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犬宮探偵事務所の復讐

「俺を殺してから行くんだなぁ~」

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 心優が森の中を迷っていた時、黒田も指定された初期位置に向かうため、森の中を優雅に歩いていた。

 口笛を吹き、散歩をするように歩いている。
 腰には犬宮に預けていた刀、呪異がベルトにしっかりと差さっている。

 方向を一切間違えず歩いていると、すぐに初期位置に辿り付いた。

 ――――こっちから賢に声をかけられないのは結構痛いな。

「………慣れん……」

 この、耳に付けてるこれ、ワイヤレスイヤホンとかいうやつだったか?
 なんか気になる、落ちそうで。
 
 賢、これいつ買ったんだ? 
 しかも、こんな使い方、普通しないだろう。

 耳を触りながら黒田は目的の木に背中を預け、陰陽師達がなだれ込んでくるのを待つ。

 黒田と心優の耳に付けているイヤホンは、犬宮が水などと一緒に買った物。
 心優と黒田にワイヤレスイヤホンを渡し、犬宮は二台のスマホを使い通話状態で指示を出していた。

「――――あっちは始まったかねぇ……」

 青空を見上げ、肩の力を抜くように息を吐いていると、犬宮の声がイヤホンから突如聞こえ肩を震わせた。

『黒田、準備は出来たみたいだね』

「うおっ!?」

 気にしていたイヤホンからの突然の声。
 身構える事が出来ず、口から驚きの声が漏れてしまった。

『黒田の方、狙い通り大きいのが近づいて来ていると思うから、油断しないで。心優の方は雑魚が向かっているし、信三と合流したみたい。龍と竜の気配がないのがちょっと気になるけど、今は向かっている大物に集中して』

「…………あいよー」

 声が聞こえていないとはわかりつつ、黒田は適当に返事。
 右手で刀の柄を握り、気配を巡らせた。

 ――――気配はあるが、まだ遠いな。
 結構な大人数のように感じが、まさか大物プラスで雑魚ともやらんと行けない感じか?
 それなら、呪異にも頑張ってもらわねぇとならんな。

 俺も、刀での戦闘ではなく、首無しとして戦わんと行けない。
 そうなると賢に迷惑かけるし、被害が想定より大きくなる。

 今でも、魁を使った事で被害は拡大しているんだよなぁ。

 殺す事ももちろん視野に入れているし、俺は慣れているから問題はないけど、賢と心優ちゃんは出来るだけ避けたいだろう。

 腰に差している刀を少しだけ引き抜き、黒田は鞘から覗く刃を見た。

 ――――俺はこの刀で、もう何百の人を斬ってきた。
 人間に紛れ戦争も経験しているし、人に仕え護衛経験もある。

 この手は、もう人を斬る事に慣れている。
 だから、特に問題はないし、ためらいもない。

「――――俺は、ただ賢に従うだけ。賢を守るだけだ。和美かずみとの約束を守るためにも」

 刀を握り気配に集中していると、またしても犬宮から連絡が入る。

『黒田。何を考えているかわからないけど、臭いが乱れているよ、大丈夫? 無理そうなら戻ってきてもいいからね』

 ――――こっちからの声を届ける事が出来ねぇから、このような事しか言えないらしいな。

「はぁ、駄目だなぁ。和美の事を思い出すと、どうしても乱れちまう」

 和美は、賢の実の姉。
 ストレスと病で、二十五という若さで死んでしまった。

 最後まで賢を心配し、最後まで気丈にふるまい。本当に、素敵な女性だった。

 犬宮和美は、犬宮にとってもかけがえのない人だったが、黒田にとっても恩人だった。
 人間というのがどのような物なのか教えてくれた、温かさを伝えてくれた人。

 お見舞いに行くと、和美は心配かけないように無理に笑っていた。
 その姿を見ただけで胸が苦しく、辛かった。

 黒田は、なぜ心臓が締め付けられるような感覚になるのかわからず、知る前に和美は他界。
 もやもやとした気持ちが残っている中、黒田は約束のために犬宮と共に行動していた。

「――――ふぅ、今は忘れよう」

 ――――もう、気配が近い。
 準備をしなければならないな。

 木に寄りかかっていたが、すぐに立ち鞘から完全に刀を引き抜く。
 現れたのは黒く染まる、黒刀。

 黒田の手に自然となじみ、笑みが浮かんでしまう。

「刀を引き抜いただけで心が躍る。巴が言っていた快楽殺人鬼も、あながち間違っていないんだよなぁ~」

 そのような事をぼやいていると、カサカサと足音が聞こえ始めた。
 木々の隙間を見据えていると、狩衣を着ている陰陽師達が姿を現す。

 黒田を見ると舌打ちを零し、眉を顰める。
 なぜそのような顔を浮かべているのか黒田は一瞬疑問に思うが、すぐに分かった。

「あぁ、なるほどな。残念だったなあ~、お前らの目的となる憑き人と奇血きけつは、俺を倒した先だぞ。行きたければ、俺を殺してから行くんだなぁ~」

 キランと、黒刀を光らせ構える。
 刀を構えた黒田を見て、陰陽師はすぐに自身も式神を出そうとお札を出した。

「――――させるか」

 式神を出す前に黒田が地面を強く蹴り、瞬きをした一瞬のうちに近付き、二人が取り出したお札を切った。

「なっ!」

 驚いている二人の後ろに回り、うなじを刃の背部分で殴り気絶させる。
 これが数秒で終わり、黒田は息を吐いた。

「ふぅ……。雑魚が現れ始めたか。大物が来るのも時間の問題だな」

 ここからは油断出来ないと、黒田も気を引き締め周りに集中。
 向かって来ている陰陽師達を次から次へと気絶させていった。

「――――賢へと向かわせてたまるかよ」
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