぁ、わかった!」

 ――――黒田さんの方、何が起きているんだろう。早く行かないと!!
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